ようやく、アニエスさんからの許しが出て
今度こそ・・・本当に僕との生活は元通りになった。

今までただの「箱」にしかすぎなかった、マンションの一室も
という存在を取り戻し、ようやく其処が「僕の居場所」へと戻った。



やっと取り戻した生活で、気分も晴れやか。



リビングの床で座って僕を迎えるの姿に
それだけで毎日扉を開けることに楽しみが出てくる。


そして・・・元に戻った生活でやりたいことが僕にはあった。











「ひゃわぁあ!?」


「ちょっ!?」






----ドンッ!!





リビングの床に座っているを背後から抱きしめ
耳元で優しく名前を読んだ途端だった。

いきなり彼女が能力を発動させて、僕はものの見事に壁へと吹っ飛ばされた。
もちろんしっかり受け身はとれた。



は慌てて僕の元へと駆け寄る。






「あっ、やだっ・・・バ、バニーッごめん!!だ、大丈夫・・・じゃないよね、痛かったよね!ごめんね」



「いえ、大丈夫です。久々過ぎてちょっと、ビックリしましたが」






は心配そうな面持ちで僕を見る。

久々の衝撃に思わず「なぜ?」と問いかけそうになったけれど
こういうスキンシップをしばらくやっていなかったのだから、が驚いて
それが引き金で能力を思わず発動させてしまう、というのは少なからずあるだろう。





「本当に大丈夫バニー?」


「大丈夫ですよ。久々にこういうやりとりするんですから
制御がまだできない君がビックリして能力を発動させるのは、当たり前ですよ


「ぅ、ぅん。ちょっと、ビックリしたけど・・・何も壁まで吹っ飛ばすこと、ないよね。ごめんねバニー」


「もう謝らないでください。僕は全然大丈夫ですから」





少し泣きそうなの頭を撫でながら、僕は笑顔で大丈夫と答えた。
僕のそんな声に彼女は「よかった」と言いながらようやく笑みを浮かべてくれた。







「ところで、どうしたのバニー?私に何か話でもあるの?」



「そうでした。実は、とやりたい事がありまして」





の放たれた言葉にようやく本題へと入る。





「や、やましいことじゃないよね?」


「まさか。そういうのはベッドの中だけに」


「あぁああ!!!ごめんなさい私もう何も言わないから!!」


「出来るなら最後まで言わせてください


「言わなくてもいいよ。聞いてるこっちが恥ずかしくなるから。・・・それで、お、お話は何ですか?」








彼女は一つ咳払いをして
まだ火照っている顔のまま僕と視線を合わせた。


その顔があまりにも可愛いから、本題そっちのけで
ずっとの顔を見続けてしまいそうになる。
しかし、今は本題を忘れる訳にはいかない・・・今やらないと、またズルズルと引きずってしまう。







「実は、写真を撮りたいんです・・・との、ツーショット」



「え?写真?」



「はい。君と並んでる写真がどーしても撮りたいんです」






僕の言葉にの目が点になっていた。



それは僕の口から「君とのツーショット写真が撮りたい」という言葉が出てきたから。


きっとが想像していた願いと僕の願いがあまりにもかけ離れすぎた内容だったから
彼女の目が点になるのも分からなくはない。






「バニー・・・それが、やりたいこと?」



「いけませんか?」



「そういうわけじゃないけど・・・なんか、意外だなぁ〜って」






はクスクスと愛らしく笑うけれど
僕自身別に意外性を狙ったわけではない。

実際のところ僕はこの「やりたいこと」を本気でやろうとしている事なのだから。







「あの時、が僕を拒まなければよかったんです」


「あの時?いつの話?」


「写真集のサイン会の時です。僕が指名したのに、君は一緒に写ってくれなかったじゃないですか」


「だっ、だってアレは・・・っ」








僕の写真集の発売イベントの時。

は友人の頼みでそのイベントに参加していた。
最後の最後で、サプライズで用意された写真撮影を「出来る事ならと」と思っていたのに
彼女は僕と自分との立場を考えて、避けたのだ。


僕的には、拒んでほしくなかった・・・というのが、本音だ。







「まぁ・・・君が、僕との立場を考えてとった行動ですから仕方ないんですけどね」


「バニー・・・根に持ってる、その事?」


「いいえ。でも僕の心は繊細に出来てますからね・・・結構傷ついたんですよあの時。
嫌われたのかと思ったくらいなんですから」


「それを”根に持ってる“って言うんだよ。し、仕方ないでしょ・・・今更グレないでよ」









根に持っている、と言われて「そうじゃない」と言えば半分は嘘になる。


僕との立場上を考えてからすれば
肩を並べて写真を撮る、というのは出来ない行為だと分かってはいた。

だが残り半分は拒まれて、僕自身傷ついたのだ。








「それで?写真、撮るの?」


「出来れば」


「そうね。うーん、何処かいい写真館あったかなぁ・・・」


「そんな礼儀正しくしなくていいですよ。携帯のカメラで撮ればいいじゃないですか」


「え?そんなのでいいの?」


「僕は構いませんよ全然」







形式的な写真じゃなくていい。


僕がほしいのは、手元にある手軽なもので撮った写真。







「形式的なモノは、今度虎徹さんやアニエスさんを揃えてやりましょう」


「え?」


「新しい、君の家族写真として。その時はもちろん僕も参加しますけど」


「バニー」









そう言うとは僕に抱きついてきた。

きっと、自分の起こした事件で、彼女の手元には家族の写真がもう残っていない。
あの家と共に何もかも焼けて灰になってしまったのだから。

の母親が彼女を迎えに来る間は
虎徹さんもアニエスさんも、の両親同然・・・一時的なものだけれど
”家族だった“という証を残すために、其処はちゃんとしたモノでなければならない。


でも、僕と君とが一緒に撮る写真はお手軽なモノでいい。




それは僕達が「恋人」である証だから。







「じゃあ写真、撮りましょうか」



「うん。私の携帯、内側にカメラ付いてたかな?」



「あ、僕のは付いてますよ。ホラ」






自分の携帯を開き、内側にカメラのレンズが有ることをに教える。






「じゃあバニーので撮ろ。あ、撮った写真、あとでメールで私のに送ってね」


「もちろんですよ」


「それと・・・一ついい?」


「何ですか?」






カメラを起動させ、さぁ撮るぞ!という前に
が僕に何かを願い出てきた。






「待受にはしないで」


「何でですか?」


「やっぱりするつもりだったのね。ツーショット、撮るのいいけど待受にはしないで」


「いいじゃないですか別に」






の願い出は、撮った写真を携帯の待受画面にするなという事だった。


僕としてはかなり本気で撮ったものを
待受画面に設定する気満々だった。しかし、が僕がやろうとしてたことが
分かったのかそれをするな、と言ってきた。



別に減るものではないから、いいと思うんだが。








「ダメなものはダメ。わ、私の写真、待受にしてるって知ってるんだから」



「僕の携帯見たんですか?」



「違う。私の写真をバニーが待受にしてるって聞いたの。も、もうやめてよ・・・恥ずかしい」








は顔を赤らめながらそう言ってきた。


僕の携帯を見るのは、僕が携帯を触っている側からだったら誰でも可能となる。
しかし、取材を受けるときは待受を変えている。だが、それ以外になると話は別だ。


取材の時以外はほぼ、の写真を待受に設定してる。



が僕の携帯を無断で開いたりしない。

人から聞いた話、とすれば・・・彼女にこの事実を教えた人は一人しかいない。

消去法で考えなくても自然と浮かび上がってくる。









「(虎徹さん・・・だな)」








虎徹さんならにそれを言いかねない。
いつ頃知ったと考えたら・・・多分、写真集のイベントの後くらいだろう。

二人が楽しげに何処かへ向かう姿は確認しているから
多分その時にでも虎徹さんはに、僕の待受のことを喋ったに違いない。


あの人は何度となく携帯を触っている時に「何見てんだ?」と覗き見ることがある。
もちろんの写真を待受に設定にしている時だから
虎徹さんがそれを知ってて当然だ。


とにかく、あの人には厳重注意だな。








「写真、撮るのはいいけど・・・待受にしないなら、いいよ」



「じゃあしたら?」



「もう二度とバニーと写真撮らないし、タイガーさんやアニエスさんとの写真撮影の時も
バニーとは絶対に撮らない」



「大分酷な事を言いますね



「だって恥ずかしいもん」







酷な事を言われているが、彼女の願いというのなら仕方がない。
むしろ、二度と僕と写真を撮らない・・・と言われてしまえば、僕としては本気で辛い。

約束を破ってしまえば、飛躍し過ぎた話になるが
将来結婚した時もは僕との写真撮影を拒むに違いないだろう。







「分かりました。君との写真は待受にしません・・・これでいいですか?」




「約束守ってねバニー」



「もちろんですよ








笑顔で彼女に”待受にはしない“と約束したが
しかし、こういう事は「バレなければ問題はない」と思っている。




つまり・・・僕はとの写真を思いっきり待受にする気満々だ。




口約束で少しには悪いと思っていながらも
やはり、自分と彼女が一緒に写った写真は
ずっと見ていたいし、肌身離さず持っていたい。



画像フォルダを開けて見るのは
宝物が仕舞ってある宝箱を開ける感覚で楽しいけれど
一番の宝物はやはり、側に置いておきたいか、それを身に付けていたい。



だから、待受に設定する。



それは、僕にとって一番の宝物だから。









「じゃ、撮ろう写真」


「えぇ。それで・・・どう、撮るんですか?」


「バニー知らないの?じゃあ携帯貸して」







自分から彼女とのツーショット写真を撮りたいと
言い出したまでは良かったが、正直こういった事をやったことがない。

は笑いながら僕の手からそっと携帯を取り
目の前に携帯を持ってきた。



内側に付いたカメラのレンズ越し。画面に写ったのは僕との顔。
しかし少し、画面に顔が入りきれていない。






「うーん・・・画面に入りきれてないね。バニーもっとくっついて」



「え?あ、はい」






の指示通りに僕は彼女に密着する。
そして、互いの頬がふっ付くまでの距離になった。

目線を正面の携帯に寄越すと、ようやく画面に互いの顔が入りきれるくらいにまでなった。








「じゃあ撮るよ、バニー笑って」



「急に笑え、と言われても」



「営業スマイルはダメよ?ただの写真なんだから」



「じゃあ・・・こういうのは、ダメですか?」



「え?」







途端、僕はの頬に唇を触れさせた。
その拍子で彼女はカメラのシャッターボタンを押し・・・思いがけない一枚が撮れた。


はあまりのことで僕がキスをした頬を手で押さえ
顔を真っ赤にして僕を見た。






「バ、バニーッ!?」



「こういう一枚もアリ、ですよね?」



「そうだけど一枚目からこんな事しなくても・・・っ」



「頬じゃなくて唇が良かったですか?」



「そういう意味じゃなくて・・・っ、も、もうバニーのバカッ」








顔を真っ赤にして慌てるの姿に僕は笑った。

すると、突然シャッター音。
目の前に構えられた僕の携帯電話。

しかも、僕に向けられたのは外側のレンズの付いた方。







、まさか・・・っ」



「ほっぺにチューの仕返しよ。これ私の携帯に送って、カリーナやタイガーさんに一斉送信するんだからね!
『見てみて、バニーの笑顔』とかタイトル付けて」



「ちょっ、やめてください。・・・携帯を返してください」



「ダーメ!ほっぺにチューの罰」








そう言っては僕の携帯をいじり始め、メールで
自分の携帯に画像を送るため打ち込み始める。

さすがに僕のプライベートな画像を身近な人達に一斉送信されたら
恥ずかしい事この上ない。それだけは阻止しなければ。








、返してください」


「やだよー」







僕の携帯を持って返さない気の


そんな彼女を捕まえようとする僕。





最初は焦っていたのに、段々とその追いかけっこが楽しくて―――――。










「捕まえた」


「捕まっちゃった」










自分の腕の中に収めた幸福感は紛れもなく現実だと、実感した。



後ろから抱きしめるように捕まえ
僕はの手に持っていた携帯を取り上げる。






「さぁ、携帯は返してもらいますよ。あと僕の写真は後で消去しときます」



「貴重な写真だったのに。バニーが追い掛け回すから送信失敗しちゃったじゃん」



「それは残念でしたね。でも、僕のプライベートの笑顔は写真に残さなくても君はいつも見てるじゃないですか」






そう言いながら携帯を床へと置き
を僕の方へと向かせ顔を近づける。








「僕の全ては、君に焼き付いているはずでしょ?」




「でも写真にはないよ」




「写真じゃなくても、焼き付いているんです。頭にも、目にも、心にも・・・そして、君の体にも、全部。
僕の全ては焼き付けているんです・・・写真にはない、姿も」



「バニー」




「もちろん、の全部・・・僕には焼き付いていますよ。だってそれは」




「私がバニーのモノだから・・・だよね」













言おうとした言葉を、敢えて彼女が頬を赤くほのかに染めて
優しく言い放った。

僕はその言葉に笑みを浮かべ、唇をそっと近付けた。







「だから、これからも・・・写真には写らない、僕の姿を焼き付けてください」



「いいけど・・・程々にね。今回みたいなの、もう勘弁して欲しいから」



「もちろんですよ。でも、君を愛するのに程々は、ないと思いますから
それだけは・・・理解してくださいね」


「ぅん」







愛らしい返事が聞こえてきたら、それは幸せへの合図。








、愛してます」


「私もだよ、バニー」







辛かった日々の空いた隙間を埋めるように
互いの唇を重ね、戻ってきた幸せな日々を噛み締めるのだった。





He that falls today may be up again tomorrow.
(”沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり“何事も悪いことばかり続くわけではない) inserted by FC2 system

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