「・・・おかしいわね、ウチが無くなってる?」
「あら、もしかして貴女・・・」
「おはようバニー」
「おはようございます」
朝、目が覚めてリビングに向かうとバニーが笑顔で迎えてくれた。
これは今となっては当たり前のやり取り。
以前は言葉を交わすだけで緊張していたのに、色々あって今に至る。
「そういえば、バニー・・・寝たの?」
昨晩。
一緒にベッドに入り寝ようとしたところ、出動要請が入り
彼は「ちょっと行ってきます」とだけ言い残し、部屋と飛び出して行った。
どうせ学校は休日だし
帰りを待ってから寝ようと思っていたが学校での疲れがあったり
またカリーナに能力の制御の仕方を教わったりなどして体力的にクタクタ。
結局バニーを待たずして眠ってしまったのだ。
だから彼が帰ってきて眠ったのかどうか、分からずにいた。
「えぇ、寝ましたよ。二時間ほど」
「二時間は寝たうちに入るの?」
「もちろんです。それにちゃんと君の隣で眠ったんですから。相変わらず可愛らしい寝顔でしたよ」
「ま、また寝顔見たの!?も、もうやめてってばー」
彼はイジワルだ。
隣で寝てくれるのは凄く安心するし心地が良い。
だがしかし、よく私の寝顔を見てはバニーは笑みを零す。
いつも、やめて、と言っているのに「だっての寝顔が可愛いのでつい」とか
訳の分からないことを言い始める。
「昨日は早く帰って来たんですが、の寝顔を見ていたら寝るのも忘れそうで」
「ちょっと待って。二時間しか寝てないって・・・その寝る前、まさか」
「察しがいいですね。君の寝顔を見ていたんですよ」
嬉しそうな笑みを浮かべ私の寝顔を見ていたと豪語する目の前の人。
恥ずかしくて、彼の5個ある内の眼鏡の一つを今すぐにでもカチ割ってしまいそうなくらいだ。
テレビに映るバニーは誰もが羨む、そして憧れるスーパーヒーロー。
だが、それは本当に「営業用」と言えるもの。
此処に、特に私の側に居るときの彼はとても独占欲が強く、甘えたがり。
最終的には「僕にはだけ居ればそれでいいです」と言い張るほどの溺愛っぷり。
カリーナからは「そのうちあの兎殴る」とまで言わせるほど。
父親代わりをしてもらっている、タイガーさんは半ば呆れ。
母親代わりをしてもらっている、アニエスさんは何かされたら訴えろと言っていた。
私の事を好きな気持ちは分かるけれど・・・時々限度を考えず行動や言葉をするから正直心臓に悪い。
「も、もう寝顔見ないで」
「一緒に住んでいる以上それを拒まれても困ります」
「そんな数時間も見るものじゃないでしょ」
「人間は一分一秒、寝ている仕草が変わるんですから・・・そんなの表情一つ一つ僕の目に焼き付けておきたいんです」
「・・・・っ」
「何か反論は?」
「ありません」
相変わらずの恥ずかしい言葉に何も言い返せなかった。
ため息を零し頭を少し掻くと、突然体を引き寄せられる。
そして眼前にバニーの顔があった。
整った目鼻立ちが目の前にあり、エメラルドのような目で見つめられて心臓が鼓動を始める。
「バ、バニーッ?!」
「嫌ですか?僕に寝顔を見られるの?」
「ヘ、ヘンな顔とかしてたら・・・い、嫌だから」
「僕にとっての顔は全部可愛いんです。笑った顔も怒った顔も、寝顔も・・・全部」
「バニー」
そう言いながら彼は自分のおでこを私のおでこに付ける。
前はコレをされただけで能力で彼を壁までふっ飛ばしていたけれど
一緒に居る生活に大分慣れたおかげなのか、今ではコレだけの事で能力が発動することは無くなった。
「君の表情全部を僕はこの目に焼き付けたいんです」
「・・・ぅん」
「それは君を一番近くで感じていたいからです」
「・・・ぅん」
「やっと手に入れた君なんです・・・の全部を僕は独占したいんです」
「・・・バニー」
そんな言葉を言われてしまえば・・・やっぱり何も言い返せない。
それは彼の言葉が傷ついた私の心を癒し
彼の想いが、泣いてばかりで塞ぎこんでいた私に光を与えてくれた。
暗く淀んだ闇の中に居た私を・・・バニーは助けてくれた。
こんな私を、世界でたった一人愛してくれる・・・大好きな私だけの王子様。
ふっついたおでこが離れ、頬に手が触れたと思うと
温かな唇がそっと近付いて、すぐさま離れた。
「」
「バニー」
「愛してます、世界中の誰よりも」
甘い言葉を吐き出して、耳を満たされたかと思うと
すぐさま唇が優しく塞がれ、心も何もかも、彼という存在が満たしていった。
「休みの日まで惚気話とかやめてよ」
「ち、違うよ!惚気てない!!」
昼。
カリーナと待ち合わせをして街を歩く。
そして朝の事を彼女に話すと相変わらず呆れた声で返してきた。
別に惚気話をしたいわけではないのに、何故かそういう解釈をされ
私は慌てて誤解を解こうとする。
「完全に惚気じゃない」
「ち、違うってば!」
「何処が違うのよ。惚気話にしか聞こえないわよ」
「だ、だってバニーが」
言葉を続けようとした瞬間、カリーナに指を差された。
しかも彼女の表情が明らかに・・・怖い。
「アンタ・・・大体二言目に”だってバニーが“って言ってる」
「え?!う、嘘ッ!?」
「まぁ、あのクソ兎がアンタを好きになった時点で離さないだろうなとは思ってたけど・・・まさかこんなに溺愛するとはね」
「だって、バニー・・・」
「ほらまた」
カリーナに指摘され思わず顔が赤らむ。
自分でも気付かなかったが、確かにバニーの話をするたびに
「だってバニーが」という言葉を言っているような気がしてきた。
でも仕方がない。
本当の事なのだから。バニーの話を繋げるにはこの単語しか正直思い浮かばないのだ。
「ったく・・・あんた、トワおばさんがこの事知ったらどうするつもりよ?」
「・・・う」
トワ、とは・・・私のママ、トワ・の事である。
出張先から未だ連絡の無いママに黙って、男の人と同棲していると知ったら
前代未聞というか、確実に雷が落ちかねない。
「ママ・・・怒るよね」
「普通ならね。でも、相手はシュテルンビルドのキング・オブ・ヒーローだからね・・・案外許してくれそうなんじゃない?」
「あ、なるほど」
「何納得してんのよ・・・そんなの簡単に許す親がいると思う?特に一人娘のアンタなんだから」
「それならカリーナだってそうじゃん。カリーナに彼氏出来たとか、結婚するとかなったら温厚なカリーナのおじ様でも
眼鏡光らせて娘は渡さん、とか言いそうだと思う」
「人の心配する暇あったら自分の心配しなさいよ」
図星だったのかカリーナは私の頬を思いっきり抓り引っ張るもすぐさま離した。
頬の痛みを和らげるように手で擦る。
「カリーナ・・・図星でしょ」
「うっさいわね。今度は両頬引っ張られたいの?」
「か、勘弁してくださいカリーナさん」
「とにかくトワおばさんがこっちに帰って来たときどう説明するか考えとく事ね」
「ぅ、ぅん」
確かに、ママが帰って来たときの事を考えていなかったのは事実。
いくら連絡がないからと言って、ずっと帰って来ない・・・というわけではない。
必ずこの街に戻ってくる日が来る。
そのときは家の事や、義理のお父さんの事、そして・・・私自身のNEXTとしての覚醒の事。
ママが帰って来たら色々話さなければならないことが多いし
ましてやバニーの事も話しておかなければならない。
そう考えたら、バニーにもママの事は話しておかなければ・・・と今になってやっと後々やってくるであろう
事の重大さに気付き色々と考え始める。
すると気付いたらいつの間にかカリーナの家の前に来ていた。
「そうそうウチのパパとママもの事心配してたから、ちょっと顔見せる程度でいいから上がって」
「そうなんだ。じゃあおじ様とおば様に会わなくちゃ」
カリーナは扉を開け「ただいま」と声を上げる、私もそれに続くように「お邪魔します」と声を出し
彼女の家へと上げてもらった。
ふと、何やらリビングらしきところから楽しげな声が聞こえてくる。
私とカリーナは顔をあわせ、二人でそちらに向かう。
「ママ、あのね」
「カリーナ丁度いいところに。あら、もしかしてちゃん?」
「ご、ご無沙汰してますおば様」
私の存在に気付くと、私はすぐさま会釈をした。
ふと、顔を上げたらおば様の目の前に誰かが座っていた。
「?」
「え?・・・あ」
私の名前と声に、おば様の目の前に座っている人がこちらにゆっくりと振り返る。
振り返るその姿に私は疑問の声を上げるも、確実にこちらに向いた顔に私は目を見開かせた。
見覚えのあるその姿・・・決して忘れることの無い・・・世界でたった一人の・・・―――――。
「」
「マ、ママ」
私の家族−ママ−だった。
Again
(目の前に立っていたのは紛れもなく、私のお母さんだった)