『悪いなバニー』


「いいえ大丈夫です。さんは今晩ウチに泊めます」


『アニエスには俺から上手い事言っとく。ホント、悪いな』


「いいえ。それでは」





僕は虎徹さんとの通話を切断した。

携帯を閉じ、寝室のベッドに眠るさんの隣に座り
眠っている彼女の頭を撫でた。



虎徹さんに大事な話があると言われて
何だろうかと思いながら、ブロンズステージにあるかの人の家に
向かう途中・・・さんが走ってきて
立ち止まり顔を伏せていた。

声を掛け・・・顔を上げた彼女の顔に僕は驚きが隠せなかった。







さん・・・・虎徹さんの家で、何があったんですか?」





涙を流して泣いていた。


そして、あの時は敢えて問いかけはしなかった。何があったのかと。
むしろ彼女から「何も聞かないでくれ」と言われ僕は聞くのをやめた。

泣き疲れた彼女をマンションへつれて帰り、そのままベッドに寝かせた。

タイミングよく虎徹さんから連絡が入り、理由を聞くも―――――。









『いや、急に飛び出して行ったんだよアイツ。用事があるとか言って』


「そうだったんですか」


『お前が来るって先に伝えとけばよかったかもな』


「すいません。僕が遅くなってしまったばかりに」


『いやいいよ。話はまた今度にしようぜ』


「はい」








虎徹さんもさんが何故自分の家を飛び出して行ったのか
分からないそうだ。


多分嘘ではないだろう、あの人がそんな上手い嘘をつくような器用な人じゃない。


虎徹さんが分からないなら、僕には多分もっと分からないことだろう。


さんの気持ちは、さん本人にしか分からないことだから。






「・・・んぅ」






眠っているさんを見つめていると
くぐもった声と共に目が薄っすらと開く。





「お目覚めですか?」


「バーナビー・・・さん?・・・あれ?私・・・」





さんは目を完全に開け、首を左右に振る。







「僕のマンションです」


「す、すいません。あの・・・何かお見苦しいところ、見せちゃって・・・」


「僕は何も見てませんよ」


「え?」


「僕は・・・何も見てませんから」






僕が笑顔で答えると、さんは弱弱しい笑顔を見せてくれた。

今の彼女には泣いた顔は似合わない。
少しでも元気になればと思い、僕は敢えて嘘をついた。

でもさん自身、僕が泣き顔を見たことは分かっている。
だけどあの時僕は「見てないフリをする」と言った。
小さな体を抱きしめたとき・・・僕はそう言うしか、彼女を救うことなんて出来ないと思っていた。





「明日も学校ですよね。眠れますか?」


「え?・・・あ・・・・何か目が少し覚めちゃって」


「じゃあちょっと待っててください」






僕は立ち上がり、キッチンへ向かう。

数秒して、手にあるモノを持って寝室に戻った。





「はいどうぞ」


「え?・・・あの、これ・・・」


「ホットミルクです。眠れないときはこれが一番ですよ」





ホットミルクの入ったコップ。

僕はそれをさんに渡した。
彼女はコップを躊躇いがちに受け取りながら、一口飲む。






「何だか・・・落ち着きます」


「それはよかった」


「バーナビーさんも飲まれるんですか?」


「えぇ。寝る前によく」


「え?・・・い、意外ですね。というか、ビックリです」





僕の話にさんが笑みを零した。

彼女が笑い出したから、僕は更に話を続ける。





「そうですか?自分では結構これで寝れてる方ですよ」


「ていうか・・・バーナビーさんとホットミルクって言うのが・・・何か組み合わせが・・・フフフフ」


「笑うところですか?」


「結構・・・ツボに・・・フフフ・・・意外すぎて・・・ご、ごめんなさい・・・」






ちょっと恥ずかしいことを言ってしまったと思ったが
彼女が笑って楽しんでくれているのならそれはそれで良しとしとこう。






「誰にも言わないでくださいね。虎徹さんも知らないことですから」



「・・・・・・・・」



さん?」






虎徹さんの名前を出した途端か?
彼女の表情が急に曇りだして、笑い声が止んだ。

それと同時にまた、泣きそうな顔をしている。






さん?」



「ご、ごめんなさい・・・・・せっかく、バーナビーさんが元気付けてくれてるのに」






やはりこの子が泣いてる原因は虎徹さんか。

何があったのかなんて聞かない。それは完全に自分にとってルール違反。
傷ついた心の隙間に入り込むのは・・・禁忌(タブー)だ。

自分が優位に立つためには、ちゃんとしたやり方でいかなければ。
きっとずっと、振り向いてくれることはない。








「ホットミルク、飲んで・・・今日はもう眠ってくださいさん」



「バーナビー、さん」







僕は彼女の頭を撫で、ただただ・・・泣き止むよう、そして眠るよう促す。







「君は色々と無理をしすぎてる部分が見受けられます。少しゆっくりした方がいいんですよ」



「あの・・・でも」



「それにこれからテスト期間に入るんですよね?ブルーローズさんから聞いてます。
大事な期間に入るというのに、今無理をしてしまったらテストが悲惨なことになりますよ?」



「・・・・・・・・・」



「だから今日はもう休んでください。僕のほうで色々と手は打ってますから」



「バーナビーさん」



「勉強も、分からないところは僕が教えてあげます。だから」








もう泣かないで欲しい。

傷ついた姿はもう見たくない。

心に傷を抱えて、またその傷を深めていく姿は見たくない。




ずっと、ずっと・・・笑っていて欲しい。




彼女の一番ではない、僕の言う言葉じゃないけれど。







「今日はもう休んでくださいさん」



「・・・ありがとう、ございます・・・」






僕がそう言うと、さんは精一杯の笑顔で答えた。

多分今はコレが限界の笑顔。
でも少しずつその辛さが、僕の頼りない力で和らいでいけば・・・また元に戻ると信じている。


あの、眩しい笑顔に戻ると信じて・・・。
















、何かあった?何か目の色変えて勉強してるんだけど」





テスト期間に入り、さんはまるで
何かを忘れるかのように勉強に没頭し始めた。

それに疑問を感じたのか、ブルーローズさんが僕や虎徹さんに問いかけてきた。







「特には、なぁ」


「え?・・・えぇ」







虎徹さんは思い当たる節がないが、僕にはあった。

多分・・・あの泣いた日を忘れたいがため
さんは勉強に没頭しているに違いない。


でも、虎徹さんが心配して声を掛けると
彼女は笑顔で「大丈夫です」と答えている姿を見かけたことがある。






「なら別にいいけどさ。何かホント、目の色変えて勉強してるから怖いのよね」


「それ言うくらいならお前も勉強しろ」


「アンタにだけは言われたくないわよ体力バカ」






そう言ってブルーローズさんはその場を去って行った。






「まぁでも最近確かにのヤツ・・・勉強してんな。何か知らねぇか、バニー?」


「え?・・・いえ、特には」


「そうか」







虎徹さんにも問いかけられたが、僕は「特には」とだけ答えた。

本当は知っている。
だけど、それを言ったところできっとさんがまた傷つくだけだ。

これ以上、僕は彼女の傷ついた姿なんて見たくはない。



でもあまり、詰め込みすぎると体に良くないことは分かっていた。







「(僕に・・・何が出来るかな)」






街を歩きながら1人で考える。

ふと、目に止まった・・・僕がぬいぐるみとして持ってるウサギのストラップ。

コイツなら・・・何か良い口実代わりになるかもしれない。
僕はお店の中に入り、すぐさまそれを購入。

それを持ったまま僕はトレーニングルームに向かう。

するとタイミングが良い事にさんがカバンに教科書類を入れて
帰り支度をしているところだった。







さん」


「あ、バーナビーさん」


「息抜きがてら、ドライブに行きませんか?」


「え?」







少しでも喋る口実が欲しい。

少しでも何か僕に出来ることがあるなら
僕は彼女のために何かをしてあげたい。


戸惑いながらもさんは承諾し、2人で・・・あの海へと来た。

相変わらず夕陽が沈みそうな風景。
太陽が海に溶けてなくなっていく。


さんは海から目線を話すことなく見つめる。

僕はそんな彼女を見つめ・・・・ポケットからあるモノを出した。





「コレを」


「え?・・・ウサギの、ストラップ?」


「勉強を頑張るお守りとして持っててください」







手のひらに乗ったウサギのストラップに、さんは恐る恐る近づけ手に取る。

僕は何もなくなった手で彼女の頭を撫でた。






「テストが終わったら、今度は遠くの海に行きましょう」



「え?」



「僕が連れて行ってあげます」



「で、でもバーナビーさん、お仕事が・・・」



「それくらい何とでもなります。テストが終わったら行きましょうさん。必ず連れて行くと、約束します」







僕の言葉にさんは戸惑うも、少し呼吸を置いて―――――。









「ありがとう、ございます」








頬に涙を伝わせながら僕にそう告げた。




何も出来なくて、歯がゆい。

傷ついた心をどう癒せば良いのか、分からなくて。
頭の中を試行錯誤繰り返し答えを見つける。


だけどそれが100%の答えじゃないから、余計歯がゆくてたまらない。




僕には、あの人のように彼女を完全に癒すことは出来ない。

だからこそ・・・もがいて、足掻いて、答えを見つけるしかない。
100%の答えにたどり着けるまで。



完全な答えが出たとき、僕らの関係はどうなっているのかなんて
きっと誰も知らないことだろう。


Nobodykonws
(誰も知らない、分からない。完全な答えが出るまで) inserted by FC2 system

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル