朝、目が覚めた。
昨日重かった体が嘘のようで、今日は羽のように軽い。
隣を見るとバニーはまだ眠っていた。
あまり見ることの出来ない彼の寝顔に笑みを浮かべ
起こさぬようにそっとベッドから出て、音を立てないようにクローゼットを開け
制服にと着替える。
「・・・んっ。あ・・・もう、こんな時間、ですか」
「あ、ゴメンバニー。起こしちゃった?」
肌と布の擦れる音や、小さな物音にバニーが目を覚ました。
彼は寝ていたベッドから体半分を起こし眼鏡を掛けこちらを見る。
目を合わせるとまだ少し虚ろとしている。
私はある程度制服を着て、ベッドにと向かう。
「まだ寝てていいよ」
「でもを見送らなきゃ」
「まだ眠そうな目で言っても説得力ないから。見送りもしないでいいって」
頬を沿って柔らかな横髪を撫でると
彼の小さなため息が零れる声が聞こえ、掛けていた眼鏡を外し
再びベッドに横たわった。
まだ眠たそう、と思った私は
普段見ることの出来ないバニーの姿に小さく笑った。
すると、伸びてきた彼の手。
握るの?と思い、その伸びてきた手を握り返した――――瞬間。
「きゃっ!?」
物凄い勢いで引っ張られ、私の体はベッドに逆戻り。
そして、バニーの腕の中にスッポリと収まっていた。
「バ、バニー!?わ、私学校が・・・っ」
「の体は、服に包まれてても、温かいんですね。肌の柔らかさも服越しだろうが・・・分かります」
言っている事がよく理解できないが完全にバニーは”寝ぼけ“ている。
彼の体から離れようにも、私の体を完全ホールド状態にして
すり抜ける隙もなければ離れる動作すら出来ない。
しかし、学校を休むわけにはいかない私は何としてでも
このホールド状態から解放されなければならない。
「バニー・・・バニー、ちょっとでいいから起きて。学校遅刻しちゃうよ」
「僕が後で、学校にが遅れると連絡入れますから・・・もうちょっと、このまま」
後で連絡入れる、なんて完全に起きた状態で
今言ったことを覚えて行動できるかなんて、ゼロに近いだろう。
「だ、ダメだってば。バニー、お願いだから」
「あと、ちょっと」
現実世界と夢世界の半分の場所に居るであろうバニーに
今の私の声は届いているのだろうか、と思うがおそらく届いていない。
あとちょっと、なんて言っているが時間は時を刻んでいる。
私の遅刻も刻一刻と迫ってきている。
何としてでもこの状態から抜けださなければ、と思い
何度もバニーに声を掛け続ける。
「バニー・・・バニー、ちょっとでいいから起きて。ねぇお願いだから」
懸命に声をかけ続けていたら、彼の目が薄っすらと開いた。
起きた!と思った瞬間――――唇を唇で塞がれた。
舌を絡められ、唾液を混ぜ合わせ
朝っぱらからディープな口づけに心臓が止まりそうになる。
ようやく唇が離れ、満足したかと思いきや
頭を胸に押し付けられた。
眼前には引き締まった胸板と
その視界をチラつくゴールドのプレートネックレス。
そして極めつけは体を抱きしめる力が少し強まった事。
嫌な予感が過る。
「バ、バニー・・・?」
「少し、黙っててください。嗚呼、本当には抱き心地が良い。
こうやって抱きしめているだけで安心してしまいます。もっと僕の側に」
抱きしめられ、さらに其処に力が加わる。
つまり、コレはホールド状態離脱不可能。
剥ごうにも女の子の私の力ではどうする事もできない。
時間は段々と時を刻み、学校のチャイムが鳴る時間へと差し迫っていく。
「バ、バニー・・・ッ、起き」
もう何度と彼に「起きて」と言葉を投げかけても、起きる気配を見せるどころか
逆効果を極めている。
これ以上、何か言葉を投げかけてしまえば状況は更に悪化していくに違いない。
言われたとおり黙ろう、と心の中で言い聞かせ
何処かで隙を見て、腕からすり抜けてしまおうと思い口を閉ざした。
口を閉ざしてやって来た朝の静寂。
無音の部屋に響いてくる音はなかった。
ただ一つ、私の耳にだけ聞こえてくるバニーの心臓の音以外は。
優しく鼓動する心臓の音と、抱かれる腕の温もりに
開いていた目が徐々に閉じかけていく。不思議なことに睡魔がやって来た。
寝てはいけない、寝てはいけない、と心で訴えるも
脳は正直に睡魔を体中に蔓延らせていく。
瞼が重く閉じていく。
「起きたら・・・言い訳・・・一緒に、考えてよね・・・バカ兎」
そんな言葉を吐き捨てて、彼に伝染(うつ)された睡魔に身も心も預け
彼と同じ夢の世界へと旅立っていったのだった。
次に起きたのが鳴り続ける部屋のインターホンの音。
鳴らした人物はアニエスさん。
そして、私とバニーは揃って彼女からお説教されたのは言うまでもなかった。
正しい有給の使い方
(結局その日は学校をお休みしてしまった、とさ)