この前までさんが入院していた病院に一足先に着いた僕は
ナースステーションで彼女の病室を訪ね、すぐさまそちらに向かった。


病室の前に立つと、楽しそうな声が聞こえてくる。


そんな声を裂くように僕はノックをした。







『はい』


「僕です。あの・・・バーナビーです」


『バーナビーさん。どうぞ』






安心しきったような声に僕は安堵し、扉を開けた。

中に入るとさんのベッドを囲むように
他の皆が其処にいた。






「虎徹はどうした?」


「少し遅れてくるそうです。一緒に来たかったんですが色々用事があるとかで」







僕は心配そうな面持ちでさんを見た。

本当はあの人と話し合っていた、さんの事を話していた・・・なんて言えるわけがない。
言ったところで彼女の傷ついた心が癒えるわけじゃない。


僕の視線に気づいたのかさんが首を少し傾げる。








「あの、何か?」


「い、いえ。虎徹さんは必ず此処に来ますから心配しなくていいですよ」


「そ、そうですか」







虎徹さんが此処に来ることを伝えると、さんは少し表情を曇らせた。
確かに彼の言うとおりなのか、あまり逢いたくないという気持ちに見える。

彼女に一体何があったのだろうと、思えた。


今まであんなに虎徹さんのことを慕っていたさんの心境が分からない。


いや、僕だけじゃなくて・・・虎徹さん本人もそれは分からないようだった。







、何か飲む?私買ってくるよ」


「え?」





すると、突然ブルーローズさんがさんに飲み物を買ってくると尋ねてた。
あまりのことでさん本人も戸惑う。





「じゃ、じゃあ・・・カリーナのチョイスでいいよ」


「私が買ってくると大抵ペプシになるわよ?」


「いいよ」


「分かった。じゃあ他の皆荷物持ちね。バーナビーはの側に居てあげて」


「え?」






他の皆が荷物持ちになる中、僕だけがさんの側に居るよう言われた。

すると他の皆もその空気が読めたのか急いで病室を出て行く。





「じゃあ何か買ってくるわね」


「ぅ、うん・・・気をつけてね」


「分かってる」






そう言ってブルーローズさんが僕の横を通り過ぎながら―――――。








「次、になんかしたらマジであんた氷漬けにするからね」






と、釘を刺され彼女は病室を後にした。

相当アレは怒っている・・・・まぁ無理もないだろう。
何せ彼女に怪我を負わせてしまったのは僕だし、眠っている無防備な姿にキスをしようとしたのも僕。

友人であるブルーローズさんが怒るのが当然の要素がありすぎる。

僕はため息を零し、さんの側に近づき
置いてあったパイプ椅子に座る。








「具合はどうですか?」



「大したことじゃないので大丈夫です」






体の具合を尋ねると、さんは笑ってみせた。
だが、手を見ると手のひらまで巻かれた包帯。
多分その包帯の長さは腕全体にまで及んでいるのだろうと僕は思っていた。

コレも彼女の能力の代償というべきものなのか。



彼女は「大丈夫」だと笑ってみせてくれたが
正直なところ、それを負わせてしまったのは全部僕だ。

なのに彼女は僕を咎めるどころか、まるで「自分が悪い」という風に見えて仕方がなった。






「バーナビーさん?」



「あ・・す、すいません。考え事をしてました」






色々考えていると、さんに声を掛けられ我に返る。

言葉を濁し僕は彼女を見た。






「あの、私・・・バーナビーさんに1つ、謝らなきゃいけないことがあるんです」


「え?」






さんがそんなことを言ってきて僕は驚いた。
違う・・・本当は僕が謝るべきなのに、どうして彼女が謝る必要があるのだ?と思っていた。

でも、僕はどう謝ればいい?


頭の中で整理がつかないままさんは話を続ける。






「あの、実は・・・私、叫んじゃいましたよね・・・バーナビーさんの顔を見て」



「あ・・・あれは・・・」







キスをしそうになった。

びっくりして叫んだんだろうと未だに思っている。
でも、キスをしそうになった・・・なんて言ってしまえば彼女をさらに傷つけそうで怖い。

これ以上・・・さんの傷つく姿は、見たくない。










「目にゴミがついてたので取ろうとしたんです。驚かしてすいませんでした」








傷つく姿が見たくないから、嘘をつく。


自分の気持ちに嘘をついて、傷つく姿を見たくないから嘘をついて・・・・。


さんを守りたいがために・・・僕は何十もの嘘を塗り重ねていく。
口から紡がれた言葉は、気持ちとは全て裏腹な言葉ばかり。


それでも・・・嘘をつき続けて、気持ちを隠したままでも構わない。



それでさんが幸せなら、僕は嘘をついても構わない。
傷つく彼女を見るのはもうごめんだ。








「そうだったんですか。でも、叫んだのはオーバーですよね」



「いえ、びっくりしたのならそれくらいは」



「事件の日の事がちょっと被ったんです」



「え?」






事件の日のことって・・・。

心に深い傷を負って、さんの能力が開花した日でもある。





「義理の父親にもあんな風に迫られて・・・」


「いいですもう。言わなくていいですから」





言い出しそうな言葉を僕は飲み込ませた。

これ以上の言葉を言わせてしまえば、辛い思いをするのは彼女だ。


やっぱり僕はとんでもない過ちを犯した。





どうしてこうも上手く出来ない。


どうしてこうも上手く立ち振る舞えない。


どうして、どうして・・・・・・。







「バーナビー・・・さん?」


「はい」


























「どうして、泣いてるんですか?」



「え?・・・あ」





さんに言われ、頬を拭うと・・・温かいものに触れた。

涙だ。僕は・・・泣いているのか?





「あの、私何か・・・何か気に障ることでもっ」


「いえあの・・・・大丈夫ですよ」






涙を流している僕にさんは慌てる。
しかし、そんな彼女を心配させまいと僕はそれでも笑顔で振舞う。

でも、頭では分かっていても・・・・・・涙が溢れるばかりで、止まるところを知らない。


人前で泣いたことがないのに・・・涙を見せたこと、なかったのに。



すると、頭に優しい感触が伝わってきた。
上下に優しく撫でられている。








「ごめんなさい、バーナビーさん。私のせいで」







その言葉が胸に突き刺さった。

違う、泣いているのは君のせいじゃない。


僕自身、悔しくて泣いているんだ。


君を救うとか助けたいとか口だけで、本当のところ
何一つ彼女を救うどころか、嫌な思いばかりをさせてしまう自分に腹が立っている。


腹立たしくて、悔しくて、だから・・・泣いている。




君のせいじゃない、君のせいじゃない、と言いたいのに
涙が溢れて言葉が上手く言い表せない。









「ごめんなさい、バーナビーさん・・・ごめんなさい」








泣いている僕をさんは優しく宥めてくれた。



本当に救われているのは、彼女じゃないきっと・・・・・・・・・僕なんだ。


























・・・入るぞ」


「タイガーさん・・・・・・・・・はい、どうぞ」


「具合は、って・・・なんでバニーが寝てんだ?」


「色々あって疲れてたんだと思います。しばらくこのままにしてあげてください」


「そうか。しかしバニーが人前で寝るとか滅多にねぇのに、珍しいことがあるもんだな」


「え?・・・そ、そうなんですか?」


「あぁ。よっぽどのことが心配だっただろう」


「バーナビーさんが・・・・・・私を」




Concern
(心配して心配されて、何処かでかすかに絡み合い始めてきた) inserted by FC2 system

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