アレからというもの。
僕はさんを何かとフォローすることにした。

それは、僕がさんを傷つけた罪を償う意味でもあったし
ただ純粋に彼女の笑顔が見たいと、ただそれだけを思っていた。







「うーん」


「タイガーさん、分かります?」


「いや、さっぱり分からん」



「どうしたんですか、2人とも深刻そうな顔をして」





とある日。

トレーニングルームの休憩室でのこと。
虎徹さんとさんが肩を並べて、なにやら深刻そうな顔をしていた。

2人のあまりの表情に僕は近づく。





「お!そうだ。、バニーに教えてもらえ・・・こいつ頭良いから」

「え、あ・・・で、でもっ」


「あの、僕の話聞いてます?どうかしたんですか、と聞いてるんですけど」






僕の会話の介入をスルーするかのように、虎徹さんとさんは会話を続ける。
あまりのワケの分からなさといきなりのスルーに僕は少々苛立ちながら言う。






「いやな。コイツが学校の勉強分かんないっていうから、教えてやってんだけど・・・俺勉強とかからっきしだからさぁ」



「そうですよね。虎徹さんって体力だけが取り柄ですからね」



「余計なお世話だってーの!」



「ウフフフ」






僕と虎徹さんの会話にさんが小さく笑う。
その声に僕らは彼女を見た。・・・いや睨みつけるとかそんな意味じゃなく
ただ純粋に目を見開かせ驚きながら。

僕らの視線に気づいたのか、さんは急に笑うのをやめ
顔を赤らめ口を押さえた。






「え?・・・あっ、ご、ごめんなさい。笑うとか失礼でしたよね」


「い、いや〜・・・お、お前が笑うなら構わねぇよ。なぁバニー」


「え?・・・えぇ、そうですよ。僕らのやりとりなんていつもこんな感じですから」


「そうなんですか?でも、何か急に笑っちゃって悪いですよね、ごめんなさい」





そう言いながらさんは笑みを浮かべ謝罪をした。

場が和んだところで、本題に戻すとしよう。






「それで、勉強が分からないと?」


「タイガーさんに聞いてたんですけど、タイガーさんも分からなくて」


「僕の知識で解ける問題か分かりませんが、見せてください。あ、隣座っても大丈夫ですか?」


「えぇ」





さんの承諾を得て、僕はさんの隣に腰を降ろし
机の上に広げられた問題に目を通す。

少し問題を見て、頭の中で考え・・・・・・。






「あ、ペンをお借りしても?」


「わっ、す、すいません気づかなくて。どうぞ」





ペンを借りて、問題をスラスラと解いていく。
問題の答えが出ると、僕はため息を零しペンで問題をなぞる。






「こう考えた方が、簡単かもしれませんね。この上の通りの数式で解いてしまうと
逆に頭の中が混乱して余計問題を理解することができなくなります」


「あ、そう・・・なんだ」


「僕が考えた数式のほうがまだ分かりやすいかもしれません。やってみてください」


「は、はい」





さんはペンを握り、僕の解いたやり方で
問題を解き始める。ペンはノートの上を軽快に走り数分と経たずに問題を解き終えた。





「うわ、出来た」


「お、出来たか?」


「はい!ありがとうございますバーナビーさん!!このやり方のほうが凄く解きやすいです」


「それはよかった。お役に立てて僕も嬉しいです」


「よかったなぁ〜






さんは笑いながら僕に感謝の言葉を投げかけてくる。

彼女の隣に座る虎徹さんは喜ぶさんの頭を撫でて
それにさんが満面の笑みで返す。


その光景を見て、何だか胸が痛くなった。

そう、まるで針が心臓を何度も小さく突き刺すように。


何だろう・・・気持ち悪い。







「虎徹さん、そろそろトレーニングに行きませんか?さんは勉強していることだし」


「お、そうだな」





得体の知れない気持ちと気持ち悪さに
僕は虎徹さんにトレーニングに行くよう誘う。

するとかの人は思い立ったように僕の声に賛同した。





、もう大丈夫か?」


「はい。お2人ともすみません足止めをさせてしまって」


「いいって、なぁ」


「はい。さん、勉強で困ったときは虎徹さんじゃなくて僕に聞きに来て良いですからね。
虎徹さんには何時間経っても分かる問題は無いんですから」


「お前は一言多いんだよ!!」





いつも通りのやりとりをすると、さんは笑いながら
「そうですね」と答えた。

この笑顔を見たら、先程まで心を突き刺していた針の痛みが消えた。





「じゃあ、勉強頑張れよ」


「はい。お2人もあまり無理をしないでくださいね」


「えぇありがとうございます」





そう言って僕と虎徹さんは部屋を出た。
トレーニングルームに向かうまでの廊下で歩きながら
虎徹さんは帽子を取る。







「最近、お前に優しくなったな」






帽子を取って歩く虎徹さんが僕にさんに対しての態度を言ってきた。

僕は笑みを浮かべながらため息を零す。





「虎徹さんほどじゃないです」


「いやいや。前のお前のに対しての態度に比べたら・・・進歩したって」


「ただ、僕は・・・償っているだけです。あの子を傷つけた罪を」


「バニー」






彼女の深い心の傷に、僕は触れてしまい。
最悪的なことに新しい傷を増やしてしまったのだ。

おかげで、さんは僕を拒絶して・・・怯えていた。





さんと仲直りをしたとき、自分に誓ったんです。もう二度と彼女を怯えさせないって。
彼女を傷つけてしまったのは僕です・・・だから、少しでもあの子のために何かしてあげたいんです。
それが・・・僕がさんを傷つけた罪の償いになればと、思って」



「でも、はそんなこと多分考えてないと思うぜ?」



「え?」






僕は虎徹さんの言葉に驚きの声を上げた。




のさっきの顔見てなかったのか?アイツ、お前が教えてくれてすっげぇ喜んでたじゃねぇか。
罪の意識とかそんなのには無いと思うぜ。がいつお前に自分を傷つけた罪を償えって言った?」



「・・・・・・」



「言ってねぇだろ?だったら、傷つけた罪を償うとかそんなのナシにして、に接してやってくんねぇかバニー。
アイツはアイツで・・・お前とは違ってるけど、色んなモン背負って生きてるんだ」



「虎徹さん」



「頼むぜ相棒」







虎徹さんは僕の肩を叩いて、トレーニングルームに先に向かう。
僕はその場に立ち尽くし言われた言葉を考える。



傷つけた罪の償いも関係なく・・・彼女と接する。




僕にそんなことが、できるのだろうか?







トレーニングを一通り終え、僕は再び休憩室に戻る。
虎徹さんは相変わらず「まだやる」とか言いながら続けていた。


休憩室に続く扉が開くと、さんがカバンに教科書やノートを入れていた。





「あ、バーナビーさん」


「勉強は終わりましたか?」


「はい。バーナビーさんが教えてくれたおかげでもうバッチリです!ありがとうございます」


「どういたしまして」





さんにお礼を言われると、何だかこっちまで喜びが止まらない。

カバンを肩に下げ、彼女は帰り支度をする。






「もう帰るんですか?」


「帰って夕飯を作らなきゃ。アニエスさんも一旦帰って仕事に戻るし、その夜食とかも作ってあげなきゃなんで」


「そうですか。・・・・・あの、さん」


「はい?」






罪を償うという意識もなく、ただ彼女に自然と接することが出来るのなら―――――。










「息抜きにドライブ、行きませんか?」



「え?」







僕にもう少しだけ、勇気をください。


彼女が喜んでくれる・・・僕がただそれだけの喜びを満たすための存在だとしても。















「うわぁ〜凄く綺麗ですね!」


「この時間帯は夕陽が綺麗ですからね、丁度良かったです」












トレーニングルームの休憩室を抜け出し
車を走らせ、夕陽が沈みそうな海辺にやってきた。

潮風が肌に触れ、嗅覚に潮の香りを運んでくる。








「綺麗ですね!私、シュテルンビルドにこんな場所があるなんて知りませんでした」



「此処は僕の秘密の場所です。虎徹さんも多分知らない場所です」










正直、此処は・・・あの場所が近い。

そう、死んだ両親のお墓の場所が近いところにある。
簡単に言えば目と鼻の先・・・そんな場所に僕はさんを連れてきた。

虎徹さんはおろか、多分僕しか知りえないこの場所。



砂浜を歩いていると、夕陽を見ていたさんが僕を見つめていた。







「どうかしましたか?」



「どうして、そんな場所を私に教えたんですか?」







問いかけられた言葉に、僕は空を仰ぎ
体中に潮風を当てて―――――。









「此処なら誰にも邪魔をされたりしません。休息をするには一番良い場所です」



「バーナビーさん」



「僕は君の力になりたい・・・君を救うだけの力が僕にあるかどうか分かりません。
それでも・・・君を助けたいと、思うのはいけないことでしょうか?」







確かに、僕は彼女を傷つけた罪は重い。
それでも・・・何かしてあげたいと、何をすればいいのか、と思うばかり。

傷を知ってしまった今・・・僕に出来ることを、教えて欲しい。






僕がそう訴えると、目の前のさんは笑みを浮かべ――――――。






「そう、言っていただけるだけで本当に嬉しいです。私のほうがご迷惑を掛けているのに」



「そんな。僕の方こそ・・・君を、傷つけてしまって・・・」



「もう大丈夫ですからバーナビーさん」



「でも、さん」



「皆さんが今までどおり変わりなく、私に接していただけるだけで・・・それだけで、いいんです。
私はそれだけで、幸せです」



さん」






本当に些細な願いだった。

彼女の些細な願いを・・・僕は叶えられるだろうか?
いや、叶えてあげなきゃいけない。






「バーナビーさんがこんな素敵な場所に連れて来てくれて凄く嬉しいです。ありがとうございます」


「いえ。いつでも言ってください・・・さんが来たいというなら、いつでも連れて来ます」


「はい」






僕の言葉にさんは本当に嬉しそうに答えた。
コレが彼女の願いというのなら・・・僕は喜んで、その願いを叶えてあげるまで。

それで、さんが・・・幸せになるのなら。








「!・・・あ、電話だ。すいません」


「構いませんよ出てください」





急にさんが微動した。
するとどうやら携帯からの着信だった。彼女は急いでポケットから
携帯を取り出し電話に出る。







「もしもし?・・・あ、タイガーさん!」








--------ズキッ。





さんの電話の相手は虎徹さん。

彼女の口から、虎徹さんの名前が出た瞬間・・・胸が酷く痛み出した。
しかも・・・先程よりもっと酷い、針で刺されるとかそんなレベルじゃない。
どう表現して良いのか、分からないくらいの痛みがくる。



胸に手を当てると、引き裂けそうな・・・・・音が耳に聞こえてくる。





「今ですか?バーナビーさんと一緒です。息抜きにドライブ連れて来てもらってるんです。
え?アニエスさんが?・・・やだ、いけない私ったらっ!す、すぐ帰りますね!!」




するとさんが慌てて電話を切る。






「すいません、バーナビーさん。私お家に帰って色々と準備しなきゃいけなかったんでした」



「あ・・・そ、そうですよね。すいません、変に足止めをしてしまって」






彼女に言われて僕は我に返る。
そうだ・・・彼女には待っている人がいたんだった。

これ以上アニエスさんを待たせてしまえば、連れ出した僕が怒られてしまう。





「じゃあ戻りましょうか」


「すいません」


「いいえ、急ぎましょう」


「はい」





そう言って僕とさんは車まで駆けた。

胸の痛みはまだ痛くて・・・どうすればこの痛みが消えるのか分からなかった。
そもそも・・・この痛みは一体、何なのだろうか?



Pain

(ワケの分からない痛みに困惑する僕だった) inserted by FC2 system

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