病院に運ばれて・・・数時間経った。
私本人に怪我は無いと、搬送先の医師が言っていた。
当たり前だ・・・怪我はしていない、でも「人は殺した」。
その事実だけはやはり拭い去れなかった。
破られた服じゃ可哀想だからと言われ、病院着に着替え
私は待合室で考えていた。
そう、医師は不可思議な言葉を零したのだ。
『親御さんは、いつ頃くるのかな?』
えらく不可思議な言葉だった。
ママは出張中で何処にいるか分からない、義理の父親は私が殺したようなもの。
だから今は一人ぼっち。
頼る親戚なんて居やしない。
医師の口ぶりからして確実に重要な話に違いないと思った。
私が聞きたいと思っていても、多分話してはくれないだろう。
「何の話なのかな?」
「お、居たいた」
「え?」
すると、待合室にハスキーボイスが響き
気さくそうなおじさんが私のほうにやってきた。
誰?
「悪ぃ悪ぃ。搬送先の病院聞くの忘れてさぁ、来るのに遅くなっちまった」
「あ、あの・・・どちら様ですか?」
目の前のおじさんは私に話しかけてくるが、生憎とこんな顔見たこと無い。
親戚にもこんな人いない。
じゃあ誰?と私は脳内で考えていると――――。
「あ、これ付けないと分かんねぇよな」
「?」
「ホレ」
おじさんはポケットからあるものを取り出し、目元につけた。
その顔を見て私はハッとした。
「ワイルド、タイガー」
「ピンポーン。本名は鏑木虎徹ってんだ、皆には内緒だぜ?・・・えーっと・・・」
「です。・」
「か。よろしくな。俺のことは、まぁ・・・タイガーとかでいいや。それか虎徹な?」
「はい。タイガーさん」
気さくそうなおじさんが、実はヒーロー・ワイルドタイガーだったなんて。
私はドキドキしながらその人を見ていた。
名前を呼ばれただけで・・・こんなにもドキドキしたのは多分初めてかもしれない。
「で、怪我の具合は?」
「幸い軽いやけど程度で。ありがとうございました」
「いいってことよ。大怪我じゃなくて何よりだな」
「はい」
待合室に笑い声が響いた。
「さん。そちら、親御さんですか?」
すると、笑い声が診察室まで響いたのか私を診てくれた医師がやってきて
タイガーさんを親と勘違いしていた。
勘違いしているのであれば好都合だ。
「あぁ、違うんです俺は」
「はい、父です」
「お、おいっ」
「そうですか。でしたら親御さんもいらっしゃったことですし、お話があります。どうぞこちらへ」
タイガーさんを父親代わりにして、話をきいてみようと思い
否定の声をあげる前に自分の声でその声を遮った。
医師は診察室へと先に戻ってく。
「おいおい。俺はいつからお前の親になったんだよ」
「すいません。母が出張中で戻ってくるのかすら分からないもので。義理の父親はアレなんで」
「ま、まぁな」
私の説明でタイガーさんはどうやら納得してくれたらしい。
とりあえずタイガーさんを父親代わりにして、医師の言っていた話を聞きに行くべく
診察室へと二人で向かった。
診察室の扉を閉め、医師が「じゃあ娘さんは椅子におかけください」と促され
タイガーさんを見ると「座っとけ。俺は後ろに居るから」と優しい目線で私を見ていた。
それに安心した私は医師の目の前に置かれた椅子に座った。
「遠まわしな言い方をすると面倒なので、簡潔に申し上げます。お宅の娘さん――――」
「NEXTとしての力がどうやら目醒めてしまったようです」
「え?」
「な、何だって?」
医師の口から出てきた言葉に、私はおろかタイガーさんまでも驚いていた。
NEXTとは要するに超能力者のこと。
その能力は人それぞれ、さまざまと言ったところ。
そして後ろに居るタイガーさんも、ヒーローと言われているから・・・・NEXTである。
その力が・・・私に?
もしかして、一瞬輝いた光はまさか・・・その目醒めを表していた?
「のは一体どんな能力だ?」
「多分、テレキネシスかと」
「テレキネシス?」
「超能力の一種です、所謂念力ですよさん。貴女はそのNEXTなんです」
「念、力」
思わず自分の手を見た。
でも、そんな感じ・・・まったくしない。
「多分、火事のショックか何かで力が目醒めたんでしょう。潜在していた能力が目醒めるというのはよくある話です」
「火事の、ショック」
いや、火事じゃない。
自分でもそのショックで起こったなんて思わない。
多分・・・おとうさんに襲われそうになったときに、力が目を醒ましたんだ。
きっと、自分を守るために・・・私は、NEXTとして覚醒したんだ。
「まぁ、無理もありませんね。お家が強盗に遭われて、ご家族の誰かがお亡くなりになられていたんですから」
「え?ご、強盗?」
医師の言葉に私は驚いた。
確かに、あの火の海の中・・・死体は私が能力で殺してしまったおとうさんのだけ。
しかし・・・強盗だなんて、一体誰が?
「あー!、お前先に外で待ってなさい」
「え?・・・あ、でもっ」
するとタイガーさんが慌てて私を外へ先に出るよう促した。
焦らされ私は椅子から立ち上がり、診察室の外へと出される。
扉が閉まろうとすると――――。
「タ、タイガーさっ」
「後で事情は話す。大人しく待ってろ?」
頭を優しく二回叩かれ、診察室の扉が閉まった。
私はポンポンと触られた頭に触れた。
少し恥ずかしいような、照れるような・・・そんな気分で、ドキドキしたのだった。
「あの子は本当に、NEXTとしての力が目醒めちまったのか?」
「はい。ショックが大きかったのでしょう。その反動で起こるのは少なからずあります」
「そうか」
「あと、大変申し上げにくいんですが」
「?」
「娘さんの能力は、一つじゃないんです」
「え?・・・そ、それじゃあ・・・あの子は」
「実はテレキネシスのほかに、もう一つお持ちなんです・・・それが―――」
5分、時間が経ち診察室の扉が開く。
私は待合室の椅子から立ち上がり、中から出てくるタイガーさんに近づく。
しかし、タイガーさんの表情が少し険しい。
「タイガーさん。あの、どうしたんですか?」
「ちょっと考え事・・・俺一人じゃ、無理だなって結論付いちまったけどな」
「なんのですか?」
「お前の今後の行き先方針とか」
そういえば、もう私には帰る家が無かった。
燃えて、灰になってしまったのだから。
頼る親戚なんて居やしない、完全に施設送りだろう。
「そこで決めた」
「え?」
「はしばらくの間、俺らで面倒を見る!」
「え??」
タイガーさんの言葉に、目が点になる私。
しかも、俺らって・・・・・・誰のことをさしてるんだろう?
「あの、タイガーさん・・・俺らって、誰ですか?」
「俺たちヒーローで、だよ」
「ヒーロー・・が・・・私を?」
その言葉は、私の生活が一変するほんの数日前の事だった。
Tomorrow brings its own fortune.
("明日は明日の風が吹く"何かが変わった後で、それは私の生活が変わる前の話)