「どうした?からか?」
「はい」
取材が丁度終わり、いいタイミングでからの着信に出たのは良かったが
何だか様子が明らかにおかしかった。
それに「怖い」だの「助けて」だの・・・震えた声で僕を求める彼女。
「様子がおかしいんです」
「あ?」
「もしかしたら何か事件に巻き込まれているんじゃ。ブルーローズさんが居るはずなのにあの怯えようは尋常じゃない」
「だったらマズいだろ。は?」
「ブルーローズさんのお宅だそうです」
「よし俺も行く。アイツに何かあったら大変だからな」
「流石ですねおとうさん」
「うるせっ」
そう言って虎徹さんを車に乗せ急発進。
急いでの居るブルーローズさんの家へと向かう。
一体彼女に何があったというのだろうか・・・あの怯えようにハンドルを握る手が強まり
思わずアクセルを踏み込んでしまい、車を加速させる。
「お、おいバニー。飛ばしすぎだ、捕まるぞ」
「出動じゃないにせよ緊急事態です。人一人の命が懸かっているかもしれないんですよ」
「そ、そうだな」
「捕まりそうになったら虎徹さんが警察の説得をお願いします。僕はの元に向かうので」
「お前俺を置いていくつもりか!?」
車中でそんなやりとりをしつつ
無事警察に捕まる事無くが待っているブルーローズさんの家へと着いた。
家の前に車を止め、すぐさま出る。
「!」
「・・・バ、バニーッ」
家の前で蹲っていたを見つけ声を上げると彼女は伏せていた顔を上げ僕を見る。
僕の姿を目に映した彼女は立ち上がり、すぐさま駆け寄り抱きついてきた。
体中が震えていたところを見ると相当怖い思いをしたのだろうと悟る。
「・・・一体何があったんですか?」
「心配になって俺まで来ちまったぞ」
「タイガーさん・・・ふっ、ぅ・・・」
虎徹さんの姿を見るとは更に涙を止めきれないのか
泣き顔を見られたくないのか僕に抱きついて顔を隠した。
一旦は虎徹さんと顔を見合わせ、泣いているに問いかける。
「・・・泣いていては、僕も虎徹さんも分かりません。何があったんですか?」
「おじさんに話してみ、」
「・・・・・・まが」
『え?』
「私の・・・ママが・・・帰って来てるんです」
「え?」
「私のママって」
『帰って来た!?』
の言葉に僕と虎徹さんは同時に驚いた。
「・・・、ママが帰って来たって・・・じゃあ今カリーナさんの家の中に」
「お前の母親が居るって事か?」
虎徹さんの問いかけには一つ頷く。
事件も事件で、コレは大事件レベルだ。
しかし、どうしてがこんなにまで怯えているのかが分からなかった。
以前から父親や母親の事を話を聞いていたけど、親を好く気持ちで溢れていた。
それだというのに何故このように怯えきっているのかが理解できなかった。
それに離れていた期間があるから恋しい気持ちがあるはずなのに。
「。せっかくお母さんに会えたのに、どうしてそんなに怯える必要があるんですか?」
思い切って僕は怯えている理由を尋ねてみた。
僕に抱きつく彼女は一旦呼吸をし、言葉を溜め込んで話を始める。
「ママに・・・ママに、お家の事聞かれて・・・私、事件の日の事、あんまり思い出したくなくて・・・だから怖くなって。
カリーナが、バニーとタイガーさん呼べって言って・・・それで・・・私・・・っ」
「そういう事でしたか」
の話を聞いて大体の事情は掴めたし
何故彼女が酷く怯えきっているのかが、よく分かった。
あの日の、事件のことを話そうにもの口からは話すことが出来ないからだ。
彼女の体が、事件の日の事を口にされただけで
一体何が起こり、そして何があったのかを思い出させてしまうから。
「二人が、来たら・・・中に、入っていいって・・・カリーナが」
「分かりました。虎徹さん、僕らでの母親に事情を話しましょう」
「そうだな。後、バニーと一緒に住んでる事と能力の事は・・・伏せとくか」
「そうですね。それでいいですか、?」
僕がそう尋ねるとはまた一つ頷き、体を離し玄関のドアを開けた。
虎徹さんはアイパッチを付け、ワイルドタイガーとして赴く準備をする。
中に入るとブルーローズさんが時間を稼いでくれているのか
楽しげな声が聞こえてくる。
僕らはそれぞれの履き物を脱ぎ、部屋に上がりこみ声の方へと向かった。
「ママ、あのね」
「あら、何処に」
「失礼します」
「どーもお邪魔します」
「あら」
「まぁ、バーナビーにワイルドタイガーじゃない!なになに、カリーナちゃんが呼んだの?」
「へ?・・・あ、まぁ、ね」
「それなら早く言ってよ〜・・・色紙あったかしら?」
僕と虎徹さんの登場に、ブルーローズさんの母親は嬉々として何やら色紙を探しに部屋を離れた。
一方のの母親は突然の事なのか驚いていた。
「のお母さん、と伺っています」
「えぇそうよ。トワ・」
「初めましてバーナビーです。それでこちらが」
「ワイルドタイガーです」
「テレビでお二人のお姿拝見させてもらってますわ」
「ありがとうございます」
とりあえず、軽い自己紹介を済ませ僕と虎徹さんは顔を見合わせ事情を説明する。
「お二人のご自宅の件ですが」
「えぇ。出張から帰ったら自宅がなくなって更地になってるんですもん、ビックリしましたわ」
「その件に関して、僕らからご説明させていただきます。娘さんは色々と恐怖心があって」
「恐怖心?・・・其処のところ、詳しく聞かせてくださらないかしら?」
そう言って、虎徹さんが事件の経緯を話し
僕が其処を上手く補正するように話を進めた。
もちろん、の能力に関することや今彼女が何処に住んでいるのかは伏せて。
自分が居ない間、娘が2つの能力を持ったNEXTとして覚醒した挙句
男と同棲していると知ったら、きっと目の前の人は怒り狂うに違いないだろう。
嘘をつくしかないけれど、穏便に済ませるにはこうするしかない。
せっかくの母親が彼女の元にようやく戻ってきたのだ。
例え今の生活がなくなっても、一生逢えなくなるわけではないし
が家族の元に戻れるのなら僕は出来る限りそうしてあげたい。
僕が出来なかったことを、出来る限りにはしてあげたいから。
「そう。あの人は強盗犯に殺されてしまったのね」
「俺が駆けつけた時にはもう」
「でも、が無事なら何よりだわ」
「ママ・・・ッ」
「ずっと怖い思いをさせていたのね・・・ごめんなさい」
の母親は僕らの話を最後まで聞き終え、立ち上がりを優しく抱きしめた。
僕と虎徹さんは説明を終え一安心をし、またその場に居たブルーローズさんも安堵のため息を零した。
リビング全体に温かな空気が包み込んだ。
「でも、おかしいわね」
ふと、温かい空気をまるで切り裂くように彼女の母親が言い放つ。
「私の知ってる事実と、全然違うわ」
「ママ・・・何言って」
「おかしいわね・・・どうしてかしら。
詳しく聞かせてと言いましたよね・・・バーナビー・ブルックスJrさん、ワイルドタイガーいえ、鏑木・T・虎徹さん?」
「何で、俺の本名・・・っ!?」
「こっちへ!!」
「・・・ッ」
の母親がヒーローの僕らだけしか知らない虎徹さんの本名を口にした途端
嫌な予感がしてにこちらに来るように促した。
すると彼女も自分の母親の様子がおかしいことに気付いたのか僕の元へと来た。
こちらに来たを僕はすぐさま自分の後ろへと隠す。
「ト、トワおばさん何言ってるの!この二人の言った事は」
「あらあらカリーナちゃん。おばさんはね、詳しい事を聞かせてって言ったのよ。
其処のヒーロー二人が喋ったことは真っ赤な嘘・・・ウチが強盗に遭うはずないわよ」
「お、おばさん・・・?」
ブルーローズさんも必死にフォローに回ろうとするも
の母親の言葉に不信感を抱いた。
いや、彼女だけじゃない・・・僕や虎徹さんはおろか、僕の背後に居るも。
「スーパーヒーローが聞いて呆れるわ。他はどうにか騙せても、私は騙されないわ」
「違う。嘘なんか僕達は一つも」
「いいえ。私に喋った事全部嘘よ・・・おかしいわね、私の所に送られてきた”報告書“と随分食い違いがあるのよ」
「報告、書だと?」
の母親の言葉がますます意味不明な方向に行き始めた。
この人は本当に、の母親なのか?
「・・・本当にあの人は、君の母親なんですか?」
「ママだよ・・・ママの、はずなのに・・・何で、嘘だって・・・」
もで怯えている。
どうして僕らしか知りえない事実を、離れた場所から知りえると言うんだ?
それにさっき口走った「報告書」とは一体・・・?
その場に居る全員がの母親を睨みつけていたら・・・―――――。
「今日はこの辺にしましょう。カリーナちゃんのお家、壊すわけには行かないから」
の母親が話を中途半端に終わらせ、僕らが来たとき同様の笑みを浮かべている。
「話を中途半端に終わらせるつもりですか?」
「だから明日また改めてお話しましょうって言おうとしてるんじゃない。私、今日こっちに帰って来たばかりで
少し疲れてるのよ。ホテルもそろそろチェックインの時間だし、また明日改めてこの話はしましょう」
笑顔で其処まで言われては、僕も引き下がるしかなかった。
僕から反論の言葉もないと分かったのか、の母親は「流石ね」と言葉を零し
横を通り過ぎ、背後に居るを見た。
しかし、自分の母親のはずなのに全くの別人を見ているような感じだったは未だ怯えている。
そんな態度に、苦笑を浮べ――――。
「ごめんね。明日、ちゃんと話すから」
「・・・マ、マ」
「だからも、ちゃんとママに話してね。じゃあバーナビー君、娘をよろしくお願いします」
「え?・・・あ」
それだけを言い残し、かの人は去って行った。
もしかしてあの人・・・僕がと一緒に住んでいる事を知っている?
いや、知っていなければ「娘をよろしくお願いします」だなんて言葉を言ったりしない。
ごく僅かな人しか知りえない事実を、本当に何故・・・シュテルンビルドを離れていた人間が知っているんだ?
「ママ・・・何で・・・」
「」
今まで背後に隠していたを見ると震えが止まらず怯えきっている。
僕は優しく彼女を抱きしめ、背中を撫でた。
するとの手が僕の背中に絡みつき、服を握り締めた。
「バニー・・・バニー、怖い・・・怖いよぉ」
「大丈夫です。僕が・・・僕が必ず君を守ります」
怯えきったの姿に、虎徹さんもの背中を撫で
ブルーローズさんも彼女の頭を優しく撫でた。
の心に、また暗雲が立ち込み太陽のような笑顔を隠した・・・僕はそんな気がして、ならなかった。
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(君の心がまた曇り空に変わった日)