最近バニーの様子がおかしかった。
「は?バーナビーが浮気してないかって?」
「う、うん・・・そうなの」
様子がおかしいことを私は思いきって
カリーナやネイサン、パオリンの居る前で話してみた。
「お嬢溺愛のハンサムが浮気?有り得ないわね」
「えー考えられないよ。だってバーナビー、さんの事大好きでしょ?」
「そうよ。あれだけ溺愛しときながら浮気っていうのがまず考えにくい」
「ぅ、ぅん・・・そ、そうなんだけど」
関係を知っている人達からすれば、バニーの私への愛情というものは
誰もが呆れ返るほど。そうまさに「溺愛」という言葉が似合いすぎるモノだった。
しかし、私は疑っているのだ・・・此処最近の彼の行動に。
「なんて言うか、こそこそしてるっていうか」
「こそこそ?」
「二部に降りて、時間が出来たとは思うんだけど・・・それでも何か、帰りが遅いし」
「そうよねぇ。一部と比べて時間の縛りは無いからそこで帰りが遅いのは怪しいわね」
ネイサンの言葉に誰もが頷いた。
「それにね。ご飯も食べて帰ってくる事が多くなっちゃって」
「タイガーと飲んで帰って来てるんじゃないの?あの2人、コンビなんだし
2人で飲むことくらいあるんじゃない?」
「タイガーさんにも聞いたんだけど、そういうのは無いって言ってた。
むしろ、タイガーさんは『バニーが俺と酒を一緒に飲むのは滅多にない』って言ってたよ」
「うわ・・・何か、バーナビー怪しい空気出過ぎてる」
考えられる可能性を自分で調べたら、結果残ったのは
「バニーが浮気をしているのではないか?」というモノだけが残った。
実際彼を問い詰めた所で、上手くかわされはぐらかされるのがオチ。
あまり考えたくない事だったけれど、もうそれしか此処最近の私は考えられなくなっていた。
「ねぇ、もういっそバーナビーに聞いたら?」
「え?あ・・・で、でも・・・っ」
カリーナの言葉に、私は躊躇う。
躊躇う私にカリーナはため息を零し、椅子に深く座った。
「関係を悪化させたくないって気持ちは分かるけど、このままズルズルすると余計アンタが不安になるだけよ?」
「そうよお嬢。此処はビシッ!とハンサムを問いただすべきところよ!本命はお嬢なんだから」
「僕、恋愛とかよく分からないけど、好きな人が側にいるのに見てない所でこそこそされるのは嫌だな」
「みんな」
やっぱり聞くべきなんだ、と皆が後押しをしてくる。
確かにカリーナの言うとおり関係を悪化させたくない。
だけど、このままの生活を続けてしまえば私は苦しくてたまらないのも事実。
今の段階でも、毎日一緒に過ごすのが不安だ。
彼の側に「私の知らない誰かがいる」というそれだけで。
「頑張って、聞いてみる」
「マジで浮気してたら私達に言いなさい」
「そうよ!乙女の味方よ、アタシ達は。ハンサムがもし浮気してたら
アタシが丸焦げにしてあげるわ」
「うん!僕もさんの味方だからね!」
「みんな・・・ありがとう」
嬉しくて泣きたい気持ちを堪えて、私は彼と住んでいるマンションへと戻ったのだった。
「ただいま」
「おかえりバニー」
夜。いつものように彼が帰ってきた。
バニーは私の顔を見るなり、自分の顔を綻ばせる。
「、ただいま」
「さっき『ただいま』って言ったじゃないバニー」
「の顔を見たらまた言いたくなったので。君に毎日出迎えられるとやっぱり嬉しくて」
「も、もぅ・・・相変わらず恥ずかしいなぁ」
嬉しそうな顔で恥ずかしい言葉を言われるといつものことだが
恥ずかしい上に、照れてしまう。
一緒に暮らして大分経つけれど、彼の言葉は正直心臓に悪い。
「ご飯作ったから今から準備」
「あ、いいえ。今日はもう済ませてきました」
「え?」
彼のために作っておいた夕食を準備しようと思い
キッチンに走ろうとしたら、彼の言葉に私の動きは一瞬にして止まった。
途端、酷く胸が重く鼓動し、締め付けられるように痛みを伴ってくる。
ドクンドクンと重く鳴って、ギシギシと締め付けられる。
頭の中で思考が悪い方へと進んでいく。
また、私の知らない人と食事してきたの?
私の見えない所で、貴方は誰かと会っているの?
私の、私の知らない所で――――――。
「せっかく準備してくれたのに、すいません・・・・・・・・・」
貴方は愛を囁いて、泣いている私を気に留めようとしないの?
「・・・、どうしたんですか?何故、何故泣いているんですか?」
「ご、ゴメン・・・何か、私ヘンだね。急に泣いちゃうとか」
私が突然涙を流すと、彼は慌てて側へと駆け寄る。
言わなきゃいけない、言わなきゃいけないと分かっているのに
いざ「私の知らない人と会ってるの?」なんて言ってしまえば彼の機嫌を損ねてしまい
挙句本当に関係の悪化は避けられないと考えてしまった。
つまり、私は現状の追求より関係の方を重視してしまった。
言い出せない自分に腹立たしく
ズルズルと今の生活を続ける事に身体が耐え切れないと悲鳴を上げたのか。
自分に対する怒りと、これからの生活に対する不安に涙が零れて止まらなかった。
だけど、彼に気持ちを悟られたくない私は
涙を拭いながら、必死で笑顔を取り繕う。
「ゴメン・・・ゴメンね、バニー・・・・急に泣き出しちゃって。
私、どうしちゃったんだろ・・・何で、泣いちゃうのかな・・・バニー、仕事忙しくて
ご飯外で済ませちゃう日もあるよね・・・ゴメン、なんか、困らせるような事して・・・だから、あの」
混乱する頭の中を必死で言葉を探していたら
突然彼に抱きしめられた。
彼の腕から感じるぬくもりは温かく、力は強かった。
「もし」
「ぇ?」
「もし、僕の振る舞いで君を泣かせているような事があるのならちゃんと言ってください。
君は前からそうやって溜め込むクセがあるんですから」
「バニー」
「僕に悪いと思わず、ちゃんと言ってください。が考え込みすぎて
泣いている姿を見ると僕は辛くてたまりません。何かあるのなら、はっきり言ってください。
君が嫌というのなら、直します。君がやめてと言うのなら、やめます。
だからお願いです・・・泣かないでください」
そんな言葉を投げかけられてしまえば、余計言いづらいし、涙が溢れて止まらない。
彼はそんな私の心情を知る由もなくただ強く抱きしめ、「泣かないでください」と
優しい言葉を投げかけ続けるのだった。
そして、連れて行かれた間接照明が灯された寝室。
灰色のシーツの波の中。
何度も確かめるように、彼は私の身体に愛を注ぎ
「僕が愛しているのは、君だけですから」と荒い吐息を交えながら
狂ったように囁いていた。
だけど、その言葉ですら今の私には彼を信用する要素にはならなかった。
私は胸を締め付ける痛みと、重く鳴り響く鼓動を
一体いつになったら止められるのだろうか?
締め付ける痛みと鳴り響く鼓動
(それだけが毎日怖くてたまらない)