「あ、あの・・・ホント私が来ても良かったんですか?」
「しっかりして。色んなスポンサーが居るんだからおどおどしない」
「他の無茶振りよりもさらに酷い無茶振りですよアニエスさん」
アニエスさんのスタッフの代理で、私は結局パーティ会場に来てしまった。
此処に来る途中、パーティドレスの専門店へ連れて行かれ
あれやこれやと私には色んな装飾?が施された。
上がミントグリーンと下が黒のバルーンワンピースに
それにリボンのブローチ、ファー付きのジャケットを着せられ、
アンクルストラップのパンプスを履いた。
仕舞いには髪の毛をいじられ、化粧をされて・・・鏡で自分の姿を見たら自分じゃないように思えた。
「ていうか、その髪留めどうにかならないの?渋々付けてもらったけどやめたら?」
「こ、コレは付けておきたいんです。外したくありません」
「ならいいけど」
髪の毛に付けられた髪留めにアニエスさんは不審に思う。
まぁ多分ドレスと相性が悪いといいたいのだろう。しかし、私はコレを外すわけにはいかない。
きっと、バニーが私だと気づいてくれると思うから。
「会場にはバーナビーが居ると思うけど、絶対自分から近づくんじゃないわよ」
「分かってます」
「バーナビーから近づいてきても、あしらいなさい」
「はーい」
「バーナビーから名前を聞かれたときは偽名を使いなさい。決してって呼ばれても返事はしないこと」
「もう分かりましたからアニエスさん」
どうやら相当、アニエスさんはバニーが私に近づくんじゃないかと恐れている。
まぁ自分で離れるよう言ったにも関わらず
ヒーロー達が集まる会場に連れて来たのだから、心配して当然か。
「まぁは物覚えが良い子だから心配しなくても大丈夫よね。ごめんなさい、心配しすぎたわ」
「いえいえ。復唱していただけると私も思い出して助かりますから」
「それならよかったわ。いいこと、今の全部守りなさい?」
「分かってますよ」
そう言ってアニエスさんは会場の扉を開ける。
其処にはたくさんの人が居て、ヒーローマスクを被った
スカイハイさん、ロックバイソンさん、ファイヤーエンブレムさん、折紙さんが居て
ブルーローズやドラゴンキッドもいて・・・タイガーさんもグラスに入ったワインを飲んでてて・・・・・・。
そして、一際人だかりが出来ている・・・赤のスーツを身に纏った人。
「・・・・・・バニー」
人だかりの中心にバニーが居た。
久々に見た彼の表情に私の心臓は凄い心拍数を記録しているだろう。
あの電話のデートで、抱きしめられて以来。
でもあの時は、顔を見ることすら出来なくて・・・ちゃんと見たのは、多分本当に久しぶりだと思う。
「コラ、じっと見つめるな」
「ご、ごめんなさい」
バニーを見つめているのがバレたのか、アニエスさんに注意された。
目線を逸らして、またバニーのほうを見ると目線が合った。
すると気づいたように人だかりから離れ、こちらにやってくる。
「ア、アニエスさ・・・バニーが・・・っ」
「動揺しない。冷静にしとくのよ。アンタは自己紹介振られてあいつと挨拶するだけでいいから」
「ゎ、分かりました・・・っ」
アニエスさんに小声で言われ、私は他人のフリにする。
タイミングよくそこにバニーがやってきた。
「アニエスさん」
「相変わらず人気ねバーナビー」
「いえ、まだまだスカイハイさんの頃よりかは。そちらの方は?」
やはり気になったかバニー。
アニエスさんとの会話を軽く終えて、彼は私のほうを見てきた。
「新しいスタッフの子よ。・・・・・・エイミィ、バーナビーよ」
一瞬アニエスさんが私をバニーに紹介するとき、間があった。
多分名前を考えていたんだろう。
私はその後のファミリーネームは考えていたから、すぐさま握手を求めるよう手を差し出す。
「エイミィ・トーマスです。このたびHEROTVのアシスタントディレクターに就きました。
テレビでバーナビーさんのお姿拝見させていただいてます」
「そうでしたか。初めまして、バーナビーです。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
私はこのとき「うん、自分演技できる」と思った。
むしろ車の中でアニエスさんにカンペを渡されそれを一生懸命覚えていただけだ。
ちなみに、「トーマス」というファミリーネームはママの旧姓。
はもちろん、パパのモノ。
バニーにママのことを話さなくてよかった・・・などと私は安堵していた。
すると、バニーが私をじっと見つめている。
え?も、もしかして・・・バレた?などと考えていると―――。
「その髪留めは何処で?」
「え?」
気づかないと思ったらこんな早くに気づくかこの兎・・・っ!!
気づいた早さに私は髪留めをわざと触りながら答える。
「自宅にあった髪留めです。この前新しく買ったものですよ。それが何か?」
「いえ、ちょっと知り合いにあげた髪留めとデザインが似てたもので。そうでしたか、すいません不躾な質問をして」
「いえ。私こそ紛らわしい髪留めしててすいません」
何とか彼の質問を上手いこと切り返したが
新しく買ったどころか、アナタから貰ったものですし・・・デザインに似てるなんて問題じゃないし。
本当はバニーから貰ったものだよって、言いたいけど
アニエスさんの手前だし、近づくなって言われている以上そんなことは口が裂けても言えない。
同じ空間に居るだけなのに、何でだろう・・・嬉しい反面、苦しい。
「ア、アニエスさん・・・ちょっと私、トイレに」
「あ、そ、そう。行ってらっしゃい」
「はい。失礼します」
そう言って私は2人から離れ、トイレへと向かった。
気分が悪くなった・・・というのもあるけれど
これ以上あの場所に居ると本当に苦しくて仕方がない。
息苦しいというか、心苦しいというか。
私はトイレに駆け込み、水を流しながら泣くのを堪えた。
泣いたら化粧が落ちてしまう。
「・・・まったく、もう何なのよあの変なスポンサーは・・・・・・あら、やだ」
泣きそうなところに、ブルーローズが愚痴りながらやってきた。
私の姿を見て彼女は驚いていたが、私はと言うと・・・―――――。
「カリーナァ〜」
「え?!ちょっ、だ、誰!?」
「私、私だよ。」
「!?えっ!?ちょっと、何よその格好!?」
最初は私の姿にブルーローズは戸惑ったが、名前を言うと
彼女は今の私が自分の幼馴染ということに気づいてくれた。
「どうした?ん?どうしたの?ていうか、何でそんな格好してんのよ」
「ちょっとアニエスさんに頼まれて・・・HEROTVの新人さんが高熱でこれないからって
私がその人の代理で・・・それで、付いて来て・・・・」
「それで?」
「バニーに・・・久々に逢った」
「そっか。で、アイツには言ったの?」
「アニエスさんには話しかけるな、バニーに私だというのをバラすなとか・・・それで」
「相変わらず距離を置かせようとしてるのかアニエスさん。それで苦しくなってトイレに逃げてきたってワケね」
私はブルーローズにさっきまでの出来事を話して頷く。
もう涙すら堪えきれなくなったのか私は涙を流していた。
「あー、コラ泣かないの。メイク落ちてるじゃない」
「だ、だって・・・バニーがこんなに近くに居るのに・・・私だって言っちゃいけないのかって思って。
確かに・・・アニ、アニエスさんのスタッフさんの代理で来てるけど、それでも・・・こんなに近くに彼が
居て・・・それでも、私って言っちゃダメだって・・・」
苦しくてたまらない。
今まで電話や、メールだけでしか感じ取れなかった彼の存在を
今こうやって目の前で感じれるのに
「」と呼んでもらえなければ、他人行儀な態度で接してくる。
分かってた態度で、当たり前のことだって。
それでも・・・それでも・・・・・・。
「バニーに、って呼んでもらいたい・・・近くで、目の前で呼んで欲しい」
「」
「バニーに、ちゃんと抱きしめてもらいたい。バニーに・・・愛してもらいたい。
もう・・・こんな私、やだ・・・っ、気持ちと体が言うこときかない・・・っ」
気持ちと体が言うことをきかず、私は涙を流した。
それでもあの髪留めに気づいてくれたことに嬉しかった。
きっと彼の中では「似てるものか」と思っているに違いないけど。
「もう、メイク落ちてるじゃない。ポーチに化粧道具入ってんの?」
「ぅん」
「こっち向きなさい。直してあげるから」
「ありがとうカリーナ」
「だからその名前はヒーローの時は呼ばないでって何度言ったら分かるのよアンタは」
「ご、ごめん」
やっと涙が引いたのかブルーローズは私のメイク直しをしてくれた。
そして2人でトイレから出る。
出てくる前「出会って仲良くなったフリ」をしようと作戦を立てた。
しかし、会場に戻ったら彼女には多くのスポンサー候補の人たちが取り巻く。
私はそそくさとブルーローズから離れたが・・・何ていうか、アレこそ逆ハーレムにも思えてくる。
ブルーローズだとやたら絵になるわ。
「(は、離れよう・・・)」
私は彼女の迷惑にならないように、パーティ会場をうろつく。
アニエスさんの側に戻ろうとしたが、知らない人と話しているし
かといってバニーには近づけない。約束は守らなきゃいけないから。
じゃあどうするかと、考えていると・・・・食事のところに、見覚えのあるキャップ姿の人。
私は人混みをすり抜けながらそちらに向かい―――――。
「こんばんは、ワイルドタイガーさん」
「ん?お、あぁ・・・ど、どうも」
声を掛け振り返らせた。
そう、振り返ったヒトはタイガーさん。
食事に夢中だったのか、私の声に驚いている。
でも、私が「」とは気づいていないようだ。
「お食事、邪魔しちゃいました?」
「ん、いや・・・大丈夫」
「チャーハンばかり食べてたら体によくないですから、ちゃんとした食事してくださいね?」
「え?・・・なんで俺がチャーハン食ってるって」
私はクスクスと笑みを浮かべながらわざとチャーハンという単語を出した。
目の前のタイガーさんはやっぱり気づかず慌てている。
「タイガーさん・・私です、です」
「おまっ・・・なんで此処に?!つか、分からなかった」
私だと告げると、タイガーさんは驚きながら私を見ていた。
「アニエスさんの所に着任された新人さんが急遽来れなくなって、私が代理で」
「はーん、なるほどなぁ。バニーにその格好見せてきたか?驚いただろアイツ、お前のそんな姿にさ」
「・・・・・・・」
笑っていた表情が急に冷え切ってしまった。
「あれ?・・・え?」
「バニーには確かにさっき逢いました。でも、アニエスさんに言われて」
「アイツまだ距離置かせようとしてんのか?・・・ったく」
「すいません」
私の言葉でどうなってるのか分かったのかタイガーさんは頭を掻く。
「が謝るほどじゃないだろ?何で謝る?」
「だって」
「バニーもバニーでさ・・・本当はに逢いたくてたまらねぇんだよ。毎日携帯開いちゃ閉じて開いちゃ閉じての繰り返し」
「私も、同じです」
連絡しようか、メールしようか、でも諦めて・・・・そんな繰り返しで携帯をずっと眺めている。
すると頭を優しくポンポンと二回叩かれる。
「え?」
「俺もさ、またアニエス説得してみるから。もう少し我慢しとけ」
「タイガーさん」
「あんまりお前の辛い顔とか見るの嫌だしな」
「ありがとう、ございます」
私が精一杯の表情で笑うと、タイガーさんも笑ってくれた。
「じゃあ、私はこれで」
「あぁ。迷子になるなよ?ちゃんとアニエスんとこ居るんだぞ?」
「はい」
あんまり一緒に居ると怪しまれそうだと思った私はタイガーさんから離れ
アニエスさんを探した。見つけたのは良かったが、やはり知らない男の人たちと話している。
こういうときプロデューサーは大変だな・・・なんて思い、私はバルコニーへと通じる窓から外に出た。
中の空気と違って、風が体に当たって火照った体を冷やしてくれている。
ファー付きのジャケットを着ているが、下がスカートだから寒くて仕方がない。
もう少し前に出て、風景を見たいが・・・ちょっとそれが出来ない。
「(もう少し前に出れたら、いいんだけどな・・・体も、気持ちも)」
考えていることより、それを実行するのが難しいことくらい分かっている。
分かっているからこそ考えるだけにして、考えると余計辛くなることも分かっている。
結局はいろんな意味で堂々巡りになる。
そう心の中で結論付けて、ため息を零す。
「ため息を零すと、幸せが逃げてしまいますよ?」
「え?」
聞き慣れた声に私は振り返る。すると、後ろには――――――。
「女の子がこんな所に1人で居て、ため息を零すなんて相当ですね」
「バ、バーナビーさん」
「僕でよければお話を伺いますが・・・どうでしょうか?」
バニーが優しい表情を浮かべて立っていた。
ねぇ、神様・・・もし、彼が私だと分からなくても・・・この時間は許されますか?
目の前に居る彼とのほんの少しの時間、言葉を交わすことを許してもらえますか?
Permit
(神様、ほんの少しの時間だけでも許してください)