「ちょっと、何処に連れていくっていうのよ。私は忙しいんだから」
「いいですから。少しだけ私に時間を割いてください」
「も、もぅ何なのよ」
ある日。
私はアニエスさんの腕を引っ張りながらある場所へと連れて行く。
アポロンメディアに赴き
アニエスさんをエントランスまで呼ぶと、私は何も言わずかの人の
腕を引っ張りながらある場所へと行く。
「はい、着きました!」
「着きましたって・・・何、写真館?」
「はいそうです」
アニエスさんを連れてきた場所。
それは写真館だった。
「連れてくるのはいいけど・・・立て札見なさいよ、CLOSEって書いてあるじゃない」
とある写真館の前にアニエスさんと私は立つ。
しかし扉の所には【CLOSE】と書かれた立て札が下がっており
ましてやドアは小さなカーテンで覆われていた。
誰がどう見ても、其処が今日休みで閉まっている・・・としか思えない。
「大丈夫ですって。扉は開けてありますから」
「いい加減、私を此処に連れてきた理由を」
「とりあえず中に入りましょうアニエスさん!」
「ちょっと話を聞きなさいッ」
アニエスさんの言葉を無視して私は扉を開け、腕を引っ張りながら中へと入り、扉を閉めた。
扉を閉め、アニエスさんの腕から私は離れた。
「ちょ、ちょっと!」
「アニエスさん連れてきました―!」
「はぁ?」
「遅ぇぞアニエス」
「どうせ忙しいだの何だのと、に言ってたんでしょ?」
「タイガー、バーナビー・・・アンタ達何してんの?」
私が声を出すと、タイガーさんとバニーが顔を出した。
2人が顔を出すとアニエスさんは目を見開かせ驚いている。
これでようやく役者が揃った、というわけだ。
「ちょっと、いい加減理由を話しなさいよ。私何も聞かされないでに連れてこられたんだから」
「アレ?そうなんですか?」
「だってこうでもしないと、アニエスさん忙しいとか言って付いて来てくれないと思ったから」
バニーの問いかけに、私は苦笑を浮かべながら答えた。
アニエスさんは仕事の鬼。
ちょっとやそっとじゃ、付いて来てくれないだろうと思っての強行手段だった。
「実は、家族写真を撮りたいと思いまして」
「家族写真?」
すると、バニーが私の代わりにアニエスさんに説明を始める。
「のご家族の写真は、彼女の事件で全部灰になって手元には残っていないんです」
「だから一時ではあるけどの父親と母親って事で俺達も家族だったっていう思い出を残したいんだと」
「それで虎徹さんを呼んでにはアニエスさんを連れてきてもらった・・・という訳です」
「・・・貴女」
「ごめんなさいアニエスさん。何も言わないで無理やり連れてきちゃって」
2人の説明が終わり、私はようやくアニエスさんに謝罪の言葉を零した。
無理やり連れてきたことは自分でも申し訳ないと思っている。
でもこうでもしないと、ズルズルと引きずってしまい・・・ママが戻ってくる日を迎えてしまうかもしれない。
そうなる前に、思い出だけでも残しておきたい。
タイガーさんも、アニエスさんも、私の家族・・・だから。
「全く・・・そういう事は最初から言いなさい」
「す、すいません」
「偶然スーツの上着着てたからいいけど・・・化粧道具は会社なのよ。ひどい顔で写りたくないわ」
「其処も・・・すいません」
「別に化粧とか直さなくてもよくね?」
「大して変わりないと思いますけど?」
「其処お黙り」
「ア、アニエスさん・・・っ」
タイガーさんとバニーの言葉にアニエスさんの目が厳しくなった。
鋭い視線に2人は黙り、アニエスさんはというとため息をこぼす。
「ったく。男には女の身だしなみっていうのが分かってないのが困るわ。
アンタ達男は別にそれでいいって思うけど、女は身だしなみ一つで写真写りが変わるんだから。ねぇ、」
「え、えぇ」
いきなり同意を求められても、あまり化粧をしない私からしてみたら
どう答えていいのか分からず苦笑を浮かべていた。
「アニエスも来たことだし、撮るか」
「そうですね。じゃあ、まずを椅子に座らせて
その両脇に虎徹さんとアニエスさんが立つような形で撮りましょう」
バニーの言葉で、私はアンティークな椅子に腰掛け
その両脇にタイガーさんとアニエスさんが立ち並ぶ。
私はそんな二人を交互に見て、笑う。
「どうした?」
「何笑ってるのよ?」
「いいえ何でもないです」
私が笑うから、二人が気になって声をかけてきた。
でも私は、何でもない・・・と言葉を濁し、ファインダーの方へと目線を合わせる。
写真館のスタッフさんは「三人とも、笑って」と声を掛ける。
血の繋がりもない、赤の他人同士だけれど
本当の子供のように可愛がったり、叱ったり、心配したりしてくれる大切な二人。
たとえ、本物の家族になれなくても
家族のように私を愛してくれた人が居たことを、忘れないだろう・・・写真という形が残り、私の手元にある限り。
ある程度写真を撮り終えて、スタッフさんは道具を片付け始めていた。
アニエスさんは会社へと何やら遅れるという連絡を入れ
バニーは急な連絡を受けていた。
「良かったな」
「タイガーさん。わざわざありがとうございます」
手持ち無沙汰なのか、タイガーさんが私に話しかけてきた。
私はというと今日のことを本当に感謝し、深々と頭を下げた。
「いいってこれくらい」
「写真出来たらタイガーさんにも焼き増ししますね」
「ありがとな。そしたらウチに大切に飾っとくよ。お前も俺の家族、だからな」
「タイガーさん・・・・・・はい!」
タイガーさんの言葉に嬉しい声で返事をした。
「しかし、バニーもお前の事本当に好きなんだな」
「え?」
「写真館の手配したのもアイツだし、今日のプロデュースは
何から何までバニーがやってただろ?それにアイツ・・・お前と撮った写真、待受にしてるし。
携帯開くたびになーんか嬉しそうな顔するんだよなぁバニーのヤツ」
「!!!」
タイガーさんの口から出てきた言葉に思わず顔が赤く染まり
思わずまだ電話を終えていないバニーの姿を見た。
私と撮った写真・・・それは、つまり・・・頬にキスをした、例のアレ。
しかし、そうとは限らない。
もしかしたらタイガーさんの見間違いで、私だけの写真ではないか・・・と敢えて尋ねてみる。
「バ、バニー・・・まだ私の写真、待受にしてるんですか?」
「お前だけのじゃなくて、お前と一緒に写った写真な。嬉しそうな顔してっから、聞いたんだよ。
そしたらアイツ・・・・・・・・・」
『とやっと写真撮ったんです』
『お、良かったじゃねぇか。それでどんな写真撮ったんだよ?どーせ待受にしてんだろ?』
『察しがいいですね虎徹さん。でもこれはいくら虎徹さんでもお見せすることもお教えすることもできません』
『は?』
『僕の大切な宝物ですから。フフフ・・・の驚いた表情はとても可愛いんですよ』
『あ・・・そう』
『見せたいのに見せれないのが残念です』
『別に誰も見せろ、とか言ってねぇから』
「んな、具合で凄まじく何か」
「デレてたんですね」
タイガーさんの話を聞いているだけで恥ずかしくてたまらない。
見せたいのに見せれない・・・って辺り、確実にあの頬にキスをした写真の事だろう。
しかも、完璧に・・・それを待受に設定している。
アレほど「しないで」と釘を刺しておいたのに、彼はものの見事にその釘を引っこ抜いて放り投げた。
ようするに、私の言葉を無視。
多分彼の中では「バレなければ問題ない」とか肯定付けているのだろう。
「二人で何の話をしてるんですか?」
「お、噂をすれば何とやら」
「は?」
すると、電話を終えたバニーがこちらにやって来た。
そんなバニーをタイガーさんは笑いながら迎える。
「二人で何の話を?」
「バニーは相変わらずの事好きだよなぁ〜って話してたんだよ」
「タ、タイガーさん!?」
「僕がを好き?・・・当たり前じゃないですかそんな事」
「バ、バニーまで!?」
タイガーさんの言葉にバニーは当たり前のような表情で答える。
相変わらずのストレートすぎる表現で私の顔は真っ赤に染まり、言葉を失う。
「それに、ホラ・・・お前。との写真、待受にしてんだろ?」
「こ、虎徹さん!!そ、それは言わない約束のはずです!!」
タイガーさんがバニーに私との写真のことを待受にしていると
私の目の前で言葉を漏らすと、バニーは慌てて訂正に走り、そして私を見る。
しかも、私を見るバニーの表情は頬をほのかに赤く染め、そして焦りの表情を見せていた。
「ち、違うんですよ。決して君と撮った、あの写真を待受に」
「してるんでしょ?」
「ですから、アレは」
「してるんでしょバニー?」
訂正に走ろうと私に近付き、写真を待受にしていないと言うも
一方の私は疑惑の眼差しで彼を見ていた。
私がジリジリと問い詰めると、バニーは言葉を失う。
「もう!アレほどしないでって言ったじゃない!!は、恥ずかしいのは私の方なのよ!!」
「でも僕の携帯に入ったものは僕のです。待受にしてもいいじゃないですか」
「開き直らないでよ!!変えて、今すぐ待受変えてなさい!そんでもって消して!!」
「嫌ですよ。だってと僕の写真・・・大切な一枚なんですから」
「だからって待受にしなくてもいいでしょうが!しかも・・・っ」
不意打ちの頬へのキスを待受にするなんて・・・!!
私が恥ずかしくなって当然だ。
「もうバニーなんか大嫌い!約束も守らないなんて!!」
「・・・そんな事言わないでください」
「もう知らない」
知らない、と言葉を零し彼に背を向けた。
後ろでタイガーさんが「ああ怒らせた」とちょっと悪戯っぽく言い
その横で「元はといえば貴方が」とバニーが八つ当たり?をしていた。
しない、と約束をしたから安心をしていた。
それだというのに「バレなければ問題ない」なんて大間違い。
いくら好きだからって・・・してほしくないことだって、私にはある。
「・・・すいませんでした」
するとバニーが私を後ろから抱きしめた。
「もう、バニー大嫌い。約束守らないバニーなんか嫌い」
「すいません、僕が悪かったです。でも君とやっと写真が撮れたから・・・嬉しくて」
「・・・・・・」
「肌身離さず持っていたかったんです、見ていたかったんです」
「・・・・・・」
「待受にすれば、離れていても側にいるような気がして・・・別にあの待受を誰かに自慢したいとかそういうのはありません。
ただ・・・君をずっともっと、側で感じていたいんです・・・それは僕がをこの世で一番愛しているから」
甘い言葉を囁きながら彼は私をきつく抱きしめる。
でも彼が言う言葉には自分でも思い当たる部分がある。
私だって定期の中にバニーの写真を入れている。
それは私も彼と同じ気持だから。
「・・・だから、僕・・・」
「はーい、いい加減離れなさいアンタ達」
バニーが私に何か言おうとした瞬間、アニエスさんが間を裂き
彼の腕から離れ、今度はアニエスさんの腕の中に居た。
「ちょっとアニエスさん。僕はまだ話の途中」
「話?あら、お芝居の練習じゃなくて?」
「え?」
「お芝居?アニエスさん、何言って」
アニエスさんの言葉に一瞬胸に痛いものが刺さったが、何やらヒソヒソと周りから話し声が聞こえる。
「バーナビーの彼女か?」とか「え?高校生じゃない、あの子?」とか
気付けばそう・・・此処は、見知った人達はタイガーさんとアニエスさんしか居らず、後は全部・・・・・・‥赤の他人。
つまり、私とバニーの関係を知らない人たちだらけ。
いつもの調子かつ、バニーのペースに流されて気付かなかったが
此処はまだ・・・写真館の中。スタッフさん達が後片付けをしている最中でもあった。
「いい演技だったわよバーナビー。セリフもばっちりね」
道理でアニエスさんがいきなり割り込んできたわけだ。
しかも、肌から感じるアニエスさんの気配が「場所を考えなさいアンタ達」と言わんばかりの物を放っていた。
「ごめんなさい、皆さん。バーナビーったらお芝居のセリフの為に私の親戚の子使っただけなの。
ビックリさせてごめんなさい」
アニエスさんはその場の事態を「バニーのお芝居のセリフチェックの為」と言い
片付けるスタッフさん達を宥めた。
かの人の言葉に、動きを止めていたスタッフさん達も「あぁ成る程」と納得の言葉を零し
再び片付けへと戻る。
「じゃあ私は会社に戻る途中でを送り届けるわ。行きましょう」
「え?・・・はい」
「バーナビー」
「あ・・・はい」
「あとで私の所に来なさい・・・話があるから」
「・・・は、はい」
バニーにそう言い残し、アニエスさんは私の肩を抱いて外へと出た。
確実にバニーは後々アニエスさんから延々と説教をされるに違いない。
「す、すいませんアニエスさん」
「ったく。まさかまでアイツに流されるなんて・・・ホント、人を巻き込むのは
ミスター鏑木並に天才的ねあの兎。むしろ、あの2人は人を巻き込むのが得意みたいなもんよね」
グチグチと言いながらアニエスさんはタクシーが通りかかるのを待ち
その傍ら私は話を聞きながら苦笑を浮かべていた。
「次から場所を考えてやりとりはしなさい」
「はい」
「アンタ達の関係が大っぴらになったらそれこそ一大スキャンダル免れないわよ。
何せあの兎は未成年の貴女に手を出しているんだから」
「は、はい。気をつけます」
しかし、私が「気をつける」と言ったところで
当のバニー本人が私の事になると後先構わずかつ、周りを考えずな行動を起こすから
私が言ったところでどうにかなる、というわけではない。
「まぁあの兎にも後で釘は十分に刺しておくわ」
「よろしくお願いします。私が言っても聞かないと思うんで」
ため息を零すと携帯が振動で何かを伝える。
私はポケットに入れていた携帯を取り出すと、メール受信。
受信BOXに入ったメールを開くと、発信者は・・・バニーだった。
メールの内容は・・・多分、さっき言いかけた言葉。
思わず笑みが零れメール画面を閉じる。
「ん?・・・アラ、いい表情してるじゃない、それ」
「ウフフ・・・私の宝物です」
ふと、携帯の待受をアニエスさんが横目で見て
私はというと誇らしげに「宝物」と言う。
私の携帯の待受・・・それは、あの日笑ったバニーの顔。
送信失敗と言ったけれど、本当はちゃんと送信して
その後のメールを彼の送信BOXから削除しておいたのだ。
「バニーには内緒にしててくださいねアニエスさん」
「はいはい。ホント・・・バーナビーもバーナビーなら、もね」
そう言われ私は笑みを零したのだった。
私の手元には、たくさんの思いと愛が詰まった写真が残った。
自分の子供のように愛してくれる、タイガーさんとアニエスさん。
私を誰よりも世界で一番愛してくれる、バニー。
この写真-宝石-は色褪せることなく、永遠の輝き続けるだろう。
ETERNAL JEWELS
(写真という宝石は永遠に色褪せることなく輝くだろう)