「説得したんですか、あのアニエスさんを?」
「説得っつーか・・・まぁブルーローズのヤツが気が付いたんだけどな」
「彼女が?」
僕とがパーティ会場から去り、色々片付いて数日後。
パーティの次の日のアニエスさんの心境の変化を
僕は改めて虎徹さんに訊ねていた。
すると、どうやらアニエスさんを説得?したのはブルーローズさんらしい。
「しかし、どうやって・・・」
と離れる前。
僕は何度と、あのアニエスさんにを引き離さないよう立ち向かって行った。
しかし結果はものの見事に惨敗。
と離れる羽目になってしまったが・・・僕やが気付けなかった事を
どうやって彼女が気付いたのだろうか?
「まぁ、お前らがその・・・男女の交わりってヤツに入るきっかけはアニエスが作ったんじゃねぇかって話を
ブルーローズのヤツが勘付いたんだ」
「きっかけ?」
「あら?お前覚えてねぇの?」
「・・・いつの話ですかそれ?」
僕との関係がより密接になりだしたきっかけはアニエスさんが作った。
全く持って覚えが無い。
むしろあの人がそんなきっかけを作っていたのか?と僕自身疑問に思った。
「ほら、アレだよアレ。お前が有名な女優と密会してた」
「あー・・・あの嘘記事。確かに、アレはアニエスさんから頼まれた仕事ですね」
虎徹さんの言葉でようやく思い出した。
言われてみて、思い返してみたら
アレがきっかけで僕との関係は、より一層深いものへと変わって行った。
があの嘘記事を僕の浮気と勘違いし
少しの間仲違いをしていたが、あの事件?があったからこそ僕達の関係は完全なものになった。
「成る程。それだったらアニエスさんも僕らの関係を許せざる得ないですね」
「だからってお前・・・アニエス小突くなよ」
「しませんよ、そんな事。むしろその逆です」
「は?」
この事実を知った後ではあるが
僕がアニエスさんに小突いたところで、多分今現在僕が置かれている状況は変わらないだろう。
この事実を差し出して変わるの言うのなら、いくらでも言葉を放つつもりだ。
「何だ、お前。まさか、アニエスから何かされてるのか?」
「察しがいいですね虎徹さん。そのまさかです」
「アニエス・・・懲りてねぇなアイツ」
「相当悔しいんでしょうね。自分のミスでを僕の元に戻したことが」
「それで・・・バニーちゃんは一体、どんなイジメを受けてるんでございましょうか?」
虎徹さんは笑いながら言うし、外野だから面白半分で言っているが
僕としては、本当に面白半分冗談半分のレベルではない。
完全にもう嫌がらせの領域だ。
「正直、コレほどまでにアニエスさんが怖いとは思ってもみませんでした」
「どういうこと?」
「僕がに触れただけで電話が掛かってくるんです。触れるも、本当に体にタッチしたり
抱きしめたりした時点で、の携帯が鳴ったり、もしくは僕のPDAが鳴ったりするんです」
やっと、離ればなれの日々から解放された。
を側で感じれる、これほどにない幸せの日々がまた戻ってくる。
そう思えただけで気分もテンションも上がって仕方がない。
しかし、相手はあのアニエス・ジュベール。
を海よりも深く、愛情を注ぎ込む女性。
彼女には母性愛で包むがそれ以外はほぼ鬼と化す(酷い言いかたをするようだが)。
自分のミスで僕の元にを戻したのが余程悔しかったのか
僕がに触れるだけで、その接触を感知するのか
突然何かしらの手段で着信を入れてくる。
の携帯に電話を入れたり、僕のPDAを鳴らしたり。
「まるで僕達の間を裂こうとしてるんです」
「恐るべしだなアニエス」
「何なんですかね。あの人にセンサーでも付いてるんですか?」
「いや、お前も大概に関してはセンサー付いてるって皆思ってるぞ」
センサーが付いてる云々(うんぬん)は置いといて。
にちょっと、指先が肌に触れるだけで電話を掛けたりするのをやめてほしい。
これじゃあ愛情表現すら出来ず、結局は離れているようで辛いのだ。
「どうにかなりませんか?」
「なりませんか?って言われてもなぁ」
「最終的にはの半径何メートルかに僕が近付けば、それこそ何か銃弾的なものが飛んできそうです」
「アニエスならやりかねんな」
本当にどうにかしたい。
せっかくお互いの生活が元に戻ったと言うのに
こんな状態が続いては、結局は離れていることにかわりはない。
近いようで遠い。
触れたいのに、触れれない。
以前と変わらない生活が戻ったはずなのに
どうして、こんなに歯がゆい気持ちになっているのか不思議でならなかった。
「おかえりバニー」
「ただいま」
夜。
マンションに帰って来たらが笑顔で出迎えてくれた。
それだけで顔が綻び、彼女に近付き抱きしめようとする・・・だが、途中でその動きが止まり直立不動になる。
今、抱きついたら・・・どちらかの、機械物から引き裂く音が聞こえてくる。
僕は抱きしめようとする行為をやめ、ため息を零す。
「はぁ・・・まるで君にバリアが張られてるみたいですよ」
「ご、ゴメンねバニー」
「いえ、が謝ることではないので」
「ぅ、うん。・・・あ、ご飯出来てるよ」
「じゃあ頂きます」
そう言って僕はと少し距離を離してリビングへと向かった。
この”少しの距離“が本当に憎い。
どうしてこんなにも、この距離が憎いんだろうか・・・今すぐ振り返って、抱きしめたい。
いや、もう・・・我慢の限界だ。
僕は立ち止まって振り返り――――。
「っ!?・・・バ、バニー!?」
を抱きしめた。
「バ、バニーッ・・・ダ、ダメだって!!」
「分かってるんですけど・・・でも・・・でもっ・・・」
同じ空間に居るのに、愛し合っているのに・・・どうして離れているような状態をしなければならないのだろうか。
「どうして・・・僕は、をこんなに愛しているのに」
「バニー」
「他の誰よりもを幸せにする自信があるのに、どうして許されないんですか?
どうして許してもらえないんですか?おかしいじゃないですか、こんなの」
「バニー」
「・・・ッ」
は優しく僕の背中を撫でる。
元の生活に戻って以降。
僕はを抱きしめた記憶がなかった。それはつまり、全部アニエスさんの妨害があったから。
今、やっとの体温を僕の体で感じられた。
離れたくない。
離したくない。
それなのに・・・それなのに・・・。
----------PRRRRRRRRRRR・・・・!!
機械物の着信音は無常にも僕らの仲を引き裂いた。
僕はを離し、彼女はリビングに走る。
引き裂いた機械音が消え僕はため息を零しゆっくりと歩き、リビングへと辿り着く。
「はい・・・い、今代わります。バニー」
「え?」
すると、が僕に自らの携帯電話を差し出した。
「アニエスさんから」
相変わらず、か・・・と思いながら
から電話を受け取り、耳につけた。
「はい、代わりまし」
『に気安く触るんじゃないわよクソ兎・・・ガチャッ!・・・ツー、ツー、ツー』
僕に代わった途端、その一言だけを言って
通話を切断した。
やることが低レベル過ぎるが、その一言だけでも今の僕の心には痛いほど響く。
「はぁ・・・、僕泣きたいです」
「何かいい方法、あれば良いのにね」
本当に、誰かいい方法を教えてくれないか。
この妨害を回避する方法を。
そして、僕がに触れられる方法を。
このままでは、僕自身・・・狂ってしまいそうだ。
近いようで、遠くに感じる
(元の生活に戻ったはずが、妨害電波が凄まじい)