「彼女はあの事故で虎徹さんが助け出した人なんですね」



「まぁな」



「まさかアニエスさんの親戚だったなんて」






会社に呼び出されるや否や
虎徹さんが強盗殺人で家に火を放たれ、中に取り残されていた女の子・・・さんの話を
僕は彼から聞いていた。








「怪我は?」


「幸い軽い火傷で済んだ」


「親御さんは?確か、父親は殺されたとか・・・」









すると虎徹さんは黙り込む。

そして他の皆と談笑しているさんを見つめていた。







「虎徹さん」



「あ?・・・・あぁ、何の話してたっけ?」



「彼女の親御さんの話です。ニュースじゃ父親は殺されたって。母親のほうはどうなんですか?」



「母親は長期出張で街を離れているらしい。連絡が取れないそうだ」



「そうですか」








じゃあ、彼女は1人か・・・・僕と同じで。

いやでも母親は生きているわけだし・・・しかし連絡が取れないんじゃ同じか。








「バニー、どうした?」



「いえ、何でもないです。それより、どうして此処へ連れてきたんですか?」



「え?!・・・あー・・・いや、此処が安全かと思って・・・」



「は?」






アニエスさんの親戚だという事は分かる。
だが一般人である彼女が何故此処にいるのか分からなかった。
それを問いかけた途端、虎徹さんが目を泳がせて曖昧な答えを僕に返す。

あまりにワケが分からなさ過ぎて素っ頓狂な声が口から飛び出てきた。





「意味が分かりません。むしろ理由にすらなってないですよ」



「いや、の運ばれた病院に向かったとき・・・素顔出してさぁ。アニエスに協力頼んだら
アイツの親戚の子だったらしくてよぉ」



「それで此処に?」



「だ、だって強盗だぜ?下手したらの命だって狙われることだってあるだろ?そ、それだったら
俺らで見てやってた方がさぁ・・・いいかな、と思ったわけで」





怪しい。

虎徹さんがあまりにも挙動不審すぎる。
あの・・・絶対にヒーローは素顔を明かさない、と言い張ってた虎徹さんが
自分から素顔を、一般人の女の子に曝け出すなんて・・・有り得ないし、何かあるとしか思えない。

無表情で僕は虎徹さんの顔を見る。






「な、何だよ」



「何か隠してませんか?」



「何を?」



「その”何か“をです。じゃなきゃ、貴方が自分から一般人に素顔を出すなんてしませんから」



「お、お前・・・変なトコで勘付くな」



「貴方のヒーロー論は耳にタコですから、勘付いて当然です。白状してください」






僕が強く言うと虎徹さんは楽しげに話すさんを再び見る。

そちらに僕も目線を移す。
確かに楽しそうではある、まだ子供だから仕方の無いことだ。

目線を目の前の人物に戻し、口を開く。







「何を隠してるんですか?」



「いや、あの・・・それは、だな・・・」




「2人で仲良く何を話しているのかしら?」




「アニエス」

「アニエスさん」






すると、アニエスさんが腰に手を当てて笑みを浮かべ僕らを見ていた。








「ちょっとタイガー・・・今からの荷物運ぶんだからさっさと行きなさい。
業者が近くまで来てるんだから」


「あ?・・・わ、分かったよ」





そう言ってアニエスさんは虎徹さんをまるで
僕から引き離すように指示を出し、その場から去らせた。






「ちょっと虎徹さん、まだ話の途中」



「バーナビー」



「何ですか?!」







虎徹さんを追いかけようとしたら、アニエスさんに肩を掴まれ動きを止められた。
振り返り彼女の顔を見ると真剣な表情で僕を見ている。

肩に置かれた手を振り払おうとしたが、見つめられている表情に僕は何も言えなかった。








「これ以上・・・詮索するんじゃないわよ」




「え?」






どういう、意味だ?



僕が困惑した表情で見ていると、アニエスさんは笑みを浮かべた。







のプライベートよ。これ以上詮索しないでちょうだい」



「え?・・・あ、あ」



「女の事情を覗き見たいなんて・・・・どういう了見かしら?ねぇ、バーナビー?
いくらアンタでもあの子は私の大事な親族で、女の子。デリケートな子なんだからやめてちょうだい」



「す、すいません慎みます」



「それでいいのよ。じゃあ私と行くトコあるから帰るわね」








僕の肩から手を離し、さんを呼んでアニエスさんは優しい笑顔を浮かべていた。


ふと、さんと目が合い・・・彼女は微笑んで軽く会釈をして
アニエスさんと一緒に去っていった。




やっぱり、あの2人・・・何か隠している。


虎徹さんといい、アニエスさんといい、何を隠しているのだろう?


普段は仲が良いとは言わない2人なのに
さんの事になると、やけに2人とも・・・仲が良い風に見える。


此処2〜3日で何があった?
特に変わったことは無かったはず、いつも通り・・・僕らは普通に過ごしていた。



互いの仕事をこなしていた。




変わったことといえば。










という女の子がやってきたことだけ。










彼女が来たことで、2人が変わった。






素顔を絶対に見せない虎徹さんが、さんにだけ素顔を見せて。


普段は厳しい態度のアニエスさんが、さんにだけ優しい表情を見せて。





全て、さんが関連している・・あの2人が変わったのは、彼女が現れてから。


さんに一体何が?









「調べてみるか」








もし、さんに何か重大なことがあるのならば
それを隠すために虎徹さんやアニエスさんが動いているに違いない。



いや、その逆・・・さんが2人を利用しているのかもしれない。



全ては・・・あの子、さんが変化のきっかけ。
調べてみる必要があるだろう。



そう頭の中で結論づいた僕は、とにかく2人の居ないところで
行動を起こした。・・・まずは。








「ブルーローズさん」


「ん?何よ?」






やけに楽しそうにさんと話していたブルーローズさんから。

多分あの2人より聞きだせる材料は多いかもしれない。





さんとはどんな関係なんですか?」



?私との関係?・・・それはね―――――」































『アイツ・・・・勘付いたかしら?』


「いや、大丈夫とは思う」


『とにかくこっちでも出来る限りフォローはするわ。アンタもなるべく口、滑らせるんじゃないわよ』


「わぁーってるよ。じゃあを頼むぜアニエス」


『言われなくとも』





---------Pi!





「バニー・・・頼む。何も言わないでそっとしておいてくれ。と、アイツを見守る俺達を」






Let sleeping doe lie.
(”触らぬ神に祟りなし“余計な手出し、口出しはしないで、今はそっと見守ってて) inserted by FC2 system

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