出来るなら、心と体が二つに分かれて
君の元にいけたらいいのに・・・・・なんて、時々考えるようになった。
ジェイクの事件以降。
僕らヒーローの活躍はうなぎのぼり。
2部リーグなる軽犯罪を取り扱うのまで現れたほど。
しかし、重罪だろうが軽犯罪だろうが、犯罪は犯罪。
どんなものも、やりこなしていかなければ。
それに、虎徹さんとパートナーを組んでいる以上、あの人が刑罰の重さを知っているわけがない。
『町を守る、大切な人たちを守る』それがあの人の正義。
だから僕もパートナーである以上は、共に歩んでいかなければならない茨道。
でも、僕は今問われている。
大切な人を放っておいてまで、進まなければいけない道なのかと。
「バニー・・・どうした?」
「え?・・・いいえ、何でもないです」
ボーっとしていると、虎徹さんに声を掛けられて我に返った。
「何だ?考え事か?」
「いいえ、大丈夫です」
「んーな重苦しいツラして、何でもないです、大丈夫ですって返す時点でおかしいに決まってんだろ。
お前完全に物思いに耽ってたぞ」
虎徹さんに指摘され、心臓が跳ねた。
確かに、多分悩んでいること自体・・・大丈夫でも何でもないような気がしている。
「おめぇさぁ・・・最近なんかあったか?」
「いえ、特には」
「てか絶対あっただろ?むしろ、丸分かりだって」
「何でを引き離したんだよ、お前」
「そ・・・それは・・・っ」
痛い所を突かれた。
そう、僕は今と離れて生活している。
原因は僕にあった。
ヒーローの活動が活発化している中、帰りがどうしても遅くなる。
だから徐々にとの会話も、接触も少なくなった。顔すら・・・見た記憶があの頃からなくなった。
このままでは彼女に寂しい思いをさせてしまっているのではないだろうか?と
考えた僕は、と一番仲がよく、そして学校も同じという
ブルーローズさんに彼女を預けた。
最初のうちは、時間に余裕があったら顔を見せに行こうと考えた。
だが、引き離したのが・・・誤算だった。
時間に余裕が出来たら行くつもりだったが、それどころか行く余裕すらなくなって。
引き離して・・・余計、仕事に毎日追われるようになっていた。
の顔をちゃんと見たのが、ブルーローズさんの家に預けるときだった。
寂しい表情をしながらも必死で笑って僕に微笑みかけた。
「あまり無理はしないでね」と言われ、「余裕が出来たら迎えに来ますから」と
僕のそのときは彼女を不安にさせまいと返した。
だが、それっきりだった。
迎えに行くどころか、僕は・・・を裏切ってしまった。
きっとあの子は毎日まいにち、寂しくて膝を抱え泣いているのかもしれないのに
僕はどうして・・・どうして・・・・・・。
「別にが嫌いになったからという理由じゃないですから」
「じゃあなんで自分の部屋から追い出した?」
「追い出したとかじゃなくて、僕はただ・・・彼女を不安にさせたくなかっただけなんです」
「バニー」
「僕の居ない部屋の中、はずっと僕の帰りを待ってくれている。それだけで嬉しくて、幸せで」
あの事件が終わって、心が晴れやかだった。
晴れやかな空に、という太陽のような子が僕の前に現れた。
『大切にしたい、好きでいたい、愛してあげたい』
自分よりも幾分か年下の彼女にそんな想いばかりを抱き続け
触れるだけで・・・痛い思いもしたりするが、それでも幸せだった。
を側に感じれる、ただ、それだけで幸せで嬉しかった。
ただ、今は・・・あの子を側に感じれないことで、どこか自分に戸惑い、不安になっていた。
「そう言うくらいなら、迎えにいってやれよ」
「・・・・・・・」
「バニー」
「でも、どんな顔をしてあの子に逢ったらいいのか・・・分からないんです」
「分からないって・・・お前なぁ」
僕の答えに虎徹さんは困り果てた声を出した。
「できるなら、僕の心と体が二つに分かれて・・・の元へ行けたらいいんですけどね」
なんて、苦笑いを含んだ言葉で言うと
虎徹さんは更に困って、頭を掻いた。
と離れて、そんなことを思う繰り返し。
思いを繰り返すだけで、実際は悲しくて虚しい現実なんだと・・・僕は重いため息を零した。
部屋に戻ると、相変わらず真っ暗。
あの頃は・・・が居た頃は、点いていた電気も
離れて生活していると、真っ暗で月明かりだけが部屋を明るくしていた。
電気もつける気力すらない僕は、その場に転がった。
「疲れた」
その一言だけが部屋に零れ落ちた。
だからと言って、誰かが返してくれるわけも無いのに。
もうこのまま眠ってしまおうか、と考えて僕はポケットに仕舞っていた携帯を取り出した。
ふと気づいた・・・着信が来ていたのだ。
誰だろう?と思い、開けてみると――――非通知。
しかも非通知着信で、留守電が入っていた。
僕はそれを耳に当てた。
『メッセージが1件です―――ピーッ』
『もしもし、バニー。・・・私、』
留守電から聞こえてきた声に僕は転ばせていた体が無条件に起き上がった。
イタズラ電話じゃない・・・聞き慣れた声、の声だった。
僕は全神経を耳に集中させた。
虎徹さんがよく僕を呼ぶときに使う「バニー」・・・そう、兎のように。
『電話、掛けたんだけど出ないから仕事中だったよね?
ごめんね。あ、別に何かあったとか、そんなんじゃないんだ。ただ・・・ただ・・・―――――』
少し間があって・・・息を飲み込んだ音がして・・・・・・。
『声、聞きたくなっちゃっただけだから。気にしないで』
「・・・・・・」
届けられたメッセージの弾丸が僕に届いて、見事に心臓に突き刺さった。
目に浮かんでくる・・・が、ブルーローズさんの家の電話を使って
僕にこっそりとメッセージを残している姿。
『あんまり連絡ないけど、テレビ見てて元気でやってるみたいだし。
まぁバニーは几帳面だから大丈夫だよね?時間・・・あったら、声が聞きたいから・・・電話してね。
携帯この前水に落としちゃって、今手元にないんだ。だからカリーナのお家の電話使ってるんだ、えへへ』
笑った声が切なく耳に響いた。
そうか。
道理で、携帯からではなくブルーローズさんのお宅の電話だったわけか。
今度に良い携帯を買ってあげよう。
おっちょこちょいな君に、防水付きの携帯電話を。
相変わらずのに、僕は笑みを浮かべた。
だけどそれはすぐさま消えた。
精一杯・・・笑っている、笑っているフリをしているの声。
その声を耳に入れただけで・・・胸が締め付けられる程、痛かった。
『あんまり長くなるといけないから切るね』
「待ってください・・・まだ、まだ・・・っ」
終わらないでください、切らないでください。
留守電なのに、本当に彼女と会話をしているように思え僕は声を上げた。
『おやすみなさい、バーナビー・・・大好きなヒーローで私のたった一人の王子様』
「・・・、待ってください!!・・・まだっ!」
『――ピーッ・・・メッセージを終了します』
最後の一言を残し・・・留守電が終わった。
滅多にが僕の名前を呼んだりしない。
いつも彼女は虎徹さんと同じように「バニー」と呼ぶ。
だけど、ごく稀に・・・彼女は僕の名前をちゃんと呼んでくれる。
最後のは、不意打ちで反則だ。
僕は全身の力が抜け落ち、携帯を床に落とした。
床に落ちた携帯をしばし見つめ
すぐさま取り、胸に抱きしめた・・・壊れそうなほど、強くつよく。
「・・・、僕は君に・・・逢いたい・・・」
できるなら、心と体を2つに分けて君の元へ。
そうすればきっと・・・離れて過ごしている気持ちも半減するだろうか?
君が居ない世界ではきっと、明日も明後日も・・・僕は泣き続けるのだろうか?
あぁ、きっとが居てくれたら・・・こんな思いしなくてすんだのに。
どうして僕は間違ってしまったのだろう。
何処で僕は間違ってしまったのだろう。
きっと、引き離した時点で間違っていたのかもしれない。
なんて今更後悔しても時既に遅し。
そう思うだけで・・・現実は悲し虚しの離れ離れな生活をしていた。
きみのもとへ
(心と体が二つに分かれて君の元へ行けばいいのに)