「。バーナビーに何で誕生日のこと言わなかったのよ」
「え?」
バニーがトレーニングルームを去って数分。
カリーナが私に話しかけてきた。
あまりの問いかけに私は首を傾げる。
するとそんな私の行動に、カリーナはため息を零した。
「アイツ、アンタの誕生日祝えなかったってさっきから落ち込みっぱなしなのよ?
正直相手してる私達の身にもなりなさい」
「え?じゃあさっき、バニーが出て行ったのって・・・」
「嬢ちゃんが俺から貰った誕生日プレゼントの事でショック受けて逃げ出したんだよ。
それすら分かってなかったみてぇだな、コレは」
「あ、そうだったんですか」
「そうだったんですか、じゃないわよ・・・ったく、アンタって子は」
私の反応に誰もがため息、そして苦笑いをしていた。
道理で朝から様子がおかしいと思っていたらどうやら
彼は私の誕生日のことを相当気にしていたらしい。
そう考えたら先ほどの彼の行動も頷けた。
「なぁ。何でバニーに誕生日の事言わなかったんだ?アイツ、相当気にしてたぞ」
タイガーさんに問いかけられ、私は少し考え答える。
「別にワザと言わなかったわけじゃないんですけど」
「けど?」
「私はただ『』って呼んでもらえれば、それだけで良かったんです」
『は?』
私の返答に誰もが素っ頓狂な声を上げた。
そして目を見開かせ何故か驚いている。その光景に私はまた首を傾げた。
私は何か間違ったことを言っただろうか?という感じだが
明らかにこの雰囲気からするに、私のほうが間違ったことを言っているような気がしていた。
「何で誕生日なのに、名前呼んでもらうだけでアンタ満足すんのよ?」
「だ、だって・・・っ」
私の返答にカリーナが恐ろしい形相で迫ってきた。
似つかわしくないその表情に私はしどろもどろに答え始める。
「確かに、プレゼントも嬉しいよ。皆から色々としてもらって嬉しかったよ。
でも、それ以上に嬉しかったのは・・・『』って呼んでもらう事だったから」
「だから、その意味が分からないって言ってんの。はっきりして」
「あ、あのね。誕生日の日に、名前呼んでもらうと・・・産まれたって実感できるの」
前から誕生日の日は特別のようにも思えた。
もちろん、自分が産まれた日だから特別といえば当たり前かもしれない。
だけど私の中ではそれだけじゃなかった。
自分の名前を呼んでもらうことで、この世に生を受けた・・・産まれてきた、と実感できるのだ。
毎日呼ばれ続けている自分の名前。
だけど、その名前も誕生日の日に聞くと不思議と嬉しくなる。
「ああ、私は産まれたんだ」と何となく実感できるからだ。
「それにね、ただでさえバニーは忙しいし」
「なーに言ってんのお嬢。そういうのは関係ないわよ!」
「誕生日なんだからワガママ言っていいんだよ!僕そう思う!」
ネイサンやパオリンの言葉に私は微笑を浮かべた。
「ワガママ言って、甘えちゃうのもいいとは思うんだけど。
私ね、バニーには『』っていつものように呼んでくれればそれだけで嬉しいから。
呼んでもらうだけで・・・私、産まれてきてよかったってそう思えるの」
忙しい彼のことを気遣っているつもりはない。
ただ、私は純粋に彼には名前を呼んでもらえれば十分だった。
耳に残る優しい声で―――――――、と。
それだけで、自分が産まれてきて良かったと実感して
彼の側にこれからも居ていいような気がしていた。
「それ・・・・ちゃんとバーナビーに言いなさいよ。ホント、アイツ落ち込んでるんだから」
「分かってる。お家に帰ったら言うから」
カリーナに指摘され、私は答えた。
貴方が落ち込む事はない。
私は、貴方の側にいて、貴方に『』と呼んでもらうだけで
どれだけ嬉しい事か。
自分が生きてよかったと、自分が産まれてきてよかったと、実感できる。
それをもっと思わせてくれたのは
紛れも無く・・・バニー、貴方が居たということ。
必ず伝えよう。
私は、本当に、幸せだと言うことを。
貴方の声で、その名を呼んで
(だから貴方が落ち込む理由なんて何処にもない)