「何で私なのよ」
「悪ぃ悪ぃ、他に頼めるやつが居なくってさぁ」
2日経った日のこと。
虎徹は車を運転しながら、助手席に座る
HERO TV敏腕プロデューサー、アニエス・ジュベールに謝る。
アニエスはそんな軽く自分に謝罪する虎徹にため息を零した。
「で、何処に向かってんの?」
「病院」
「診察なら1人でして。私は忙しいのよ」
「俺じゃねぇって!ちょっとおめぇにも話通しておかなきゃいけねぇから、連れて行ってんだよ」
「どういうこと?」
虎徹の言葉に、アニエスは眉間に皺を寄せて彼を見た。
視線を外すことなく、虎徹は運転を続けながらアニエスに喋るのだった。
「そういうこと」
「あの子にはもう帰る家がねぇ。母親も連絡つかずで、親戚も居ないらしい」
病院に向かいながら虎徹はアニエスにのことを話す。
彼の説明で納得したのか、彼女は腕を組んでいた。
「それでしばらく私たちのほうで一時的に預かろうって言うのね」
「あぁ」
「学校はどうするの?」
「今までどおり、普通の学校でいいじゃん」
虎徹の言葉にアニエスは驚きながら、運転する彼の顔を見た。
「本気で言ってるの?今までどおり通わせるって・・・能力者として目覚めたのはつい2日くらい前。
年齢が18歳でも、能力者としては0歳児と変わらないのよ?それだったらヒーローアカデミーに転校させた方がよっぽどいいじゃない。
いきなり能力が発動したらどうするの?制御の仕方だって分からないのに」
「いきなり転校させて、アイツが孤立したらどうすんだよ?そっちのほうがよっぽど可哀想じゃねぇか。
それに赤ん坊と能力者の目覚めとしては変わらないんだ、感情とシンクロしてる以上は、安心だよ」
「ったく・・・何処にそんな根拠があるのよ」
アニエスは呆れた様なため息を零しながら、助手席に深く座り
目線をまっすぐに向けた。
虎徹は自分の説得が少しは彼女に通じたことを思うと、彼女とは対照的に
少し安堵のため息を零した。
「ただ・・・」
しかし安堵のため息をついたのもつかの間、虎徹の表情が険しくなる。
「アイツの能力は1つじゃない」
「どういうこと?・・・まさか、ジェイクと同じ・・・2つ・・・」
その言葉にアニエスは目を見開かせ驚いていた。
「アニエス・ジュベールよ。HERO TVのプロデューサーをしてるわ」
「・です」
病院に到着して、アニエスとはお互い笑顔で握手をした。
「このおばさんが、俺らのリーダーみたいなもんだ」
「誰がおばさんよ。私がおばさんならアンタはおじさんね」
「んだよそれ」
「フフッ」
虎徹とアニエスのやりとりにが小さく笑う。
笑う声が聞こえたのか、二人がを見た。
「あ、ご、ごめんなさい」
「い、いや・・・別にいいって、なぁ」
「そ、そうね」
そういうとはホッとしたように、肩を撫で下ろした。
少し笑みを浮かべた彼女を見て虎徹は安堵した。
事故の後や、自分がNEXTとして目覚めたことで
あまり笑わなかったを心配していた虎徹。
しかし、先ほどの彼女を見て彼自身も少し安心していた。
「大体の話は、タイガーから聞いたわ。災難だったわね」
「いえ。自分の命が助かっただけでも、本当に・・・良かったほうです」
アニエスの言葉には眉を歪ませながら笑う。
ふと、の手元に視線が行くアニエス。
その手は微かに震えていた。
それを見て彼女は、病院に着く前の虎徹との話を思い出した。
「パイロキネシス?・・・聞いた事無いわ」
「発火念力だそうだ。エスパー系の能力にも色々種類あんだろ?物動かしたり、瞬間移動したり・・・テレキネシスもその1つ。
んで、パイロキネシスもエスパー系の能力ってワケ。念で火を起こすみたいなもんだ」
「なるほどね」
虎徹が医師から更に聞いた話。
が目醒めた力はテレキネシスとは他にもう1つあった事実だった。
「さっき俺話したよな。火の中からアイツを助けたって」
「えぇ、あの時の視聴率は凄かったわ。バックの燃え上がる家もいい具合に映えたし」
「それで医者の話聞いて確信したんだ。火事を起こしたのはアイツの能力だって」
「まさか・・・あの火事は能力で起こったものだって言うの?」
「多分な」
二日前に虎徹がを助けた日。
燃え盛る火の海を作った原因もの能力にあると虎徹は
医師の話を聞いて思っていた。
「急激な能力開花に、自分の家を火事にするなんて・・・一体何なの?」
「アイツは義理の父親に犯されそうになったんだよ。そのショックで能力が目醒めちまったんだ」
「そう。・・・何かしらのショックで能力が目醒めるケースは少なくないわ。義理の父親はどうなったの?
報道じゃ強盗殺人って事になってるけど・・・今までの話聞く限り、違うでしょ?」
「・・・・アイツ自身がテレキネシスで殺したんだ」
「・・・・・・ま、まさか」
虎徹の発言に、アニエスは疑惑の声を上げた。
突然の能力開花はシュテルンビルドに住んでいるNEXT、誰もが少なくは無いケースである。
45年という長く培われたは人々の日常的感覚では驚くこともない。
しかし、アニエスは疑惑を抱いた。
彼女はまだ実際の経験をしていないからだ。
報道人であり、普通の人間である。実際のケースを目の当たりにしていないからこそ、疑惑という
大きな風船が膨らんでいた。
「アイツが俺にそう言った。実際俺も聞いた話でしかないが、自分で殺したって。
アイツは・・・自分の身を守ったんだ、自分を守る代償として力が目醒めちまったんだよ。
テレキネシスも、パイロキネシスも」
「タイガー」
虎徹の話を聞いてアニエスの疑問は無くなった。
「もし同じ境遇に自分も遭ったら」と彼女は考えてしまったからだ。
男の力に勝てないのは歴然としている。されるがまま、されるくらいなら死んだほうがいい。
自分を守るための代償ならば、NEXTとして開花してもその状況ならおかしくはない。
「警察には強盗殺人かもしれねぇって言っておいた・・・追々、アイツには俺が話す。だが、パイロキネシスのことは
アイツには言うな・・・もちろん、他のやつらにもアイツの能力の事は一切喋らないでくれ」
「同じNEXTなのに喋らないでって」
「義理だろうと何だろうとアイツは父親を殺した・・・自分を守るために。他のやつらにはなるべくなら
アイツには普通に接してて欲しいんだ・・・アイツがもう二度と悲しまないためにも」
虎徹はハンドルをグッと強く握った。
そして彼の脳裏に浮かんできたのは、二日前を助けた光景。
破れた服を隠すように、膝を抱え泣きながら「死にたい」と嘆いていた。
発動した能力で見るも無残な姿にまで義理の父親を殺した。
何とか救いたい、何とか助けたい・・・虎徹の中ではそう願っていた。
ハンドルを強く握り締めた虎徹を見て、アニエスはため息を零しながらも
フッと笑みを浮かべた。
「分かったわ。出来るだけ、私も努力はする・・・貴方たちヒーローには、私たち市民は助けてもらいっぱなしだからね」
「こういうときだけ自分を市民扱いかよ」
「でもこれ一回きりにしてね・・・厄介ごとはごめんだから」
「へぇへぇ」
「アニエスさん?」
「え?あぁ、ごめんなさい・・・考え事をしてたの」
に声をかけられ、アニエスは我に返り笑みを見せた。
「貴女は私の親戚ってことで、ヒーロー達には紹介するわ」
「あ、あの・・・・私、本当にヒーローの皆さんと同じ場所に居なきゃいけないんですか?」
「その方が何かといいだろ。施設行くのもイヤだろ?お前には学校があるし」
はそれを聞いて「確かに」と頷く。
自分の中でヒーローアカデミーに通うことも考えたが、今居る友達と離れるのもイヤだし
ましてや環境が変わるのも怖いと自身恐れていた。
しかし虎徹の言葉には嬉しさがこみあがってきていた。
「母親と連絡取れるようになったら、母親と一緒に暮らせばいい。それまで俺らでお前のことちゃんと支えてやっから」
「タイガーさん」
虎徹の言葉には嬉しくて、抱きついた。
彼は突然の抱擁に一瞬驚くも、此処数日色んな恐怖や不安に襲われていたのことを
考えたら、と虎徹はそう思いながら抱きついてきたの背中を撫でた。
「とにかく、他のヒーローにも紹介するから・・・全員に声をかけましょう」
「そうだな。よしじゃあ行くか」
「はい」
アニエスは全員に声をかけ、トレーニングルームに居るよう連絡を入れ
一足先に会社へとタクシーで向かう。
一方、虎徹とはドライブがてら遠回りをして会社に向かうことになった。
少しでもを元気付けてあげたいという虎徹なりの配慮である。
『タイガー・・・相棒に連絡入る?他のメンバーはトレーニングルームに居たけど、彼だけ居ないって』
「お?じゃあこっちで連絡入れてみるわ。、ちょっと静かにな」
「あ、はい」
アニエスの通信で虎徹は信号での停車時間を利用してPDAをいじる。
『はい』
「お、バニーか?俺だ」
『どうかしましたか虎徹さん?』
「今からトレーニングルームに集合だそうだ。他のやつ等は揃ってて、俺は今向かってる」
『分かりました。すぐ向かいます』
「よろしくな」
信号が青に切り替わろうとしていた寸前で通信が終わり、虎徹は再びハンドルを握り
運転に集中する。
「バニー・・・って?兎ですよね?」
すると、が不思議そうに虎徹に尋ねた。
「あぁ、俺の相棒のあだ名」
「あだ名?あだ名が・・・バニー?」
「そう。聞いた事ないか?バーナビー・ブルックスJrって」
「名前なら。素顔は見たこと無いですけど。もしかしてバーナビーだからバニー?」
「アイツのヒーロースーツ、長い耳みたいなのあってさそれが兎みたいだから、バニーってわけ」
「フフッ・・・タイガーさん、センスいいかもですね」
「だろっ!俺センスあるから」
「フフ」
虎徹のトークにが笑う。
そんな彼女の表情を見て、虎徹は安心しながらトレーニングルームへと運転をするのだった。
「紹介するわ。私の親戚、よ
皆も知ってるでしょ・・・数日前の強盗事件。もしかしたら犯人がこの子を狙ってくる恐れがあるから
身柄をコチラで預かることになったわ・・・さぁ、挨拶をして」
「・です、よろしくお願いします」
ジャスティスタワーにあるトレーニングルームに着くと
いつもは覆面・メイクスタイルのヒーロー達が素顔と私服で其処にいた。
そして虎徹とが着くや否や、アニエスは早速をヒーロー達の前に出し紹介をする。
はいつも画面の向こうに移っているヒーロー達にドキドキしていた。
すると、とある一人の少女がの名前を聞いた途端、面倒くさそうにし頬杖をしている体勢をやめる。
「・って・・・よね?」
「え?・・・あっ、貴女・・・・カリーナ?カリーナ・ライル?」
突然、カリーナ・ライルが確かめたような声を出す。
も同じように名前を繰り返し、確かめた。
すると―――――。
「やっぱりじゃない!!」
「カリーナだぁ〜!」
まるで再会を喜び合うかのように、カリーナとは抱き合った。
他のメンバーは唖然とした表情を浮かべていた。
「いつぶりだっけ?」
「えーっと2年かな?」
「そんなになるの?」
「うん。アレ?でも何でカリーナ・・・もしかして、ヒーローなの?」
は首をかしげながらカリーナに言う。
「そう。ヒーロー界のスーパーアイドル・ブルーローズはワ・タ・シ。皆には内緒ね」
「へぇ〜凄いね」
「他は私が紹介するわ。いいでしょ、アニエスさん」
「え?・・・えぇ、そうしてくれるなら助かるわ」
そう言うとが他のメンバーを見て、カリーナが一人ひとり紹介をしていく。
「ちょっと、バーナビーは?」
「バニーならすぐ来る」
「すいません、遅れました」
すると、自動扉が開き
モデルのような長身の成人男性、バーナビー・ブルックスJrが中に入ってきた。
「遅ぇぞバニー。とりあえず、お前で仕舞いだな」
「え?な、何がですか?」
「アニエスさんの親戚だって・・・ホラ、自己紹介!」
「えっ、ちょっ」
虎徹がバーナビーの背を押し、カリーナがの背中を押した。
何のことだかさっぱりの状態で、脳内が困惑しているバーナビー。
すると困惑している彼に手が差し出しされてきた。
「え?」
「初めまして、・です。今日からちょっとご厄介になります。
ご迷惑をおかけすることもあるかもしれませんが、よろしくお願いします」
笑顔で、とても優しい表情では微笑みながらバーナビーに握手のために
手を差し出していた。
彼女の表情と、差し出された手を見てバーナビーは・・・――――。
「遅くなってすいません。バーナビー・ブルックスJrです。こちらこそ、よろしくお願いします・・・さん」
「はい」
優しく、そっと握り返した。
Union is strength
(”団結は力なり“力を合わせて・・・守れ、あの子を)