いつまでも霧が晴れないままではやっぱり「駄目だ」と悟った。
現実、私が「浮気してる?」とバニーに問い詰めた所で
彼は上手く躱(かわ)してくるに決まっている。
だったら、もう自分で証拠を掴むしか無い。
証拠さえ掴んで、彼に突きつければ文句はないだろうし
ましてや言い逃れなんて出来ないだろう。
朝。
一緒に食事をしながら彼を見る。
「バニー・・・今日も、仕事?」
「え?・・・ええ。その前に少し寄る所があるので、其処に行ってから仕事に向かいます」
「そう。気をつけてね」
「ありがとうございます。ご馳走様でした」
食事を終えた彼は立ち上がり、自分の食器を片付けようとする。
「あー・・・いいよ、私が片付けるから!」
「え?しかし」
「いいの。ホラ、行く所あるんでしょ?早く行かなきゃ」
「そうですか?なら、お言葉に甘えて」
そう言うとバニーは私の頬に触れ、軽くキスをし
笑顔で「行ってきます」と言い残し部屋を去って行った。
彼が完全に行ったことを確認し、私は急いで彼の食器と自分の食器を
キッチンへと運び慌てて外に出る準備をする。
「よし!」
準備が整い、気合を入れる。
胸の中は不安でいっぱいだけれど、このままの状態で生活していくのは
私にとっても苦痛でならない。
だったらもう自分で証拠を掴んで、彼とちゃんと話し合うべきなんだ。
「うん。尾行開始」
悪いと思っていながらも、私の知らない所でこそこそするバニーに比べたら
私の尾行なんて可愛いものだろう、と思っていた。
見失ってはいけないと我に返り、私は慌てて部屋を出てマンションを出る。
マンションを出ると、赤いスポーツカーが前を颯爽と走り抜けていった。
ナンバーを見ると確実にバニーの車。
バス停までは遠くて、下手を踏めば途中で降りる羽目になる。
ふと、道路を見ると背後からやってくる一台のタクシー。
私は手を上げて止まるよう意思表示をすると、タクシーは止まってくれた。
急いで乗り込んで「前の赤いスポーツカーを追ってください」と言うと運転手さんは快く引き受けてくれた。
しばらくバニーの車は街の中を走り、とあるおもちゃ屋さんにと止まる。
運転手さんに「あれ?アレってバーナビーじゃない?お嬢さんもしかして追っかけ?」と聞かれたから
軽く「ええ、まぁ」と答えた。
そこで降りるべきか、と考えたが彼が色んな箱を抱えて店の中から出てきた。
トランクにそれらを詰め込み再び車は何処かへと走る。
彼の車の後をつけながら考えた。
もしかしたら浮気相手の人には子供が居て、その子供にあげるもの?
やっぱり彼は浮気をしている?という嫌な予感しか頭の中をよぎり始めていた。
「大分来たね―」
「え?・・・あれ?郊外ですか、此処?」
「そうそう。バーナビーの車追ってきたら此処まで来ちゃったけど」
考え込んでいたが、運転手さんの声で我に返り辺りを見渡すと
其処がいつの間にか街中ではなく、郊外である事に気がついた。
目の前にはバニーの赤い車だけ。
其処を走っているのは、彼の車と私が乗っているタクシーだけ。
すると、彼の車がとある家の前で完全停車して、トランクから先ほど買った
おもちゃの山を出して、中へと入っていく。
其処から少し離れた場所にタクシーも停車してもらう。
「(あの家に浮気相手と、子供が)」
「あれ?此処って、確か――――」
「え?」
1人で戦闘態勢に入ろうとしていたら、運転手さんの言葉に耳を疑いつつ
乗せてもらっていたお代を払って私も外へと出た。
門を通り、中へと入る。
手入れされた草木や、水の通った噴水。
一個人の邸宅、と言ってもおかしくないけれど其処にある建物が明らかに邸宅のものではない。
さっきも運転手さんが言っていたとおりの場所かもしれない。
此処はもしかして――――――。
「お姉ちゃん誰?」
「え?あ・・・っ」
辺りを見渡し振り返ると突然、2〜3人の子供に見つめられていた。
「こんにちは」と返そうとした途端――――――。
「知らない人だ」
「シスター!知らない人が来てるー!」
「怪しい人いるー!!バーナビー助けてー!!」
「あっ、ち、違うの。私はそうじゃなくて・・・っ!?」
「騒がしいですよ、何事ですか?!」
「怪しい人って・・・・・・・・・!?何で君が此処に!?」
「あ・・・あはははは・・・ど、どうも」
子どもたちを宥めようとしたが、それも叶わず
建物の中からシスターとバニーが現れた。
ホント、恥ずかしい上この上ない。
彼を最初から疑っていた自分が本当に馬鹿らしく思えてしまう。
なぜなら此処は――――――。
『あれ?此処って、確か・・・孤児院じゃなかったかな?さてはバーナビー、此処に寄付とかしてるんじゃないの?
やっぱりヒーローのやることは一味も二味も違うねぇ〜』
身寄りのない子どもたちが暮らす場所−孤児院−だったのだ。
1人で空回った挙句、彼を疑い尾行した自分が本当に情けなく反省して
謝っても足りないくらいだった。
穴があったら入りたい!
(彼を疑っていた自分が本当に情けない)