「すいませんバーナビーさん。もう少し待ってもらえますか?人が中々減らなくて」



「構いませんよ」






スタッフの人がそう言って控え室を去って行った。

イベント終わった後
が来るはずだったのに、なかなか来ない。
まぁ無理もないだろう・・・・どうやらファンが僕が出てくるのを待っているらしい。

裏口も、ましてや正面玄関さえも。


それが原因では入って来れないのだろうと思っていた。
だけど、正面玄関も人だかりが出来たのは僕が原因だった。




僕が迂闊に出たからだ。


会いたさに。




会って話そうと思った。

どうして、写真撮影を断ったのかを。






そして―――――なんで楽しそうに虎徹さんとどこかに行ってしまうんだと。





正面玄関から出たとき僕は見てしまった。
が、嬉しそうに虎徹さんの腕を掴んで歩いていくところを。

声を掛けて呼び止めようと思ったのに
人に気づかれて、結局呼べずじまい・・・控え室に逆戻りで、挙句には正面玄関にまで人が集まる始末。


夜、マンションに戻ればは居るだろうけど
今どうしても話したかった・・・なんで、なんで・・・・・・。











「ボンジュールヒーロー」


「アニエスさん」







1人考え込んでいるとアニエスさんがいつもの掛け声と共に控え室にやってきた。






「入るのも一苦労だったわ。さすが人気のヒーローだこと」



「スカイハイさんの時だって同じようなものでしょう」



「まぁね。・・・・それにしても、えらくご機嫌斜めねバーナビー」



「・・・・・・別に」






機嫌が悪いというか、胸の中がモヤモヤしている。







「そんなにに会いたかったの?」



「アニエスさん・・・どうして?」







この人の口からの名前が出た瞬間僕は驚いた。







「どうしてって・・・そりゃあ知ってたからよ。イベント始まる前にあの子が私に話しかけてきたの」



「来てるなら来てるって、始まる前に言ってほしかったです」



「始まる前から話しておいたら、アンタは惚気た表情のままステージ上に出るでしょうが。だから黙っておいたのよ」








そうか、道理でこの人が始まる前意味深な言葉を
僕に投げかけてきたのかが今ようやく分かった・・・知ってたんだ、が此処に来ていることを。








「で、ご機嫌斜めな原因はに会えないせいかしら?」




「それもあります。でも・・・どうして一緒に写真を撮るのを彼女は断ったんでしょうか。
僕は・・・と、写真が撮りたかったのに」






何で断ったのか分からなかった。


あの時、僕はサプライズで写真撮影をと頼まれたけど
一緒に撮るならとが良いと心の中でそう決め、彼女が何処にいるかステージの上から探した。


目がバッチリ合って僕が微笑むと、の顔が一気に焦っていた。



そして、彼女ではなく彼女の友達が僕と写真を撮ることに。









「自分の立場というものを考えなさいバーナビー。公私混同は許さないわよ」



「だけど僕は指名したのに・・・があんな風に断ったのが、どうしても納得いかないんです。
今朝はあんなに・・・拒否する素振りも無かった。それに・・・僕はと写真が撮りたかったんです」



「あのねぇ・・・私の話」



「一枚も無いんです、僕と・・・二人で撮った写真が」



「え?」







何故こだわるのか・・・理由なんて分からないだろう。


僕は携帯を開けて、画像フォルダに入れているの写真を見る。









の写真はブルーローズさんや虎徹さん、それに他の皆との写真はあるんです。
でも気づいたんです・・・僕との写真が一枚も無いことに」








の写真は、たくさんある。

皆と騒いでいる写真とか、友達であるカリーナさんと一緒に撮ってる写真とか
虎徹さんから送られてきたものだけど、楽しそうに笑顔を振りまいている写真とか。


僕の携帯にはたくさんあるのに・・・・・・僕と一緒に写っている写真が一枚も無いことに気づいた。






「だから、サプライズの写真撮影を言われて・・・僕はとやっと写真が撮れると思っていたんです。
それなのに・・・・に拒まれて・・・」




「拒むって言うか、あの子はあんたの立場と自分の立場を考えてとった行動よ。
アンタは良くてもは普通の子・・・まぁNEXTだけど。あんた達が付き合ってるって知ってるのはほんのごく一部。
もし、それがバレて一番迷惑が掛かるのはバーナビー、アンタなのよ」




「じゃあ虎徹さんはいいってことですか?」




「は?どうしてミスター鏑木が出てくるのよ此処で」




「虎徹さんなら迷惑にならないから、いいって言うんですか?の恋人は僕です、あの人じゃない」




「ちょっ、バーナビー落ち着きなさい。別にミスター鏑木が迷惑にならないからってそういうわけじゃ」




「じゃあどういうわけなんですか!!」






僕は声を荒げ机を思いっきり叩いた。

部屋中に、多分廊下中にもこの音は響いたに違いない。







「じゃあなんで、が僕との約束を破って虎徹さんと出かけに行ったりしたんですか」



「バーナビー・・・見てたの?」








僕は力を抜き、椅子に座り込んだ。







がなかなか来ないから、正面玄関から出て確かめに行ったんです。そしたら、
楽しそうに虎徹さんと一緒にどこかへ行くのを見てしまったんです。先に約束をしていたのは僕だ。
それなのに・・・が僕との約束を破るなんて」







二人が去っていく姿を見て
「何で?どうして?」と胸の中でモヤモヤした気持ちが動き回っていた。

は僕との約束は絶対に破らないと思っていたのに・・・どうして。






「僕はをこんなに愛しているのに・・・いつも違うことばかりあの子は考えようとしてる気がしてならないんです。
昨日だって・・・・僕はこの手で、あの子にたくさん・・・愛を注いであげたのに」




「は?」




と体を重ねてこれほど幸せなことはないって・・・そう感じているのに。
僕の体はの愛を感じるだけでそれだけで・・・生きていけるのに。なんでいつも・・・」






「哀愁漂うのは十分だけど、ちょっと待ちなさいバーナビー」





「はい?・・・・・・・・・・・・・・・え?」







1人での事を考えていると、声を掛けられ我に返る。

ふと目の前を見るとアニエスさんが笑顔で僕を見ていた。しかし目が笑っていない。







「どうか、しましたか?」




どうかしたじゃないわよ、この青二才ッ!




「ちょっ、ちょっ?!」







そして突然アニエスさんに胸倉を掴まれ持ち上げられた。
あまりのことで僕は焦るしかない。








「アンタ・・・よくもに手を出したわね」



「え?・・・・・・あ」



「思い出したような声出すんじゃないわよ!!いつよ、いつからに手を出した!?」



「お、落ち着いてくださいアニエスさんッ」



「落ち着いていられるもんですか!!アンタという男だけは信用してたのに、よくもに」








胸倉を掴まれ、凄まじい怒気を放ちながらアニエスさんが僕に食って掛かる。

そういえば・・・アニエスさんには話してなかったということを
胸倉を掴まれ思い出した。


この人が、こういう態度をとって当然だ・・・を自分の子供みたいに思っている。
むしろ、僕らヒーローの中でもは色んなポジションに居る存在。



虎徹さんは父親、アニエスさんは母親・・・・2人はの面倒を見る時はそういうことになっている。



アニエスさんは特にへの愛情は海よりも深いほど。
彼女自身、結婚していない理由もあってか・・・に優しくされるだけでその分の優しさを大きく返す人らしい。







「アンタがの事好きだから預けたし、アンタなら自分の理性に勝てると思ってやったことなのに。
よくもまぁぬけぬけと私の見てない間にそんなことできたわね!!」



「い、いずれアニエスさんにもお話しする予定ではありました」



「嘘おっしゃい!そのまま隠し通すつもりだったんでしょうが!他のメンバーは知っててどうして私だけ除け者扱いなのよッ!!
私はあの子の母親代わりなのよ!!ミスター鏑木には話せて、私に話せないってちょっとおかしすぎやしない!!」



「こ、虎徹さんは僕の相棒ですから・・・隠しても、バレてしまうし。それに、の近くには
カリーナさん、あのブルーローズさんが居ますから・・・早々にバレても仕方ないんです」



「理由になってない!!私への報告を怠ってるのが事実でしょうが!!」









事実・・・こういうことになるから言いたくなかったが、本音だ。




カリーナさんはの事を良く知る友人。


アニエスさんはの事を娘のように思う母親代わり。




だから、尚のこと・・・この2人を敵に回したら怖い。

そして今一番敵に回してはいけない人物にこの事実を知られてしまった。








「なるほど・・・だから、ストールをしてたのね。アンタがつけたキスマーク隠すために」



「そ、それはどうか知りませんけど」






いや、でもストールをして出かけたほうがいいと助言したのは僕だ。

僕の助言どおりにがストールを巻いていたから
照れ隠しだな、なんて可愛らしいことを思っていた。








「やっぱりミスター鏑木に預けて正解だったわ」



「え?・・・ど、どういうっ」







瞬間、アニエスさんの手が僕の胸倉から離れ
あまりの苦しさに僕は咳き込む。

そして、アニエスさんがポケットに入れていた自分の携帯を取り出し耳につける。


虎徹さんに預けて正解って・・・一体・・・?









「もしもし?・・・私よ」



「!!」








突然何処に電話を掛けると思ったら、どうやら相手は

思わず近づいて電話の向こうのの声を聴こうとしたら、指先を目の前に向けられ動きを止められた。
尖った付け爪が眼前にあり、これ以上の動きが出来ない。

そして鋭く僕を睨み付ける「喋るな」と。


するとアニエスさんは手ぶらにして、音声だけが聞こえるように携帯を操作した。









「会場ね、それがどうやら裏口どころか正面玄関もファンで凄いみたいなの」



『じゃあ入れませんよね?』



「えぇ。だから一旦貴女はお家に帰りなさい・・・どうせ、夕食はバーナビーと一緒にとるつもりなんでしょ?
そのときに色々話せばいいわ」




『分かりました。じゃあ・・・』

『ほいよ。出来立てのクレープだぜ、ここらじゃちょっと人気の店なんだと』

『わぁ、ありがとうございますタイガーさん。あ、あとはじゃあバニーのことよろしくお願いしますね』



「えぇ。ミスター鏑木にも後で連絡入れておくと伝えておいて」


『はい。じゃあ失礼します』






一通りの会話が終わった。

が・・・楽しそうに、していた・・・声で分かる。

きっと今頃は楽しそうにしているに違いない・・・僕じゃない人の隣で。








「で、キング・オブ・ヒーローさん」



「は、はい」







落ち込んでいると、アニエスさんに声を掛けられ我に返る。
そうだった・・・この人が居た。

先ほどは胸倉を掴まれたし、凄い形相で怒られた。









「とりあえず・・・・1週間以内にの荷物まとめて」




「は、はい?」




「聴こえなかった?あんたの耳は飾り?」




「い、いえ・・・・あのおっしゃってる意味がよく・・・」






いや一応聴こえた。

だけど、なんで今更の荷物なんかをまとめなきゃいけないんだ?







「もうこれ以上アンタに預けてらんない」



「え?・・・あ、あの・・・どういう・・・」



「1週間以内にの荷物まとめておきなさい。アンタに任せた私がバカだったわ。
は私が引き取る・・・もうアンタに任せておけない、あの子に手を出した罰よ」



「そ、そんな・・・待ってくださいアニエスさんっ!!」



「何を言っても無駄よ。いいわね、1週間以内にの荷物はまとめておきなさい」



「アニエスさん!!」






そう言って彼女は扉を閉めて去っていった。

そんな・・・1週間以内って、それにを僕から引き離すなんて・・・。
酷いにも程がある。そんなの絶対認めない。







「・・・っ、から離れるなんて出来ない」






認めたくなくて、離したくなくて・・・僕は、今ある精一杯の時間を使って説得をしに行くのだった。





Out of the frying pan into the fire.
(”一難去ってまた一難“もう、色々と僕らの恋愛は弊害が多すぎる) inserted by FC2 system

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