あれからしばらくして、私の腕も大分治り
退院の日を迎えた。

軽い荷物をタイガーさんが持ってくれて、アニエスさんやカリーナも一緒に来てくれた。






「いくら退院したからってあんまり無茶しちゃダメだからね」


「はい」


「大丈夫よ。学校じゃ私がのこと見張ってるから」


「見張るって・・・カリーナ」





「おいお前ら、お喋りはそこまでにしとけ?は病み上がりなんだからよ」





タイガーさんの車に着き、かの人は私の荷物を後部座席に置いて扉を閉めていた。
軽快にお喋りをする私たちにため息を零しながら言う。


ふと、私は気づいた。






「あ、あのタイガーさん」


「どうした?」


「バーナビーさんは、今日一緒じゃないんですか?」






いつもならタイガーさんの近くにはバーナビーさんが居る。
だけど今日はあの人の姿を見ていない。







「バニーか?バニーなら取材があるからそっちにいるぜ」


「そう、ですか」







タイガーさんから聞かされた話に、私は何だか寂しさを感じた。
仕事ならそっちを優先するのは当たり前。

まぁ当たり前すぎることに私は思わず苦笑を浮かべた。







「あー・・・でも、バニーから伝言預かってるぜ」



「え?」





伝言?


私に?


バーナビーさんから伝言を預かっているというタイガーさんの言葉に
ドクンと胸が高鳴った。

タイガーさんは携帯を出して画面を見ていた。





「『退院おめでとうございます。あまり無茶はしないように』ってさ」


「何で携帯出したのよ」


「普通に言えないのアンタ?」


「うっせぇな!忘れそうだったから携帯にメモっただけだってーの!とにかく」





アニエスさんやカリーナの突っ込みに、さらに上乗せのツッコミを入れたタイガーさんは
咳払いをして私を見る。





「伝言は伝えたからな。本当はバニーもお前の迎えに来たかったんだよ。
アイツ、他の奴らよりもお前の見舞いにきてたしな」



「私が来れない日はバーナビーが来てて、アイツ次の日笑顔で
『昨日さんのお見舞いは僕がしておきましたから』とか言うからもうあったまにくるわあの言い方!」



「それほどバーナビーはが心配だったってこと。よかったわね
あんなイケメンに心配されて」








三人の会話に私は笑みを浮かべた。



何だか、バーナビーさんの伝言を聞いただけでホッとした。

確かに私のお見舞いにはカリーナより多分たくさんバーナビーさんは私のところに来てくれた。
仕事が忙しいというのに、その時間の合間を縫ってまで。

だから、あの人が近くに居ることがほとんど当たり前のようになっていた。



もしかしたら、今日居なくて寂しいと感じたのはそのせい?

いつも側に居るあの人が居ないから、そう感じただけ?



本当に・・・・それだけ?








、どうした?」


「え?・・あ、いえ・・・何でもないです」







タイガーさんに声を掛けられて、私は我に返る。

何を考えているんだろう、私。


いつも側に居るからって、それが毎日だなんてワケじゃない。
たまたま・・・そう、偶然・・・バーナビーさんは私が入院してるから来てくれていただけ、ただ、それだけ。


でも、あの人の伝言を聞けただけで・・・嬉しかったのは事実。





寂しさと安堵・・・・どうして、そう感じたのかなんて
今の私には分からないことだった。




















「え?ホットミルクの作り方ですか?」


「す、すいません。変な質問しちゃって」




退院してから数日経ったある日。

私は誰も居ないトレーニングルームの休憩室を狙って
そしてタイミングよく其処にバーナビーさんが居たから、聞きたいことを聞いていた。






「別に教えることは構いませんけど・・・どうしたんですか急に?」





ホットミルクを飲むといいと教えてくれたのはバーナビーさん。
だけど、この事実を知っているのは私だけ。もちろんそれを教えてくれたのはバーナビーさん。

だから、誰も居ないときを狙っていた。
他の人に聞かれてしまえば、何だか私だけに明かしてくれたことが申し訳ないように思えたからだ。


私の突然すぎる質問にも彼は優しく問いかけてきた。





「その・・・最近、なんだか眠れなくって。自分でも作ってみたんですけど
あの時飲ませていただいたホットミルクとは、なんだか・・・違う気がして」



「そうでしたか」





退院してからというもの、何だか上手く眠れない日々が続いていた。
眠りに就くのは大体朝方・・・下手をすればアニエスさんが帰ってきそうな深夜に眠ることもあった。

だから、ホットミルクがいいと教えてもらったから
自分でも試しに作って飲んでみた・・・しかし、何だかバーナビーさんに
作ってもらったものとは違う気がしてならなかった。





「特に大したことはしてませんよ?」


「でも、何か違うんです。自分が作ったのとバーナビーさんが作ったのとでは」


「本当に大したことはしてないんですけどね。じゃあ今晩ウチに来て実際作ってるの見ますか?」


「い、いいんですか?」


さん次第ですよ。僕は一向に構いませんけど」





自分から言っておいて、今更引くに引けない。

でも、バーナビーさんは一向に構わないと言ってくれた。






「ご迷惑じゃないですか?」


「特には」


「じゃあ・・・お邪魔してもいいですか?」


「えぇ、どうぞ」


「ありがとうございます」






バーナビーさんの言葉に、私は嬉しくて笑みが零れた。

ふと、目の前に居るバーナビーさんの顔を見ると、彼も凄く嬉しそうな顔をしていた。
思わずその表情と視線が合ってしまい私は顔を逸らしてしまう。

また目線を上げて彼の顔を見る。

やっぱり笑っている・・・でも、その笑みは「子供みたい」ではなくて
本当に感情的に「嬉しい」を表現した笑みに見えた。



その表情に、私の胸は酷く高鳴っていた。





夜、約束どおり私はバーナビーさんのマンションに来ていた。

部屋に上がってすぐさま彼の後ろを着いて歩きキッチンへと向かう。







「本当に大したことしてないですよ」


「それでも見ます」






私の言葉に、呆れた表情1つも浮かべず
彼は冷蔵庫の中から牛乳を出して、鍋に入れそれを火にかけてぐつぐつと煮立たせる。
此処までは私の作り方と一緒。

その後はきっと何か秘訣があると思ってみていたが
本当に鍋に牛乳を入れて煮立たせただけ、後はそれをマグカップに注ぎ入れて―――――。







「はい。できましたよ」






目の前に出されたホットミルク。

作り方は私と一緒だった。とりあえず味を確かめるため
私はカップを持って一口飲んでみた。





「どうですか?」



「やっぱり、私が作るのとでは味が違います。作り方は同じなのに・・・バーナビーさんの作ったのが
自分で作ったのより、すごく美味しいです」





一口飲んで分かった。

彼の作るホットミルクは凄く美味しい。

同じ作り方をしているはずなのに、どうしてこうも味が違うのだろう。
そして飲んで感じた・・・温かさ、優しさ。


もう一口、口に含んで喉に通す。





「美味しいです・・・バーナビーさんの作るホットミルク」



「それはよかった。いつでも言ってください、さんのためなら僕はホットミルクくらい作って差し上げますよ」






そう言ってバーナビーさん笑みを浮かべながらは私の頭を撫でる。


私の頭を優しく撫でる、大きな手。

タイガーさんに撫でられたときは嬉しい気持ちがあったけど

バーナビーさんに撫でられていると心が落ち着いて、ドキドキと心臓が鼓動している。




何故だろう・・・・この人の側に居るだけで、タイガーさんとは違う「何か」を感じる。




ただ、側にこの人が居てくれるだけで・・・・何か違ったものを感じている気がした。



それからと言うもの、私はバーナビーさんを見ていた。
意識してなのか、それとも無意識なのか自分でも皆目見当がつかない。

でもたまに目が合って、彼が私に微笑んでくれる。
それが合ってしまえば私は恥ずかしくて、何だか視線を逸らしてしまう。


だけど悪いと思って、またあの人を見たら・・・今度は小さく手を振ってくれる。


手を振り返すくらいなら・・・と自分の中で思って、手を振り返す。
そしたら・・・また微笑んでくれる。



私はきっと、たくさん・・・・バーナビーさんのこと傷つけてるはずなのに

どうしてあの人は私に優しくするんだろう。

どうしてあの人の姿を見るだけでこんなに胸がドキドキするんだろう。



そんな悩む日が続いた。






「あ、タイガーさん」


「よぉ。調子はどうだ?」


「もう随分と良いみたいです」




トレーニングルームの休憩室。
私はカリーナと待ち合わせのためにやってきた、今日は彼女のバイトしているバーに
遊びに行く予定をしているからだ。

休憩室に入るとタイガーさんが「調子はどうだ?」といいながら出迎える。
未だ片想いの失恋を引きずったままだが、あまりそ知らぬ顔をしていればかえって
タイガーさんに迷惑をかけてしまう。

私はそんな気持ちがバレないように明るく振舞う。





「そうか。なら結構」


「えぇ・・・・・・・・・あの、バーナビーさんは?」


「ん?バニーなら今日は雑誌の取材とか言ってたな」


「そうですか」




バーナビーさんの姿がないことに私はため息を零した。


心がぽっかり空いたみたいに、寂しい。













寂しい?















、お前最近バニーのことよく俺に聞いてくるな」


「え?」




タイガーさんの言葉に私は驚いた。





「わ、私・・・そんな聞いてます?」



「俺に会うたびにバニーが近くに居なかったらそう聞いてきてるぞ。何だ?また何かあったか?」



「い、いえ・・・特には。気に障るようでしたら謝ります、すいません」



「別に謝ることじゃねぇだろ?何かさ、前のお前はバニーの事全然聞こうともしなかったから、驚いてるわけ」







自分ではあんまり意識していなかった。
タイガーさんにバーナビーさんの事を尋ねるのを。

でも、他の人からしてみれば多分凄く驚くことだろう。



落ち着くし、微笑まれるだけで心がホッとする。

名前を呼ばれるだけで胸がドキドキする。





今、バーナビーさんの側に居るほうが落ち着く。




でも、側に居て欲しいと思うときほど・・・・・・側に居ない。








「僕が何なんですか?」







ふと、聞きなれた声に私は振り返った。
其処には多分取材を終えてやってきたバーナビーさんの姿あった。

1つため息を零してこちらに近づいてくる。






「2人揃って、僕の何の話をしてたんですか?」


「別に大したことじゃねぇよ。最近がやたらお前の心配ばっかりするよなぁ〜って」


「え?」

「タ、タイガーさん!?」





バーナビーさんの質問にタイガーさんが悪戯をしている子供みたいな顔で
彼の質問に答えていた。

まさか言うとは思っていなかった私は思いっきり焦る。

とりあえず、ここは訂正をしておかなければと思い私は
焦る脳内をフル回転させて言葉を選びながら喋る。









「あ、あの・・・その、最近・・・・お姿を見なくって。お仕事・・・忙しそうだって・・・思ってて。
で、でも・・・あ、の・・・お体に、気をつけてるのかな・・・って、そう、思ってる・・・だけで・・・・」







ダメだ、言ってることが支離滅裂。

自分でも意識してないうちに、バーナビーさんのことばかり考えていた。


テレビに映る彼の姿、でも私だけが知ってる彼の姿。


その両方がバーナビーさんという1人の人物。



毎日テレビでは姿を見ない日はなかった。

でも、自分の目ではっきりと見ない日が多かった。



だから余計・・・・・・・。








「大丈夫ですよさん」



「え?」







ふと、頭に乗ったバーナビーさんの手。

その手が優しく私の頭を撫でる。







「心配してくれてありがとうございます。僕は大丈夫ですよ。それよりも、自分の事を心配してくださいね。
君はまだ学生なんですし、虎徹さんやアニエスさんに余計な心配をかけないようにすること」



「は・・・はぃ」






側で感じる胸の高鳴り。

時々感じる心の虚無感。

タイガーさんの時に感じなかった「何か」。




私は、惹かれていた・・・・バーナビーさんに。



酷く惹かれていたからこそ・・・あの人に、心を許せていた。

最初は怖い思いを感じていたのに、今ではもう・・・目を離すことが、逸らすことができないくらい惹かれている。



確信した。


自覚した。


でも、傷つくことを恐れないなんて・・・・私には出来ない。







「なぁなぁ今日3人でさ飯食いに行かね?あ、むしろ俺がチャーハン作ってやるよ」


「またチャーハンですか?だったら僕がイイお店知ってるので其処に行きましょう。ね、さん」


「え?・・・・・・はい」





あの人への恋は、想いを告げぬまま終わってしまった。

この人への恋は、このままでいい。


想いを告げても、そうでなくも、もう傷ついて泣くのは嫌だから。



Drawn
(気づいてしまった。私はあの人に惹かれていた) inserted by FC2 system

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