人を好きになるのが、こんなにも幸せで
その反面こんなにも苦しいものだと・・・僕は初めて知った。









「バ、バーナビーさん」


「何ですか、さん?」







トレーニングルームの休憩室で
携帯でスケジュール管理をしていると、さんが
何やらノートを持って僕の元に来た。

僕は携帯を閉じて、すぐさま彼女を見る。







「何かありましたか?」



「お忙しく、ないですか?」



「今のところは」



「分からない問題があるので、教えて欲しくて」



「いいですよ。隣に座ってください、教えてあげます」





快く引き受けるとさんは嬉しそうに
僕の隣に座った。

そんな彼女を隣で見て、心臓が優しく鼓動していた。


自覚するには、少し戸惑いながらだが時間は掛からなかった。






「何処ですか?」



「ここ、なんですけど」






分からない問題に指が行く。

僕の視線は問題よりも、どうやら彼女の指に向いていた。
分からないところが何なのかが声に耳を傾けるも、僕は話半分。
さんの顔を見つめていた。


幸せだ。


多分、こんな気持ちはアカデミーで片想いをしていた気持ち以来だろう。
いや・・・もしかしたら、それ以上に勝っているかもしれない。




それくらい・・・僕は今、彼女に恋をしている。






「バーナビーさん?」



「え?あ、はい」





ふと、さんと目線が合った。







「あの・・・話、聞いてました?」



「え?・・・あ、す、すいません。考え事をしてたもので」







思わず我に返る。
しまった・・・今は彼女の学校の問題を
教えてあげている最中だったんだ。僕は考え事と言葉を濁して謝罪をする。






「いえ、大丈夫ですよ」



「本当にすいませんさん。問題は、此処ですか?」



「え?ちゃんと聞いてたんですか?・・・やっぱり凄いですねバーナビーさんは」






僕がさんが問いかけていた問題に
指を差すと、彼女は驚きながらも笑みを浮かべ言った。

こんな風に言われて、嬉しいと思ったのは・・・・何年ぶりだろう。


何だかさんに言われただけで照れてしまう。



これが、恋をする幸せなんだろう。








だけど、反面・・・・苦しいこともある。









「お?なーにやってんだ、二人で」



「あ、タイガーさん!」






虎徹さんがやってきた。

彼が来た途端、さんの表情が明るくなる。
そう・・・眩しいくらいに。


虎徹さんはさんの頭を撫でながら、机を覗き込んでくる

その姿を見るだけでなんだろう・・・胸が痛い。





「またバニーに勉強教えてもらってたのか?」



「バーナビーさんのほうが学校の先生の説明より分かりやすくて」



「だとさ。バニー?・・・おい、バニー?」



「え?」






虎徹さんに声を掛けられ
瞬(まばた)きを数回し、僕はため息を零した。






「どうした?」



「いえ、何でもないです」



「具合悪いんですか?」



「大丈夫ですよ。さぁやりましょうか」





気を取り直して僕はさんの勉強を見てあげることにした。



恋をすると、幸せな反面苦しい。

想いを告げていないなら尚のこと、そして彼女の一番の笑顔が
僕の側じゃなくて、誰かの側で咲いていることが何よりも痛く、何よりも苦しい。


僕は、さんを想っているが・・・虎徹さんという人に勝てる自信がない。












「・・・はぁ〜」



「どうしたの、バーナビー?」


「この前からため息ばっかりだね」


「ハンサム悩み事?」



「皆さん」




ある日、僕がため息を零していると
トレーニング上がりのブルーローズさん、ドラゴンキッド、ファイヤーエンブレムさんの3人に声を掛けられた。







「悩み事、というか・・・悩み事、ではあるんですけど」



「え?何?・・・も、もしかして」


「ハンサム、恋の悩み?」


「・・・・・・・」





ファイヤーエンブレムさんの言葉に、僕は顔を横に背けた。






「うっそー!!誰だれバーナビー!!」


「そ、そんな言えるわけないですよ!」


「見る限りに、一般人ね。どういう子なの?」


「あ、あの・・・で、ですから」



「ハンサム、もしかして・・・・・・相手はお嬢?」






ドラゴンキッドやブルーローズさんの質問には答えるつもりが無かったが
またしてもファイヤーエンブレムさんの言葉に図星。

図星を突かれたから、僕は顔を伏せた。






「え?・・・、なの?」


「バーナビー・・・さんが好きなの?」



「い、言わないでください」







何度も言われると、正直恥ずかしい。
僕らの、身近にいる人だから・・・余計知られたら恥ずかしくてたまらない。





「お嬢のことで悩んでたのね、ハンサムぅ〜」



「悩まないほうがおかしいですよ」



『え?』





僕の言葉に、3人は驚きの声を上げた。






「別に告白とかそんなのを恐れているわけじゃないんです」



「じゃあ何だって言うのよ。怖くないんだったら、さっさと告白すれ」



「僕は虎徹さんのようにはなれないんです、さんの側に居ても」



「え?タイガー?」



「ど、どうしてタイガーなのよ」






僕は今まで心の中に仕舞いこんでいた想いを
外へと吐き出した。







さんは虎徹さんを凄く信頼しているんです。自分を助けてくれた恩義もあるし
傷ついた自分を理解してくれた・・・だからこそ、さんは虎徹さんに対して凄く、すごく」









眩しくて、優しい表情をする。




その表情を見るたびに、胸を締め付けられてしまう。
痛くて、痛くて・・・それでもその痛みに耐えるのは辛くて。

泣いてしまいたいほど、こんなに、キツイなんて・・・。









「僕は虎徹さんにはなれません、さんの側に・・・居てあげることしかできない。
あの子に・・・僕はあんな微笑を側で見つめてることしかできないんです。虎徹さんのように僕はなれない」



「なれなくて当然だし、それはそれで仕方ないことじゃない」



「もしかして・・・



「どうかしたブルーローズ?」






するとブルーローズさんが何か疑問に思ったのか言葉を零した。
零れた言葉をすぐさまドラゴンキッドが拾う。






「もしかしたら、・・・・タイガーに父親の影を重ねてるんじゃ」



「父親の、影?」


「え?・・・それって、事件の?」





ブルーローズさんの言葉に僕らは言う。







「違う違う。そっちは義理の父親、本当の父親はが5歳の頃に亡くなってるのよ」



「え?」


「亡くなってるって」


「病気なの?」




ドラゴンキッドが病気と問いかけると、ブルーローズさんは
少し表情を曇らせながら言った。








の本当の父親は・・・殺されたの。の目の前で」






その言葉にだれもが驚いた。


まるで、僕の味わった境遇に似ていた。
僕も幼い頃・・・父親と母親を殺された・・・殺した瞬間は見ていなかったけど
2人の体が床に転がっているのを見ていた・・・燃え盛る火の海になった、あの場面を。






を守るようにして、の父親は・・・殺されたの。犯人はすぐ捕まったんだけどね」



「じゃあ、さんは虎徹さんに」



「死んだ父親の影を重ねているのかもしれないわねお嬢。じゃなきゃ、あんな男に
べったりなんてしないわよ」





だからか?

だから、あの人にそんな表情をするのか?



死んだ本当の父親の影を重ねているから?



本当に、本当にそれだけなのか?








「わ、分からないからそれとなーくに明日聞いてみるわ!」



「頼んだわよブルーローズ!」


「そうだよ、バーナビーの恋の運命がかかってるんだからね!」



「任せて!バーナビー、アンタも悩んでないでアプローチなりなんなり考えなさいよ!」



「え?・・・え、えぇ」





彼女達はワイワイと騒いでいたが
僕の悩みはそう簡単に拭い去れることは無かった。

どこで、この気持ち・・・払拭すればいいんだ?

























「え?タイガーさんとバーナビーさんの印象?」



「そうよ!、よくあの2人と居るでしょ?特に最近バーナビーと居ること多いじゃない」



「うん。だって、バーナビーさん勉強教えてくれてとっても優しいんだよ。最初すごく
怖い人かなぁって思ってたんだけどホントは凄く優しいんだ。お兄ちゃんみたいで好きだよ」



「・・・え?そ、それだけ?」



「うん。あ、で・・・でもね、カリーナ」



「何?」



「ゎ、私ね・・・その、タイガーさんのことは・・・好き、なんだ。その、あの・・・男の人としてね」



「え?」





これはどうやら波乱の展開になりそうだと思うカリーナだった。




Detection
(発覚してしまった。どうやらコレは一方通行)
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