「〜お見舞いにきたわよ」
「僕もいるよー!」
「お嬢、元気にしてたかしら?」
「カリーナ、パオリン、ネイサン」
入院して3日。
本来なら退院してもいい頃なんだが
まだ少し心が落ち着けない私は、退院を伸ばしてもらった。
「いつ退院できるの?」
「まだ分からないの。ごめんね」
「早く戻ってきてよー!僕、さんと色々話がしたいんだよ」
「うん、分かってる」
「無理言わないのドラゴンキッド。お嬢にだって色々事情があるんだから、ねぇお嬢」
「そう、ですね」
これでも大分落ち着いてはいるほう。
だけど、またいつ能力が勝手に出るか分からない。
もう少し心を落ち着ける時間が必要だ。
じゃないと、また・・・人を傷つけてしまう。
「ね、ねぇ。花、綺麗ね・・・誰が持ってきてくれてるの?」
「え?」
私が考え込んでいると、カリーナがベッドサイドの机の上。
其処に置かれた花瓶に入っている花を見る。
私もそちらの方を見た。
「あ、もしかしてタイガー?」
「うぅん。タイガーさんじゃないの」
「あら?だったら・・・誰が?」
「それが・・・」
「さん、入りますよ?」
すると、病室の外から看護婦さんの声が聞こえてきた。
私は「どうぞ」と返事をすると、自動ドアが開き白衣を着た看護婦さんが入ってくる。
その手には花束を抱いて。
「はい。今日の花束」
「ありがとうございます」
「いつもの人からよ。今日、元気が無くて退院が延びたことを言ったら”じゃあ明日また来ます“って」
「そう・・・ですか」
看護婦さんから花束を受け取り、言葉を返した。
「じゃあ、明日また来ると思うから持って来るわね」
「いつもありがとうございます」
「どっちへのお礼かしらね?私かしら?それとも、花束をくれてる人かしら?」
そう言って看護婦さんは部屋を後にした。
私は花束を見つめる。これで3日連続だ。
「うわぁ〜すご〜い」
「綺麗な花束」
「お嬢、これ誰からの花束なの?」
「それが・・・私、知らないんです」
『え?』
私の言葉に、3人が驚いた表情を見せた。
花束をくれている相手を私は知らない。
ただ入院した日から、昨日、そして今日と・・・3日連続で私に
名前も教えてくれない人が花束を贈ってきている。
「私・・・知らなくて。看護婦さんに聞いても、名前は教えないでほしいって言われてるらしいんです。
お礼を・・・直接言いたいのに。それでも相手の方が、ダメだって」
「ねぇ、もしかして」
「それってさぁ」
「かもしれないわね」
「え?・・・な、何が?」
私が花束を贈ってくれている人のことを話すと
カリーナたちはお互い顔を合わせて、何かに気づいたらしい。
しかし、私は何のことだか。
「気づいてないの、?」
「え?」
「此処に唯一来てないのが1人いるじゃん」
「え?」
「私達や、タイガー、折紙、スカイハイ、ロックバイソン・・・他のメンバーは皆来てるのに。
1人だけ、此処に・・・アンタの目の前、むしろこの病室に入ってない奴が1人だけいるじゃない」
カリーナたちに言われて、目に浮かんだ人物が居た。
「バーナビー・・・さん」
そう。
彼だけが、此処に姿を現していない。
タイガーさんが仕事の合間、此処に来ると
「外にバニーも居るんだけど、アイツ入ってこれないみたいで」って言ってた。
何で?と問いかけるとタイガーさんは笑って「バニーの奴緊張してんだ」って言う。
けど本当はそうじゃないって、私だけじゃない・・・タイガーさんもバーナビーさんも気づいている。
それはあの日・・・私が、あの人を拒絶してしまったから。
でも、なんで・・・バーナビーさん、私なんかに花束を?
「・・・あのね」
「カリーナ」
すると、カリーナが私の手に自分の手を重ねてくれた。
「の事・・・私達アニエスさんから聞いたの。お家の事とか、嫌な思いしたとか」
「え?私達って」
「タイガーを除いた、僕達ヒーロー全員。アニエスさんからさんのこと、聞いたんだ」
「最低な男が居たもんね。血の繋がりがなくても親子なのに、こんな可愛い娘に怖い思いをさせるなんて」
皆、アニエスさんから私の話を聞いていて
私自身驚いていたけど、口ぶりからして・・・アニエスさん、能力のことは話してないみたいだった。
能力の事を離してしまえば、私が余計皆を引き離してしまうかもしれないと思っての
アニエスさんなりの配慮なのだろう、と思っていた。
「もう!何でもっと早くにそういう事、言わないのよ!」
「カ、カリーナ?」
カリーナは涙を浮かばせながら私に強く言う。
あまりのことで私は目を見開かせ驚いていた。
「ア、アンタね・・・昔っからそうよ!他人を傷つけたくないからって、何でも自分ひとりで背負い込んで。
頼ってよ、辛いときはツライって言っていいし、寂しいときは寂しいって、助けてほしいときは助けてって
ちゃんと・・・ちゃんと言いなさいよ。心配・・・心配したんだからっ」
「カリーナ」
カリーナは顔を伏せ、泣いていた。
彼女の零した涙が白いシーツの波に零れ、灰色のシミを作っていた。
私は彼女の手の上に自分の手を重ねた。
するとカリーナは涙を頬に伝わせたまま顔を上げて私を見る。
「ごめんね、カリーナ」
「っ・・・うっ・・・のばかぁあ!!」
そう言いながらカリーナは私に抱きついてきた。
花束を間に挟ませて苦しい抱擁だけど、とても温かかった。
「皆・・・お嬢の事心配してるのよ。もちろん、ハンサムもね」
「バーナビーさんが?」
「僕、聞いちゃったんだ。バーナビー・・・アニエスさんからこの話聞き終わって凄く驚いた顔をしてたんだ」
「え?」
「それで、こんなこと呟いてたんだよ」
『僕は・・・なんて事を・・・』
パオリンから聞いた言葉に、心臓が酷くしめつけられた。
じゃああの日・・・皆、私の話を聞いて。
バーナビーさんも・・・私に、何か言いたくて・・・・。
「バーナビー・・・何か理由があるから、部屋に入ってこないんだろうし。
にこうやって・・・花束を、届けにきてるんじゃないの?」
「理由が・・・」
カリーナの言葉に、私は呆然とした。
「さんと話がしたいんだよバーナビー」
「ハンサムは自分が悪いことをしたと思ってるからこういう形でしか、今は謝罪が出来ないと思うのよね」
「バーナビーはに何か伝えたいのよ。・・・アンタだって、本当は貰ってばかりで
花束をくれてる人に、お礼が言いたいんじゃないの?」
『アンタが応えてあげたら、バーナビーだって応えてくれるから』
カリーナたちはトレーニングがあると言って戻ってからのこと。
私は窓の外を見て色々と考えていた。
私が応えたら・・・あの人も、応えてくれるだろうか。
でも、怖い・・・怖いけど、いつまでもジッとしたままじゃ・・・いられない。
私はカバンの中から筆箱と紙を出して、行動を起こすことにした。
「看護婦さん」
「あら?どうしたのさん」
私は紙に書いた文を小さく折りたたんで、ナースステーションへとやってきた。
「コレ・・・明日、花束を持ってくる人に渡してください」
「え?」
「私明日・・・検査なので」
「そう。分かったわ・・・必ず渡しておく。お花はお部屋に置いておくわね」
「よろしくお願いします」
会釈をして、私は部屋へと戻った。
読んでくれるだろうか、読んでもらえたら・・・いいな。
-----次の日。
「すいません」
「はい。あ、おはようございます」
「おはようございます。これ・・・さんに渡してもらえますか?」
今日も僕は彼女の入院している病院に赴き
ナースステーションに花束を渡してもらうようにする。
今の僕にはコレしか出来ない。
拒絶されてしまったから、直接花束も渡すことは出来ない。
だけど・・・何かせずには居られない。
少しでも元気付けば・・・そういう意味で、毎日毎日花束を買っては
さんの病室へ届けてもらうよう看護婦に頼んでいた。
「はい。あ、そうそう・・・さんが貴方に渡してくれと、手紙を預かってますよ」
「え?」
いつものようにそのまま帰ろうとしたら、さんから手紙を預かっていると言われ
小さく折りたたまれた紙切れを渡された。
僕は戸惑いながらもそれを受け取る。
「今日、さん検査なので病室には居ないんですけど・・・検査の結果がよければ
今週中にも退院できるそうです」
「分かりました。身内にはそう伝えておきます」
「はい。明日も来られるんですか?」
「そのつもりです、では」
そう言って僕は病院を後にした。
車に戻り、先程渡された折りたたまれた紙切れを開く。
そこに書かれていた文に、僕は驚きを隠せず戸惑うも
僕はハンドルを握りアクセルを踏み込んだ。
『いつも花束をありがとうございます。直接お礼が言いたいので
明日・・・私の病室に来てください。何時でも構いません、お待ちしております ・』
Strike while the iron is hot.
(”鉄は熱いうちに打て“好機を逃してはきっとダメなんだと、手紙を見て思った)