「ふわぁ〜･･･アレ？バニー･･･まだ寝てる」
ある日の休日。
いつものように起きると、隣には居ないはずのバニーがまだ寝ていた。
特にオフとは聞いてはいないし
先日も緊急の出動で遅くに帰ってきたのは分かっている。
彼がベッドに入ってきたのは、寝ぼけながらでも覚えていた。
そしていつもなら、私よりも先に起床しているのに
何故かまだ彼は夢の世界に入っている模様。
「(もしかしたら仕事、お昼からなのかな？)」
時間を見ても、まだ朝と呼ばれる時間。
いつもなら動き出している体だが
もしかしたら昼からの仕事なのだろう、と結論づいた。
そうだったら、起こすのは何だか申し訳ない。
私はバニーを起こさないようにベッドから静かに出て
洋服へと着替える。
最近やたら体が軽い。
別にそれは良いことなんだろうけど･･･反面、不安でもあった。
「(バニー･･･疲れてるんだよね)」
アニエスさんからようやく許してもらえて
元通りな生活に戻った。
だけど、何だか此処最近バニーが私に触れてこないのが不安だった。
以前は帰ってきたら、イヤというほどキスはするし
体を重ねたりもしていた。
だから次の日はいつも、体は重くても
”バニーから愛されている証拠なんだよね“と思っていたし、それだけで幸せだった。
だけど、此処最近は何だか疲れてて
キスもしてくれなければ、抱きしめてもくれない。
気にしすぎかもしれない、と思うけれど
それが今までは当たり前だったから、突然そういう行動が彼から無くなると
不安でたまらない。
「気に、しすぎかな･･･」
そう考えて、思わず苦笑。
きっと仕事の量が増えているだけなのかもしれない。
今日だって私が先に起きて、彼がまだ眠っているところを見ると、そうとしか思えない。
あまり考えこむとマイナスな方向に進むからやめよう。
私は首を横に振って、気合を入れ直し
食事の買い出しに行くついでに、足りないものも買いに出掛けるのだった。
「ただいまぁ」
『だから、そう言ってもな』
『嫌なものは嫌なんです。もう嫌なんですよ、こんなの』
買い出しを終えて帰ってくると、リビングから聞き慣れた声。
バニーと、タイガーさんの声が聞こえてきていた。
いつもは穏便なやりとりなのに
何だか玄関先にまで聞こえてくるほどの言い争いをしているようだった。
私はすぐさまリビングに向かい、顔を覗かせる。
「あの･･･どうかしたんですか？」
「、丁度いいとこに戻ってきた」
「え？」
ナイスタイミング！と言わんばかりのタイガーさんの出迎えに私は目を丸くした。
「実はさぁ･･･バニーの奴、仕事したくねぇって言うんだわ」
「え？バニー？」
「もううんざりなんです。毎日毎日おんなじ仕事ばっかりで、正直飽きて来ました」
「さっきからず〜っとこんなん。今日も仕事行きたくねぇとか言い出してさぁ」
「バニー」
バニーを見ると、彼は不貞腐れながら目も合わせてくれない。
とにかく仕事に向かうよう説得をしなければならない。
スケジュールを組んでくれたロイズさんにも申し訳ない。
「バニー･･･お仕事行かなきゃ」
「にいくら言われようとも、僕はもううんざりなんです。仕事、行きたくありません」
「せっかくロイズさんが持ってきたお仕事投げ出すっていうの？バニーらしくないじゃない」
「それでも、休みくらいは欲しいんですよ。それなのに、まるで重労働を課せられているようで
休む暇すら無いなんておかしいじゃないですか。労働基準法違反です」
「バ、バニー」
労働基準法うんぬんは、学生の私には分からないことだけれど
今までの彼からしたらこれくらいのストライキを起こしても当然なのかもしれない。
しかし、今日もお昼から仕事があるというのなら･･･行かせない訳にはいかない。
だがタイガーさんが説得しても、私が説得しても無理という完全お手上げ状態をどうすればいいのだろうか？
「･･･ちょっと、いいか？」
「え？･･･あ、はい」
すると、タイガーさんが小声で私に話しかけ
２人でリビングの外へと出た。
「お前が来たら何とかなるって思ってたんだがな」
「すいません。力不足で」
「いや、いいって。バニーも休みが欲しんだろ･･･アイツの言う事は一理あるわけだし」
確かに、バニーの言い分は一理ある。
休みのない彼が、休みが欲しいというのは当然の言葉。
時々体を壊さないだろうか･･･と私は心配もしている。
「最近、バニーの奴。何か仕事してても楽しくなさそうにしてたからよぉ。心配はしてたんだよな」
「そうですか」
「なぁ、。･･･しばらく、バニーの側に居てやってくんねぇか？」
「え？」
「あ、言い方間違えたな。バニーの仕事のサポートしてやってくれって意味」
タイガーさんの言葉に目を見開かせ驚いた。
それはつまり――――――。
「わ、私にバニーのマネージャーをやってくれってことですか！？」
「そういうこと。お前が近くで見ててくれたら、バニーだって仕事にやる気出るだろうし」
「む、無理ですよ！私にマネージャーなんて務まりません！！」
「大丈夫だって。お前何かと気配りできるし、ロイズさんからバニーの仕事の内容聞いて
アイツのサポートするだけでいいんだ」
「で、ですけど･･･っ」
「ロイズさんには俺から言っとく！それにカッコつかねぇだろ？
キング・オブ・ヒーローが仕事したくありませ〜ん･･･とかなったら。それこそイメージダウンにもなるし
せっかくお前らの関係、アニエスに認めてもらったのにバニーがあんなんじゃまた引き離されるようなことになるぞ？」
「そ、それは･･･」
タイガーさんの言葉には納得いく部分がある。
確かに言われてみたら、そうかもしれない。
せっかくアニエスさんにも私たちの関係は許してもらえたのに
バニーがこんな状態だと知られたら、また離ればなれになることだって無いわけじゃない。
「ゎ、私にできますか？バニーの、マネージャーみたいなこと」
「おぉ。はしっかりしてるからな、大丈夫だ。お前がやるっていうなら、俺も出来る限りフォローはするし
バニーもお前に迷惑はかけれねぇって思ってやる気出るだろうし。な、頼むわ」
困っているタイガーさんを目の当たりにすると、断るに断れない。
此処は、命の恩人であるタイガーさんの為といつも愛してくれているバニーの為と思えば――――。
「出来る限り、努力してみます」
「やってくれるのか！？」
「私にも出来ないことはありますから、其処は大目に見てください。
でも出来る限りの事はやってみます。バニーにはいつも迷惑ばっかりかけてるし
タイガーさんのお役にも立てるなら･･･頑張って、みます」
やれる範囲でやってみよう。
出来ないところは、助けてもらうしかないけれど
自分で出来る範囲でバニーの事をサポートすればいい。
不安だけど、最初から無理だと思って投げ出して断るより
やってみてから、考えるのもアリだと思った。
「よし！じゃあ俺はバニーにこの事を伝えとく。お互い大変だろうけど頑張ろうな」
「･･･はい、よろしくお願いします。あ、タイガーさんお昼食べました？」
「いやまだだけど？」
「だったら何か簡単なモノ作りますね。お仕事大丈夫ですか？」
「昼飯食ってからでも十分間に合うし、問題ねぇよ」
「じゃあバニーの分と一緒に作ってきますね」
「悪ぃな」
「いいえ」
そう言って私は色んな物が入った買い物袋を持ってキッチンへと向かった。
私が側にいて、彼のやる気が出るのならしっかりサポートしなければ。
それに何だか･･･いつも以上に側に居れると思っただけで
胸の鼓動が止まらない事は内緒にしておこう。
この気持ちは完璧に私情になってしまう。
仕事に私情を持ち込むのは厳禁だと分かっていはいるのだけれど
それでも･･･好きな人の側に四六時中居れることは、嬉しくてたまらなかった。
「迫真の演技でしたよ虎徹さん。これくらいならドラマ出てもいいんじゃないんですか？」
「お前のやる気のねぇ演技に比べたら俺のは大根だ。ったく、手は貸したからな･･･ロイズさんには自分から言えよ」
「分かってますよ。を僕専属のマネージャーにすることで、エイリィ･マシューの猛追も
がマネージャーとして側に居ることを考えたら何ら平気でいられます。
それにコレでを不安にさせずに済みますから、一石二鳥です」
「まぁ･･･を騙したのは申し訳ねぇけどな」
「えぇ･･･ですが、背に腹は変えられません。でも、にもしもの事があっても
僕が必ず守りますんで大丈夫ですよ、おとうさん」
「バニー、その呼び方やめろ」
「はぁ〜･･･明日から何だか心が晴れやかになりそうです、イイ意味で」
「ったく･･･ワガママなバニーちゃんだ」
「何か言いました？」
「いえ、何でもありません」
罠を仕掛けた兎と罠に嵌った子猫
(明日から、楽しい日々になるに違いない)