『すいません、虎徹さん』
「いいってことよ。一人くらいおぶってこれるって」
『一応僕、家に向かってるんでそれまで』
「分かったよ。じゃあお前ん家でな」
『はい。では』
バニーとの通話を切断し、携帯をポケットの中に入れ
片手で支えていた力に手助けするように両手で支えた・・・そう、背中におぶっているを。
何で俺がコイツをおぶっているのかというと
バニーと一緒に帰ると言って、トレーニングルームのロビーでは待っていた。
だが、どうやらバニーはそれを知らず家に車を走らせていた途中だった。
バニーを待っている間、はどうやら眠ってしまい
俺はをおぶってバニーの家に向かった。
「到着する頃にはバニーも部屋に居るだろ」
そう、暗くなった町で俺は呟いた。
しかし、こうやっておぶってやるのは何年ぶりだろうか?
楓にも昔してやったような気がする。
まぁをおぶってやるのは初めてだよな。
「助けたときはお姫様抱っこだったもんな・・・は」
コイツをあの、火の中から助けたときはおんぶじゃなくて、抱っこ。
小さく部屋の真ん中・・・火に囲まれたソファーの上に
膝を立てて座り込んで動かなかったコイツを俺は助けた。
あの時は、大分軽かったが・・・今は、それなりに普通。
「(重いとか言ったら、女は怖ぇからな)」
別に重くはねぇけどさ。
むしろ、が重いとかバニーに告げたら
「何言ってるんですか?が重いわけないでしょう。羽毛ふとん並みに軽いですよ」とか
笑いながら俺に言うんだろうなぁ・・・アイツ。
あ、ちょっとなんかそれ言われると俺も腹立つわ。
おじさんでも力あるんだよ、若造め。
「って、何バニーに対して敵対心向けてんだか」
敵対心?
え?敵対心なのこれ?
どういうことなのコレ?
「・・・ぅ・・・ぁれ?」
「お?起きるか?」
「ぇ?・・・タイガー、さん?」
あれやこれや考えていると、後ろにいるヤツがどうやら目を覚ましたらしい。
「ご乗車ありがとうございます、タイガータクシーでーす」
「え!?ちょっ・・・タ、タイガーさん・・・な、何で!?え?ていうか、私なんでおんぶっ!?」
「バニーのヤツ、あっちに寄らずそのまま帰ってんだと。んで、ロビーで寝てたお前を
おじさんが今家に送り届けてる最中ってわけ」
「す、すいませんタイガーさん」
俺がおんぶしているので完全に目を覚ました。
ワケを話すと背中に乗っている彼女は申し訳なさそうに謝ってきた。
「謝んなって。待ちくたびれて寝ちまうのは誰にでもあるさ」
「すいません。・・・ていうか、大丈夫ですか?重くないですか私?」
「おじさんの力舐めんなよ若者。おめぇ一人背負うくらいどーってことねぇさ」
「タイガーさん」
そう言うとは更に体を密着させてきた。
なんだろうな・・・何か、すっげぇドキドキしてんだよな。
楓おぶってやったときはこんなのなかったし・・・何なんだろうな?
「でもタイガーさん、タイガータクシーって・・・そのまま・・・フフフ」
「おいおい、笑うなよ。せっかく頑張って考えたんだぞネーミング」
「もう少し捻りましょうよ」
後ろでが笑う。
つられて俺も笑った。
それから他愛も無い話をしてたら・・・・あっという間にバニーのマンションにたどり着いた。
入り口の前でうろうろと動き回っている影があった。
あれは――――。
「おい、バニー!」
「虎徹さん・・・!」
呼ぶと、バニーだった。
先に着いたのはやっぱりアイツだったか、なんて。
おぶって歩いて帰ってる俺のほうが遅くて当たり前だよな。
バニーを呼ぶと、ヤツは少し安心した表情で俺たちのところにやってくる。
「そら、お迎えきたぞ」
「えー・・・タイガーさんお部屋までおぶってくださいよ」
お迎え(バニー)がやってくるのを後ろのに告げると
何やら駄々をこね始めた。むしろ駄々こねじゃなく、お願いらしいモノ。
さすがに目の前からバニーが来てるんだし、俺はもうお役ごめんだ。
「後はバニーにやってもらえ」
「バニーはおんぶよりも抱っこ派です」
「なんだそりゃ?」
「バニー、抱っこばっかりでおんぶしてくれないんです。だからタイガーさん、部屋まで」
「、いつまで虎徹さんの背中に乗ってるつもりですか?」
すると、バニーがいつまでも俺の背中に背負われているに言う。
ていうか、何かバニーのヤツ怒ってないか?
「だって〜」
「虎徹さんも歳なんですから、早く降りてください」
「おい。今俺に対して失礼なこと言っただろバニー」
「特には」
「コラ。・・・ったく、・・・降ろすぞ」
「はーい」
俺がそう言うとは渋々降りた。
が降りたのが分かると、今度はバニーがを抱きかかえた。
あ、本当にコイツ抱っこ派だわ。
「ちょっ!?バ、バニー!?」
「虎徹さん、を届けてくれてありがとうございました」
「いや、別にいいけどさ」
目の前のバニーはニコニコと笑みを浮かべているが
何かやっぱりコイツ・・・怒ってる。
ったく、そんなに気に食わなかったのかよおんぶが。
いや、むしろ俺がを連れて帰ってきたのがよくなかったのか?
「じゃあ行きますよ」
「もう。・・・タイガーさん、おやすみなさい」
「おう、おやすみ」
は嬉しそうに手を振って、俺に「おやすみ」と声を残し
バニーと共にマンションの中へと行った。
ふと、振っている手を見た。
握るとまだ、なんとなくを背負ったぬくもりが残っていた。
儚く膝を抱えていた頃とは、また違う・・・あたたかい、ぬくもり。
楓とは違う・・・娘みたいで、でも娘じゃない。
そう、あの子は・・・女の子。
誰もが、恋をしてしまう・・・女の子。
あぁ、そうか・・・道理で、バニーに対して敵対心があったのか。
思った自分に思わず苦笑い。
帽子を深く被って、暗い空に言葉を投げやった。
「おやすみ、可愛い人」
明日もまた、俺の大好きなお前の笑顔に逢えるのを楽しみにしてるぜ。
おやすみ、可愛い人
(でも、犯罪だけは起こさない程度にしねぇとな)