「何か、外・・・騒がしくない?」
「え?」
ふと、エイリィの言葉で外の騒がしさに気付く。
確かに何やらドタバタと音が聞こえるし、ざわつく音も聞こえる。
「もしかして、助けが来たんじゃ!?・・・ちょっと!!ちょっと、誰か!!誰かいないの!?」
「だ、ダメだよエイリィ。あんまり声を上げちゃ、喉が」
「うっさいわね!私に指図なんかするんじゃないわよ!!誰かー!!」
私の言葉も無視して、エイリィはドアを叩いて声を張り上げる。
彼女は歌手という職業なんだから喉は大切にしてほしいと思う私の気遣いも
今の状況ではそうも言ってられないだろう。
でも、確かに外が騒がしいのは本当のようだ。
先程から鈍い音や、人の走り回る音・・・明らかに騒がしい事を物語っている。
だが生憎と私達が閉じ込められている場所は真っ暗で
此処に人がいる、という意思表示をする道具すらない。
だからエイリィは扉を叩いてそれを示している。
「ちょっと!アンタ、そんなとこに座ってないでこっちきて扉叩きなさいよ!」
「え?・・・あ、で、でも・・・っ」
彼女の言葉で私は躊躇う。
本来なら私もそうしたい所なのだが、能力を大幅に出しすぎたせいか
腕がズキズキと痛みを伴っていた。
強い衝撃を加えてしまえば、骨は折れたりしないけれど
確実に負傷は免れない。
「ったく。ほっんと使えない女ね。そんなんでよくバーナビー様のマネージャーなんか務まるわね?
普通なら無能すぎてクビよ、クビ。私なら100%クビにするわね」
「ア、アハハハ・・・」
「ていうか、アンタNEXTよね?NEXTならこの扉ぐらい吹っ飛ばせるんじゃないの?
この前だってあの黒い奴らアンタの能力でふっ飛ばしたじゃない」
「え?・・・で、でもっ・・・私は、まだ」
すると、エイリィは私が能力者だと思い出したのか扉を叩くのをやめて、こちらに来た。
そう・・・つまり、私の能力で扉を壊せという事。
しかし、私は半人前の身。
それに力の加減も知らないから、相手に怪我を負わせるどころか
下手をしたら自分の身を滅ぼすことになる。
2つの能力と上手く付き合う、というのは簡単に行くようなものではなければ
私の場合、自分自身にリスクを伴った能力ということなのだ。
「あの扉壊して」
「無理言わないで」
「アンタのは使える能力なんだから、早くして」
「で、出来ないよ」
「半人前でもできることくらいあるでしょ?無能呼ばわりされたくなかったらやりなさい」
「出来ないものは出来ないの。貴女を助けてあげたいけれど、私には出来ない」
力加減を知らないし、分からない。
自分だけなら別に構わないとは思うのだけれど
誰かが近くにいる、となれば傷つけないとは限らない。
以前もバニーやカリーナを傷つけたことがあったから
未だに自分でも「100%使いこなせてる」という自信はない。
だから、使いたいのに使えない。
今の私は彼女の言葉を拒むことしか出来ないのだ。
彼女を傷つけたくないし、能力のせいで怪我を負い迷惑をかけたくない。
「出来ないなんて嘘つくんじゃないわよ!」
「本当だよ。私には出来ないの。半人前とかそういう理由もあるけど、出来ないの」
「うるさい!さっさとして!!」
「何でも自分の思い通りにしようとしないで。誰にだって出来ないことくらいあるんだよ。
それを無理にさせるのは、ただのワガママだよ」
「っ、う、うるさい!!アンタにそんな事言われる筋合いないわ!!」
彼女の手が上がり、私めがけて振り下ろされそうな時だった。
途端、天井が崩れ落ちてくる。
外の騒がしいのが原因か、何なのかよく分からないけれど
鉄骨やら何やらがこちらめがけて落下してくる。
閉じ込められた場所にエイリィの叫び声が響き渡る。
多分、もう無理かもしれない。
でも人一人の命くらい救える力くらいは残っているはず。
だったら―――――。
「バニー・・・ゴメンね」
そう、小さく呟き・・・瓦礫が落ちてきた。
轟音が響き渡り、ようやく辺りが静まり返る。
瓦礫が落ちてきて、何分経っただろうか。
今でも自分の耳に落ちてきた衝撃音が耳鳴りのようになって、頭を痛ませている。
「ア、アンタ・・・何で」
「怪我、してない?」
瓦礫が落ちてきた瞬間。
私はエイリィの腕を引っ張り自分の後ろに付かせ
彼女を守るように、自らを盾にして落ちてくる鉄骨や瓦礫に手をかざし何とか能力で止めた。
だから、私と彼女が居る所以外は瓦礫が酷く散乱している。
能力の反動のせいで手が痛み始めているが、今は「痛い」という言葉を言っている時ではない。
私が弱音を吐いたら、彼女にまでその影響が及ぶ恐れがある。
此処は気丈に振る舞うべきだ、と判断し痛みを堪える。
「凄い勢いで後ろにやっちゃったけど、大丈夫?」
「う、うるさい!ちょっとビックリしただけよ。私がこれくらいのことで怪我なんかするもんですか」
「なら、良かった」
「フン・・・・とりあえず、助かったみたいね」
「でも一時しのぎだから・・・コレも長くは持たないよ」
周囲は瓦礫の山。
そして私達はその「山の中」に居るようなもの。
私の能力も腕も限界を越えれば、山に埋もれてしまう。
むしろ、重みに耐え切れず既に危うい。
「ちょ、ちょっと頑張りなさいよ!アンタが手を離したら、私達死ぬのよ」
「私はどうなってもいいけど、貴女だけは、死なせない」
「え?」
「どんなにワガママで、自己中心的でも、貴女はこの街の大事な人だから・・・死なせない」
どんな人間だろうと、生きてる。
多分タイガーさんならそう言う。
あの人が教えてくれた・・・人の命は皆おんなじだって。
死のうとしていた私を助けてくれた、あの人が私に命の大切さを教えてくれた。
「だから死なせないよ、貴女だけは」
「アンタ。・・・・・・ちょ、ちょっと、手、手から血がっ」
「だ、大丈夫・・・これくらいっ」
長いこと瓦礫が崩れ落ちてくるのを押さえていたのか
限界が近いと言わんばかりに手から血が零れ落ち始める。
むしろ、蓄積した反動が此処に来て「もう無理だ」と悲鳴を上げているのだろう。
「これくらい」と言葉を言うも、体中が痛みを教えてくる。
「な、何で血が出てくるのよ!?怪我なんてした覚えないじゃない!」
「お願いエイリィ、落ち着いて。私は、私は大丈夫だから」
「腕から血を流してる人間を前にして落ち着けっていうのがおかしいのよ!
誰かー!!誰か助けて!!!」
「エイリィ・・・叫んだら・・・っ」
「うるさい!!アンタが私を守ってるって言うんなら、私にだってやれることはあるんだから!
喉が枯れようが、潰れようが・・・アンタばっかりに良い格好なんてさせないわ!!」
「エイリィ」
そう言って、彼女は精一杯声を張り上げた。
しかし、段々と私自身の意識が朦朧としてくる。
初めて長い時間能力を発動させているし、瓦礫を押さえている腕からも今までにない出血量だ。
瓦礫の重みで押され始めているのか、腕の力が緩み始める。
「ぉ、重ぃ」
「ちょっ・・・!?あと少し頑張って・・・!!お願い!!誰か!!誰か気づいて!!」
「・・・ぉ、お、お願い・・・き、気づいて・・・」
『』
「バニー」
小さく、呟いた瞬間だった。
フッと身体にのしかかっていた重みが取り除かれ
力が能力の解除と共に一気に抜け、後ろにと倒れこむ。
「ちょっと、しっかりして!!」
私の身体を受け止めたのはエイリィ。
ぼんやりと、見える彼女の表情は今にも泣きそうだ。
そして、瓦礫が取り除かれた暗闇の先に見えたのは――――。
「バ、ニー」
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・・・ッ」
数日ぶりに巡り会えた、光−バニー−だった。
暗闇に差し込んだ光
(ようやく、私の光と巡り会えた)