目を開けたら、隣にの姿が無いことに気付き
思わず体を起こし辺りを探した。
「馬鹿だ。は今日学校じゃないか」
首を動かして数秒。
ふと、思い出す。は学生という身分で、今日は平日。
つまり彼女は学校に行ったという事になる。
自分のサイクルと一緒にしてしまった時点で恥ずかしい。
しかし今は誰も此処には居ないので、それはそれで助かっていた。
「大丈夫だろうか、」
隣を見て、言葉を零した。
いくら僕自身が休みになったとはいえ、初っ端から羽目を外し過ぎた。
昨晩は酷いまでにを求めてしまったのだ。
の嬌声に体の疼きは止まらず、獣のように、そして貪るように、を抱いた。
寂しかった彼女の気持ちを汲んだはずだったのに
完全に僕自身が暴走したように思えた。
多分今頃は腰を痛めて、座っているのも辛いだろう。
「休んでよかったんですよ」なんて学生の彼女に言ってしまえば
それこそ怒りを買うことになる。
勉学に身を置いてるからすれば言語道断な発言になるのだから。
「今日・・・何か買ってきてあげるべきだよな。いや、何か作ってあげるべきなのかな。
とにかく、に無理をさせたんだ。それはきっちり償わなきゃ」
に無理をさせた僕の罪滅ぼしは
戻ってくる彼女に何かしてあげるべきだ、という結論に至った。
ベッドから抜け出て、シャワーを浴び
いつもの格好で街へと出かける準備をする。
出掛けるついでにと思い、日頃から使っている車もメンテナンスに
出しに行こうと考えて先に車を預けに向かった。
「じゃあ鍵お預かりしますね」
「よろしくお願いします」
整備士に車のキーを預け、改めて車を見る。
「どれくらいかかりそうですか?」
「さぁ、詳しく見てみないと。でも、大分使い込んでおられますからね。1、2日はかかるでしょう。
もしこの後お車を使うようでしたらウチで代車お貸ししますけど?」
「いえ。他にも交通手段はありますから、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
車のメンテナンスも当日に終わる目処は立たないらしい。
そうと分かったら、代車を借りずとも他の交通機関を使えばマンションには戻れる。
おそらくこれはに無理をさせた罰だろう。
もしかするとコレは可愛いレベルで、この後にも踏んだり蹴ったりな展開が待っているのだとしたら
これはこれで甘んじて受けようと肯定付けた。
「とにかく終わり次第ご連絡差し上げますね」
「ありがとうございます。では」
整備士が明るく言うと、僕もそれに返事をしてその場を去ろうとした。
「あれ?もしかして、バーナビー?」
「え?・・・あ、はい」
途端声を掛けられ、動きが止まる。其処には一人のスーツを来た男。
見たところ顔見知りでもなければ、見覚えがある顔でもない。
「あ、私(わたくし)・・・こういう者でして」
すると男は内ポケットから名刺を取り出し僕に見せる。
其処に書かれていた文字は”シュテルンビルト タイムズ“。
「ああ、新聞記者の方ですか」
「はい。丁度、車をメンテナンスに出して取りに来たところだったんです。
もしかしてバーナビーさんはお車を?」
男は自分が新聞記者であることを僕に明かし
僕がそれを認めると、途端タメ口だった口調が記者独特の喋り口調に変わった。
「ええ。有給消化中で、久々に車をメンテナンスに出しに来たんです。
大分酷使してたせいか1、2日はかかると整備士の方に言われてしまって」
「お忙しそうですもんねバーナビーさん。交通手段もご自分のお車を使っていらっしゃるみたいですし。
あちらの赤いスポーツカーがそうですか?」
「はい」
「お車をバックに一枚撮らせて頂いてもよろしいでしょうか?今日の夕刊に載せようと思いまして」
「構いませんよ」
僕が撮影を了承すると、記者の男は嬉々として
持っていたデジカメでシャッターを切り「こんな感じで」と僕に写真を見せてきた。
悪い感じではない映り具合に僕もOKサインを出して
男は何度も僕に感謝の言葉を述べ、自分の車を受け取りに行った。
何もなく手持ち無沙汰になった僕はとにかくの事を考えながら
街をふらつき始める。
何を買ってあげるべきか。
何をしてあげるべきか。
街を見ればにプレゼントするめぼしいものが数限りなく
目に飛び込んでくる。
どれもにプレゼントしてあげたいのに
決められないし、定まらない。
こうなったら、学校の下校時間を狙ってを迎えに行った帰りに
一緒に選べばいい、と頭の中で良案が浮かんだ―――が。
「ダメだ。関係が一発でバレる」
学校に僕が姿を現した時点で大騒ぎになる。
ましてや、其処でを迎えに来たともなれば混乱どころか
僕と彼女の関係が公に晒されてしまう。
そう考えたら、の学校に向かうのは却下だった。
「どうしたらいいんだ」
無理をさせたに罪滅ぼしをと思って街を歩いているけれど
結局は何も思いつきもしなければ、買うことすらも躊躇う始末。
が近くにいればこんなに悩む事もないだろうに、なんて思うけれど
今現在その彼女は隣にも居ないし、部屋にだって居ない。
ましてや、腕を組んで街を歩くことすら叶わない。
「僕は今まで、こんな気持ちをに味合わせてたのか」
自分が休みになって気付いた。
何とも言い難いこの虚無感。
それは多分、今までが感じていた「寂しさ」ではないだろうか。
僕が何処かで笑顔を振りまく間。
はきっと毎日この虚無感に襲われていたに違いない。
その「寂しさ」すら押し殺して、気丈に振る舞う彼女の姿を思い浮かべると
多分コレがに無理をさせた一番の罰だと僕は感じだ。
正しい有給の使い方
(休みになって気付いた、君の寂しさ)