燃え盛る建物内。
僕と虎徹さんはこの中に取り残されたのかもしれない
さんを助けるために乗り込んだ。
二手に分かれて、僕らは各階をくまなく捜す。
『タイガー、バーナビー聞こえる?』
すると、通信機越しにアニエスさんの声が聞こえてきた。
「はい」
『おう。聞こえるぞ』
アニエスさんの声に僕と、別の階にいる虎徹さんが返事をする。
『悪い報せよ。は家には戻ってない。ブルーローズにもあの子が行きそうなところを
あたってみたけど居なかったそうよ。携帯も繋がらないし、行方不明』
『じゃあやっぱりが此処に居るってことか?』
『バカ。色んなところにが居なかったからって其処に居るって確証がどこにあるのよ。
もしかしたら携帯をどこかに置いてるとかでしょうが』
『だけどなぁ』
通信機越しで虎徹さんとアニエスさんが口論を始める。
ここで僕が下手に口出しをすると、さらに話がややこしくなるから
二人の会話に介入するのをやめてあたりを見渡す。
ふと、床に目がとまりゆっくり近づく。
見覚えのあるバック。
ふと中を探ると、学生手帳‥‥‥開いてみると―――――。
「二人とも口論はその辺にしてください。冷静になってください」
『が居ないこんなときに冷静になんかなれないわよ!』
「いえ、さんはこの建物のどこかに居ます」
『何ですって!?』
『本当かバニー!?』
僕の言葉に二人の口論する声が一気に収まり、僕の声に耳を傾け始める。
「今、エントランスに居るんですが・・・さんの荷物らしきものを見つけました。
多分ここで買い物をしてたんだと思います。バッグの中に彼女の学生証が入ってるのを見つけました」
『でかしたぞバニー!』
『じゃあやっぱり建物の中にがいるってことね。そうと決まれば早くを見つけて。
あの子が建物のどこかに閉じ込められてる可能性が高いわ』
『分かった』
「はい」
そう言って通信を切り、僕は動き出しエントランスを離れ
別の階を捜し始める。
しかしエントランスに荷物があったのに、どうして本人が此処に居ないのか?
もしかして何かの衝動で能力が発動して瞬間移動をした?だったらこの荷物が
エントランスに置き去りにされてしまうことが分かる。
「虎徹さん、聞こえますか?」
『どうした?が見つかったか?』
僕は瓦礫が落ちた階段を駆け上がりながら、通信機越しに虎徹さんに話しかける。
「いえ」
『だったら何だよ』
「さん・・・・今日、僕や虎徹さんに夕飯をご馳走すると言ってて、此処に食材を買いに立ち寄ったんだと思うんです」
『じゃあまさか・・・それで事故に巻き込まれたのか?』
「おそらく」
僕があんなことを言わなければよかったと、今更ながら後悔している。
もし、夕食を作ってほしいとかさんの料理を食べてみたいとか言わなければ
彼女がこのような事故に遭うこともなかったし、ましてや、怖い思いをさせることもなかっただろう。
「僕のワガママで・・・・さんをこんな目に遭わせてしまって。すいませんでした」
『謝るなよバニー』
「でも・・・っ」
『お前はを少しでも元気付けてやりたかったんだろ?ならいいじゃねぇかそれで。
事故が起こるとか占い師じゃあるめぇし、んなの予想なんかできっかよ』
「虎徹さん」
『とにかくを捜すぞ。此処も長居すると危ねぇ』
「はい」
そう言われ僕は再び瓦礫を避けながら階段を駆け上る。
声を上げて彼女の名前を呼ぶも、建物の崩れる音と炎の燃える音しかしない。
きっと此処にさんはいるはず・・・・そのはずなのに・・・・。
「さん・・・返事を、返事をしてください」
まるで暗闇の中、手探りの状態で君を捜す僕。
離れるつもりもなければ、離すつもりもない。
でも、今・・・君が僕の目の前に居ないだけでこんなに寂しくて辛い事はない。
ましてや君が事故に巻き込まれたとなると、居てもたっても居られない。
「返事をしてくれ・・・・・・頼むから」
壁に手を当て、見つからないもどかしさが襲ってきた。
目を閉じふと思いつく。
「5分で・・・見つけれれば」
僕の能力は5分の間だけ身体能力を100倍まであげれることができる。
ならその能力を使えば、すべての音を拾うことも可能。
微かな音だって、呼吸の音だって、聞こえるはず。
「やってみるしかない」
そう呟き、僕は目を閉じゆっくりと力を発動させた。
聴覚が普段の100倍と力が増した分
いろんな雑音が聞こえてきて、頭に響いてくる。
あまりの音の多さに眉間に皺がよるほど・・・・頭に響いてきて痛みを伴い始める。
でも、痛いなんて言ってられない。
彼女を助けるためなら・・・これくらいの痛み、耐えられる。
あの子が心に受けた傷よりも、ずっとずっと耐えられる。
「(どこに・・・・どこに居るんだ。返事をしてくれ・・・っ)」
全神経を耳に集中させ、すべての音を捉え彼女を捜す。
微かな音でもきっと拾えるはず・・・今の僕ならそれができるはず。
そして、僕ならきっと――――――。
『・・・・・・・・・さ』
ふと声が聞こえた。
小さく・・・弱弱しい声。
『・・・・バーナビー・・・さ、ん・・・』
「ッ!」
声を捉えた。
僕は階段を残り少ない時間の能力で駆け上がり、とある売り場のフロアー内にたどり着く。
中に入って首を動かしながら、くまなくそこを捜すと―――――。
「ッ!」
売り場の隅、ダストシューターの近くで倒れているのを見つけ
僕はすぐさま彼女のほうへと近づき、抱きあげ揺する。
「・・・・、しっかり・・・しっかりしてくださいっ」
揺すると、閉じていた目がゆっくりと開かれる。
「バ、バーナビー・・・さん?・・・ゴホゴホッ」
「喋らなくていいですから。よく頑張りましたね」
「きっと・・・・・・・」
「え?」
「きっと・・・バーナビー、さんが・・・・・・助けに、来てくれるって・・・・・・私・・・・・・ゴホゴホゴホッ」
「もうもう喋らなくていいです、分かりましたから」
僕は彼女を強く抱きしめた。
きっと、最初は彼女もあきらめていたに違いない。
でも僕のことを信じてくれていたから、神様が僕を此処まで導いてくれたんだろうと思う。
僕は通信機をオンにして虎徹さんやアニエスさんに繋ぐ。
「虎徹さん、アニエスさん聞こえますか?」
『えぇ』
『どうした?』
「が見つかりました。此処も危ないので彼女を連れて脱出します・・・虎徹さんも早く出てください」
『そうか!分かった、じゃあ外に先に出てるぞ』
『でかしたわよバーナビー。早く外にを連れてきて頂戴』
通信を切断して僕はを抱き上げる。
ふと、力なく垂れた手を見ると血が流れていた。
「・・・君、腕が・・・っ」
「能力を使ったら、急に・・・こんな風に。でも、男の子を助けれたから」
「そうでしたか。よく頑張りましたね」
僕が褒めると彼女はホッとしたような表情を浮かべていた。
しかしきっと力を少し大きく使いすぎたのだろう。
だから彼女の腕に傷ができた。
出血はそこまでないが、此処から化膿したりするかもしれない・・・早く病院に連れて行かなければ。
【能力使用時間・・・あと1分】
5分しか持たない能力が残り1分を切った。
僕はを抱え、窓まで走りそこを蹴破る。
蹴破るとそこはかなり高い場所・・・・しかし、今の能力ならこれくらい降りれないことはない。
僕は彼女を強く抱きしめ、建物から飛び出て急降下した。
機械音が能力の切れる時間をカウントダウン始める。
5
4
3
2
1
スタッ!
【0・・・能力使用時間終了】
「バニーッ!!」
「ッ!!」
使用制限の終了時間ジャストに僕は地に足をつけた。
僕がそこに現れると
先に外に出てきていた虎徹さんやを心配していたブルーローズさんがやってくる。
「ッ!・・・は無事なの!?」
「少し灰を吸いすぎてるかもしれません。早く病院に連れて行ってあげたほうがいいです」
「分かった。おーい、担架持ってきてくれー!」
僕の言葉に虎徹さんが救急隊員を呼び寄せる。
そしてローラーのついた担架の上に僕はをゆっくりと降ろす。
酸素マスクをすぐさま付けられると彼女が目を開かせる。
僕も視線が合うように、メットを上にあげる顔を見せた。
「」
「・・・あり、が・・・とう・・・」
ゆっくりと差し伸べられた手を僕は握りしめた。
すぐさま手を離し、担架で運ばれた彼女の救急車を見えなくなるまで見送る。
「救急隊員には、いつもが行く病院に搬送するよう頼んどいた。後で見舞いにいってやれ」
「虎徹さん。・・・・・・はい」
そう言われ僕は笑みを浮かべた。
「つーかお前、また一皮剥けたな」
「え?」
「のこと、呼び捨てしてただろ?」
「・・・・・・あ」
虎徹さんにそう言われ気がつく。
無意識に僕は彼女のことを呼び捨てしていた。
「呼び直したほうが、いいですかね?」
「いいんじゃねぇーの?むしろ、また1つお前と仲良くなったってが喜ぶからそれでいいんじゃね?」
彼は僕の肩を叩いてそう言った。
彼女が喜ぶなら・・・・いいんだよな。
「・・・・・・、か」
次、君を呼んだとき・・・・何かが変わればいいなんて思わない。
だけど、何かが生まれたら・・・・僕はきっとそれだけで幸せだと思う。
君が喜んでくれるなら。
Born
(君の名前をちゃんと呼んだら何かが生まれればいいと思った)