「はぁ?タイガーにこの事伝えてないの?!」
「アニエスさん、何考えてるんでしょうか・・・まったく」
虎徹さんの居ない、B.T.Bの控室。
僕はブルーローズさんに先ほどの事を話していた。
「ちょっと、大丈夫なの?」
「もし失敗でもして、犯人を刺激してしまえば・・・の身に更に危険が及びます。
失敗は許されないと分かっていながらも、気が気じゃありません」
僕は席を立ち、ウロウロと控室内を動き回る。
「ちょっと落ち着きなさいよ。アンタまでソワソワしてどうすんの?」
「しかし・・・の事を考えたら」
「分かってるわよ。ていうか、のこと考えてるのアンタだけじゃないんだからね」
「・・・・・・すいません」
ブルーローズさんの言葉に僕は我に返る。
とは幼馴染で、一番仲の良い友人でもある。
本来なら彼女が一番取り乱しているところなのに、至って冷静。
いや、冷静を装っているだけに過ぎない。
内心のことで彼女も気が気じゃないはず。
「アニエスさんだって、ぶっちゃけ苦渋の決断だったんじゃないの?
が誘拐されて、あの人だって血の通った人間よ。心配してないわけないじゃない。
視聴率、視聴率って言っておかないとアニエスさんは冷静になれないのよ。
それに私だって・・・が心配よ。
だから危ない橋を渡る覚悟で作戦に乗ったの・・・を助けるためにはこうするしかないって思ったから」
「ブルーローズさん」
彼女の言葉で気付かされた。
皆から好かれているだからこそ、僕だけじゃない皆が心配しているんだ。
だから彼女もこんな危ない橋を渡るような事を言ったんだと気付いた。
「言っとくけど、今回だけよ私が力貸してあげるの。の命にも関わる事件なんだから。
本当ならアンタ達と手を組んでやるなんてお断りなんだからね」
「ええ、分かってます」
すると、廊下の外から虎徹さんの独り言が聞こえてきた。
「ったく。タイガーに作戦伝えてないからコレやるの癪だけど、まぁいいわ。
いい機会だから言ってあげる。正直、アンタとはソリが合わないのよね・・・音楽性だけじゃなくて、のことに関しても。
大の大人がなにデレデレしちゃってさぁ・・・バッカみたい」
「言ってくれますね。僕も貴女とは音楽性ものことに関してもソリが全く合わないんですよ。
いいじゃないですか別に。僕が誰を好きになろうが、勝手でしょ?それに応援してくれてたはずなのに
成就した途端手のひらを返すような行動する貴女に言われたくありませんね。
幼なじみを取られたくらいで悔しがる貴女こそまだまだお子様ですね」
「はぁあ?悔しくないわよ!!みっともないって言ってんの!!ていうかの身にもなりなさいよ!!
アンタのせいでがどんだけ迷惑がってるのか分かってんの!?」
「迷惑?は僕の愛を一心に受け取っているんですよ。そういう言いがかりやめてください。
の気持ちならこの僕が十分に分かっています。一緒に暮らしているんですよ、分かってないと思われては困ります」
「今回の事だってそうよ!大体アンタの我儘が発端なんでしょう。
ちょっとくらい我慢しなさいよストーカーぐらい。嫌だからに泣きつくなんて、それこそ子供よ」
「泣きついてません!だったら実際四六時中付き纏われてみてくださいよ?
心身ともに疲労困憊。癒やしが欲しいと思うのは当然の摂理です。だから僕はを側に置いたんです」
「答えになってないわよ!何それ!結局はアンタの我儘じゃない!!」
「違います!手段です!方法です!!コレが僕のやり方なんです!!」
「お、おおい、何言い争ってんだよ・・・っ!!もうすぐステージ始まるって時に・・・っ」
ライブ会場の作戦は失敗に終った。
上手く犯人をおびき出すことが出来たが捕らえる事が出来ず
ましてや一般人の人質を増やしてしまった。
虎徹さんは人質の救出に向かわせ、僕とブルーローズさんはステージ上で突然現れた黒い人間達を追った。
「・・・居なく、なった?」
「そのようですね」
黒い奴らの後を追うも、途中から姿が消えそして気配までも消えた。
丁度の所で僕の能力も時間制限オーバーで切れた。
「な、何だったのよあの黒い奴ら」
「分かりません。あの男の仲間、とも考えられますね。
あいつらの内、誰か一人でも捕まえれたらの居場所を吐かせることが出来たのに」
「逃げられたんじゃどうしようもないわよ。とにかく、戻りましょ」
「いえ、僕はもう少し奴らを捜します」
そう言って僕はブルーローズさんとは別の方向に歩き出す。
「ちょっと!今は作戦を新しく立て直すのが先決でしょ!それに会場に現れた男の能力対策だって」
「その点は僕にいい考えがありますから心配しなくても大丈夫です。
ただ、やはりあいつ等を捕まえての居場所を吐かせないと」
「バーナビー」
「先程、ブルーローズさん言いましたよね。の誘拐は僕の我儘が発端だと」
「あ、あれは別に悪気があって言ったつもりじゃ・・・っ」
「いえ、言われて当然なんです。それは自分でもよく理解しています」
言われて当然だと自分でも分かっていた。
だから否定もしないし、反論もしない。
苦痛に耐え切れず、に縋った・・・そのせいで、彼女をこんな目に遭わせてしまったのだから
反論した所で「が誘拐された」という事実だけが残っている。
「とにかく僕はまだやつらの足取りを追います。ブルーローズさんは一旦トレーニングルームに戻ってください」
「ゎ、分かったわ」
ブルーローズさんを先にトレーニングルームに向かわせた後、僕は一旦トランスポーターに向かった。
ヒーロースーツを脱ぐ理由もあったが、もう一つ僕には理由があった。
「斉藤さん。ちょっと頼みたいことが」
「何だ、お前までスーツ脱ぎに来たのか?」
「は?お前までって・・・?」
ケースに目をやると、虎徹さんのスーツが其処にあった。
「タイガーのヤツ、慌てて脱いで行きよった。まぁ無理もないだろう。
一般人の人質がもう一人増えたようなもんだからな。アイツが熱くなるのも当然か」
「そうですね」
「ところで、お嬢ちゃんは見つかったか?」
「いえ、まだ」
斉藤さんにまでの心配をされた。
ほぼアポロンの、僕と関わっている人全員にとの関係は筒抜け状態。
皆が彼女を心配して当然だ。
「そうか。ヒーロースーツを脱ぐんだろ?待ってろ、準備する」
「はい。あの、斉藤さん・・・ちょっと、頼みたいことがあるんですが」
「何だ?」
そして僕は斉藤さんにあるアイテムの製作を頼み込んだ。
快く引き受けてくれた斉藤さんは「急ピッチで仕上げてやる」とニヤリと笑みを浮かべた。
ヒーロースーツを脱いだ僕は、私服で黒い人間達の足取りを追った。
あいつらの1人を捕まえればきっとの元にたどり着くはず。
「・・・・、何処に、何処に居るんですか・・・っ」
だから今はの無事を願いながら、探すしかなかった。
未だ居ない君
(それを手探りで捜す僕)