「裏口で待ってて、とか」
サイン&握手会を終えた私は、会場の裏口に向かっていた。
もちろん呼び出したのは、バニー。
まぁ本人が直接私を呼び出したのではない、スタッフの人に彼が
言伝(ことづて)をして私の元へとやってきた。
そして、私はイベントが終った後言われたとおり裏口へと向かう。
もう完全にバレている。
完全に彼が私だと分かっていたのは、サイン&握手会の後。
バニーが全ての参加者にサインと握手をして
これでイベント終了と思われた時のことだった。
「じゃあ、最後に。バーナビーさんご指名で写真を一緒に撮って頂きましょうか」
「え?写真、ですか?」
「はい。これはサプライズですよー」
会場の人もざわめき、司会の人の隣に立っているバニーも驚いていた。
完全にサプライズという反応だった。
「じゃあバーナビーさん、この中からお1人だけ選んでください」
「えー・・・っと・・・そうですね・・・」
突然言われたにも関わらず、バニーは少し慌てながらも首を動かす。
待てよ。もしかしたら、私だというのがバレてないのかもしれない。
もしこれで彼が私を指名したのであれば、確実に私が来ているとバレている。
しかしそれは私を狙ってきたら・・・の話。
まぁ、そんなこんな大勢の人が居るんだし
私を狙ってくるわけがないだろう。狙ってこないのならバレてない・・・と、思っていた。
だが、私の予想は大きく逸れて・・・バニーと目が合う。
そして、舞台上の彼はとても嬉しそうな笑みを浮かべている・・・・・・私の背筋が凍った。
「其処の・・・さっき、耳の辺りのゴミをとってあげたメガネの彼女」
「!?」
あぁ、やっぱり来た。
つまりもうバレていると確信した瞬間だった。
「はい。じゃあ其処のメガネを掛けたお嬢さん、ステージにどうぞ」
「え?!・・・あ、あのっ・・・わ、私」
「、行きなよ!!一緒に写真撮れるチャンスだって!!」
「わゎわ、ダ、ダメだってばっ!!」
隣に居た友達が私の名前を呼ぶ。
彼女の言葉を遮ろうとしたが、時既に遅し。
横目で舞台上のバニーを見ると満面の笑みを浮かべていた。
アレはもう・・・勝ち誇った笑み、そして一方の私は敗北の焦り。
友達が私の名前を呼んだ時点で、彼の中で「やっぱりだ」と喜んだに違いない。
そして舞台上の彼はああした満面の笑みを浮かべているのだ。
「どうかなさいましたか?どうぞステージに」
「わ、私・・・あの・・・いいです!!」
「え?・・・え、あのでも・・・バーナビーさんと写真撮影が出来るんですよ?」
「いえ、あの・・・そ、その・・・け、結構です!!」
私が焦りながら撮影拒否の言葉を放つと会場が一斉にどよめく。
そして、司会の人の隣に居るバニーの顔が曇りだす。
彼は機嫌を損ねたかもしれないが、私にとっては今の彼の機嫌をとるということはできない。
立場というものを考えてほしい・・・彼はキング・オブ・ヒーロー、私は一般人。
いくら付き合って、同棲しているとはいえ・・・公の場でそういったことは私には出来ない。
「、行きなって!」
「い、いいよっ。あ、じゃあ代わりに行ってきていいから!!」
「え?」
「あの!私の友達が代理でバーナビーさんと撮影しますんで、それでいいですか?」
「え?・・・あー・・・バーナビーさん、いかがなさいますか?」
隣に居る友達を代わりに向かわせてあげようと思い、私は大声でアピール。
すると司会の人は困りながら隣に立つバニーに尋ねると、彼は――――――。
「構いませんよそれで」
笑顔で答えた。
が、私には分かる。
多分他の人は、まぁ仕方ない・・・でもバニーが笑っているなら安心と思うだろうが
私が見た限り・・・完全に機嫌を損ねている。
もうコレは夜は必死こいて謝罪をするしかないと私は心の中で思っていた。
しかし、イベントが終った後。
会場を去ろうとしたとき、スタッフに声を掛けられ耳打ちで
「バーナビーさんが裏口に来てほしいそうなんで」と言われた。
友達は「どうかした?」と不思議そうな顔をしていたが
私は用事があるから此処までね、と言って預かっていたバニーの写真集を渡して
言われたとおり裏口へと向かったのだった。
「(もう謝るしかないんだよね)」
会場の裏口に向かいながら、私は心の中で呟いた。
機嫌を損ねたのであれば謝る。
でも、バニーだって悪い。一応自分の立場と私の立場を考えてほしい。
いくら私があの場に居たからって、わざわざ私を指名しなくてもいいと思う。
やりやすい環境になっていたのかもしれないが、バニーの迷惑だけにはなりたくない。
「とりあえず、謝るしかないよね」
一番の解決策は、謝罪。
あとは、もうなるようになれ!な状態だった。
そんな意気込みで私は会場の裏口に到着した・・・が。
其処にはたくさんの、多分イベント終わりの人たちが待っていた・・・ようするに、出待ち。
もうアイドルと同じ感じだよバニー・・・と私は心の中で呟いていた。
「相変わらず凄まじい出待ちね」
「アニエスさん」
私が裏口の人だかりから少し離れた場所に立っていると、その横にアニエスさんが立った。
「で、も出待ちに来たの?」
「いえ、私は呼び出されましたバニーから」
「写真撮影を断ったから?」
「だと思います。断ったとき、バニー相当不機嫌だったんで」
「いいのよ断って。アンタ見つけたとき、アイツの頬緩みっぱなしだったんだから。
これ以上惚気た表情で舞台上に立たれるのはこっちとして厄介なのよ」
「そう言っていただけただけで私も救われます」
アニエスさんの言葉に私はちょっぴり救われた。
まぁアニエスさんはビジネスとして、そして私はお互いの立場上として。
彼には凛々しい表情で居てもらわなくては困るのだ。
「まったく・・・アレほど惚気た表情はするなって、イベント前に釘刺したのに。
案の定言いつけを守らなかったわねあの男」
「え?」
「バーナビー、夜と食事するからって・・・始まる前控え室で惚気まくってたわよ。
だから私が釘を刺しておいたの、まぁを見つけた途端それも無理だったみたいだけどね」
「す、すいません」
やっぱり私がサイン会なんかに来るんじゃなかったと後悔するべきだ。
何だかアニエスさんにまで迷惑を掛けたようで申し訳ない。
だってこのサイン会の模様は後々テレビで流す予定のものだと、始まる前にアニエスさんが言っていた。
バニーが凛々しい顔で質問に答えて、サインをして握手をする。
プロデューサーのアニエスさんからしてみればそれを望んでいたはず。
しかし、私という思わぬ弊害が現れたことによって、それが見事にご破算。
バニーに謝る前に、アニエスさんに謝ることが先決じゃない。
「ご、ごめんなさいアニエスさん。何か私が来ちゃったから、バニーが」
「いいのよ。まぁあんた達二人の関係を知ってる私らからしてみたら、あいつが完全に惚気てるって
分かるけれど他の視聴者からすれば、満面の笑顔を振りまいているヒーローとしか見られないから大丈夫よ。
が謝らなくてもいいの」
「で、でもっ」
「ていうか、恋人が来ただけで惚気だしたバーナビーがそもそも悪いんだから。はただ、友達の頼みを聞いて
此処にやってきたんでしょ?彼が知らなかった事とはいえ、が来ただけで浮かれて惚気だすっていうのは
外見キング・オブ・ヒーロー装っても、中身はまだまだ子供ね。修行が足りなさ過ぎるわ」
「ア、アニエスさん」
手厳しい。
いや、長くこういう業界?に居た人間だから
色んなヒーローの姿を追いかけてきたこの人だからこその言葉だろう。
ふと、頭を優しく撫でる手が置かれた。
その手は大人の女性、アニエスさんの手だった。
「アニエスさん」
「が気にすることじゃないからいいのよ。もしバーナビーに会うなら
私も付いていってあげるわ。惚気たツラに一発言葉のパンチお見舞いしてあげるから」
「程ほどに、お願いしますね」
アニエスさんの言葉に私は苦笑いを浮かべた。
「あれ?おめぇらなーにやってんだ、こんなとこで」
「え?・・・あ、タイガーさん」
すると、偶然にもタイガーさんが其処にやってきた。
「やってきた」というか、「通りかかった」というのが正確な言葉だ。
「タイガーさんこそどうして?」
「俺、今バニーとは別で動いてて。つか、なんだこの人だかりは?」
「バーナビーのサイン会があって、イベント終了後の出待ちファンの子たちよ」
「ハハ・・・相変わらずだなバニーのヤツ」
人だかりを見てタイガーさんは苦笑い、私もそれにつられた。
「んで。は何してんだ?」
「友達の付き添いで、バニーのサイン会に参加したんです。そしたらバニーに気づかれて」
「バーナビーが急に惚気だしたのよ。見つけだした途端ずーっと笑顔、まぁサプライズの写真撮影以外はね」
「そしたらバニーがイベントが終ったら裏口に来てくれって、スタッフさん言伝で。でも此処に来たら人だかりが」
「ほぉ〜・・・なるほどねぇ」
私とアニエスさんが説明でタイガーさんは一通り納得してくれた。
しかし、こうも人が多すぎると入れない。
「これじゃあキリがないわね」
「入れないですよねこれじゃあ」
「なら時間でも潰して待つか?時間さえ経てば人も減るだろうし」
するとタイガーさんがそんなことを言ってきた。
確かにこの状態で入ろうとなると結構無理がある。
むしろ私はテレビ関係者でもない、それにイベントに参加人たちは
私の顔や特徴などを覚えているだろう・・・テレビ関係者ではないと指摘されたら一環の終わりだ。
「そうね。じゃあミスター鏑木、としばらくそこらへんほっつき歩いてきて。
人が減って入りやすくなったら連絡入れるから」
「はぁあ?何で俺なワケ??」
「困ってる人を助けるのがヒーローでしょうが。それに、たまにはこの子の父親代わりしてあげなさいよ」
「ア、アニエスさんっ!?」
アニエスさんの発言に私は焦る。
いや、時間を潰すなら1人でも大丈夫と思っての発言だったのに
そこでいきなりタイガーさんと時間を潰せとか。
それに、私は確かに今は両親居ないし・・・父親代わりといえば、タイガーさんしかいない。
だからって今それを言わなくてもっ。
「ったく・・・しょーがねぇな。、行くか」
「い、いいんですか?」
「たまにはおめぇの父親代わりなことしてやらないとな。とりあえず何か食いに行くか、奢ってやる」
「は、はい!」
しょうがない、と言いながらもタイガーさんは優しく私の頭を撫でてくれた。
パパも居なければママも居ない。
そんな私に優しくしてくれたのは、タイガーさんにヒーローの皆、アニエスさん。
そして・・・大好きなバニー。
皆が居てくれてるおかげで、私はとても幸せだ。
「じゃあアニエスさん、連絡お願いします」
「えぇ。・・・・あら、どうしたの?」
「え?」
タイガーさんと何か食べに行こうとした矢先、アニエスさんに呼び止められた。
「首、虫刺されでもしたの?赤くなってるわよ?」
「えっ・・・・・・あっ、いっ、あぁ!!そ、そうなんですよ!!」
指摘された場所の事を突かれ、思わず手で隠した。
ストールを巻いてきたはずなのにどうやらそれがズレていたらしく
バニーが残したキスマークがアニエスさんの目に止まった。
い、いけない・・・アニエスさんにバニーが付けたキスマークってバレたら何か怖い。
「痒くないの?塗り薬くらいならあるわよ」
「だ、大丈夫です!!さ、さっき自分で持ってきた薬塗ったんで!!タ、タイガーさんい、いいい、行きましょう!!」
「あ、お、おい!?腕引っ張んなって!!」
これ以上突っ込みを入れられたら、キスマークだとバレてしまう。
バレる前に私はタイガーさんの腕を引っ張って
その場をそそくさと立ち去った。
今日はバレやすい日だ。
これ以上バレることが見知った人たちに分かられないよう
とにかくそれを避けることだけを私は考えなければ!
そう心の中で呟いて、ズレたストールを元に戻し
首に出来た赤い花を隠したのだった。
Clear
(今日はバレやすい日。なるべくなら、愛のシルシだけでも隠さなければ)