「(・・・腰が痛い)」
座っているのが非常にツライ日は今日ほど無いだろうと思った。
電車に乗っている時もそうだったが
学校に着いて椅子に座っているのですら、今の私にはツライ。
出来ることなら、このまま保健室にでも行って
今日一日腰を休めていたいという気分にまで陥りそうだった。
「(遅刻はしなかったけど、加減はしてよねバニー)」
痛む腰に手を当てながら、私は机の上に突っ伏し目を閉じた。
私の腰の痛みには原因がある。
居候させてもらっている部屋の主−バニー−からの愛情表現だった。
本日、彼は有給消化という名の元で
しばらくの間お休みを取ることになっている(本人の口ぶりからしておそらく会社命令だろう)。
それを先日聞かされた私は嬉しくてたまらなかった。
何故なら最近の彼は本当に目まぐるしい程に忙しかったのだ。
私としては彼が体を壊さないだろうか、と心配していた反面――――寂しかった。
自分と彼の距離は以前から天と地の差がある事は承知の上。
すれ違いなんて日常茶飯事状態。
バニーの姿を見るのは、いつも画面の向こうの姿だけ。
本物の姿を目にする機会なんて1週間に1回、下手をすれば無い事もあった。
普通の恋人らしいこと、なんて彼と私の関係には望めないこと。
それでも彼が戻ってくる場所に私が居れば、彼は必ず戻ってきてくれる。
毎日毎日、それだけを信じて過ごしていた。
『寂しい』という言葉も漏らさずに。
「(でも、バニー・・・分かってたんだよね、多分)」
閉じていた目を薄っすらと開ける。
グレーのシーツが覆われたベッドの上。
軋む音に、私の啼く声と彼の甘い囁き。
体中に受ける熱で逆上せてしまいそうになりながらも
彼の愛はとどまるところを知らずにいた。
それはまるで、私の寂しさを埋めてくれるかのように。
何度も何度も、名前を呼んで。
何度も何度も、愛を囁いて。
何度も何度も、熱を体中に注いで。
気付けば朝になってて、バニーは私に寄り添うように眠っていた。
いつの間に自分は眠っていたのだろうか、なんて覚えてもいない。
むしろ眠ったというより気絶したに等しいだろう。本当に何も覚えていない。
ただ、体に感じる痛みは先日の事を物語っており
自分は彼から酷く愛されたんだな、と肯定付けた。
この酷くも狂おしいまでの愛情表現は、多分私の寂しさを理解した上での行為。
私とバニーの関係を知っている人達からの言葉を借りれば『溺愛』というモノだ。
きっとそうなんだろうけれど、それだけの言葉だけでは片付けられない。
「(溺愛より上の言葉があるなら、多分それかも)」
そう考えただけで、何だか顔が火照り始める。
授業が始まる前までに何とかしなければ、と首を横に振り
体をゆっくりと机から起こした。
ふと、窓の外を見る。
青々とした空が広がり、快晴そのもの。
こんな日ほど出掛けるには申し分ないだろう。
バニーのことだから、部屋に篭もるか、もしくは車のメンテナンスにでも向かうだろう。
多分私が帰ってくるまで暇を持て余しているに違いない。
「休めばよかったかな。・・・・って、私何言ってんだか」
バニーの休みに浮かれ過ぎて、思わず学生失格な言葉を零してしまい
自己嫌悪に入ったと同時にチャイムが校内に鳴り響く。
とりあえず、痛む腰と格闘しながら私は勉学に勤しむ事にした。
正しい有給の使い方
(次の日の朝。私は学校で痛む腰と昨晩の熱に思い耽る)