黒い怪人達を追うがてら、犯人を追った虎徹さんを探していた。
探しまわっていたら見覚えのある背格好。
「虎徹さん!」
虎徹さんだった。
僕の声にかの人はすぐさま振り返った。
そして僕は彼の元へと駆け寄る。
「おぉ。そっちはどうだ?」
「すいません。あの怪人達は、虎徹さんが居なくなってからすぐに逃げてしまいました」
「そうか」
「虎徹さんの方は?」
「あー・・・こっちも逃げられた」
結局僕達2人は、ライブ会場を襲った犯人はおろかあの黒い怪人たちを取り逃がした。
僕も一刻も早くを見つけるために焦っているが
それよりも、何だか虎徹さんがやけに焦っているように見えた。
のこともあるだろうけど、それだけじゃない。
ふと、思い出す。
先程連れ去られた少女のこと。
「ひょっとして、連れ去られたの・・・っ」
「・・・〜」
可能性の話をしたけれど、虎徹さんのリアクションは本当に―――――。
「分かりやすいなぁ」
「何っ!?」
「只事じゃないことくらい分かります」
どうやら、僕の予感は的中していた。
連れ去られた少女は、虎徹さんの顔見知り。
それだったらこの人が焦りを見せるのも頷けた。
「これは俺自身の問題だ!」
「なら、僕の問題でもあります!」
虎徹さんに迷惑をかけて、をこちらの世界に引っ張りこんだ挙句
危険な目に遭わせてしまっている。
正直、こんな展開になってしまったのは
僕の問題でもある。
「僕たちはコンビじゃないですか。少しは僕に頼ってください」
自分のためだけに、周囲を巻き込んでしまった。
までも危機的状況に陥らせてしまった。
あの時は虎徹さんに力を貸してもらった。
だったら、僕だってこの人の役に立つことくらい何かできるはずだ。
僕の言葉が響いたのか、虎徹さんは少し躊躇いがちに口を開く。
「誘拐された女の子は、鏑木楓。・・・・・・俺の娘だ」
「!!・・・・やはり、そうですか」
「あーもう!!ヒーローだってのに、自分の娘一人守れねぇなんてよぉ!!」
虎徹さんは娘さんを救えなかった苛立つ気持ちを吐き出す。
僕も多分、今、この人と同じ気持だ。
を救えなかった苛立つ気持ちだけが胸の中に積もっている。
何処に吐き出せばいいのかも分からず、モヤモヤともどかしい気持ちだけが一人歩き。
先走っている気持ちを何とか落ち着かせるため、僕自身冷静さを何とか保たせている。
今、不安なのは僕だけじゃない。虎徹さんだって同じ。
だったら――――――。
「大丈夫。絶対、助かります!!・・・僕にも、協力させてください」
出来る限り、力になろう。
多分も虎徹さんの娘さんも同じ場所に居るに違いない。
「・・・ありがとうな」
「この事を知ってるのは?」
「あー・・・アニエスだけだ。他の連中は知らない。皆には黙っててくれ」
「え、で、でもっ!!」
「迷惑かけたくないんだ」
多分、のこともあるし自分のことまで話してしまうと
余計迷惑がかかると踏んでの発言だろう。
「分かりました」
「先、戻っててくれ・・・あー何かあったら、連絡くれ」
「虎徹さんの方は!?」
「俺は・・・・・・もうちょっと探してみる」
「・・・・・・分かりました」
そう言って、虎徹さんの背中を見送り
僕ももどかしい気持ちのまま、トレーニングルームにと足を戻した。
「バーナビー」
「あ、教官」
トレーニングルームで、待機をしていたら
ようやく手がかりらしい場所をアニエスさんが持ってきてくれた。
僕たちは急いで、其処に向かうべく準備に向かう途中だった。
すると、廊下の壁により掛かるアカデミー時代の教官の姿があった。
先ほどまで僕は彼からある意味「テスト」のようなものを受けていたのだった。
「あの、何か?」
「ちょっと言い忘れてた事があってな」
「おい、バニー。先に行ってるぞ」
「あ、はい。僕もすぐ行きます」
トランスポーターに先に向かった虎徹さんを見送り
僕は其処で教官と向かい合う。
「それで?」
「お前さん。大分今は冷静ではあるが、若干乱れてるな。少し触って感じ取ったが」
「やはり、貴方には隠しても分かってしまうものなんですね」
教官の言葉に僕は苦笑を浮かべた。
「アイツの助けたいヤツの他に、居るのか?」
「・・・はい。僕が、もっとも大事にしている人が・・・とある歌手と一緒に誘拐されました」
「そうか」
「僕のせいでこんな目に遭わせてしまった。だから助け出すのは当然の事です。
もちろん、虎徹さんの娘さんも同じです。僕たちは互いに、救い出さなければならない人が居ます。
先ほどのテストで少し気づきました。冷静にならなければいけない、と」
焦りを見せたら、それこそ犯人の思う壺。
一瞬の迷いも焦りも、重大なミスを侵してしまう事に成り得る。
虎徹さんは熱くなって無鉄砲なまでに飛び込んでいく。
だったら僕は冷静に周りを見ていかないとダメだと気付き
あの人をクールダウンさせるために、やるべき事をやらなければならないと。
「教官のおかげで、少し落ち着きました。ありがとうございます」
「だったらいい。行って来い!」
「はい!」
教官に背中を叩かれ、押し出してくれた。
僕は止めていた足を進めると―――――。
「バーナビー!」
再び呼ばれ、振り返る。
「良い子じゃねぇか。助けだして、ちゃーんと幸せにしてやれ、いいな?教官命令だ!」
「・・・・・・はい!」
そう返事をして、僕は皆の元へと駆け出していった。
多分あの人は僕に触れた時、読み取ったのだろう。
「」という子がどれほど僕にとって大切だというのかを。
お互い、大切な人の為に
(僕たちは、何度でも立ち上がれる)