結局説得は実らず、アニエスさんに「いいわね、1週間以内よ」と
強く言われてしまった。
になんて説明していいのかも分からないし、彼女を離すつもりは毛頭ない。
しかし、あのアニエスさんの怒りようを鎮める方法も見つからない。
何もかも見つからないまま、僕はおめおめとマンションに帰ってきた。
「ただいま」
「おかえりバニー」
部屋に入るといつものようにがリビングで出迎えてくれた。
思わずため息が零れる。
昼間の事を、そう・・・・僕との約束をすっぽかして虎徹さんと居るの事を思い出したからだ。
「どうしたの、バニー?」
「いいえ、何でもありません」
言いたい事を別の言葉で濁して、僕はまたため息を零した。
「今日はもう、外にご飯食べに行くのやめる?」
「え?」
すると、がそんな事を言ってきた。
「いえ・・・でも、朝約束したことですし・・・」
「でも、バニーが何だか疲れてるみたいだから。無理しなくてもいいんだよ」
「・・・・・・・」
「バニー・・・・どうかした?」
「君はまた・・・僕との約束を破るんですね」
「え?」
朝・・・あんなに嬉しそうに答えて、約束してくれたのに。
昼は来てほしかったのに、来てくれなくて・・・・挙句、虎徹さんと一緒に出かけて。
何で・・・なんで・・・・・・―――――――。
「お昼・・・・写真撮影を、どうして断ったんですか?」
「あっ・・・・あれは・・・・っ」
もう胸の中にモヤモヤした気持ちが溜まりすぎて、ゆっくりと
想いが外へと弾け飛んでくる。
「で、できるわけないでしょ、そんなこと。バニーのファン、いっぱいいるのに
私にはそんな資格ないよ」
「資格があっても、なくても・・・なんで拒む必要があったんですか?僕は君と
写真を一緒に撮りたかったんですよ!どうして、君はダメで他の人はいいんですか?そんなのおかしい!」
「立場を考えてよバニー。貴方はヒーロー、私は一般人・・・・いくら付き合ってて、一緒に住んでても」
「 居 る 世 界 が 違 う ん だ よ ? 」
居る世界が違う・・・だって?
「居る世界が違う・・・・だったら、虎徹さんはいいんですか?」
「え?・・・・ち、違う・・・・そうじゃなくて・・・・っ」
「じゃあどういうことなんですか!!」
僕は机を叩き、大声を上げる。
「僕との約束は守らないで、虎徹さんと出掛けて・・・それで居る世界が違うなんて
矛盾しすぎてますよ」
「タイガーさんと出掛けたって・・・・・・バニー、違うのアレはね」
「言い訳なんて聞きたくない!君は・・・君は僕のモノなのに・・・っ」
こんなに好きなのに。
こんなに愛しているのに。
どうして君は僕を・・・僕だけを見つめてくれないというんだ。
何故他の人ばかりを見て、微笑んだりしているんだ。
「君は僕のモノだ・・・誰のモノでも、ましてや虎徹さんのモノでもない。君は僕の」
「私はバニーのおもちゃじゃないよ!!」
突然が声を荒げながら、言葉を放ってきた。
「私・・・バニーのおもちゃじゃない。どうして自分のことばっかり押し付けて、私の話聞いてくれないの?
イベントの時だってそうだよ。バニー・・・自分のことしか考えてない。私の気持ち考えてよ、立場が違うことくらい
分かってるじゃない。恋人だからって、ワガママばっかり言わないで!
私は貴方のおもちゃじゃないんだから!!」
「・・・っ・・・!?」
感情が高ぶっているせいか、の能力が発動し僕は壁まで吹き飛ばされた。
でも、上手く受身は取れたのか大したダメージは体にはない
しかし体の受身は取れても頭を少しぶつけた。・・・・意識もあるし、痛みもある。
痛む頭を押さえながら顔を上げると、が顔を伏せていた。
伏せていて表情は分からないが・・・涙の粒が零れ落ちているのが目に入ってきた。
「わた、私だって・・・言いたい事・・・いっぱいあるのに・・・どうして、どうしてバニーは分かってくれないの?
私・・・・バニーの、おもちゃじゃないんだよ・・・私は、私は」
「バニーの恋人なんだよ」
震える声で言われて・・・・我に返った。
また、僕自身の醜い嫉妬でを傷つけてしまった。
僕の勝手な思い込みで・・・こんな風に思わせていたなんて・・・。
体を起こして立ち上がり、に近づく。
すると僕の気配が分かったのかが顔を上げた。
涙で溜まった瞳と怯えた表情が僕の目に飛び込んできた。
「やっ・・・来ないで!!」
まだ感情が高ぶっているのか、の能力は発動しっぱなし。
だけど、先程僕を吹き飛ばしたのもあったのか、僕をもう一度壁に叩きつけるだけの力はなく
代わりに飛んできたのは、テーブルに置いてあったカップや写真立て、それにブリキのおもちゃだった。
しかし、飛んできたスピードはかなりスロー。受け止めるには容易い。
「これで威嚇してるつもりですか?・・・・こんなの、威嚇にもなってませんけど」
「っ!!・・・・来ないでよ、バニーなんか・・・っ」
瞬間、の感情が一気に高ぶろうとしていた。
このままではパイロキネシスのほうが発動しかねないと感じは僕は
受け止めたカップやおもちゃをその場に置き、すぐさまの元へ走り―――――。
「僕が・・・・・・何なんですか?」
抱きしめた。
そして、のおでこに自分のおでこをつける。
近くで見る彼女の顔は、本当に悲しそうな表情をしていた。
「バニー・・・なんか・・・・」
「嫌いとでも言いたいんでしょう君は。ごめんなさい・・・僕がまた唐突に嫉妬して
君を傷つけて・・・・こんな思いをさせてしまった。本当に、ごめんなさい。
何か理由があって虎徹さんと一緒にいたんですよね・・・僕がちゃんと君の話を聞かなきゃいけないのに」
そう言いながら、涙の溜まった目にキスをする。
「でも僕は一度たりとも、君をおもちゃだと思ったことはありません。ただ、の事になると
正直・・・周りが見えなくなって。君をそんな気持ちにさせるつもりじゃなかったんですよ。それだけは分かってください」
「バニー。・・・・・・ごめんなさい、私も酷いことを言って・・・・」
「いいんですよ、全然構いませんから」
僕がそう言うと、はホッとした表情で笑みを浮かべた。
そんな表情に愛しさを感じ、僕は彼女の唇を塞ぐ。
「んっ・・・ふぅ・・・んんぅ・・・・」
最初は優しく、啄ばむように。
「はぁ・・・バニィ・・・・んぅ・・・んっ・・・」
でも、徐々に舌を口の中に入れて絡め、唾液と共に弄ぶ。
長いキスの後は顔を滑らせ、が首に巻いていたストールを下ろし
昨晩つけたキスマークを新しいものにするために、また吸い付く。
「バ、バニー・・・首は、だめだよぉ・・・・見られちゃう」
「いいじゃないですか。もう、見せてもいいんですよ。君は僕のモノなんですから」
「で、でも・・・これじゃ・・・・ご飯、食べに行く約束が」
「食事はキャンセルです」
「え?」
僕はを抱きしめ、顎を持ち上げて顔を近づけた。
「可愛い僕のに、もう二度とこんな誤解をさせないように
その体に教え込まなければなりませんから」
「バニーッ」
「・・・・愛してます」
Love-Handcuff
(僕らはどんなに離れようとも、愛の手錠でしっかり繋がっている)