私の発言に、その場に居るアニエスさんはおろか
バーナビーさんまでも驚いていた。



いや、無理も無いだろう。



何せ・・・バーナビーさんと一緒に住みたい、と言い出したのだから。








・・・貴女、何考えてるの?まさか、それ話すために私を呼び出したんじゃないでしょうね?」



「は・・・はい」





目の前のアニエスさんは目をギラギラさせながら言ってきた。


私はアニエスさんに「話したいことがあるから来て欲しい」と連絡を入れた。

でもこんなに早く来るとは思っていなかったし
ましてや、バーナビーさんが現れるとは思っていなかった。全て想定外の事。

だけど、ずっと何も言わないままで過ごしていくのはもう・・・苦しくてたまらない。






「バーナビーも同じこと言ってきたけど、ダメ。貴女は女の子なのよ?それにバーナビーは忙しくて貴女の面倒なんて」



「別にバーナビーさんに面倒を見てもらおうとか思っていません。私は・・・私はただ・・・」






私は口ごもりながらも、隣に立っているバーナビーさんを見て
すぐさまアニエスさんのほうを向く。











「バーナビーさんの、側に・・・居たいんです」











言い放った言葉に、隣に立っていたバーナビーさんが私の名前を呼んだ。
その声からして凄く驚いているようにも思えた。


バーナビーさんから「一緒に住まないか?」と言われた時から色々考えた。

最初は確かに自分の中でも「この人と一緒に居ていいのか?側に居て、いいのか?」と
何度もなんども、同じような考えが頭の中を駆け巡っていた。

だけど結論は『一緒に居たい』という答えしか出てこなかった。




考えている間、ずっと・・・私の頭の中を、バーナビーさんの色んな表情が駆け巡っていたから。








「考えが甘いかもしれません。でも、もうこれ以上・・・・大切な人の側を離れたくないんです。
誰かが離れていくのを笑顔で見送るのなんて・・・私には出来ません」








アニエスさんが来る前。

バーナビーさんに抱きしめられて、側に居たい気持ちが強まった。



色んな弊害があるかもしれない。

バーナビーさんはヒーローで、私は一般人。

それに私はまだ能力者としては開花したばかりで
色んな人に迷惑をかけるかもしれない。

ましてや、大切なバーナビーさんをまた知らずに能力で傷つけてしまうかもしれない。



色んな怖いことを考えたらキリが無いほど溢れてきた。




だけど、それよりもずっと怖いのは・・・・・・・。










「自分の気持ちを隠してまで、大切な人の側を離れることは出来ません」








今までずっと自分の気持ちを隠して生きてきた。


本当はずっと側に居てほしいとか、行かないでほしいとか言いたかった。
だけど私がワガママを言ってしまえば、困らせてしまうだけだと思い
自分の本当の気持ちを隠していた。


それがズルズルと続いて・・・・・・。



パパが居なくなって。


ママが居なくなって。


お家が無くなって。



一人になった私には、NEXTとしての能力だけが残った。






「何も、何も自分から言わなかったから・・・パパもママも、私の側には居ないんです。
本当は寂しいんです・・・それに、能力の事だって・・・怖いんです。いつ、誰を傷つけるか分からないから」



「だからってバーナビーじゃなくても」



「ダメなんです。私・・・バーナビーさんじゃなきゃ・・・ダメ、なんです」








私はそっと、バーナビーさんの手を緩く握った。




アニエスさんを説得する言葉が見つからない。

でも、頭の中では分かっている。




バーナビーさんの側に居たい。


この人の側に居たら、きっと・・・辛いことも、悲しいことも、乗り越えていけるって。



1人じゃなくて、バーナビーさんと・・・2人で。







「はぁ・・・少し考えさせて」


「アニエス、さん」








すると、アニエスさんがため息を零して踵を返しドアへと歩く。
ドアを開ける手前、かの人の動きが止まる。






「私にも考える時間を頂戴。あんた達が考える時間あって、私に無いんじゃ不公平だわ」







振り返ることなく、まるでドアに向かって言い放ち
そしてそのままドアを開けて外へと出て行った。

張り詰めた空気が徐々に柔らかく、元に戻っていく。





「あ、あの・・・



「え?・・・・・・あっ、あぁあ、ご、ごめんなさい!!」







ふと、隣に立っているバーナビーさんの声に我に返った。
私は未だこの人の手を握ったままだったことを思い出したのだ。



慌てて手を離そうとしたが、バーナビーさんが私の手を握り返していて離そうにも離せない。



いや、離してくれない・・・が正解だ。






「あ、あのっ・・・バ、バーナビーさん・・・ッ!す、すいません!手、手を・・・っ」



「別に構わないじゃないですか。僕達、恋人なんですから」



「え?・・・あ・・・は、はぃ」





やんわりとした笑顔で「恋人なんですから」と言われたら、慌てた気持ちも溶けて
冷静になっていく。しかし、目の前の繋がれた手を見ると心臓が凄い速さで脈打っているのが分かる。


むしろ心臓の音聞こえてないよね、なんて心配もしている自分が居る。






「その、僕が返事を聞く前に・・・から、返答貰うなんて驚きました」



「え?・・・あぁ・・・その・・・はい」



「えっと・・・は、いいんですか?僕と、その・・・一緒に暮らすということは」



「バーナビーさんを好きになったことを後悔しないためにも、私は・・・貴方の側に居たいんです。
貴方が側に居てくれたら・・・きっと苦しいことも、辛いことも、何だって乗り越えていけそうな気がするんです。
こんな答え方じゃ・・・・・いけません、よね?」






頭の中では整理できているのに、上手いこと言葉に出ないのが悔しい。

でも、精一杯・・・この人の側に居たい気持ちを出来る限りの言葉で伝えよう。
きっと、もっと・・・側に居たら、色んな言葉が生まれるだと信じて。







生まれた言葉を、大切な貴方だけに伝えれるように。






「いいえ。らしい答えで、僕は嬉しいです」







そう言いながらバーナビーさんは私を抱きしめた。






「僕はヒーローとしては1人前かもしれませんが・・・君を守る男としてはまだまだ未熟です。
だけど・・・精一杯、君を僕の手で守っていきます」



「バーナビーさん」



「僕はが好きだから・・・好きだからこそ、守りたいと思い・・・愛してあげたいと願うんです。
だから・・・僕の側に居てください。必ず・・・君を守り抜くことを誓います」



「ありがとう・・・ございます」



「だから早く元気になってください。そしたら、たくさん色んな話をしましょう」



「・・・はい!」








きっと内緒の関係になるかもしれない。

おおっぴらに出来る関係じゃないかもしれない。


だけど、私はそれでも良い。


大切な人の側に、ずっと・・・居れるのなら。




きっと、どんな困難も乗り越えていけそうだから。






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