「何か困ったことがあるならいつでも言いなさい」
「はい」
アニエスさんの家に来て、かの人は私にそう言った。
母親と連絡が取れないし
今更アカデミーには通いづらい。
通っていた学校もあるから、なるべくならそっちに行った方が良いと
タイガーさんの意向。
家がなくなり、親が居ない私にアニエスさんは自分の家に私を迎え入れてくれたのだ。
そして運ばれてきた荷物を整理しながら話をする。
「ブルーローズ・・・貴女からしたら、カリーナ・ライルね。彼女と仲が良いみたいだけど」
「母親同士が仲が良くて。小さい頃、彼女とは学校も一緒だったし・・・しばらくは連絡をとったり
遊んだりもしてたんですけど、此処2年は私も彼女も連絡を取り合ってなかったんです」
カリーナと会ったのは本当に久しぶりだった。
2年間、連絡を取らなくなるまではちょこちょこ遊んではいたけれど
連絡を取らなくなったのは私も私生活で忙しくなり
また彼女もヒーローとして活躍するために忙しくなったのだと思っている。
「の制服を見る限り、あの子と同じ学校だから・・・よかったわね」
「えぇ。何処の学校に通ってるんだろうって思ったら私と同じ制服着てたんで嬉しいです」
「そう」
私が笑って見せると、アニエスさんも笑って答えてくれた。
でも、本当は怖い。
カリーナはNEXTだけど、普通の学校に通っている。
でも、私は・・・・NEXTとしてまだ目醒めたばかりで、正直なところ怖い。
制御できる彼女と、制御が出来ない私。
もちろんその差は大きし、埋まることも・・・そう容易いものではない。
私はまだ自分の能力と上手く向き合う自信がないから。
だって・・・・この手で、この能力(チカラ)で人を殺してしまったから。
こんな怖い力、どうして目醒めてしまったのだろう。
アニエスさんの家に暮して、数日が経ったある日。
私が学校の廊下を呆然としながら歩いていた。
ここ数日で変わった生活について考えていた。
私が居るだけでアニエスさんは仕事を早く切り上げてくるようになり
また遅くなると、外でアニエスさんの仕事の人たちとご飯を食べたりと
楽しく過ごしていた――――――外見上は。
内心、いつ発動するか分からない能力に怯えていた。
タイガーさんには忙しくて聞けそうにないし。
かと言ってカリーナに言ってしまえば、同じ能力者でも怖がられてしまう。
アニエスさんに相談しても、はっきりとした答えが出てくるかどうかも分からない。
でもモヤモヤした気持ちが多すぎて、頭が痛い。
「おーい、ー!!」
ふと、聞き慣れた声に私は窓の外を見た。
外を見るとカリーナが笑顔で私に手を振っていたのだ。
彼女の後ろに、友達と思われる人物がカリーナに尋ねる様子が見えた。
すると私の説明をしていたのか
後ろの友達も手を振ってくる。
此処で振らなかったら怪しまれるかもしれないと思った
私は笑いながら手を振り返す。
瞬間・・・脳裏を何かが過ぎって行った。
植木鉢が落ちてきて・・・カリーナとその友達に。
「い、今の・・・何?」
頭が痛いせいなのか、そんな場面が脳裏を過ぎっていく。
ふと外を見て・・・・カリーナの上を見る。
その上には生物室があって、窓の外に男子生徒たちがふざけている。
窓の近くに植木鉢が置いてあり・・・男子生徒の肘にぶつかり――――――。
「カリーナ、避けて!!!」
植木鉢が落下。
脳裏に過ぎった映像が起ころうとしている。
私はカリーナに避けるよう叫ぶも、落下速度が速くて間に合わない。
これ以上、目の前で誰かが死ぬのなんて・・・・・・。
私 の 友 達 を 殺 さ な い で・・・!!
バリンッ!!!
「きゃー!!」
「ぇ」
突然、落下していた植木鉢が空中で粉々に割れた。
下にいたカリーナたちに植木鉢の中に入っていた土や花が降りかかる。
上に居た男子生徒たちも驚いて、カリーナたちも同じような感じだった。
私は思わず自分の手を見る。
体が青く光り・・・その光は徐々に治まって、消えた。
また私の知らない間に・・・能力が。
そう思った瞬間、私は怖くなりその場から逃げ出した。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・ッ」
怖い・・・怖い・・・怖い。
怖い気持ちを消し去るように私は校舎から飛び出し
校門へと走る。
どうして、どうして勝手に発動するの?
あの植木鉢が落ちる映像も、私の能力だと言うの?
確かに一歩間違えたら、カリーナたちは死んでいた。
私の能力で助かったけれど・・・加減を知らない私の能力は、カリーナたちをも傷つけてしまうことになる。
また、私は人を・・・自分の手で殺してしまう。
気づいたら目から涙が零れていた。
何で神様は私にこんな力を与えたというの?
-------ドンッ!
「ご、ごめんなさい」
校門を出た直後、私は誰かにぶつかり・・・すぐさま謝る。
「、さん?」
「え?・・・あ」
聞き覚えのある声に、顔を上げるとぶつかった相手は・・・バーナビーさん。
私は自分が泣いているのを思い出し
すぐさま顔を横に背けた。
「どうか、しましたか?」
私の表情に気づいたのか、彼は手を差し伸べてきた。
ダメ・・・この手を握ったらまた勝手に能力が発動するかもしれない。
この人を傷つけてしまうことになる。
出来ない・・・この手を今握るなんて・・・―――――――。
「・・・ごめんなさいっ!」
「さん!!」
差し出された手も握らず、私はその場から走り去った。
これ以上、これ以上誰も誰も傷つけたくない。
私の能力で誰かを殺してしまうところなんて、見たくない。
私は怖い気持ちを掻き消すように走り続けた。
息が切れそうでも、足が痛くなろうとも。
「あ、おい!?・・・か?!」
ふと、聞き慣れた声に足が止まる。
息が切れて・・・呼吸をするのも精一杯。
だって、涙も溢れてて止まらない。
「?俺が・・・分かるか?」
「タ、タイガーさん・・・ッ」
振り返ると、タイガーさんが居た。
最初はホッとした表情を見せていたけど、すぐにその表情は消えた。
私が泣いているから。
「・・・どうした?」
「っ・・・」
「っと、おい・・・」
私はタイガーさんの所に駆け、抱きついて・・・泣いた。
溜め込んでいた恐怖心がタイガーさんを見た途端溢れ出てきた。
「ごめんなさい・・・・ッ、ごめんなさい・・・ッ」
「。・・・・怖かったんだなお前。悪いな、気付いてやれなくて」
私の言葉にタイガーさんは頭を優しく撫でてくれた。
自分で何のことで謝っているのか分からなかったけど
タイガーさんはただ「俺のほうこそごめんな」と優しく言って
泣き続ける私を宥めてくれたのだった。
「気をつけなければいけないかもしれない・・・・という子には」
必ず僕が暴いてみせる。
さん・・・君という存在を。
All that glitters is not gold.
(”人は見かけによらぬもの“皆何か、秘密を隠して生きている)