私は1人暗い路地裏で膝を抱えて泣いていた。
体中に雨が当たってるけど
今は恐怖から逃れることが精一杯で、何も考えたくなかった。
「ひっく・・・ぅ・・・・」
泣いてて、ふと膝を抱え込んでいる腕を見る。
「・・・血が、出てる・・・」
いつの間にか、右腕の制服の袖を赤い液体で汚していた。
匂いからして血液臭。
いつこんな怪我をしたのだろうと思いながら、ようやく感じる痛みに
私はポケットの中に入れていたハンカチを取り出し
袖を捲り、怪我をしているところに何とか巻きつけた。
「・・・ハァ・・・・・・痛いよぉ・・・・」
巻き終わり、空を見上げる。
今更感じる痛みに、涙が零れてきた。
腕の怪我も痛くて・・・心も痛い。
路地裏で一人ぼっち・・・きっと、誰も・・・見つけにきてはくれない。
バーナビーさんが・・・私のこと、皆にきっと喋ってると思う。
だから、だから・・・誰も私のことなんか。
そう思っているとポケットに入れていた携帯電話が振動で私に電話着信を知らせていた。
私はそれを取り出し、耳に当てる。
「もし・・・もし」
『!俺だ・・・分かるか?』
「タ、タイガーさん・・・ッ」
電話の相手はタイガーさんだった。
あの人の声を聞いただけで涙が、滝のように零れて
言いたい言葉を塞き止めていた。
『何処だ?お前今どこに居る?!』
「が、街頭・・・モニターの・・・・・・路地裏・・・」
『分かった。いいな、其処動くなよすぐ迎えに行ってやっから。それと着信音を入れとけ』
「ぇ?」
『電話鳴りっぱなしにさせるんだよ。すぐ迎えに行くから待ってろ』
「は・・・はぃ」
一旦通話が切れて、私は言われたとおり着信音を入れた。
すると、入れた途端電話が鳴る。
甲高く規則正しい機械音が路地裏中に鳴り響く。
雨の降りしきる中に響くこの音は、何だかとても苦しい。
空を見上げていると、足音が聞こえてきた。
私はゆっくりとそちらを見る。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・」
「っ・・・タ、タイガー・・・タイガーさんっ!」
タイガーさんが息を切らしながら、電話を切った。
私はその姿を見た瞬間、立ち上がり駆け寄り・・・小さく声を出して泣いた。
タイガーさんの体は雨で濡れてて冷たいのに、どこか温かい。
「何で急に居なくなった?心配したんだからな?」
「ごめんなさい・・・ごめんなさい。・・・急に火が、出て・・・怖く、なって」
「急に火が?・・・・・・・・そうか、怖かったんだな」
タイガーさんは私の雨で濡れた頭を優しく撫でてくれた。
この人の優しさに触れるだけで、怖いことから少しずつ解放されていく。
完全とは行かないけれど・・・・とても怖い思いをするよりは全然マシ。
「・・・お前、怪我してんのか?」
「・・・気づいたら、何か・・・こうなってて」
「出血が酷ぇみてぇだから、病院に行くか。お前を最初に診てくれた先生ん所に」
「・・・・・・はぃ」
そう言って肩を抱いてもらい、タイガーさんはタクシーを拾って
私と一緒に病院へと向かうのだった。
病院に着くと私はとりあえず怪我の処置からしようと
言われ、看護婦さんと一緒に別の部屋へと連れて行かれた。
最初は怖かったけど、タイガーさんが「先生の部屋で待ってるから行って来い」と
促してくれて私はその言葉に安堵して看護婦さんと別の部屋に向かった。
「・・・もしかしたら、能力の加減が原因かもしれませんね」
「能力の加減?」
俺はを病院に連れてきた。
腕が血まみれだったから病院につれてくるつもりではあったが
何故、を最初に見せたところに来たのかと言うと、気になったからだ。
の言っていた「急に火が出て」という所がどうも引っかかったから。
主治医にから聞いた言葉を掻い摘んで伝えると
しばらく考え込み、返答が来た。
「確かに娘さんは、テレキネシスとパイロキネシスという2つの力を持った非常に珍しいNEXTではあります。
ただ、その能力の力加減によって・・・体への何らかの反動が来ているのかも知れません」
「えっと、つまり・・・・・・どういうことなの?」
意味が良く分からず俺は問いかけた。
「だから、基本的に能力者の方々はバーナビーやワイルド・タイガーのように時間制限のある能力があったり
また、時間制限の必要のない能力があったりとします。それはお分かりになりますよね?」
「えぇ、まぁ」
まぁ、確かに俺とバニーは5分間しか能力使えないし。
他のやつ等は確かに時間制限がなく、使いたいときに使える能力ばかりだ。
「ただ、娘さんの場合は・・・・能力の力加減によって、体に何らかの負担がかかるタイプの子かもしれません。
今回はパイロキネシスを無意識で発動させたと考えて・・・例えば、力が10ある内の8、それか9の力を発動させたとしましょう。
その力の反動で、体のどこかに代償が現れたと思われます」
「じゃあ、腕の怪我は」
「能力の反動でしょうね。力が弱ければ弱いほど、体への負担はないと思われます。ただ、強い力を発動させるほど
能力の反動が体へと現れてくるのでしょう。今回の腕の怪我はそうかも、としか考えるほかがないでしょう」
の能力は、俺達と同じ・・・いや、違う。
アイツの能力は、アイツや俺とアニエスが思っているほど
とても恐ろしい能力なのだと気づいた。
「本当に娘さんは珍しいタイプのNEXTですよ。2つの能力を持ち、力加減で体への負担が来るという。
今までにないケースの方ですね。しかし今回は腕の怪我だけで済みましたが、今後は気をつけてください」
「え?・・・ど、どういう」
医者がカルテを書きながら俺にそう告げてきた。
どういう意味かも分からず、問いかけると
カルテを書いている手を止めて、俺を見る。
「まだ制御を上手く出来ない娘さんです。力加減が分からず能力を発動しすぎると、体への負担は
腕1本じゃ済まなくなりますよ?今は外傷的なモノですけど、これが度々続けば外傷的なモノだけじゃ済まなくなります。
あの子の命に関わることに発展しかねないんです」
「・・・・・・・・・・」
「とにかく2〜3日、検査のため入院をしてもらいます。よろしいですね、お父さん」
「・・・・はぃ」
「娘さんにはこちらから、説明しておきますから安心してください。でも、これだけは覚えておいてください」
『お子さんの能力は”時に死と隣り合わせな能力“であるということをお忘れなく。
娘さんを想っているのでしたらどうか、ご理解ください』
医者の最後の一言は、俺の心に重くのしかかった。
とりあえず、アニエスたちに連絡は入れてこちらに向かっている。
アイツには来たときにでも話すとして、俺はとにかく
が居る病室へと向かった。
「・・・入るぞ」
「はい」
病室に入ると、が病院着を纏いベッドに座っていた。
右腕には包帯が何重にも巻かれているのが見えた。
俺はの隣に来て、小さなパイプ椅子に座る。
「腕は大した怪我じゃなくてよかったな」
「はい。ただ出血が酷かっただけで、怪我自体はそんなになかったみたいです。
でも、いきなり入院とか言われてビックリしちゃいましたよ。疲れてるみたいだから2〜3日は入院って」
「まぁ医者もお前が疲れてんの分かったんだろ。良い機会じゃねぇか、休んどけよ」
「そうですね」
さっきまであんなに泣いてたのに、ホッとしたのか
の顔に笑顔が戻った。
俺もコイツの顔を見て、安心はしたがやはり能力のコントロールは教えたほうが良いのかもしれない。
の命に関わることなら。
「大丈夫なの!?」
「!?」
「さん、大丈夫!?」
「アニエスさん、カリーナ、パオリン・・・それに皆さん」
すると、病室の扉が勢いよく開く。
そこからアニエスやブルーローズ、ドラゴンキッド・・・その他のヒーロー達が
一同にこんな場所に介した。
「お前ら・・・全員で押しかけてくんなよ」
「急に飛び出していったおめぇも心配だったんだよ」
「そうだとも!こんな雨だから、君が君をちゃんと見つけ出すのかどうかが」
「おい」
俺って何?そんなにが見つけられるかどうかを心配されてたのかよ。
「もう、もうのバカバカ!!何で急に居なくなったりするのよ!!心配したんだからっ」
「ご、ごめんねカリーナ。でももう大丈夫だから」
やっぱりブルーローズとは仲が良いのか、は優しい表情をしていた。
だが、が扉のところに目を向けると
優しい表情が消えて、みるみるうちに青ざめていく。
扉のほうに目を向けると、扉の近くに・・・バニーの姿。
「おい、バニー・・・何んなトコに突っ立ってんだよ。こっち来いって」
「え・・・あ、いや・・・で、でも」
「来ないで」
「お、おい?」
「、どうしちゃったの?」
ふと、の口から拒絶の言葉が出てきた。
あまりに想像もしなかった言葉に誰もが驚きの表情を見せていた。
「こ、来ないで・・・来ないでください」
「お、おい・・・なんでバニーだけ」
に近づき、理由を聞こうとすると
俺に抱きついてきて、バニーの顔を完全に見ようとはしなかった。
「来ないで、ください・・・・出て行ってください」
震える声では、そう言う。
俺がその言葉を聞いてバニーを見ると、アイツも言葉が心に刺さったのか
言いたい事を飲み込んで、苦しそうな表情を浮かべていた。
「バーナビー・・・ちょっと外に出ましょう」
「アニエス」
すると、アニエスがバニーの肩を叩いて外に出るよう促す。
それにバニーは小さく「はい」とだけ返事を返した。
「ミスター鏑木、後で話があるから。が落ち着いたら外に来て」
「わ、分かった」
俺にもそう伝え、アニエスはバニーと外に出た。
は、バニーに何か恐怖心を持っている。
それだけは何となく・・・分かった。
最初は、バニーと握手してニコニコしていたのに、何で急にアイツのこと怖がってんだ?
とにかく、が落ち着くまで側に居てやろう。
アニエスにも、の事を話してやらなきゃならないが
今はとにかくを落ち着かせることが先決だと思い、怖がるを宥めるのだった。
Tears from the hardest heart.
(”鬼の目にも涙“王者が見せた、過ちの表情)