『ちょっと、病院に連れて行ってくるわ。戻ってきたら全部話すからよ・・・それまで待っててくれバニー』
それだけを言い残して虎徹さんは
さんを病院へと連れて行った。
他の人たちや僕は虎徹さんの帰りを待つ。
僕はソファーに座って手で握り拳を作った。
それをゆっくりと開くと、先程掬い上げた血が手のひらに付いていた。
「悪い、少し長引いてな」
「虎徹っ!」
「タイガー!・・・、ねぇは!?」
すると虎徹さんが戻ってきた。
それと同時に皆が駆け寄り、ブルーローズさんはさんの心配をする。
虎徹さんはさんを心配する彼女の頭を撫でる。
「大丈夫だ。腕を軽く怪我しただけだ」
「そ、それだけなの?・・・ほ、他には?」
「至って健康。腕を怪我しただけだって・・・まぁ泣きつかれて寝てるんだけどな」
「よ、よかった」
命に別状がないと分かったのか、ブルーローズさんは安堵した。
もちろん他の人たちも。僕だって。
心配もしているが、確かめなきゃいけないことが目の前にある。
「虎徹さん」
「ん?・・・あ、そうか・・・話すって言ったよな俺」
僕が声を掛けると、思い出したかのように虎徹さんがため息を零し
帽子を脱いだ。
壊れたトレーニングルームの休憩室に緊張が走る。
「はな・・・NEXTなんだ」
「そう、でしたか」
虎徹さんの口から零れた言葉・・・さんがNEXTだということ。
やはりそうだったか。
何処となく、予想はしていた。
彼女が能力者でなければ、あんな力・・・普通の人には出すことなんて無に等しい。
「が・・・NEXT?・・・そ、そんな・・・嘘よ、嘘でしょ?」
「嘘じゃない。お前らも見ただろ?・・・あいつの力を」
「何系の能力者なんだ?炎系か?電撃系か?」
「攻撃性の特殊能力的なものというのは間違いないわね見たところ」
「アイツの能力はサイコ系だ。それに・・・」
すると、虎徹さんは黙り込む。
しかし何かを決めたかのように呼吸を整え、僕らを見据えた。
「それには・・・テレキネシスとパイロキネシス、2つの能力持ちだ」
「!!」
「ふ、2つ!?」
「それじゃあ、あの・・・ジェイクと、同じ2つの能力を持ったNEXT」
予想だにしない言葉が虎徹さんの口から出てきた。
大抵の能力者は1つしか能力を持たない。コレが一般的なモノ。
しかし、ごく稀に能力を2つ持ったNEXTがいることを僕達はつい最近知った。
でもまさか・・・こんな身近に、2つの能力を持った能力者がいるなんて。
驚かないほうがおかしい。
「テレキネシスは、お前らも分かるだろ。念力って類のヤツ」
「分かるけど・・・パイロキネシスって何なの?」
「パイロキネシスは発火念力のことですね。念力で炎を起こすことをそう呼ぶんです」
「バニーの言うとおり。は、その2つの力を持ってる」
ということは、僕を押さえつけた力も。
休憩室のモノを次々と破壊していった力、何もないところから火が上がっていた力。
全部、さんの1人の能力というわけか。
「いつから・・・いつからが能力者って」
「事件の日だ。あの事件、本当は1人の力の開花で起きた事件なんだ」
そんな前から・・・あの子は能力者として目醒めていたのか。
「じゃあ・・・強盗殺人っていうのも」
「嘘なんだ」
「何で・・・なんでそんな大事なこと言わなかったのよ!!何でそんな辛い思い、にずっとさせてたのよ!!
あんた、あんたそれでもの父親代わりなの!?」
「言えるわけないだろ!!」
怒り狂うブルーローズさんに虎徹さんも声を荒げた。
その声に彼女は黙る。
「言えるわけないだろ・・・・・・は、義理の父親を能力で殺したんだ。
アイツは自分の身を守るための代償で・・・望まない力を手に入れて・・・父親を殺したんだ」
「悲しいものね。自分を守るために望まない力を手に入れるなんて・・・挙句、それで義理でも父親を殺しちゃったんだから」
ファイヤーエンブレムさんの言葉に誰もが黙り込んだ。
確かに、此処に居る僕らも最初は
自分が望まない力を手に入れたことに怯えただろう。
それで人を傷つけたこともあっただろう。
今は人を守ることに使うこの力も、結局は自分を守るためのモノにしか過ぎない。
さんもまた・・・同じように。
自分を守るため、自分の心を守るため、あの子は望まない力を手に入れて・・・人を殺した。
「まだ能力が開花してそんなに経ってなくてな・・・制御の仕方も出来てねぇんだ」
「それであんな暴走が起こったというわけか。私も能力が目醒めた頃はよくあるものだ」
「スカイハイ」
「何か・・・微妙にフォローになってない」
「ん?どういうことだい?」
スカイハイさんの言葉に
その場を包んでいた緊張の空気が少し和らいだ。
「ただな・・・は2つの能力持ちの上、ちょっと厄介なんだ」
「どういうことですか虎徹さん?」
これ以上彼女の能力に関することで驚くことはないはず。
むしろ2つの能力持ちという時点で既に皆驚いている。
「アイツ・・・能力を大きく使うと、体のどっかを怪我することがあるんだ」
「どういう意味なのそれ?」
「ようするに、さんは大きな力を使えばその代償として体に負担が掛かって
損傷する恐れがあると、虎徹さんは言いたいんですね」
「そう!そうだよ!!それを伝えたかったんだよ俺は」
僕が分かりやすく解説をすると、それに虎徹さんが乗ってきた。
確かに考えれば僕や虎徹さんの能力以上に厄介だ。
もしかして・・・―――――。
そう思った僕は、手のひらに付いた血を見る。
これは・・・さんの血。
そういえばさっき、虎徹さんは「腕の怪我」と言っていた。
廊下に落ちていた血液の跡は、さんの・・・血。
能力を大きく使いすぎた・・・代償で現れたモノ。
だったら・・・あの時も、公園の火事騒ぎも、さんの能力が原因。
近くに零れ落ちていた血液も、その力を使っての代償。
「まだ、腕の怪我で済んでるけど・・・気をつけろって医者は言ってた。
下手したら・・・の、命に関わることだからって。アイツは2つの能力を貰ったが、何の嫌味なのか
体に厄介な爆弾を残していきやがった。・・・神様ってよぉ・・・ホント、残酷だよな。あんな女の子に、辛い思いさせてさ」
「虎徹さん」
だから、この人はさんを守り続けていた。
能力の開花で父親を殺した罪を、辛さを抱えた彼女を守っていた、包み込んでいた。
僕とは正反対の方向で。
「悪いな。何もかも早くに話さなくて」
「虎徹さん。いえ、いいんです・・・僕は」
「でも、何か・・・腑に落ちないのよねぇ〜」
すると今度はファイヤーエンブレムさんが喋り始める。
「何が腑に落ちないって言うのよ?」
「お嬢が力を暴走させた原因よ。あの暴走、半端なかったじゃない?」
「まぁ、確かに」
「お嬢が暴走させた原因が何なのかしらねぇ〜と思って」
僕は肩が動いた。
彼女の力を暴走させたのはもしかしたら、僕が原因かも。
いや、かも・・・な言葉で済ませれる問題じゃない。
しかし、こんな話をした後・・・言える訳がない。
「そういえば、バーナビー・・・の近くに居たようだけど、アンタ・・・何してたの?」
すると、ブルーローズさんが思い出したかのように僕に話を振ってきた。
その言葉に全員が僕のほうを見る。
「・・・・・・」
僕は脳内で何か言葉を見つけようとしたが・・・それも出来ず、踵を返しその場を無言のまま離れようとした。
が。
「コラ、逃げるなバニー」
虎徹さんに捕まった。
捕まってしまったのであれば、もう隠すことは不可能。
「・・・・もう、見てられなかったんです」
「え?」
「さんが・・・傷つく姿を、僕はもう見てられなかったんです。気づいてもらえなくても良いと思って
僕は・・・あの子の唇に、自分の・・・・」
「信じらんない、何やってんのアンタ!!最低なことしてんじゃないわよ!!
いくら・・・いくら、のことが・・・っ」
「じゃあどうしろって言うんですか!!泣いている彼女を笑顔にすることも出来ず
ただずっと歯がゆさだけを感じて、さんの側に居続けることが・・・彼女にとって幸せだと言うんですか!!」
僕は一度彼女を傷つけた人間だ。
だからこそ、虎徹さんに勝てないことは分かっていた。
想いを伝えることが出来ず歯がゆさだけを感じ、ただ笑顔を見守る。
でも一度傷ついたさんを僕1人の力では笑顔に戻すことは到底不可能。
だけど・・・僕1人でやり遂げたかった。
僕1人の力で、さんを幸せにしてあげることを。
例え振り向いてもらわないと分かっていても。
例えあの子の瞳に映っているのは虎徹さんだけだと分かっていても。
「さんが見ているのは僕じゃない・・・彼女は虎徹さんを見ている。そうと分かっていても
もうこれ以上、自分の気持ちを思い留めておくことなんてできなかったんです!!」
「お、おい・・・・が、俺を見てるって?」
「相変わらず貴方は鈍感な人だ」
「は、タイガーのことが好きなのよ。父親としてじゃなく、男として」
「が・・・お、俺を!?」
気づいてなかったかやはり。
この人らしいといえばこの人らしいが、その反面その鈍さは誰かを傷つけるものになる。
「もう少し早ければ、こんなことにはならなかった。僕がさんを傷つけることも
彼女を好きになることも!!みんな、辛い思いをせずに済んだんです。どうして・・・貴方という人は・・・っ」
「俺だってすぐ話そうとしたし、考えた。だけどを見てたらそんなことできるわけねぇーだろ?
能力に目醒めたばっかりで、義理の親父殺した罪に苛まれて。アイツが落ち着いたら全部話すつもりだったんだ!」
「言い訳はやめてください!貴方のせいでどれほどさんが苦しんでいたか分かりますか?
何度も辛い顔をして、何度も悲しい涙を流して・・・それでも笑顔で居よう、貴方の前では笑顔で居ようとして。
どうしてそんな彼女に気づいてあげようとしなかったんですか!?」
「ち、違う!・・・俺はだな・・・っ」
「いい加減にして!!」
僕と虎徹さんの口論を止める声が上がった。
声の先を見ると、ブルーローズさんが怒りを露にしていた。
そして僕らの間に入る。
「あんた達、やっぱり最低のコンビね」
「え?」
「お、おいブルーローズ」
「自分達の気持ちばっかりで・・・の気持ちなんて知りもしないで」
さんの、気持ち?
その言葉に僕と虎徹さんはブルーローズさんを見た。
「・・・寝る前に私に言ったのよ」
『あのね、私・・・もう、疲れちゃった。誰かを好きになることも信じることも』
『?』
『信じても、みんな・・・みんな消えていくの。結局私、一人ぼっちになっちゃう。
もう・・・好きになることも、信じることも・・・私、したくないよ・・・。
全部奪われていくくらいなら・・・もう、私・・・・・・』
『生きている意味ないよ・・・死んじゃいたい』
「・・・さん」
「アイツ」
ブルーローズさんから聞かされた言葉に
今まで口論していた僕と虎徹さんは黙り込んだ。
「何があったなんて、聞く前にあの子寝ちゃったし。詳しいことは聞かなかった。だけどね・・・もうこれ以上
にあんな思いさせないで。あの子は、あの子はただ幸せになりたいだけなのよ。
誰かが側に居て笑ってくれる、ただそれだけがの望んでいることなの。
もし、次・・・に同じような思いさせたら・・・――――あんた達、氷漬けにしてやるんだから」
彼女はそう言いながら僕らを睨み付けていた。
その目には薄っすらと涙が浮かんでいた。
そして踵を返し、出入り口へと早足で歩いていく。
「ブ、ブルーローズ、何処へ行く!?」
「の病院。心配だから見に行くだけよ・・・どうせこの前の病院なんでしょ。私行ってくる」
「じゃ、じゃあ僕も!」
「僕も付いていきます」
「私も行こう。子供達だけじゃ不安だからな」
「だったらそこらへん母親代理も必要じゃない?」
彼女に続くように、ドラゴンキッド、折紙先輩、スカイハイさん、ファイヤーエンブレムさんが出て行く。
其処に残ったのは、僕と虎徹さんとロックバイソンさん。
「俺もが心配だから見に行くぜ。お前らは2人でとりあえず話し合え。
じゃねぇと、ブルーローズ本気だったからなあの目は」
そう言ってロックバイソンさんも部屋を出て行き・・・本格的に残ったのは僕と虎徹さんだけ。
「悪かったなバニー、こんな大切なことずっと黙ってて」
「いえ・・・あの・・・・・・さっきは言い過ぎました。すいません」
部屋に僕と虎徹さんだけになると
とにかく互いの謝罪から始まった。
お互い、さんを想うあまりだから仕方のないことかもしれない。
「本当はなもっと早くに話すつもりだったこの事」
「え?・・・い、いつ?」
「がテスト期間の時。ホラ・・・お前とをウチに呼び出した日だよ。
あの日・・・にもパイロキネシスのことや体のこと話そうと思ったし、相棒のお前にこのまま黙ってるのも
気が引けると思ってな」
だからあの日、大事な話があると言ったのか。
虎徹さんの家の近くでさんと出くわしたのは偶然かと思っていたが
偶然ではなく、それは必然的なものだった。
「それに、がお前に懐き始めてたからな・・・・お前なら何かとのことフォローしてくれるって思ってたんだ」
「そう、だったんですか」
「お前の言うことは正しい。もう少し早くに話しておけば、お前もも辛い思いをせずに済んだんだよな」
「虎徹さん」
「結局俺がお前達を引っ掻き回してたんだよ・・・・本当に悪い」
そう言いながら虎徹さんは何度も僕に謝る。
「なぁバニー・・・俺がこんなこと言うの今更かもしんねぇけど・・・・の心、救ってやってくれないか?」
「え?」
突然、虎徹さんの口から零れた言葉に
僕は驚きを隠せなかった。
僕が・・・・さんの心を、救う?
「でも、僕にはそんなこと・・・虎徹さんが一番いいと」
「・・・最近俺の顔まともに見ちゃくれねぇんだ。俺が近づいても、避けられてばかりでさ」
「だ、だけど・・・っ」
僕に出来るのか?
彼女の傷ついた心を救うことが出来るのか?
虎徹さんに勝てるはずもないのに。
「の事、好きならちゃんと見ててくれ。アイツの気持ちは今多分すっげぇぐらついてんだ。
誰かがちゃんと手を握っておかなきゃいけない・・・バニー・・・俺が言うのもなんだが、の手を握っててくれ」
「でも、僕は・・・・虎徹さんみたいにできません。あの子を笑顔にすることなんて」
「出来るよ・・・お前なら出来る。自分を信じろバニー・・・最初から諦めんな」
「虎徹さん」
僕の頭を軽く叩き、虎徹さんは立ち上がった。
「、病院にいるから行ってやれ。まぁ俺も行くけどさ・・・俺はもう少し頭冷やしてから行くわ。
お前は先に車で行け」
「でも、一緒に」
「バニー・・・から逃げるな。あいつのこと、好きなんだろ?」
好き・・・?
そう、僕は・・・彼女が好きなんだ。
好きだからこそ、笑顔になってほしいと望んで。
好きだからこそ、彼女のために何でもしてあげたいと。
さんが好きだから・・・・・僕は―――――。
「先に車で行っててくれ、俺も遅れていく」
「分かりました。では、病院で」
「あぁ」
そう言って虎徹さんは休憩室を後にした。
僕はポケットに入れた車のキーを取り出し、少し見つめて握り締め立ち上がった。
「行こう」
僕の力で今の彼女を笑顔にするのは、少し難しいかもしれない。
だけど、少しずつ・・・少しずつだったけど笑顔にしていけてた。
少しずつでも構わないなら・・・やれるところまでやろう。
いや、彼女に笑顔が戻るまで・・・本当の笑顔が戻ってくるまで。
僕は怯えて足を止めるわけには行かない。
進もう・・・・・暗闇にいる彼女を明るいところまで、連れて行くんだ。
僕の・・・僕だけの、力で。
Determination
(決意を胸に。僕の力で彼女を救ってみせる)