「虎徹さん。を見てませんか?」


?いいや、見てねぇよ」


「そうですか」








スタジオにの姿がない事に気付く。

いつもなら、僕らの側に常に居るはずの彼女が居ない。







「トイレじゃねぇの?」


「それだったら、僕らのどちらかに一言言ってから行くはずでしょ?はそんな勝手な行動する子じゃありません」


「はいはい。溺愛のバニーちゃんにはの行動は何度もお見通しですよねぇ」


「嫌味を言う暇があったら探しましょう。彼女が居ないと今後の動きも分からないんですから」


「あ、そうだよな」






しかし、何処に行ったのだろうか?と考える。
仕事を途中で投げ出す子ではないのは僕も虎徹さんも分かっている。


じゃあ一体何処に?と頭の中で考えを張り巡らせていると――――――。










「あ、あのエイリィを見てませんか!?収録があるのに、トイレに行くって言ったきり戻ってきてないんです」








すると、エイリィのマネージャーが息を切らしながら僕らの居るスタジオにやって来た。
しかし誰も「知らない」の一点張りで首を横に振る。

彼女が此処に来た理由は多分「僕が居る」というからだろう。
今までエイリィは僕を追いかけまわしていたのだから、そう考えて此処に来るのは妥当だ。

だが、エイリィはおろかも居ない。



居ない。









「!!・・・虎徹さん、まさか」


「あ?あ、お、おいバニー!?何処行くんだよ!!」







嫌な予感が過り始め、僕はスタジオから駆け出た。

同じ階をくまなく探し回る。


ふと、廊下に落ちている見覚えのあるモノ。


近づいて持ち上げると。







「おいバニー、何だっていきなり走り始め」



はもしかしたら、誘拐されたのかもしれません」



「はぁあ!?ゆ、誘拐!?何だってアイツが誘拐」



「多分は巻き込まれたのかもしれません。犯人の狙いはエイリィだった」



「何だってあのワガママ娘・・・って、あ!!」



「ええ。多分ヒットチャートの3位のアーティスト・・・エイリィ・マシュー・・・犯人の狙いは彼女です」






連続誘拐事件の3番目。
2位のリズミカが誘拐されてから犯人が中々動きを見せなかったが
此処に来てまたヤツは、動き出した。


あくまで此処からは僕の推測だ。

きっと犯人は彼女が一人になるところを狙っていたに違いない。
それが今日だったが、タイミングが悪く近くにはが居た。

多分は犯人の顔を見たに違いない。だったら同じように連れ去られてもおかしくない。





「何だってが誘拐されたって分かるんだよ」


の携帯です。おそらく何処かに電話するはずだったんでしょう。
連れ去られた拍子に落としたか、或いは」


「抵抗した際に落ちた、か。とにかくアニエスと警察に電話だな」







虎徹さんは頭を掻きながら自分の携帯を取り出し、アニエスさんと警察に連絡を入れはじめた。

僕はというと手の中に入れたの携帯を見る。
それを起動させると、「PASSWORD」と書かれたロック画面が表示された。

数字盤が表示され、それを入力しない限りその先へは進めない。



彼女自身の誕生日を入れるわけではないだろうし、ましてや僕は彼女の周りにありふれている数字を知らない。


もしかしたら、という思いを張り巡らせ数字を入力すると
ロックが解除され、待ち受け画面が現れた。


















待ち受けに表示されていた画像は、僕。


そして、ロック画面のパスワードは僕の誕生日。



電話帳やメールを確かめたら、彼女の知り合いの人ばかり。
確実に持ち主がだという証拠が出てきた。



自分のせいでを巻き込んでしまった。


本当に今回ばかりは悔やんでも、悔やみきれない。









・・・必ず君を助けてあげますから」







が居なくなった今冷静になれないけれど、冷静にならないと自分でミスを侵してしまう。
少しでも自分が落ち着いて居なきゃいけない。


ミスをしてしまえばそれこそ、彼女を更に危険な目にと遭わせてしまう恐れがあるからだ。





「おい、バニー」



「はい」





すると、電話を終えたのか虎徹さんが僕に話しかけてきた。
振り返ると虎徹さんの隣にはエイリィのマネージャーが申し訳なさそうに立っていた。



















「口外するのもやめた方がいいと、言ったんです。バーナビーさんとさんが控え室でなさっていた事を」


「は!?おまっ、バニーッ!?」


「虎徹さん、文句は後で嫌というほど聞きます。それで彼女はを脅しに向かったんですね。二度と僕に関わるなと」


「はい」







僕達の控え室にエイリィのマネージャーを連れて行き、彼女は大人しく話し始める。

どうやらエイリィは僕との関係を口外するという武器を使ってを脅しに行ったに違いない。
多分のことだ。僕に被害が出ると考えて、自ら僕から身を引こうとでも言ったと思う。


そして、その途中でエイリィと一緒に誘拐された・・・というワケか。






「あの子、自分のワガママでバチが当たったのかもしれません」


「かなりのワガママっぷりだからなぁ、お宅の歌手は」


「虎徹さん」






虎徹さんを嗜め、再び目線を元に戻す。






「正直、それはお互い様というモノです。僕も一般人であるを自分のワガママでこっちの世界に
引きずり込んだようなもんですから。エイリィにも僕にもバチが当たって当然なんです。
お互い勝手な振る舞いで結局は周囲を巻き添えにした事件にまで発展してしまったのですから」





悔やんでも始まらない。

を巻き込んでしまったのは僕のワガママが原因だ。


耐えられない、からと言って結局は逃げた。逃げて、に全部頼って、求めてしまった。







「とにかく、犯人は必ず見つけます。エイリィも助け出します」


「ありがとうございます」






深々と頭を下げて、彼女は僕らの控え室を後にした。

そして、入れ違うかのように扉が勢い良く開く。








「ちょっと!!が誘拐されたってどういうことよ!!」


「ア、アニエス落ち着けって。電話で話したろ。アイツは巻き込まれただけだって」







やっぱりか、と思う人物の登場だ。


アニエスさんがやって来ることは目に見えていた。
虎徹さんが連絡を入れて、多分この人のことだ。居ても立っても居られず来たんだろう。







「そうであったにせよ、も誘拐されたことには代わりないんでしょうが!」


「だから落ち着けって」


「バーナビー。アンタのワガママ聞いてあげたらこのザマよ?にもしもの事があったらどうしてくれんの?!」


「彼女は必ず助けます。もちろん犯人も捕まえます」


「出来なかった時の落とし前をつける覚悟はあるんでしょうね?」


「お、おい!」


「はい」


「バニー、何言ってんだ?!んな事言ったら」


「いいんですよ虎徹さん。僕のワガママで起こったことです。出来なかった時の代償くらいきっちり自分で払います」






そもそも、僕が耐えれなかったのが事の発端だ。
が側に居るというだけで浮かれて、隙を作ったしまったせいで彼女に嫌な思いをさせてしまった。

挙句、こんな危険な目に遭わせることになろうとは。






「エイリィが誘拐されたとなっちゃ、次の4位の子も誘拐されるのは時間の問題だわ。
これじゃあ警察はおろかヒーローの信頼もガタ落ちになる。それだけは避けなさい」


「分かってるよ」


「とにかく聞き込みをしましょう。他のヒーローにこの事は?」


の事も含めて知らせたわ。ブルーローズが躍起になってを探してる。あの子の行きそうな所全部ね」


「そうですか」







確実に僕は彼女から氷漬けにされてしまうだろう。

こんな失態をしてしまったのだ。彼女が僕を咎めても僕は甘んじてそれを受け入れよう。







「探すのよ、何が何でも。他のアーティストもエイリィも、も」


「おう!」

「はい!」






とにかく今は多くの情報が何よりも必要だと感じ、僕と虎徹さんは聞き込みへと足を向かわせた。

ふと、手に握った携帯を見つめる。








・・・必ず助けに行きますから」








こうして、見えない敵と見えない君を手探りで探し当てる日々が始まった。




手探りで求める
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