が誘拐されて、数日経ち見つからないその間に
もう一人アーティストが誘拐されてしまった。

おかげで警察はおろか、僕らヒーローの信頼もガタ落ち。


もっとも、僕は信頼よりもの事が気がかりになっていて
そっちの方でテンションは落ちていた。



そんな中僕らヒーロー全員がアニエスさんに呼び出され
トレーニングルームの休憩室に集められた。






「どうしてくれんの?視聴率がガタ落ちじゃない!!」


「どーにもこーにもならねぇだろ」


「手がかりだって何一つないのよ?それで捕まったアーティスト全員アタシ達に見つけろってのが無理な話じゃないぃ?」







ファイアーエンブレムさんの言葉で怒気を強めていたアニエスさんが怯んだ。


確かに何一つ、手がかりと言っていいものがない。
だから見つけようもないし、動きようもないのだ・・・の居場所だって。










「とにかく、警察と協力して聞き込みを続けて。誘拐されたのは、アーティストだけじゃないんだから」








アニエスさんの言葉に全員が僕の方へと視線を向ける。

その言葉の意味は、が捕まっている・・・という事を表していた。








「いくら次いででも、一般人まで誘拐されたとなっては大問題だわ。
マスコミには伏せているけれど、それを隠し通せるのも時間の問題。一刻も早く見つけるのよ」







そう言って誰もが席を立ち始める。

僕もため息を零しながら席を立った。







「バーナビー」








名前を呼ばれ振り返ると、アニエスさんが居た。









「別にもう責める気はないわ。こうなってしまった以上、どうにもならないんだから」


「責めてくれた方が、僕としても有り難いんですけど」


「何言ってんのよ。自分を責めろだの何だのほざく前に、ちゃんとを見つけなさい。
グズグズしてる暇あったら足を動かして、を探して」


「アニエスさん」


「あの子がいなくなってから、アンタが寝ないで街を駆け巡ってるのは皆知ってるんだから」








が誘拐された日から、僕は仕事が終わって街で毎日聞き込みをしていた。
忙しい合間を縫っての行方を探した。


何度も何度も自分自身を責めながら、を探し求めていた。


おかげでもう寝不足。

でも、目を閉じてしまうとが泣いているのではないかと考えてしまい
結局は街に出て、足を動かしていた。



まるで、居なくなった主人を探す子犬のように。






「あの子を見つけて、助け出すの・・・いいわね?それまで弱音吐くんじゃないわよ。
もし私の前で弱気を見せたら即効でその綺麗なお顔ぶん殴ってやるからね」



「肝に銘じておきます」






そう言い残し、僕は足を動かし街へと繰り出す。



人混みをかき分けて、の行方を探す。

誘拐された時の服装を考えたら多分スーツのままのはず。

スーツ姿の姿を手当たり次第見つけては声を掛けてみる。だけど、どれもハズレ。
目的の人物と悟られないようにそれとなく、聞き込みの態勢に入る。

だけど、結局のところ良い収穫は得られない。









・・・一体何処に」







ため息混じりに彼女の名前を呟いた。

ふと、顔を上げると見覚えのある後ろ姿。
思わずその姿に胸が高鳴り、足が自然と早足になっていく。


手を伸ばし、肩を掴んで――――――。









!」









名前を呼んだ。


だけど、振り返った姿は彼女・・・ではなかった。









「え?あ、バ、バーナビー!?」


「あ、す、すいません。人違いでした。知り合いの子に後ろ姿がよく似ていたもので」







突然声を掛けられた人からすれば驚くのも無理は無い。
しかも「バーナビー・ブルックスJr」となれば、頬を赤らめてしまうのも当然だ。

僕はある意味、時の人・・・というべき存在の一員なのだから。







「あ、そ、そうなんですね」


「本当にすいませんお忙しいところ」


「いいんですよ。帰る途中ですから。あ、あの失礼ではあるんですがサインとかいいですか?」


「え?・・・構いませんよ。人違いで声を掛けてしまいましたからね」







サインをせがまれ、拒むところだが
下手に拒んでしまえば、印象を悪くしかねない。








『なるべくなら、サイン求められても拒んじゃダメよ?ファンにもっと好かれるヒーローにならなくちゃ』








ペンを走らせる指が止まった。






「バーナビーさん?」


「すいません。はい、お詫びです」


「ありがとうございます!大切にしますね!!」





サインを書いたモノを渡し、彼女は嬉しそうに人混みの中に紛れ込んでいった。


思い出して溜息が零れる。

足を動かしながら僕は思い出していた。
がマネージャーを始めて、僕によく言っていた。

サイン求められても拒むな、と。

彼女は彼女なりに、僕を周囲に好かれようと努力をしていた。
だから何事も一生懸命に取り組んで、僕のことを一番に考えていた。



自分が今現在、危険な目に晒されているのだと分からないまま。

















本当に、何処に居ると言うんだ?

この街のどこかに居るはずなのに、君の声はおろか姿すら見えない。


見えなくてもどかしい。


会えなくて寂しい。



もう、何日も僕は眠れない日々を過ごしている。
君もきっと同じだろうか、と心の中でそう思いながら足をマンションへと進めた。













「ただいま」








玄関から声を上げるも、愛らしい声は返ってこない。

またため息。


リビングに足を進めても、明かりは灯っておらず暗い。

またため息。


寝室に向かっても、ベッドはただ其処に佇んでいるだけ。

また・・・・・・ため息。







「毎日、同じことの繰り返しか」






きっとが見つかるまで同じことの繰り返しだろう。


早く見つけて、この部屋と僕の心に明かりを灯したい。



に出会うまでは、この生活が当たり前だったのに
居なくなると本当に寂しいものだと、痛感する。

もう、は僕にとって居てくれなきゃならない存在だ。








------------PRRRRRRRR・・・!!




ふと、携帯が着信を知らせ鳴り響く。


僕はポケットからそれを取り出し電話に出た。








「はい」


『バーナビー。誘拐犯を捕まえる作戦を思いついたの』


「え?」





電話の相手はアニエスさんだった。

しかも、暗闇の中に差し込んだ一筋の光を彼女はもたらしてきた。







『音楽プロデューサーのバベルという男が、ブルーローズの単独ライブを企画してるの。
それでバベルさんからの提案で、そのライブにランキング5位、次に狙われるミスターMを会場に連れてきて彼を餌に
その場に居るブルーローズ、タイガー、バーナビーで捕まえようっていう作戦なの』



「なるほど。確かにそうすれば一網打尽に出来ますね」



『良い作戦だと思うし、これで視聴率も取り戻せそうよ。・・・もちろん、もね』



「アニエスさん」



『一応、あの子の母親代わりですもの。は私にとって視聴率とおんなじくらい大事なんだから。
とにかく、他のヒーローにもこの事は伝えるわ。だから、もう寝なさい・・・これ以上寝不足続きの顔を晒されたら、人気が低迷する』



「ありがとうございます」





「じゃあね」と言葉を言い残し、アニエスさんは通話を切断した。
僕は少し、ホッとしたため息が零れた。

今まで、重い感じの息が口から吐き出されていたけれど
先ほどのアニエスさんの話を聞いて、少しだけ安心の息が口から出てきた。


でも、それはほんの少し。


だけど、あとちょっと頑張れば・・・は、戻ってくる。









。もう少しの辛抱ですからね」








そう言って僕は、彼女の居ないベッドに身を投げ目を閉じた。
あと少しで君を救い出せる、というほんの少しの安堵を胸に抱えながら。





幕開けへの準備
(知らずに僕らは事件の中枢へと向かっていた) inserted by FC2 system

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