「」
「マ、ママ・・・・ママなの?」
目の前に立っている人が本当に私のママなのか分からなかった。
もう、しばらくと・・・声も聞いていなければ、会いもしなかった。
お腹を痛めて産んでくれた親でも、少しでも時間や距離が空いてしまえば実の親子でも疑問が生まれる。
だから、脳内で混乱していた。
本当に目の前に立っている人物が私のママなのかが。
「失礼な子ね。自分のお腹を痛めて産んだ子を忘れる親が何処にいるって言うの?」
「だって・・・だって」
「世界でたった一人の娘、・。私の可愛い自慢の娘」
ゆっくりと近付き、私の頭を撫でその手はゆっくりと下りてきて頬を撫でた。
近くでようやく分かる。
匂いや、顔、最後に会った日も・・・こんな風に頭を撫でてもらい、涙を伝う頬を撫でてもらった。
そして、ママが去り際に言った言葉。
『私の可愛い自慢の娘』
その言葉を聞いて、疑惑が確信に変わり・・・目から一気に涙が溢れ出たと同時に
ママの胸へと飛び込んで行った。
「ママ・・・ッ!」
「ゴメンね。寂しかったわよね」
「ママ・・・ママぁ・・・」
「うんうん、ママは此処にいるわよ。大丈夫よしよし」
久しぶりに感じる母親のぬくもり。
背中を叩く感触も、頭を撫でてくれる手も、紛れもなく
幼い頃に感じたぬくもりそのものだった。
「ほら、もう泣かないの」
「だって会えて嬉しいんだよ、泣かない方がおかしいよ」
「ウフフそうね。ねぇ、」
「ん?何ママ?」
体が少し離れママが私に問いかけてきた。
その問いかけだけでも何だか嬉しくて思わず顔が綻んだまま聞き返す。
「思ったんだけど」
「うん」
「お家はどうして更地になってるの?ていうか、お家はどうしたの?」
「え・・・あ・・・・・・あ、その・・・・」
予想もしない質問に私は内心思いっきり焦りだした。
バニーの部屋に居候して以降、あの日の事件で焼けた家の跡地には行っていない。
何だか色々と嫌な記憶が思い出しそうで中々踏み入ることが出来ないのだが
バニーが様子を見に行ってくれて、今では家があった場所は更地になっているとは話で聞いていた。
しかし、コレはどう答えていいのやら。
まさか先程までカリーナと話していたことがすぐさま現実になるとは思っても居らず
答えを何も考えていなかった。
「ねぇ、どういう事なの?説明して頂戴」
「どう、ていうか・・・あの、その・・・」
説明するとひたすら長くなるし、私も詳しい状況等は覚えていない。
いや、正確には思い出したくないのだ。
あの日・・・あの時の事、全部。
今でも思い出しただけで・・・・震えが止まらない。
ママの私を問い詰める声に体が震えだし、体の奥から沸々と炎が燃え盛りそうな光景が見える。
ダメ・・・今能力を発動させちゃ。
必死で発動を押さえ込むも、恐怖に侵食された心は能力を発動させる材料にしかならない。
「お、おば様!わ、訳は・・・今からお話しますわ」
「カ、カリーナ」
すると突然カリーナが私の肩に手を添え、発動する能力を抑えてくれた。
それから段々と頭の中に映し出されていた燃え盛る情景が消えていく。
「あらそうなの?じゃあお願いできる?」
「も、もちろん!ちょ、ちょっとお待ちください。・・・、こっち来て」
「え?・・・ぅ、ぅん」
お母さんをその場に待たせ、私はカリーナへとリビングを出て
玄関を抜けこっそりと外に出た。
「カ、カリーナ・・・」
「今すぐあいつ等二人此処に呼んで」
「ぇ?」
「タイガーとバーナビーよ!アンタちゃんと説明できる自信ないでしょうが」
彼女の言葉に何も言い返せなかった。
確かに今の私には今までの事を話すことは少し酷である。
現に恐怖に侵食され、能力を発動するところだったのだ。だったら、此処はカリーナの言う通りにして
タイガーさんとバニーを呼ぶしかない。
私一人じゃ多分・・・全部を話す事は無理だ。
「時間は私が稼いどく。二人が着いたら勝手に入ってきていいから」
「ぅ、ぅん」
「いいわね必ず呼ぶのよ」
「ぅん」
そう言ってカリーナは中へと入って行った。
私はというと携帯を取り出しすぐさまバニーへと連絡を入れた。
機械の呼び出し音が耳に痛く響き、それだけでも今は怖かった。
早く・・・。
はやく・・・・。
はやく・・・出て・・・っ。
『ガチャッ・・・はい』
すると、呼び出し音から生のバニーの声が聞こえてきた。
「バ、バニー・・・ッ」
『・・・どうかしました?』
彼の声を聞いただけで震えが更に止まらなくなり、立っているのもやっとだった私はその場に蹲る。
『?・・・何かあったんですか?』
「バニー・・・バニー、お願い・・・今すぐ、今すぐ来て」
『来てって・・・今何処ですか?』
「カ、カリーナの・・・お家・・・・・・お願い、早く来て・・・・・・怖いよ」
今にも恐怖に押し潰されそうな・・・・私を、お願い・・・。
「助けて・・・バニー・・・ッ」
『、すぐ行きます。そこで待っててください』
通話が切断され私は力なく携帯をおろし・・・恐怖のあまり泣いた。
自分の口から、話すはずの事なのに・・・どうして私はこんなにも弱いのだろう。
どうして強くなれないのだろう。
強くなれたら、どれだけ・・・誰にも迷惑を掛けずにすむのだろう。
「バニー・・・・バニー・・・ッ」
もう少し、心も体も強くなれたら・・・私、きっと変われるだろうか。
今はただ、弱い自分に涙し
愛しい彼が此処に来るのを待つしかなかった。
Strong Heart
(強い心を持つことが出来たら・・・)