僕はブラインドを下ろし部屋で1人、目を閉じていた。
今日は音楽プロデューサーのバベルさん主催のブルーローズさんの単独ライブ当日。
ようやくこの日がやって来たと、待ちわびていた。
目をゆっくり開いて、手に握っていた携帯を開く。
「・・・・、必ず助けだしてあげますから」
今日は絶対に失敗は許されない日。
何としてでも狙われているアーティストを守り
犯人を捕まえ、監禁されているアーティストはおろか、を助けださなければならない。
僕の愛しい彼女さえも巻き込んだ犯人の罪は重い。
やられたら、やり返すのが世の常。
深呼吸をして、気持ちを切り替える。
「行こう」
開いていた携帯を閉じて、僕は現場へと足を運ぶのであった。
「だーかーら・・・なーんで俺らまでライブに出なきゃいけねぇんだよ」
「ご指名が入ったんですから、仕方ないでしょ。我儘言わないでください虎徹さん」
ライブ会場にやってきて、会場はブルーローズさんのファンで大盛り上がり。
しかし、僕らまで出るという話になった途端
虎徹さんは愚痴を零し始める。
「んな所でライブなんてやってる場合じゃねぇだろ?バニーだってが心配じゃねぇのか?」
「もちろん心配してます」
虎徹さんの言葉に、僕はすぐさま反論の言葉を返した。
のことを心配していないと思われては困る。
コレでも正直気が気じゃないのは事実だ。
だけどコレは賭けと言えるモノ。
一石二鳥を狙うチャンス。これを逃してしまえば―――――。
『バニー』
が、戻らないことだって。
「僕だって・・・出来ることなら」
「だったら、アニエスに直談判しに行く。こんな所で歌なんか歌ってられるか!」
「あっ、虎徹さん!!」
言葉が足らなかったせいか、虎徹さんが控室を飛び出してアニエスさんの元へと向かった。
「はぁ・・・本当に、あの人ときたら」
ため息を零し、僕も控室を後にして虎徹さんを追いかけた。
かの人を追いかけて音響室までやってくる。
何やら虎徹さんとアニエスさんの言い合う声が廊下にまで響いてきていた。
「虎徹さん」
「あ、バニー」
「少しは頭を使ってください」
「んだよ!俺が何も考えてない!みたいな言い方して」
事実そうなんだけれども・・・・と言いたい言葉を今はとりあえず飲み込んで
目の前に居る虎徹さんを納得させる言葉を放つ。
「いいですか?有名ミュージシャンの誘拐事件は4件共にヒットチャートの上から順番に狙われています」
「はい、それで?」
「此処まで言っても分からないんですか!?」
「勿体ぶんじゃねぇよ」
本当にこの人は何も考えていないようだった。
相変わらず虎徹さんの無鉄砲な所は手を焼いている。
本気で誘拐されているアーティストはおろか、を助け出せるのかが不安になってきた。
僕はため息を零し、虎徹さんを見る。
「ミスターMはヒットチャートの上から5番目です。だから次に狙われるのは、彼です」
「あー成る程。そういう事か」
僕の説明でようやく虎徹さんが納得してくれた。
本当にこの人に説明するだけで大分遠回りになる。もう慣れたようなものだけれど。
「いい?コレは誘拐犯を捕まえて視聴率を上げる絶好のチャンスなの!」
すると、僕達の会話にアニエスさんが割入って来た。
この人はこの人で、視聴率が大事なのかが大事なのか分からないけれど
何やかんやでのことは視聴率と同じくらい考えている人だ。
大丈夫、と心は落ち着けておこう。
「でもそんなの危ねぇだろ!そのミュージシャンを囮(おとり)にして捕まえようって話だろ」
確かに虎徹さんの意見には一理あるけれど――――――。
「僕が能力で変身して、囮になります!」
「あ、折紙」
すると、其処に折紙先輩が更に会話に割入ってきた。
「ん?・・・ちょっと待て?あー・・・そうか」
「(一瞬、折紙先輩の能力忘れてたな)」
折紙先輩が来るやいなや、虎徹さんは一瞬ではあるが先輩のNEXT能力をど忘れするも
すぐさま思い出して会話を何とか続ける。
「ミスターMさんは、僕なりに守らせていただきます」
折紙先輩の能力を持ってすればこの作戦は必ず成功する。
犯人も捕まえられて、の居場所を吐かせ助け出す。
此処は先輩にも頑張ってもらわなくては。
「おおう、成る程な。でもこんな大勢、人がいる所で・・・っ」
「それは貴方達で何とかして!タイガーアンドバーナビー、それにブルーローズ。3人もヒーローが居るのよ!」
確かに3人もヒーローが居て、取り逃がすわけもなければ捕まえられないわけもない。
「任せてください。ねぇ、虎徹さん」
「おう!もちろんだ!」
「あ、あの・・・僕も、居ます。それに、ロックバイソンさんも私服で」
「私服ぅ?何か・・・不安だなぁ。あ、他の連中は?」
「他の事件現場に向かってるわ」
「あ、そうか」
本来なら僕も他の事件現場に赴いて、監禁されていた時の状況を聞きたいけれど
アニエスさんの意向でライブ会場に居なければならなくなった。
スカイハイさんやファイアーエンブレムさん、それにドラゴンキッドなら大丈夫だろうと
僕自身安堵しつつ、目の前の自分のやるべき事を果たさなくては、と心の中で自分に言い聞かせていた。
「なぁバニー」
「はい」
すると、虎徹さんに話しかけられすぐさま我に返り返事をした。
「この事知ってたの?」
「へ?・・・・・・え、ええ・・・まぁ」
「なーんで俺に言ってくれなかったんだよ!!」
「いや・・・あ・・・えーっと・・・っ」
救いを求めるかのように、僕はアニエスさんを見る。
「今伝えたわ!」
今伝えるんじゃ実際の所遅い気もする。
この作戦を今知った虎徹さんとしてはもどかしくなりいつもの言葉で吐き出した。
ふともどかしい空気を切り裂くかのように携帯の着信音が鳴り響く。
僕は「もしや・・・!」と思い、自分の取り出すも知らせていたのは僕のではなく、隣に居た虎徹さんのだった。
虎徹さんは慌てて、部屋の隅に行き電話に出る。
その隙に――――――。
「アニエスさん。ちゃんと虎徹さんにも説明しておかなきゃ駄目じゃないですか。
それにこの後のことだって」
「あら?別にいいんじゃない?不確定要素があってこそのテレビなんだから」
「で、でも・・・タイガーさんだけ知らされてないのはちょっと」
アニエスさんに文句を零す。
僕はてっきりアニエスさんが皆に話を通していると思っていたが
どうやら虎徹さん以外の全員には作戦の概要は伝えられていると、先ほどのやりとりで理解した。
「不確定要素って・・・。アーティストだけじゃなく、の命にだって関わることなんですよ?分かってるんですか?」
「分かってるわよそんな事くらい」
「分かってないから僕は言ってるんです。皆に話を通してると思って乗った作戦なんですよ。
これで失敗して、取り逃がしたりでもしたらどうするんですか?」
「ちゃんと捕まえればいいだけの話じゃない。だって能力者、犯人もそう簡単に」
「彼女と僕達の能力は違います。一歩間違えれば死に至ることくらいアニエスさんだってご存知でしょ」
いつになく僕はアニエスさんに食って掛かる。
本当にコレで失敗したら、元も子もない。
いくらが能力者だからとはいえ、彼女の能力は特殊過ぎるゆえ、一歩間違えれば死に至ることも有り得る。
心配せずに居られない。
ふと、目を虎徹さんに移すと
かの人もなにやら焦りを見せていた。
「何か、あったんですか?」
「・・・・・・こっちの話だよ」
気にするな、と言わんばかりの言葉を虎徹さんは返し再び通話に戻る。
僕はというと再びアニエスさんに食って掛かる。
「100%大丈夫とはやはり言い難いです」
「を気にする気持ちも分かるけど、私情を挟むな」
「こんな事ならリズミカの救出に向かえば良かったと思うくらいのフェイントです。
彼女たちなら何か知ってるやもしれないし」
「グズグズ言うな」
「言いたくもなります。こんな作戦だと先が思いやられるだけです」
段々と不安要素しか見えてこない気がしてならない。
頼みの綱も此処までか、とため息が零れるばかりだ。
すると虎徹さんが慌てて何処かへ行こうとしていた。
そんな急ぐ虎徹さんを折紙先輩が呼び止めるも―――――。
「ちょっと、野暮用で」
「ちょっ・・・虎徹さん!?」
まさに風の如き早さで、虎徹さんは音響室から姿を消した。
「何か、大変そうですね」
「はぁ・・・・・・いいんですか?虎徹さんに作戦概要を知らせなくて?」
「伝えたじゃない」
虎徹さんの居なくなった音響室。
僕は再度アニエスさんに作戦概要の事を尋ねた。
もう何度言い返しても、同じだろうけれど。
僕の言葉にアニエスさんは自信満々に答える。
「折紙先輩のじゃなくて。僕と虎徹さん、ブルーローズさんとであたる作戦の事も」
「貴方達なら何とかなるでしょ?不確定要素があったほうが番組的にオイシイのよ!」
「そうかもしれませんが」
ああ、もうコレでは水掛け論だ。収拾が付かなくなってきている。
「あの・・・僕、行きます!」
「え、ちょっ・・・先輩っ!!」
あまりの論争に折紙先輩は遂に耐え切れなくなったのか、それとも
反論する隙がもうないと悟ったのか、どちらにせよかの人は駆け出して、部屋を出る。
僕もすぐに後を追おうとすると―――――。
「よろしく二人共」
もう僕が逃げられないと分かったアニエスさんが勝ち誇ったような声で僕に言う。
反論したいところだが、如何せん折紙先輩を追わなければならない僕は
ため息を零し慌てて音響室を出る。
「おぉ、ソーリーッ」
「すいません」
扉の所で、派手な服装をした男性とぶつかり軽く謝った後すぐさま折紙先輩の後を追うのだった。
鳴り出した開演のベル
(作戦通りに、行くのか本当に不安でたまらない)