「終わった〜!」



「眠いー・・・もう此処で寝ちゃいそうだよ私」



「私も一眠りしたぁ〜い」






テストが無事終了。

後は結果を待つのみという状態だが、私とカリーナは
トレーニングルームの休憩室のソファーに体を預けて、学生の宿命という地獄からの呪縛から解き放たれていた。





「一眠りしたいって、既に寝転んでるじゃないカリーナ」


「もうこのまま寝て、ある程度したらトレーニングする〜・・・もう眠すぎて」


「その方が良いかもね。私も眠くてアニエスさんのお家に帰る気しないよ〜」


「だったら寝て帰れば?私多分起きるの早いし、私がトレーニング終わった頃に起こしに来るから」





ソファーに寝転がっているカリーナの言葉に
私は既にうとうとしながら聞いていた。





「で・・・でも、迷惑じゃ・・・なぃ?」


「大丈夫よ。私がバッチリ起こしてあげる」


「じゃあ・・・そうする」


「なら寝よう」






そう言ってカリーナはソファーに置いてあったクッションを枕代わりにして
体を深くソファーに沈ませた。

そして私は、いつでもアニエスさんから連絡が掛かってきて良いように
自分の手に携帯を握り締めていた。


ふと、その携帯に下がったウサギのストラップ。


起きたら・・・バーナビーさんにテスト終わったこと言わなきゃ。
あの人にも私・・・勉強、たくさん教えてもらったから。


でも、きっとバーナビーさんの隣にはタイガーさんがいる。

2人はコンビだからプライベートじゃない限り
仕事やトレーニングルームに来るときは2人のことが多い。


タイガーさんの顔・・・・まだ、ちゃんと見れないのに。









「ねぇ、カリーナ・・・起きてる?」


「もうちょっとで寝そう。どうかした?」






まだ起きてるかと、カリーナに声を掛けたら
彼女はもう少しで寝そうと告げてきたが、声は少しはっきりしていた。

私は今にも眠り落ちそうな声で彼女に言う。








「あのね・・・・私・・・・・・―――――」





































「・・・・こんな所で寝てたら、風邪を引きますよ2人とも」





虎徹さんより一足先にトレーニングルームに来た。
まだ体を動かすには早いかもしれないと思った僕は、休憩室に入る。

するとソファーを2人の女の子が占拠していた。


ブルーローズさんとさん。


しかも制服姿で、声を掛けたが起きる様子はまったくない。









「風邪を引くというのに、まったく」








僕はため息を零し、休憩室を出て
トレーニング用の洗濯されたタオルを持って戻ってきた。

そして1つはブルーローズさんにかけてあげ、タオルが生憎と1つしかなかったので
さんには僕はジャケットを脱いで彼女に掛けてあげた。







「まぁこれでいいだろ」






そう呟きながら、僕はさんを起こさないように
隣にゆっくりと腰をかけ、彼女を見る。

そういえば、テスト期間とか言ってたな。
多分2人ともそれが終わったから一気に解放されて眠気が襲ってきたのだろう。

僕にもさんは度々勉強の事を尋ねにきてくれていた。


ふと・・・目がさんの手元に移る。


握り締められた携帯にさがった、僕があげたウサギのストラップ。







「大切に持っててくれたんですねさん」






僕は笑みを零しながら、彼女の頭に触れる。

さんの頭に触れ優しく撫でる・・・しかし、僕は不安だった。








いつまで、僕はいつまでさんに想いを告げないままでいるのだろうか、と。






あの日、さんがどういう理由で泣いていたのかも分からないし
きっと彼女の心の傷は癒えてはいないはず。
それどころか・・・まるで悲しみから逃れるように勉強に没頭する姿を見ていると
こっちまで心苦しくて仕方がない。



正直な話、胸が痛むほど・・・見ていられない。







「いつになったら、僕は・・・・」







いつになったら僕は、彼女にちゃんと自分の想いを告げることが出来るのだろうか?


そうでなくとも一度彼女を傷つけてしまった僕が
その心を救うことなんてできるのだろうか?


違う・・・僕はただ・・・・・・。









「虎徹さんに勝てる自信がないだけなんですよね」







さんの心の大部分を占めている虎徹さんの存在。
そんな人に僕が勝てるわけがない。

いくら今は彼女と仲が良くても、僕は一度さんを傷つけた人間。
そして虎徹さんは傷ついたさんを包み込んであげていた人。


傷つけた人間と癒していた人間の差は、大きい。


だからこそ、僕は虎徹さんには勝てない・・・さんに想いを告げることが出来ない。




それでも、何か・・・動き出せるきっかけが掴めたら。







「・・・さん」






僕は彼女の頬に触れ、顔をゆっくり近づける。


分かっている。
これはもう許される範疇の問題じゃない。

だけど、想いが告げられないのなら・・・せめて、せめて・・・少しだけ、君に触れることを許して欲しい。


神が僕に天罰を与えても構わない。

構わないから・・・・・・ほんの、少しでいい。

好きな人に触れてしまうことを、許してください。










「・・・・んっ」









さんの唇に、自分の唇を重ねようとした瞬間
彼女のくぐもった声と共に目がゆっくりと開いていく。

薄く開いていた目が・・・途端みるみると大きくなり――――――。











「いやぁぁあぁあああ!!!!!」




「っ!!・・・うわっ!!」







悲鳴と共に僕は強い力でさんから引き離され、壁に強く叩きつけられた。
頭を少し強く打ちつけたものの意識ははっきりとしている。

しかし、体を壁から離そうともまるで磁石のようにくっついて離れない。
違う・・・何か強い力で押さえつけられているようだった。

更にはさんの悲鳴と共に
辺りにあった物が次々と浮かび上がり、蛍光灯が電撃を走らせていた。






「・・・、さ・・・さん!」




「いや!!いやあぁあ!!来ないで、来ないでぇええ!!」




「・・・っく・・・な、なんて強い力なんだ」






さんに大声で叫ぶも、我を忘れている彼女には僕の声は届いてない。
それにあまりにも強い力に僕は押し潰されてしまいそうだ。







「んっ・・・ちょっ・・・な、なんなの!?え?!バ、バーナビー!?」



「早く・・・早くさんを・・・!!」






すると凄まじい音にブルーローズさんが目を覚ました。
僕は彼女にさんを宥めるよう声を上げる。








・・・、どうしたの!?お、落ち着いて・・・っ」



「やめて!!やめて、私に近づかないで!!」



「ちょっ・・・!!どうしちゃったのよ、落ち着いて!!」







ブルーローズさんの声も届かないのか、さんの激しい混乱は治まらない。
ましてや友人であるブルーローズさんの声でさえも今のさんの耳には届いていない。

ついには電球が勝手に割れ始め、部屋のモノが次々と原型をとどめない形へと変わっていく。


一体この部屋で何が起こっているのか。


ただ、分かっているのはさんの感情が高ぶっているのとシンクロしているかのように
部屋のモノが次々と破壊されていっていることだけ。






「おい、おい何だ!?」


「ちょっと何なのよコレ!!」


「す、凄い強い力です」


「これじゃあ部屋に、入ることも出来ない」






するとこの部屋の物音がトレーニングルームまで聞こえいたのか
ロックバイソンさん、ファイヤーエンブレムさん、折紙先輩、スカイハイさんの4人がやってきた。

しかし、あまりの力の強さに部屋に入ってくることすら出来ずにいた。






「お、おいバーナビー!!ブルーローズ!!どうなってんだ!!」




「分かんないわよ!!起きたらが泣き出して、こうなってんのよ!」


「力が強すぎて僕らも動くことが出来ないんです!だから早く、さんを」





さんを宥めてください」と叫ぼうとした瞬間
置いてあった観葉植物から炎が上がった。






「おいファイヤーエンブレム、何してるんだよ!?」


「え!?ア、アタシじゃないわよ!!」






折紙先輩がかの人が能力を発動したのかと問い質したが
ファイヤーエンブレムさんはそれを否定した。

でも僕らの中で炎系の能力はこの人しか居ない。


だけど・・・この突然発火は、僕はどこかで・・・そうどこかで経験している。



どこだ?



どこで?




考え込んでいると、炎がどんどん色んな場所から付き始めていた。







「ちょっと!!どうにかしてよ!!このままじゃ焼け死んじゃうわよ!!」







ブルーローズさんの言葉で僕はハッとした。


そう・・・それは、あの日・・・さんと公園で話をした時。
彼女が恐怖のあまり僕から逃げようとしたとき・・・突然何処からともなく炎が上がり
公園の草木を炎上させていた・・・あの時と、状況が似ている。







もしかして・・・さんは・・・――――――。






そう思った瞬間、部屋の中に勢いよく入ってきた人影が
さんの元に行き抱きしめた。










「・・・・・、俺が分かるか?」






「・・・・・タイガー・・・さ」









虎徹さんだった。

青い光を体に纏って、5分しか持たない能力を発動させていた。

虎徹さんがさんを抱きしめると
彼女の気持ちが落ち着いたのか、押さえつけられていた力が解け
僕やブルーローズさんの体は動き始める。

また出入り口に居た4人も中に入ってくる。







「大丈夫だ・・・大丈夫、落ち着くんだ





さんの背中を優しく叩く虎徹さんに
今まで激しい混乱を起こしていたさんの目がゆっくりと閉じていく。







「タイガー・・・さ、ん」






そしてさんは虎徹さんの胸に体を預けるようにして倒れこんだ。

落ち着いたのが分かったのか
虎徹さんはさんを抱き上げて、出入り口へと向かう。

其処に固まっていた人たちを通り過ぎ、さんを連れてどこかに行く。







「虎徹さん!」






ようやく自由になった体で僕は虎徹さんを呼び止めた。
すると彼は振り返り、少し苦しい表情で僕らを見ていた。







「ちょっと、病院に連れて行ってくるわ。戻ってきたら全部話すからよ・・・それまで待っててくれバニー」



「虎徹さん」





僕にそう告げて、さんを病院へと連れて行った。
ふと、床に・・・なにやら赤い斑点。

さっきまではなかっただろうと思い、それを指で掬(すく)い上げる。

ドロっとした感触・・・嗅いだことのある、独特の匂い。



そう・・・血だ。


でもいつ?


それにコレは誰のモノだ?



虎徹さん?



それともさん?






どちらかのモノか分からないまま・・・僕はただ虎徹さんが戻ってくるのを待つのだった。




でも僕は知らかった。

この後聞かされる真実も、そしてさんの想いも。





BLOOD
(流れたのは血か、それとも)
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