『本当に、は可愛いね』




隣に座られるだけで恐怖だった。
近くに居るだけで恐怖だった。





『肌もすべすべで・・・本当に可愛いよ』






太股に這ってきた男の人の手。





『いっ、いやっ!!』





その手があまりにも気持ち悪くて、思わず払った。
すると、突然頬を平手打ちされそのままソファーに押し倒された。

嫌な予感がして、私は思いっきり抵抗をする。


でも馬乗りされ、男女の力の差は歴然。勝てるわけが無い。





『大人しくしておけば、手荒なことはしないよ』




興奮した、鼻息荒い言葉が放たれる・・・怖い。

それでも私は嫌だから尚も抵抗する。





『大人しくしろって言ってんだろ!!』





すると、着ていた服を破られ肌が曝け出される。
羞恥心で顔が赤くなる。





『やっぱり綺麗な肌だね』


『やっ、やだっ!離して!!離してッ!!』


『叫んでも誰も来やしない。さぁ・・・楽しもうじゃないか』





そう言いながら、唇が迫ってくる。




怖い。




怖いよ。




助けて。





助けて。













心の中でその言葉を叫んだ瞬間、光が見えた。

光が見えた瞬間、目の前が真っ赤に染まって・・・・・・・・・。
















気が付いたら辺り一面が火の海になっていた。逃げ場も無く、私はソファーで泣いていた。

床を見ると・・・血の海。
私の手にも、人間の血液がべっとりと付いていた。
それを見たくなく私は膝を抱えてまた泣く。


外ではいろんな雑音が聞こえる。消防車、救急車、パトカー・・・いろんな音が聞こえる。

そんな雑音が耳に入ってくる。








「もう・・・死にたい」






何が起こったのか分からない。


ただ、はっきり覚えているのは。











床に転がっているのが、義理の父親で・・・私は彼を殺してしまったということだった。










そう、床に広がっている血の海・・・そして私の手に付いている血液は
間違いなく彼のものだということ。


どうしてそうなったのかすら分からない。

ただ、何だか一瞬のことで・・・覚えていない。



覚えていることは、殺したことだけ・・・どうやったかなんて、覚えていないけど。


そしてこの一面火の海状態もどうやって起こったかなんて・・・・・・覚えてない。




覚えてない事だらけで、苦しい。





苦しいから・・・死んでしまいたい、消えてしまいたい。



誰も助けないで、お願いだから、放っといて。





膝を抱え私は火の海の中、泣いていた。










バキッ!!!









すると、突然扉を蹴破った音がした。
私が顔を上げてそちらのほうに目をやると

白いボディに、緑の蛍光色が光っていた何かが立っていた。
いや、アレは見たことがある・・・。

それが徐々に私のところに近づいてくる。






『おい、大丈夫か?』



「ワ、ワイルドタイガー」







テレビ中継でよく見る・・・スーパーヒーロー・ワイルドタイガーだった。

ワイルドタイガーは私に手を差し伸べた。







『何してんだこんなトコで。早く逃げるぞ!』



「・・・・・・」



『おい何してんだ!早く俺の手を握れ!!この家はもうすぐ崩れるんだぞ。
さっさと出ねぇと俺やお前も下敷きになっちまうんだぞ!!』





しかし差し出された手を私は握らなかった。
手を握らないのかワイルドタイガーは私の説得をする。

だけど、私は膝を抱えた。





『おい!聞こえてんのか!?』



「私は・・・いけないよ」



『何だって?』



「だって!だって、私・・・おとうさんを、おとうさんを殺したんだよ」



『殺したって・・・どういう意味だ?』





私は膝を抱え、指で床を指した。







『おわっ!?・・・これ、親父さんか?』



「義理の父親。ママの・・・再婚相手」



『何で殺しちまったんだ?』



「殺してない。急に・・・急に・・・」






私は震える声で目の前のワイルドタイガーに言う。



突然光が走って、おとうさんの体中の血が噴き出た。
そうかと思ったら破裂して・・・臓器が外に出てきた。もう目も塞ぐほどの姿だった。






「突然で・・・なんだったのか、分からなくて・・・っ・・・でも、怖くて・・・っ」







私は破られた服を分からないように隠した。

言えるわけがない・・・義理の父親から犯されそうになったなんて。






『お前』


「だからお願い!死なせてっ!!もう私は生きていくことなんて出来ないの!!」






生きてるよりも、いっそのこと死なせて欲しい。

生きてあんな辛い思いするくらいなら、死んだほうがずっとマシ。



涙が溢れ、私は膝を抱えた。


すると突然手を握られ、抱きかかえられた・・・目に映ったのは、どこかの会社名の書かれた白いボディ。

ワイルドタイガーが今まで膝を抱え泣いていた私を
抱き上げたのだ。





『死ぬなんて言うんじゃねぇ』


「え?」





ロボットみたいな顔が私を見ていた。
開きもしない口元から零れてきた言葉に私の涙は突然止まった。







『生きろ。生きてりゃいい事だってあるんだしよ』



「ワイルド、タイガー・・・ッ」



『悪いことばっかりじゃねぇだろ?楽しいことも、嬉しいこともあるんだ。悪ぃことばっかりが人生じゃねぇさ。
ま〜だ若いんだしよぉ・・・んな年頃の娘が、死ぬだなんだの口にすんな』







その言葉で、私の心が救われた。

抱きかかえられた腕の中で私は泣きじゃくる。






『とりあえず外に出るぞ。此処はもう危ねぇ・・・しっかり捕まってろ』


「は、はい」






ワイルドタイガーは私を抱えたまま、その場から凄まじい速さで駆け抜けた。
倒れてくる火の柱も拳一発で木っ端微塵にし、玄関へと走り・・・外に出た。



初めて見た、これが・・・スーパーヒーロー。



後ろで燃え上がる私の家が、照明代わりで彼を照らしているように見えた。








『おぉ!ご覧くださいっ!!ワイルドタイガー、炎に包まれた家の中から無事少女を救出に成功しましたあぁあ!!
さすがはスーパーヒーローと言ったところでしょうか。人命救助はお手の物!』








生中継されている状態で、アナウンサーの声が聞こえてくる。

家の周りには、思ったとおり救急車、消防車、パトカー、それとテレビの中継車。
それからたくさんの人だかりが出来ていた。




「怪我人一名確認しました。女の子です。ヒーロー・・・人命救助、ご協力に感謝します!」


『いいってことよ。これも俺たちの仕事だしな。・・・ほら、お前はひとまず病院だ』





救急隊員の人にワイルドタイガーは挨拶をして、私を降ろした。

隊員の人に「こちらへ」と救急車の中に連れられる前に・・・・・・。






「あのっ!」


『ん?どした?早く病院行きな』





ワイルドタイガーの手を握り、彼の動きを止めた。

しかし、手を握ったまではよかったものの・・・頭が真っ白になり言葉が出てこなかった。
すると、目の前のヒーローは顔の部分のパーツをあげた。

其処から見えたのは、目元を黒いマスクで覆った人。





「後で病院に行ってやっから」


「え?」


「だから待ってろ。必ず行く」


「・・・はい」





すると顔のパーツを下げ、再びあのロボットのような顔に戻った。







「さぁ、行きましょう」


「はい」







救急隊員に促され、私は救急車に乗った。

乗る間際までワイルドタイガーは私を見ていた。それだけで私は安心した。



ちゃんと、来てくれるよね・・・ワイルドタイガー。



そう、思いながら・・・救急車は後方の扉を閉め、車を発進させたのだった。







それが、ヒーローとの出会いで、私の“目醒め”でもあった。




でも、これから始まる本当の出会いにはまだ気づいてなかった。





Coming events cast their shadow before them.
(”一葉落ちて天下の秋を知る”ヒーローとの出会い、それは何かが起こる前触れ)

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