。準備は出来ましたか?」



『う、うん。もういいよ』






次の日。

を僕専属のマネージャーとして動いてもらうことになり
超特急で彼女のスーツを用意した。

寝室で着替えをさせ、終ったことを告げた返事が聞こえ扉を開ける。







「こ、こんなんで・・・いいのかな?」


「ええ、大丈夫ですよ。とても高校生だなんて誰も疑ったりしません」








黒のパンツスーツを取り寄せた。


スカートなんて絶対に履かせたくないのは僕のワガママだ。
学校の制服は仕方ないといえど、スーツでスカートを履かせてしまうと
に向けられる視線は僕が嫌でたまらない。

独断と偏見でこのスーツを着せたが、悪くはない・・・むしろ、やっぱり何を着せてもは可愛い。







「さぁ、行きましょう。とりあえず会社に行って、ロイズさんから仕事の内容を聞いて下さい」


「う、うん。バニー、私頑張るね」


が側に居てくれたら僕はもっと頑張りますから。よろしくお願いしますね、マネージャーさん」


「ぅん・・・じゃなくて、はい!」






愛らしい返事に、僕は笑みを浮かべた。

ホント・・・彼女が側に居てくれると思っただけで
数日ぶりに清々しい日を過ごせそうな気がして、思わず気分が浮かれてしまった。














『これが、一応バーナビーのスケジュールだ。時間厳守で動くよう心掛けてくれよ』


『はい。うわっ、び、びっしり』


『彼は今や時の人みたいなもんだからね。移動手段はバーナビーが運転するだろうし。
彼が心配とあらば、タクシーでも拾うといい。その際領収書は必ず貰うようにね。経費で落とせるから』


『はい、分かりました』







「ロイズさん・・・マジで、採用しちまったよ」


「大丈夫ですよなら。しっかりしてますし、問題ありません」





会社に着き、ロイズさんの部屋では僕の仕事内容などを聞いていた。
その近くで僕と虎徹さんは小声で話をする。






「これであの歌姫除けになんのか?」


「除けというより、むしろ僕の気力の問題です。四六時中あの人のしつこさには耐えられませんけど
近くにが居るとあれば、特に問題はありません。彼女の前で見っともない格好は死んでもごめんですから」


「あ、そういう事ね」


「それにこれでに寂しい思いをさせずに済みますから、一石二鳥です」


「どっちにしろ、はお前のやる気剤ってワケか」


「簡単にいえばそんなところです」









何の理由にせよ、が側にいてくれれば問題はない。
これで何とか平穏な日常を少しくらいは取り戻せたはずだ。






くんに説明終ったよ。とりあえず、彼女連れて現場に向かってくれ」


「お二人の足を引っ張らないよう頑張ります」


「まぁ俺も出来る限りフォローはすっから、大船に乗ったつもりで」

「虎徹さんに任せると危ない橋を渡ってるような気分になりますから、何かあったときは僕にでも言ってください」

「だから、お前は一言多いんだよ!!」



「後、2人のケンカを止めるのも忘れないようにね」

「あ、は、はい」





そう釘を差され、僕達三人は部屋を出て
現場へと足を向かわせた。

多分、行く先には必ず・・・あの人が、待ち構えているはずだから。

















「おはようございます」

「おはようございま」


「あら〜!バーナビー様じゃないですの!!朝からこんな所で会うなんて奇遇ですわ!!」





朝一番の現場に向かうと、相も変わらず・・・かの歌姫が虎徹さんを押しのけてやってきた。

もう奇遇という言葉で片付けるのはどうにかしてくれないか、と
思いながらも溜息が零れる。


しかし、今日からの僕には心強い味方が側に居る。






「あの、今からバーナビーは打ち合わせに入るのでお話の方は後でよろしいでしょうか?」


「ん?・・・何よ、誰アンタ?」







僕とエイリィの間に割って入った

普通なら、手の届かないアイドルに心をときめかせていいのだけれども
ロイズさんにしっかりと釘を刺されているのか、大人のような面持ちで立っていた。







「この度、タイガーアンドバーナビーのマネージャーになりました。と申します」



「マネージャー?アンタが?・・・ふぅーん?」







毅然とした態度で言うをエイリィは舐め回すように見ていた。
どうやら完全に気に食わない様子だ。

何となく、雰囲気で分かる。






「アンタ、新人っぽそうね。バーナビー様の足引っ張んじゃないわよ。唯でさえバーナビー様は
私と同じスーパースターなんだから、アンタみたいな凡人が足引っ張ったりされたら迷惑なんだからね。
忙しいバーナビー様のスケジュールにアンタみたいな子供が耐えられるかしら?」





エイリィはの目の前で嫌味にも似た言葉を零した。

あまりにも聞き捨てならない言葉の羅列に
僕自身前に出て反論をしそうになったけれど―――――。






「お気遣いありがとうございます。こんなスーパースターに心配されて
バーナビーも嬉しいだろうし、私としてもいい励みになります。ですが、我社のやり方という
ルールがありますので、ご心配無用・・・と生意気ながら言わせていただきます」


「なっ!?」



「(うわぁ〜)」

「(・・・意外に言うんですね)」





口出し無用、と言わんばかりの言葉をは笑顔で返した。

そう言って彼女はエイリィに頭を下げて
僕達を控え室へと連れて行くのだった。

















「ど、どどどどどど、どーしよぉおお!!あんなスーパースターに生意気な事言っちゃって!?
大丈夫かな?私ロイズさんに怒られたりしないですよね!?」


「だ、大丈夫だって。なぁ、バニー?」


「ロイズさんに怒られるような事がありましたら僕らがフォローしますんで。
は先ほどのように毅然とした態度で居て下さい」





控え室に行くと、先ほどまでのの態度が嘘のように
幼い子どものように、慌てふためく姿がお目見えした。


さっきまではあんな大人顔負けのやりとりをしていたのに
僕らの前ではやはり子供のままだ。

そのギャップを見て、心臓が動いたことは口に出さないでおこう。






「それにしても、さっきのの態度は驚いたぜ。お前、いつあんな芸当身につけたんだ?」


「虎徹さん、失礼ですよ」






パイプ椅子に寄りかかりながら虎徹さんが言う。

芸当、というか一般的な態度を
いつの間に身につけたのだろう、とは僕も思っていた。

高校で、常識的なのは教えてくれるけど作法までは手が届かない。







「何人ヒーローやメディア関係の人間が私の周りに居ると思ってるんですか?」



『あ』




「全部、皆を見て教わったみたいなものですよ。特にアニエスさんとは一時期一緒に住んでたんで
動きを見れば大体のやりとりとか、分かります」





子供の吸収力というのは、まるでスポンジのようだ・・・と言われているようだが
を見るとまさしくその通りのものなのかもしれない。

彼女の吸収力の根源は、僕らヒーローやアニエスさんの動きの観察から得られたものなのだろう。

そう考えたら、先ほどの対応も頷ける。






「コイツは、意外な適任者だな」


「ホラ。だから僕の目に狂いはなかったんですよ」


「え?何の話ですか?」






僕と虎徹さんのやりとりには首を傾げる。

先ほどとは違う、こんな幼気(いたいけ)な眼差しで見られてしまえば
彼女をマネージャーに据えた目的が言えなくなる。







「何でもねぇーよ。俺ちょっとトイレ行ってくる」


「すぐ戻ってきてくださいねー。もうすぐ収録始まりますから」


「あいよー」







虎徹さんはその場に居るのが何だか申し訳なくなり
トイレに行くと言って控え室から出て行った。


部屋に残ったのは、僕と


ふと、が何だか悲しそうな表情を浮かべた。






?」


「私で、本当に大丈夫かな?あんな事言っちゃったし。
正直、足引っ張ったりしそうで・・・頑張るって言ったけど、ちゃんとやりきれるか」






を見ると、泣くのを堪えながら僕にそんな言葉を投げかけた。

先程のは場の流れで言い切ったようなものだけれど
内心のは、怖いくらい脅されていて体中が震え上がっていたに違いない。

今だって、体中が震え、泣きたい気持ちを中に押し込んでいる。



僕自身の都合とはいえ、本当に彼女を巻き込んでしまったのは申し訳なくなる。






「大丈夫ですよ


「バニー」







震えるの体を僕は抱きしめた。


僕自身の都合で巻き込んでしまったのなら、僕にはを守る責任がある。
辛いことからも、彼女を守る責任がある。






「君なら大丈夫です」


「で、でもぉ」


「君が僕の側で頑張ってくれれば、僕もそれに応えるよう頑張ります。
でももし、君が辛い立場に陥ったのなら僕が守ってあげます。だっては僕の大切な人なんですから」


「バニー」






すると、は受け止めた言葉が嬉しかったのか
僕に力いっぱい抱きついてきた。

もちろん、僕もそれに応じるよう強く抱き返した。








「私、頑張るね。バニーのためにも」



「ありがとうございます。僕ものために頑張ります」







そう言葉を投げかけると、は顔を上げ僕を見る。



幼気な眼差し。


愛らしい唇に指でそっと触れる。


顔を段々と近付けて、柔らかな唇と重なりあいたい。











「バ、バニー・・・ダメだよ、ぉ、お仕事」


「今は、二人っきりですから・・・黙って」








そう言って、僕はの唇に自分のを重ねた。



本当にズルいですね・・・僕という人間は。






兎は賢く、そしてズルく
(それを知らない子猫は絆-ほだ-される) inserted by FC2 system

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