「!」
マンションに帰ってくるなり、僕は玄関を開けてすぐ声を出し
彼女の名前を呼んだ。
だが、返事がこない。
先に帰ってきてるはずなのに、どうして?
「・・・、帰ってきてるんですよね」
足をゆっくりとリビングに向かわせる。
そして目的の場所について、扉を開けるも・・・・・・・。
「」
大きな窓から暗い部屋を照らして・・・何も、誰も居ない部屋だけがあった。
もちろん人の気配すら感じれない。
ブルーローズさんが僕を騙すとは到底思えない。
でも、この状況は一体どういうことなのだろうか?
頭を悩ませていると、ポケットに入れていた携帯が鳴った。
まさか、と思い僕は急いで電話に出た。
「もしもし、一体何処に」
『悪ぃ、じゃねぇんだ』
「虎徹さん」
と思ったが、電話の向こうから聞こえてきた声は虎徹さんだった。
一瞬焦って高鳴った心臓が徐々に落ち着いていく。
此処でこの人に当たるわけにはいかない。
もしかしたら何か緊急事態が起こったに違いないと思い僕は冷静を装う。
「何か、ありましたか?」
『まぁな。落ち着いてよく聞けよ・・・実はな』
「えっ?」
虎徹さんの話を聞いた途端、僕は急いで部屋を出て車へと戻り
発進させ、ある場所へと急いで向かった。
ハンドルを握る手が強くなり、アクセルを踏んでスピードを上げた。
「・・・ッ」
『実はな、アイツお前の家に向かってた途中だったんだが・・・俺たちの居るところのほうが早いと思って
こっちに向かってたはいいんだが・・・どうやら、事故に遭ったらしくてな。工事の鉄骨が落下してきたんだと。
まぁ幸いの命には別状なかったんだが・・・』
「どうしたんですか?」
『のヤツ、能力の制御の仕方も分かんねぇのに
落ちてくる鉄骨をテレキネシスの能力で受け止めて腕がな』
「まさか・・・折れたとか?!」
『其処まではいってねぇよ。ただ、落下する鉄骨を支えるだけの力使っちまったらしくてな。
ほら、アイツ・・・力加減で自分の体にダメージ来るだろ?それで力使いすぎて右腕の出血が酷ぇんだわ。
俺達のトコ来た時には腕から血がダラダラ出てて、俺らも大慌てだったよ』
「じゃあ今、病院ですか?」
『あぁ、会社近くの病院に居る。場所分かるよな?』
「もちろんです。すぐ行きます」
虎徹さんの話を聞いて、僕は今病院に向かっていた。
まさか彼女がそんな目に遭っていたなんて。
命に別状は無いとはいえ、腕に大怪我・・・どうして僕は待っていられなかったんだろう。
いや違う、僕が早くを迎えに行ってさえすればこんなことには。
「グダグダ言ってる暇は無い。とりあえず行かなきゃ」
言う前にまずは行動しなければ。
とにかく僕は車を走らせ、や虎徹さんたちが居る病院へと向かうのだった。
病院に着くと、入り口のところにブルーローズさんとロックバイソンさんが居た。
急いで車を止めてそちらへと駆ける。
「バーナビー!!」
「こっちだ早く来い!!」
「はいっ!」
二人が僕の姿を確認すると、急ぐように手招きをした。
僕も急いで二人の元に向かい病院の中へと入っていく。
先頭を二人が走り、僕はその後ろを走る。
すごい勢いで駆けていくので、病院内の人たちは目を見開かせ驚いていた。
「此処の部屋よ」
息も少し絶え絶えながら僕らはがいる部屋の前に立った。
扉の前に立つと、ドアが自動的に開いき部屋の中の様子が伺えた。
右腕だけを毛布の上に出し、がいた。
「・・・ッ!」
「落ち着けバニー」
「虎徹さん。でも・・・がっ」
「眠ってるだけだって。さっきまで痛みが酷すぎてな。今し方鎮静剤打ってもらったから、もう大丈夫だ」
虎徹さんの言葉に僕は安堵した。
死んだのかと・・・・思った。僕はまた大切な人を失ったのかと、思った。
だっては2つのNEXT能力を持っている。
しかし、その能力はあのジェイクのように健康体とは言えない体質となってしまった。
力の加減次第で、の体に何らかのダメージが加わってしまう。
今は外傷的なモノで済まされているけれど
コレを繰り返したり、また一気に大きな力を出してしまえば・・・外傷的なモノでは済まされないレベルに達する。
下手をしたら、死に至ることも。
今回だって、落下する鉄骨を支えたけれど
右腕を出血多量にまでさせてしまうほど、が膨大な力を使用したという事。
だから、駆けつけたとき・・・彼女の眠っている姿で
最悪な事を考えてしまった。
でもが無事だと聞かされ安心し
僕は布団の上に出されている彼女の手を握り、自分の頬に寄せた。
あたたかい・・・の体温だ。
「今日のところは連れて帰っていいそうだ。明日また検査に来るようにだとさ」
「え?でも、がこんな怪我じゃ」
「看病くらいしてやりなさいよバーナビー」
「そうだよ。お家に帰ったほうがさんの体にも楽だしさ」
「此処に居るよりかは、家に帰られた方が幾分良いと思います」
「それとも何か?好きな女を此処に1人残すつもりか?」
虎徹さんたちの言葉で僕はを見る。
目を覚ます素振りは見せていない。このまま此処に居るよりも部屋に戻ったほうがいいのなら――――。
「連れて帰ります。明日が起きたくらいに僕が此処に連れてきます」
「そうしてやれ。じゃ後よろしくバニーちゃん」
「はい。皆さんもありがとうございました」
そう言って手続きを済ませ、病院の入り口で皆と別れて僕は
車にを乗せて部屋に戻るのだった。
マンションに戻り、部屋に帰り着いて
僕はすぐさま寝室のベッドの上にを寝かせた。
まだ薬が効いているのか眠っている。
僕は彼女を起こさないように、隣に座り優しくの頬を撫でた。
「・・・・・君を早く迎えに行かなかった僕を許してください」
そう呟いて、眠っているの唇に自分の唇を重ねたのだった。
「・・・・・んっ」
気がついたら僕は眠っていた。
メガネを掛けたままだったから眉間が痛いけれど
何だか背中が暖かかった、目線を横にやると・・・ベッドにかけていた毛布だった。
じゃあ目の前は?と目線を移すと―――――。
「・・・?」
毛布も無くなって、眠っているはずのも居なくなっていた。
「・・・一体何処に?」
僕は急いで立ち上がった。
掛けられていた毛布はその拍子に床にずり落ちたが、戻すことを考える暇も無く
寝室から出てを探した。
あんな怪我で外に出れるわけが無い。
まだきっと、痛むはず。
僕は部屋中をくまなく探した。
すると、リビングから小さな・・・カタカタと、音が聞こえてきた。
僕はそちらに足を急がせると、扉が開きっぱなし。
開かれた入り口からそっと覗くと
部屋の電気も点けずに、僕が大事にしているロボットのおもちゃを
左腕で抱きしめて座っているが居た。
入って、声を掛けようとしたとき―――――。
「ねぇ、聞いてくれる私の話」
がおもちゃに話しかけていた。
完全に入るタイミングを逃し、僕はが話し終えるまでひっそりと身を隠していた。
「本当はね、こんな大怪我するつもりじゃなかったんだよ。
タイガーさんたちにも、バニーにも心配させるつもりなかったのに。
それなのにね・・・能力の制御も出来ないのに、無理してやっちゃったから、見てよ右腕。
包帯グルグル巻きになっちゃった」
は苦笑を浮べ
右腕に巻かれた包帯を見せながらおもちゃに語りかける。
僕はただ、その話を物陰から聞いていた。
「ちゃんと此処で待ってれば、すぐにバニーに逢えたのに・・・私ったら早く逢いたいからって先走りすぎよね。
カリーナにも駄々こねちゃったし・・・バチが当たったのよねきっと」
逢いたいのは僕だけじゃなかった。
逢いたかったのは彼女もだった。
僕に早く逢いたいがため・・・トレーニングルームに行って、僕を驚かせようと喜ばせようとしていた。
「バニーと一緒に食べるはずのケーキも、事故でぐしゃぐしゃになっちゃって・・・・・私・・・・・・バカだよね。
ホント・・・バカだよ」
するとの声が震え始めた。
月明かりが彼女を照らして・・・頬を綺麗な涙が伝っていた。
その涙がまるで流星のように流れ落ちていた。
小さくすすり泣くの声に僕は――――――。
「本当に、大バカですよ君は」
「!!・・・・・バ、バニーッ」
耐え切れず彼女の前に姿を現した。
泣いているの顔に、僕は苦笑を浮かべながら近づき
彼女の前に座った。
「真っ直ぐ此処に帰ってくればよかったんですよ。どうして先走るような事したんです?」
「だっ、だって・・・早く、バニーに逢いたかっ」
言葉を最後まで聞く前に、僕はを抱きしめた。
「僕だって早くに逢いたかったんですよ。先走るなんて、反則です」
「だって・・・だって・・・っ」
「ごめんなさい。僕から引き離してしまったばかりに、君にこんな辛い思いをさせて。
本当に謝るべきは僕の方なんですよね・・・本当に、すいませんでした」
「もしかしたら・・・嫌われたのかもって思ってた。・・・電話、出てくれなかったから・・・っ」
「電話のことも謝ります。取材だらけで携帯を開く余裕すらなかったんです。でも留守電にはびっくりしましたよ。
あんなメッセージが残されていたなんて、嬉しすぎて何回も聴いちゃいました」
「バニー・・・ッ、逢いたかった・・・っ」
「僕もですよ」
左腕に抱えていたおもちゃの落ちる音がして、の左手が僕の背中に絡み付いてきた。
あぁ、今多分ものすごく幸せなんだと思う。
どれだけ胸を締め付けられて、枕やシーツを涙で濡らす事になっただろうか。
現実泣いてはいないが、心できっと数え切れないほど切なくて泣いていた。
自分のやってしまった行いを、引き離した挙句こんな怪我までさせてしまったことを。
「バニー・・・バニー、ごめんね・・・ごめんねっ」
「どうして君が謝るんですか?謝るのは僕のほうですよ。
君にこんな思い、こんな怪我をさせてしまったんですから」
「でもっ・・・でもぉ・・・」
「泣かないでください。君は感情が高ぶるとパイロキネシス(発火念力)が発動してしまいます。
落ち着いて・・・ほら、大丈夫ですから」
感情が酷く高ぶってしまえば、のもう一つの能力が発動しかねない。
テレキネシスよりもこっちのほうがよっぽど厄介ではある。
の感情次第で、発火念力は本人の意思とは関係ナシに辺りに炎を撒き散らす。
まだ制御の出来ないだから・・・引き起こしてしまえば混乱し、余計火の勢いを大きくする。
そして、また・・・体のどこかにダメージを与えてしまう。
それだけは防がねば、と思い
僕はの背中を優しく撫で、宥める。
「バニー・・・ごめん、なさぃ」
「謝るのはもう止してください。何度も言うように君は悪くありませんから」
「・・・ぅん」
泣いているときの呼吸から、徐々にいつもどおりの呼吸に戻ってきた。
僕は抱きしめた体を離し、彼女を見た。
目に涙が溜まっていて、思わずその瞼に僕はキスをし
おでこをふっつけた。
「もう二度と離したりしません。やっぱりこの部屋には君が居てくれないと、僕はどうも調子が出ないみたいです」
「バニー」
「ずっと君だけのヒーローで居続けたい、君だけの王子様で居続けたい・・・・それじゃあ駄目ですか?」
「うぅん。すごく十分、むしろ十分すぎるくらいだよバニー」
「」
ようやく、が笑ってくれて・・・僕もつられて笑った。
「」
「ん?何?」
「キス・・・してもいいですか?」
「ぇ?」
「唐突にすると君の念力で吹き飛ばされてしまいますから。前もって許可をもらってたほうがいいでしょう?」
「そ、そうだけど」
キスをしたい、と強請ると目の前のは顔を真っ赤に染めていた。
久しぶりに見たその表情に胸が躍る。
そして、今すぐにでもの唇と重なり合いたい。
「・・・・キスしてもいいんですか?どうなんですか?」
「・・・ぃ、いいよ・・・」
拒むことをせず、ゆっくりと返ってきた言葉に僕は笑みを浮かべ―――――彼女と唇を重ねた。
「ねぇねぇ君、一緒に帰らない?怪我してるの?だったら途中まで送るよ?」
「あ、い・・・いいえ。いいです、迎え待ってますから」
ヒーローの条件、1つ。
困っている人が居たら助ける。
「じゃあ迎えの人くるまでさぁ、どっかで時間潰さない?」
「あの、すぐ来ますから大丈夫です」
2つ。
どんな時でも助けるときにはカッコよく。
そして―――――。
「いいから行こうよ」
「痛っ・・・離し」
「僕の彼女に何をしているんですか?」
「バニー!」
3つ。
如何なるときも大切な人の王子様であること。
「え?・・・お、おい・・・アレって、バーナビー・ブルックスJrじゃ・・・ッ」
「、遅くなってすいません。病院の時間に間に合わなくなりますね、行きましょうか」
「う、うん」
僕はナンパされていたの左手を握り、車につれ
その場を颯爽と走り去った。
の右腕の検査のため、僕は彼女を病院へと連れて行く約束をしていたのだが
少し渋滞に捕まり、を少し待たせてしまった。
車を病院へと走らせつつ、僕は横目でを見た。
何から先程ので彼女自身少々焦っている模様。
「だ、大丈夫かな・・・私、明日何か言われないかな?」
「さぁ・・・どうでしょうね」
「やっぱりタイガーさんに頼めばよかったかな」
「それは僕が嫌なのでやめてください。それに君の怪我が完治するまで僕が送り迎えすると
決めたのでそれは従ってもらいますよ」
「だったらサングラスするなり変装するなりしてよバニー。
貴方は有名人で、キング・オブ・ヒーロー。何で顔出ししたのよ〜」
「僕には僕で事情があったので、今更そう言われても困ります」
は不貞腐れながら運転をする僕に言う。
僕には僕で、顔出しと本名を晒す事情があったのだから仕方の無いこと。
今更それを否定されても困るものは困る。
「でもいいじゃないですか。これで君に寄り付く虫はいなくなったわけで」
「彼女発言しちゃったもんね。はぁ〜・・・時既に遅しかなぁ」
「それよりも右腕、大丈夫ですか?・・・さっき握られて痛かったでしょう」
丁度信号機が赤になり、車を止めた。
ギアを切り替え、サイドブレーキを下ろし車を完全に停車状態にした。
此処の信号機は切り替わるには少し時間が掛かる。
僕はそれを分かった上で停車状態にし、助手席に座るの袖を少し捲った。
「あっ、ちょっ、ちょっと運転!?」
「今から病院で検査だと言うのに、その前に怪我を増やしてどうするんですか?
よし・・・大丈夫みたいですね。安心しましたよ」
「今すぐ能力発動できるなら、貴方を吹っ飛ばしてやりたいわよバカ兎」
「バニーだからと言って兎呼ばわりされては困ります。あくまでバニーは愛称ですから」
「揚げ足取らないでよ・・・もう」
更に不貞腐れてそっぽ向かれた。
しかしそれがまた可愛い。幼い彼女に恋をしている僕だからだろう。
信号機が青に変わりそうだと、周囲の信号機で悟り
僕は停車状態にしていたのを発進準備にと切り替えた。
切り替えたと同時に赤が青に変わり、僕は車を発進させ病院へと向かう。
軽快に運転をしている中、車中は無言状態。
「いつまで不貞腐れてるつもりですか」
「もう知らない、バニーなんか」
不貞腐れては窓の外を見て僕の顔を見てくれない。
「病院が終わりましたら、ケーキを買って帰りましょうか。この前、食べ損ねているわけですし」
「・・・・・・え?」
この前・・・つまり、僕たちがまた元通りの生活に戻った、あの日。
あの日、本当ははケーキを買って帰ってくるはずだった。
しかし事故に巻き込まれ、能力を使い、多くの命を救った・・・しかしその代償として彼女の右腕は
大きな怪我を負うことになってしまいそして僕と食べるはずだったケーキも、事故の時に崩れてなくなってしまった。
「どうですか?これでもまだ・・・機嫌直してくれませんか?」
「・・・・いっぱい」
「はい?」
「いっぱい買ってよ。私があの日買ったの・・・ワンホールなんだから。いっぱい買わないと・・・口利かないからね」
「もちろんですよ。君は僕のお姫様なんですから・・・王子様がお姫様を喜ばせるのは当然でしょう」
僕がそういうと、そっぽを向いていた彼女の顔が僕を見て笑い
「ありがとうバニー・・・大好き」と言葉が返って来た。
心と体、2つに分けてきみのもとへ。
行けたらきっと良い事だけど、やっぱりどちらも合わさって
1つになった僕じゃないと君には駄目みたいだ。
大丈夫、もう君を1人にはしないよ。
泣いているとき、悲しいとき、嬉しいとき、いつでもどんなときも、僕がきみのもとへ行くから。
きみのもとへ
(半分にしてもやっぱり1つには敵わない)