--------------PRRRRRRRRRR・・・!
「もしもし?」
『あ、トワさん。久しぶりの帰省、娘さんとは逢えましたか?』
「逢うも何も、娘はおろか同棲相手まで出てきたわよ」
『マジですか!?あのバーナビー・ブルックスJrですよね!!え・・・じゃあいきなり修羅場?』
「そうね。違う意味での修羅場作ってきちゃったわ」
『え?』
「何で、のお母さん・・・僕らのこと、知ってたんですかね?」
「んなの、知るかよ」
ブルーローズさんのお宅を後にして
僕らはひとまずトレーニングルームに戻ってきた。
僕と虎徹さんの間に、とブルーローズさんが座っていた。
未だにの体の震えは止まらずブルーローズさんは彼女の手をずっと握り
心配そうな面持ちで見てシエルを懸命に宥めていた。
「悪いわね、遅くなったわ」
すると其処に、アニエスさんが高いヒールの音を
鳴らしながらやってきた。
前もってアニエスさんにはの母親が来た事を伝えたが
何だか普通に母親にを返す・・・という事情にならず
とにかくアニエスさんにも色々と教えるべきだろうと、僕と虎徹さんは判断し
此処へと呼んだのだった。
すると、今まで座り震えていたが立ち上がり
アニエスさんの元へと駆け寄り、抱きついた。
今まで堪えていた恐怖をまるで、開放したかのようにはアニエスさんの腕の中で涙を流す。
「」
「アニエス、さ・・・っ」
「怖かったのね。私が来たからもう大丈夫よ」
ほんの数時間前までは、実の母親の前で嬉しい涙を流していたはずなのに
たった少しのやりとりで、は実の母親にも怯え恐怖を堪えていた。
そして、今まで自分を見てきてくれていたアニエスさんの胸で泣いている光景は
どちらが本当の母親なのか、分からなくなりそうな程にも思える。
「どういう事なの、一体?」
「俺達にもよく分からねぇんだ」
「でも、分かるのは・・・の母親は、僕らの素性を知っている・・・という訳です」
アニエスさんの問いかけに僕は真っ直ぐな眼差しで答えた。
虎徹さんの事や、僕がと一緒に住んでいること。
そして、詳しくは話さなかったが多分あの母親は確実に
の事件のことも知っている口ぶりでもあった。
しかし、今までこの街から姿を消していた人間がどうして
そんな詳しいことまで知っているのかが・・・謎でたまらない。
「・・・本当に、その人は・・・貴女の母親なの?」
「あの人は・・・私の、ママです。でも・・・」
「でも・・・何なの?」
今までアニエスさんの胸に顔を埋めていたが顔を見せる。
でもその顔からは恐怖は拭い去れていなかった。
「ママのはずなのに、まるで・・・別の誰かを、見ているような気がして・・・。
私の、ママなのに・・・・・・・・・怖かった」
「・・・怖かったのね」
アニエスさんはしっかりと、を抱きしめ頭を撫でていた。
僕はそんな光景を見ていて
酷く胸が締め付けられていた。
本来なら喜ぶところなのに、現実とは小説などと違って
非常に残酷にできていると思った。
僕自身、離れることは少し怖かった。
今まで彼女を自分の側に置いて、出来る限りの愛情を注いでいたから。
だけど、の幸せを考えたら母親のところに戻すのが道理だし、当たり前である。
だけど、こんな状況になってしまっては、を手放すことが恐ろしくなった。
太陽の笑顔が、また曇っていくような気がして。
いや、もうなってしまった。
そして曇り空からは・・・涙という雨が零れ落ちてきた。
「それで、どうするつもりなの?何か良い策でもあるの?」
「いえ。でもの母親が、明日詳しいことは話すと言ってました」
「何かあってからじゃ遅いわね。・・・ヒーロー全員に声をかけて」
「おいおい相手は一般人だぞ。そんな警戒しなくても」
「バカ!アンタの本名も知ってて、ましてやがバーナビーと一緒に暮らしている事も把握されてるんじゃ
この子の母親が”ただの一般人“なんて言えないでしょ。
確実に後ろに何か絡んでるって思った方がいいに決まってるわ。
相手が一般人だろうが、なんだろうが・・・守りなさいよ、アンタそれでもの父親代わりなの?
そんな安っぽい正義なの?アンタの貫いているヒーローっていうのは?」
「アニエス・・・さん」
アニエスさんの言葉には顔を上げ、かの人を見た。
そしてアニエスさんは泣いているの頬に触れ、その手をそのまま頭へと移し
優しく撫でた。
その表情からは、彼女を想う母性愛を感じた。
「大丈夫。貴女の事は、私を含めヒーロー達が守るわ」
「でも・・・っ」
「それに、にはこの街一番の強い王子様が側に居るじゃない」
すると、アニエスさんが僕の方へと視線を移す。
視線の先が分かったのかも、僕の方を見る。
その目からは、涙が頬に伝い流れ落ちていた。
「・・・バニー」
「」
名前を呼ばれ、僕はに近づき彼女の頭を撫でる。
涙の溜まった目が僕を見つめる。
「何かあったら、僕が必ず君を守ります」
「バニー・・・だけど」
「大丈夫です。それに約束したはずですよ、僕は必ず君を守ると」
「バニー・・・ッ!」
はアニエスさんの元を離れ、僕へと抱きついてきた。
そんな彼女を僕はいとも簡単に受け止め、強くつよく抱きしめた。
本当は、僕だって怖い。
が居なくなってしまいそうで・・・怖い。
だけど、僕がそんな弱気なことを言ってしまえば
が更に恐怖に負けて、涙を流し続けることになる。
それだけはどうしても避けたい。
が泣いている姿だけは見たくない。
出会って、始めのうちは傷つけてばかりだったけれど
この子と関わることで、気づいた。
”の泣いている、傷付いている姿だけは見たくない“ということに。
だから守ろうと決めた。
二度と、あの日の悲劇を繰り返さないように。
「・・・僕が必ず、君を守ります。だからどうか・・・もう泣かないでください」
「バニー・・・バニーッ」
僕の腕の中で泣き出すに
虎徹さんも頭を撫で、ブルーローズさんも背中を優しく叩き
宥めの言葉を言っていた。
決めたんだ。
この子を、必ず守ると。
大切な人を、二度と目の前で失わないと。
そのために、僕は負けない力を与えられたんだ。
5分しか使えない力だとしても、その限られた時間の中で守るんだ。
大切な人である、愛すべき彼女--を。
君が笑顔に戻る力を、僕は持っているんだから。その力を信じて。
「バニー」
「虎徹さん」
「俺達で守るぞ・・・を」
「・・・はい」
雨が降り続く、曇り空を払うために。
もう一度光り輝く太陽ような笑顔を見つめるために。
「・・・・・・」
僕は、君を・・・守り抜いてみせる、絶対に。
「あんな奴死んで当然よ。私のかっわいい娘に手を出そうとした罰」
『相変わらず手厳しい事で』
「当たり前でしょうが」
『ハハハ・・・あ、それよりもいいんですか?娘さんやヒーロー達に話して』
「自分で修羅場作っちゃったし、を一人にし続けた私の落ち度も有るわ。
それに私が何の為にわざわざシュテルンビルドに戻って来たのかも話さなきゃいけないしね」
『トワさん』
「もうを一人にさせない為に・・・私はあの子を連れて行く。そのために私はこの街に戻ってきたんだから」
Nobody knows what tomorrow might bring.
(”一寸先は闇“明日、何かが動き出す日)