「連続誘拐事件?」
「そうそう。最近巷でアーティストの連続誘拐事件が多発してるらしんだ。
テレビ見てない?」
「聞いたことはあります」
バニーのマネージャーをやって数日。
いろんな現場をバニーとタイガーさんと3人で回りながら、私は何とか
彼のマネージャーを務めていた。
そんな時。
とある現場で、休憩の合間スタッフの一人が私に声をかけてきた。
話題は最近巷を騒がしているアーティストの連続誘拐事件。
シュテルンビルトの音楽ランキングに登場しているアーティストだけを狙って
誘拐をしている、という事件。
最近じゃテレビでもこの話題はひっきりなしに報道されて、警察とヒーロー総出で犯人を当たっている。
しかし今のところ手がかりがない、というのも未だ市民は安心できない状況にあった。
「この前リズミカが誘拐されてさぁ、向こうの事務所とかホント大騒ぎになってるらしいよ」
「リズミカは人気デュオですからね。高校生の間じゃファッションを真似する子も居るみたいですから」
リズミカの誘拐は正直私もびっくりしていた。
歌っている二人共可愛いし、ファッションも真似する子も居た。
つまり、歌手というのは一般市民にとって
アーティストでもあり、ファッションリーダーでもある。憧れの存在なのだ。
それを失うつつあるシュテルンビルトは此処最近、不穏な空気に包まれている。
バニーも仕事の合間をぬって誘拐事件の聞き込みにあたっている。
今現在もタイガーさんと休憩の合間を利用して、聞き込みに出ている。
私が一人取り残されたのは「君に危険な手が及ばないようにするためです」という理由らしい。
「そろそろ、その誘拐犯にエイリィを誘拐して欲しいんだよね」
「え?あ、あの・・・」
途端、スタッフさんが思いがけない発言を零した。
思いがけない、というよりも爆弾発言に近い。
「あー・・・不謹慎と思うでしょ?でもねぇ、あの小娘のワガママに
俺達とかマネージャーとか結構振り回されてるんだよね。君も見てるだろ?エイリィのワガママっぷり」
「え?・・・えぇ、まぁ」
ワガママというか、なんというか。
此処数日バニーと行動を共にしているけれど彼女の「偶然を装った奇遇」は恐ろしい。
あたかも偶然を装ってバニーに会いに来るのだ。スケジュールなんて早々簡単に動かせるわけ無いのに。
正直私も毎日彼女のイビリに耐えるのは結構キツイ。
「だからさぁ・・・いっそ誘拐犯に彼女を攫ってほしいわけ。
少しくらい痛い目見たほうがいいだろ、ああいう子は。周りの大人振り回して好き勝手してるんだし。
親が金持ちだからって何でも通用するって思ってるからさ。君だって彼女に毎日イビられてんだろ?」
「そ、そうですけど・・・そういう考えはどうかと思います。それは彼女が学習することですから
危険な目に遭ったからといって、彼女が公正するとは限りません。彼女自身が気づいて直すべきところなんです」
確かに毎日キツイ思いをしているし、スタッフさんの言うことには一理ある。
しかし、それは周りがどうこうするのではなく
本人が気づいて直すべきところなのだ、という私の考えだ。
「若いのに、大人だね君。エイリィも見習って欲しいところだよ」
「はぁ・・・」
「でも、リズミカが誘拐されたって事は次はエイリィ確実かな」
「え?」
リズミカが誘拐されて、次のターゲットはエイリィ確実という言葉に驚いた。
「あれ知らない?ヒットチャートの上位から順に誘拐されてるんだよ?
1位の子も誘拐されて、2位はリズミカ、3位はあのエイリィだ。順番から言えば、彼女が誘拐されるのは確実だ」
「あ、あの・・・そ、そういうのは」
「不謹慎だと思いますから、やめていただけませんか?」
すると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
私とスタッフとの間に割り入ってきたのは、バニーだった。
此処に戻ってきたということは、聞き込みを終えてきたのだろう。
「じょ、冗談だって・・・じゃ、じゃあね俺仕事戻らなきゃ」
バニーが睨みに恐れをなしたのか、スタッフはそそくさと自分の仕事へと戻っていった。
「バ、バーナビー・・・ありがとう」
此処で迂闊にバニーと言いそうになったが、何とか冷静さを保たせながら
彼に御礼の言葉を述べる。
すると、私の声聞き彼はこちらに目を向け――――――。
「。ちょっと、話があります」
「え!?ちょ、ちょっ」
いきなり手を握られ、何処かへと連れて行かれる。
しかしこんな所で連れて行かれる先は分かっている・・・彼らの控え室だ。
案の定、手を引かれやってきた先は控え室。
いきおいよく部屋の中に入れられて、ヒールを履いていたから思わず転びそうな体を何とか保たせて
鏡台に座り込んだ。
転びそうな危機を逃れた瞬間、目の前に立ちふさがるバニー。
「バ、バニー?」
「危険だからと思って君を一人にした僕がバカでした」
「え?」
彼の口から出てきた言葉に心臓が動く。
「な、何言ってるの?」
「誘拐事件の聞き込みに行ってる間・・・君が僕以外の男と話しているのは想定外でした。
今回ばかりは君は無防備すぎます」
「あ、ああいうのはほら・・・コミュニケーションの一つだって。
それにスタッフさんへの対応が貴方のイメージを上げて次の仕事に繋がるって、ロイズさんが」
「そんなの関係ありません」
「バニー」
明らかにこれは・・・機嫌の悪い証拠だ。
何を言っても今の彼にはどんな言葉も通用しない。
「君を一人にしておくべきじゃなかった。危険だからといって、一人にした僕がバカでした」
「バニー・・・私が、バニー以外の人を好きになるって思ってるの?」
「此処は君の通っている学校じゃありません。大人の世界で、君にいつ危険な状況が降りかかるかも分からないんですよ?
それだというのに・・・あんなに笑顔を振りまいて、挙句焦ったような表情するなんて。
相手の男に好意を持たせようという素振りに見えても仕方ないんですよ」
「バニー」
違う、と言っても彼は軽く私の言葉を否定という文型で返してくる違いない。
コレは明らかに―――――――。
「ヤキモチやいてるの?」
「・・・・・・・・・君を巻き込んだのに、やっぱり巻き込むんじゃなかったと毎日後悔してます」
その言葉からして、確実にヤキモチを妬いていると正解の言葉を述べている。
私が彼のマネージメントを始めるようになってからというもの。
どうやら彼の独占欲に火を点けてしまったらしく、私が男性スタッフと会話をするだけで
毎回この有り様になる。
正直、エイリィの追撃とかイビリよりもバニーのヤキモチを宥めるのが私には骨の入る作業だ。
「ああいうのも情報収集って、貴方は分かってるでしょ」
「分かっています。分かっていますけど、君が話している相手に問題があるんです。同性じゃない彼は異性だ。
それが・・・それだけが僕は嫌なんです」
「だけど、話さないと・・・貴方の印象を悪くしてしまうわ。そういう気配りもしておかないと」
「でも・・・でも、僕は嫌なんです。君が僕以外の男と話すのが」
そう言って体を引き寄せ力強く彼は私を抱きしめる。
首に顔を埋めて、まるで自分の匂いを擦り付けるように彼は自分の首を動かす。
「バニー」
「僕はが好きなんです、愛してるんです」
「それは知ってる」
「目に入れても痛くないくらい、本当に愛おしいんです」
「それも知ってる」
「だから、もう・・・我慢出来ません」
「それも・・・って、え?」
驚きの声を上げると、バニーは私の体から離れる。
私を見つめる彼の目がいつになく切なさを帯びているのだけれど、その中に微かに見える嫉妬。
そして、体を這い始める彼の大きな手。
「あっ、や・・・バ、バニーッ!?ダ、ダメ!」
「もう今の僕を止められるのは、を存分に満たした時だけです」
「ダ、ダメって!!こ、この前だって・・・控え室で・・・っ」
服の中にバニーの手が入ってくる。
確実に、彼が此処で何をしようとしてるのかすぐに分かった。
分かったからこそ抵抗して、行為に及ぶのを食い止めようとする。
最初のうちはマンションに戻ってからだったけれど
最近では自分の嫉妬心がそう簡単に治まらないのか、控え室での事が増えてきた。
つい3日前も、控え室で彼にせがまれたばかりだというのに。
「アレはお仕置きです。が他の男に笑顔を振りまくのがいけないんです。だからお仕置きしてあげたんです。
あの時聞いたじゃないですか。『君は誰のモノですか?』って何度も何度も確かめたでしょ?」
「り、理由になってない・・・っ、ダ、ダメってば!」
「じゃあちゃんとした理由を述べればいいんですか?」
「ふえ?」
今までのことに理由があるのかどうか問題だけど
はっきりとした事があってやっているのだろう、と思っていた。
「が可愛いからです」
「え?」
「正直、夜だけじゃ足りないくらい最近の君は可愛すぎて。への愛が溢れ出そうなんです。
自分でも分かってるんです、何処かでセーブしなきゃいけないと。だから、誘拐事件の聞き込みをして
距離を少しでも置こうと努力しているんですが・・・目を離した途端、君は僕と違う男と話をしているから。
だから・・・もう、抑えがきかなくて」
何処をどうツッコミを入れていいのか分からないくらい、バニーの独占欲が爆発している。
最初のうちは手助けもしてくれるし安心していたが
どうやらそれは私のぬか喜びだった。
確実に彼の独占欲という爆弾の導火線に、此処最近の私の行動が火を点けてしまったらしい。
彼を思ってやっていたコミュニケーションが、こんな事を起こしていたとは。
「・・・。僕は君が好きで好きで、たまりません。今すぐ、君を感じないと狂ってしまいそうです」
本当なこんな事、こういう場所でシテはいけないと分かっているはずなのに―――――。
「もう、これで終わりにしてね」
「努力します」
結局はいつも、貴方に甘い私がいる。
日々の事で辛くないと思うのは多分こうやって毎日バニーに至る所で寵愛されているからだと思う。
寵愛サレル日々
(貴方の側に居れば辛い事も愛されているからそう思わない)