「・・・・んぅ・・・・・」
目を開けたら白い天井が視界に映りこみ
鼻を擽る消毒液の匂いで覚醒へと誘いこんだ。
「此処は・・・」
「、目が覚めましたか?」
そしてぼんやりと映るバニーの姿。
次第にクリアになっていく彼の表情はとても心配そうな面持ちだった。
「バ、バニー?・・・此処、何処?」
「病院です。腕を怪我した君を運んだんです」
「そういえば・・・私」
段々と思い出す。
押し寄せてくる瓦礫からエイリィを守るために
NEXT能力を発動させたこと。
そして長時間の発動で、腕の出血が酷くもうダメと思った瞬間。
「バニーが、助けに来てくれたんだよね」
「君がトランスポーターで意識を失って、一時はどうなることかと思ったんですが。
良かった・・・目を覚まして」
バニーが安堵の声を上げ、私の手を握ってくれた。
そんな手を私は今ある力で握り返す。
意識を失ってどれくらいになるんだろうか、と思い
外を見ると朝日が昇っていた。
もしかして何日も私は眠っていたのだろうかと錯覚してしまう。
「私、どれくらい・・・寝てたの?」
「一日ちょっとですね。外に虎徹さん達が居ますから呼んできますね」
そう言ってバニーが私から手を離し廊下に続く扉を開け
顔を少し出してすぐさま戻ってくる。
ドアが開きタイガーさんやカリーナが中にと入ってきて
私の側に駆け寄ってきた。
「・・・ッ」
「目ぇ覚ましたんだな」
「カリーナ・・・タイガーさん」
「もう絶対あんな無茶なことしないでよ。
バーナビーも絶対にをマネージャーにって考えないでね。
今度そんな事言い出したら、アンタただじゃおかないんだから」
「今回の件で懲りてます。二度とに無茶なお願いをしたりしません」
「約束よ。も、いいわね」
「うん。ゴメンね、カリーナ」
彼女に謝ると「アンタの無事が一番なんだから」と彼女は言って
私の頭を優しく撫でてくれた。
「ちょっと・・・いい?」
するとドアのところから聞き覚えのある声が聞こえ
全員がそちらにと振り返る。私はというと声の主の登場に
寝かせていた体を起こそうとする。
「、まだ寝てなくては」
「大丈夫だよバニー。もう平気だから」
体を起こそうしたらバニーが慌てて支えにと
背に手を当ててくれた。
何とか少し痛む体を起こし、声の主を出迎えた。
「エイリィ」
「・・・・・・」
やって来たのはエイリィだった。
彼女の手には小さく包帯が巻かれており
私と目も合わせるのも嫌なのか、顔を逸したまま。
「アンタ、何しに来たのよ」
そんなエイリィの登場にカリーナが鋭い目つきで彼女を見る。
「アンタのせいでが酷い目に巻き込まれたんだから少しは反省してんの?」
「カ、カリーナ」
「言わせて。大体アンタの我儘で
どれだけの人が振り回されてるのか自覚したことある?」
「う、うるさいわね・・・反省してるから、来てんじゃない」
思いがけない言葉が飛んできて
私はおろか文句を言っていたカリーナまでもが黙り。
タイガーさんは「え?」という驚きの声まで上げる始末だった。
それくらいエイリィが私の元に「謝罪」をしに来た事に誰もが驚きが隠せない。
彼女の今までの行動を見ていたら、それすらも考え付かないことなのだから。
「無理、させてたわね・・・アンタに」
「エイリィ」
「あの後、色んな人に怒られたし・・・バーナビー様からも、アンタの事について聞いた。
能力・・・使いこなせないし、使いすぎると体に反動が来ちゃうって・・・」
「でも、それは私が付き合って行かなきゃいけない事だし」
「それでも・・・・・・私、我儘すぎた。今までのことも反省してる。
自分の身勝手な振る舞いでどれだけの人に迷惑をかけてるのか、考えてもいなかったから」
すると差し出された小さな花束。
「お見舞いって言ったら・・・・花束でしょ。ほら、受け取りなさい」
「あ、ありがとう」
小さな花束を受け取るとエイリィは恥ずかしいのか
そそくさと私のベッドの側から離れ、扉の方にと向かう。
「前、アンタのこと無能扱いしたけど・・・前言撤回する」
「え?」
「アンタなら私の専属マネージャーにしてもいいってこと!じゃあね」
そう言い残しエイリィは私の病室を後にして行った。
あまりにも早く去っていったものだから
私はおろか、カリーナやバニー、タイガーさんも呆気にとられていた。
「何だったのあの子」
「よ、よく分からないけど・・・お見舞いに来てくれたみたいだね。お花貰ったし」
「とりあえず、飾りましょうかお花。折角頂いたものですから」
「そ、そうだな」
私は貰った花をバニーにと渡し、花瓶にと移し替えてもらった。
彼がひと通りの作業を終えた所で
再び話が始まる。
「それにしてもどういう風の吹き回しかしら、エイリィ。この前まであんなに我儘だったのに」
「改心したと思ってもいいんじゃないですかね?」
「まぁいいじゃねぇか。を専属マネージャーにしてもいいって言ってたし
この際学校卒業したらエイリィに雇ってもらえよ」
「は?」
「はぁ?」
タイガーさんがおそらく冗談半分で言った言葉に
バニーとカリーナが思いっきり嫌そうな声を上げ、彼を見ていた。
そして始まるのが―――――。
「虎徹さん、何を考えていってるか知りませんけど
あんな人の側になんて付いていたら、の身が持たないことくらい分かるでしょ。
それに今回の件で彼女がどれ程危険な目に遭ったか分からないんですか?」
「大体、あんな我儘娘の専属マネージャーなんてそれこそが大変になるに決まってるじゃない。
今回は良い体験になっただろうけど、二度はないわよ。むしろ私が嫌。
あの子の専属になるっていうんだったら私は全力で反対するわよ」
タイガーさんへの猛抗議だった。
二人の抗議を聞いて責められるタイガーさんは
「じょ、冗談だって」と言うけれど、怒りが治まらないのか
バニーもカリーナもタイガーさんに噛み付いて離さないでいた。
そんな三人のやりとりを見て笑う私。
暫くの間だったけれど
貴重な体験を出来たことは
自分にとって良い経験となったのだから。
「(でも、流石に二度はないよね)」
でも流石に二度も同じ事をしようものなら
バニーやカリーナが黙ってはないだろう、と苦笑しながら思っていた。
私が目を覚ましたというので
タイガーさんとカリーナは一旦家にと戻った。
そして、病室に残ったのは私とバニー。
「君が元気になって良かった」
「ごめんねバニー。その、迷惑かけちゃって」
「何を言ってるんですか、それはこっちのセリフです。
君に無茶なお願いをしたばかりに危ない目に遭わせてしまったんですから」
そう言ってバニーが私の手に自分の手を重ねた。
エメラルドグリーンの瞳が私を見て視線をそらすことが出来ない。
「がなにより大事なんですよ」
「バニー」
「だから・・・・早く元気になって、一緒にうちに帰りましょう」
「うん!」
おでこを付け合い、笑いあった。
事件、後日談。
(貴重な体験をした後は体をゆっくりと休めて)