「ほら、カバン持ってきたわよ」
「う、うん。ありがとうカリーナ」
結局、私は座っているのも辛すぎるため
1時間目の授業が終わった途端、保健室へと向かった。
その後の授業も受けることがままならず、保健室の先生から
担任の先生に私が保健室で休んでいる事を伝えてもらった。
そして下校時間になり、カリーナが私のカバンを持ってやって来た。
「アンタが珍しいわね。一日中保健室に篭もるとか」
「う、うん・・・ちょっと、ね」
私が曖昧に答えると、目の前の幼馴染は途端目つきを鋭くしてきた。
「え?な、何カリーナ・・・その目」
「まさか・・・あの兎ヤローに何かされたんじゃないでしょうね?」
「え?!ち、違うよ・・・っ、バニーは何も」
「嘘!そういう曖昧な答え方、明らかにアイツに何かされた証拠じゃない!!
何されたのよ、また何か変な言いがかりつけられたの?!」
「何もされてないし、言いがかりもされてないよ。落ち着いてってば」
私の曖昧な受け答えにカリーナは
また何かバニーが私を傷つけるような事をしたのではないかと思い
私に白状するよう食いついてきた。
しかし、私はそういったつもりで受け答えをしたわけではない。
あまりコレを口にすると余計彼女の逆鱗に触れそうで恐ろしいのだ。
主にとばっちりを受けるのは私ではなく、確実にバニーである。
「じゃあ何があったっていうのよ」
「そ、それは・・・。で、でも別に喧嘩してるとかそういうワケじゃないよ。
むしろ・・・何て言うか嬉しいっていうか」
「嬉しい?何がよ?」
「あ、あのね・・・バニー、有給消化の為に今日からお休みになったの。
それでしばらくずっと一緒に居れるって思ったら嬉しくて」
体が痛いのは、彼の愛情だと思えば痛くなかった。
むしろそれはそれで喜ばしい事なんだと、そんな事すら思ってしまった自分がいる。
消化が終われば、休みが終わってしまう。
また寂しい日が戻ってくるけれど、それまでの間は――――彼の側に居れる。
「今まで寂しかったけど・・・少しでも側に居る時間が出来たと思うと、嬉しいんだ。
むしろ寂しかったのが嘘みたいに吹っ飛んじゃった」
「そういう気持ちが吹っ飛んだのなら、じゃあなんて今日一日保健室に篭りっぱなしだったのよ」
「そ・・・それは」
結局は話を元に戻されて、私の脳内は慌てふためく。
どう上手く言えば、むしろなんと言い逃れをすればいいのだろうか。
すると突然カリーナの腕に嵌っているPDAが鳴り出した。
おそらくそれは事件発生−つまりヒーロー出動−のサインだった。
「あー、もうこんな時に。今度必ず理由教えなさいよ、いいわね!」
「う、うん。気をつけてね」
そう言ってカリーナは慌てて保健室を出ていき、事件発生場所へと向かうのだった。
私はというと保健室に残され―――大きなため息をひとつ。
「た・・・助かった」
危うく昨晩バニーに酷いまでに愛された事を吐かされかけた。
彼女には悪いが、私は本当に「助かった」と言葉を漏らす。
昨日のことを喋ってしまえば、確実に有給明けのバニーに
カリーナ特製の氷の礫(つぶて)が彼にお見舞いされていたのかもしれない。
とにかく、下校時刻になったのだから
いい加減学校のベッドに寝ていないで、帰ってからベッドに寝ればいい。
「あ、そっか。お家・・・バニー居るんだった」
一瞬マンションに戻って痛みを和らげるために
ベッドに潜ればいいと思ったけれど、今日からは一人ではなかった。
部屋の主−バニー−が居る。
「バニーが居るなら、早く帰って御飯作ってあげなきゃ」
痛くて眠るのなんて後回し。
むしろ、彼が部屋にいるというだけで私の心は躍った。
そのおかげなのか、今まで痛かった腰の痛みも何処かへ飛んでいってしまった。
正しい有給の使い方
(貴方を考えれば痛いのなんて何処吹く風)