『お願い・・・助けてバニー』
握られた手から伝わってきたの弱々しい声に
僕はそれを感じ取り、彼女の手を握り返した。
「どうしたの?さぁ、ママと行きましょう」
伸びてきた手をは自らの手を差し出して握り返すこと無く
首を横に振って「行きたくない」と意思表示をした。
すると目の前のの母親は呆れたようにため息を零す。
「昔はもっと素直な子だったのにね」
呟く声が聞こえ、かの人はの手を握り無理やり立ち上がらせる。
そして僕の手からもの手が無理やり離されていく。
一瞬にして消えたぬくもり。
それはまるで引き離されたかのようで、胸を締め付けた。
「行くわよ」
「ぃ、いやっ・・・離してっ・・・やだっ・・・!」
「ワガママ言わないの。ママの言う事を聞きなさい」
「やだっ・・・やだっ・・・!」
「、小さい子供じゃないんだから聞き分けなさい」
母親の言う事を拒み続ける。
ふと、彼女と視線がぶつかる。
その目からは僕を求める眼差し。
『お願い・・・助けてバニー』
先ほどの、手から伝わったの弱々しい声が蘇ってくる。
助けを求められているのに、僕は黙ってそれを見過ごすのか?
今にも引き離されそうなのに、僕は見て見ぬふりをするのか?
僕はまた――――――――。
『バニー』
大切な人を、この手から失うというのか?
「、言う事を」
「待ってください」
僕はの母親の手を握った。
突然の行動にの母親は驚き、を無理やり掴んでいた手の力が緩んだ。
緩んだと同時には母親の元から離れブルーローズさんの元へと駆け寄る。
そして僕は彼女の盾になるかのように、その前に立った。
「何の真似かしらバーナビー君?」
僕の目の前にの母親は笑みを浮かべ立っているけれど
目は笑っていない、確実に邪魔をされた苛立ちや怒りを秘めている。
まるで今、僕は眼前に鋭利な刃物を突き立てられている・・・そんなイメージだ。
しかし、僕が此処で怖気づいてはいけない。
その視線に負けじと僕もかの人を睨みつけた。
「本人が嫌がっているのに、それを無視するなんてどうかと思います」
「母娘の問題よ。いくらヒーローでも首を突っ込まないでほしいわ」
「いくら母娘でも子供が嫌がってんのを無理強いさせるのは良くねぇよ」
すると虎徹さんがの母親の肩を掴む。
「他人は・・・すっ込んでて頂戴」
瞬間、肩に掴まれた虎徹さんの手を握り
そして目の前の僕の手を掴んで、そのまま僕ら2人は地面に叩きつけられた。
あまりに突然のことで何が起こったのか理解できなかったけれど
頭はすぐにそれが危険と察知、すぐさま僕と虎徹さんは起き上がった。
「虎徹さん」
「チッ・・・アニエスの読み通りかよ」
僕と虎徹さんはお互いの能力を発動させた。
相手は一般人だけれど、能力を発動させないと勝てない。
何せ、男2人を赤子を捻るように投げ倒されたのだから
能力を発動させて応戦せざる得ない。
「を渡して」
の母親は体中を青色の発光色で身に纏い
瞳は能力者特有のライトブルーの目でこちらにゆっくりと迫ってきていた。
「やはり、貴女・・・っ」
「NEXTかよ」
「えぇ、そう。私はNEXTなの。さぁ・・・をこっちに渡して」
ジリジリと詰め寄ってくるかの人に僕と虎徹さんはを守るように後退していく。
今は何の能力者とか、そんな事は考えれない。
とにかく今は・・・と思い虎徹さんとアイコンタクトで意思疎通をし――――。
「ブルーローズ!ドラゴンキッド!を連れて逃げろ!!」
「此処は僕らで食い止めます!を安全な所に」
ブルーローズさんとドラゴンキッドにの護衛を任せ
僕と虎徹さん、そして残った皆での母親を食い止める臨戦態勢にと入った。
「分かった!」
「任せて!」
僕と虎徹さんの声で分かったのか、2人は返事をしてを守るように
扉の方へと走っていく。
「逃げようったって・・・そうはいかなくてよ」
途端、の母親が扉の方に手をかざした。
すると扉の前に氷の柱が聳(そびえ)え立つ。
逃げ場を失うも何とかそれで外に出ようとドラゴンキッドが
電撃で氷の柱を砕こうとしている。
「氷の柱だなんて」
「チッ、氷の能力者か・・・!?」
「残念・・・それはハズレ」
瞬間、強い突風が吹き荒れる。
それで誰もが壁に強く叩きつけられ動きを封じられる。
体を強く打ち付けたのか、起き上がる事もままならない。
ただ、平気なのは・・・と、彼女を守るブルーローズさんだけ。
ドラゴンキッドは風の影響で氷の柱に体を叩きつけられ、気を失っていた。
僕も体にダメージを与えられ
こんな所で倒れているわけには行かない、起き上がらなければ・・・と思いながらも
壁に当たった時、当たりどころが悪かったのか体が言うことを聞かず
中々起き上がれない。
ヒールの音がゆっくりととブルーローズさんの方へと向かう。
まるでその音は地獄へと向かうような音にも
僕の耳には入ってきていた。
「おばさん!お願い、もうやめて!」
「カリーナちゃん」
するとブルーローズさんがを守るように彼女の母親にやめるよう訴える。
「ごめんなさいカリーナちゃん」
小さく謝罪の言葉を呟いたの母親は
ブルーローズさんの体に触れた。
途端、彼女は体の力が一気に抜け落ちたかのように
床へと崩れ倒れた。
ブルーローズさんの体が離れた時、の母親の手からは
微量ながら電流が迸(ほとばし)っていた。
多分彼女は体に触れられた時、それに当てられ気絶させられたのだろうと理解した。
しかし、頭の中で理解をしていても意味が無い。
動き出さなければは・・・っ。
「」
「ゃだ・・・やめてママ」
「こんなに怯えて。少しの間だけ、眠りなさい」
そう優しく言葉を零し、ブルーローズさんを気を失わせた電流を
に当て、彼女の体の自由と意識を奪っていった。
ようやく自分の娘を腕の中に戻すことが出来たのか
の母親は安堵した表情で彼女を抱きかかえ、此処を後にしようとする。
「ま・・・待て」
「を、離せ」
彼女がを連れて行こうとした時。
僕と虎徹さんが痛む体のまま立ち上がり、行くのを引き止める。
僕らの声に、の母親はこちらを見て
ため息を零し笑う。
その笑みはまるで、僕らを嘲笑っているかのようにも見えた。
「しつこい男は嫌われるわよ?」
「生憎、しつこいのは生まれつきなんでなぁ」
「しつこいと言われようが構いません。を・・・離してください」
「聞き分けの出来ない男も、嫌われるのにね」
彼女は気を失ったを壁に寄りかからせ、再び僕と虎徹さんを見る。
その表情は勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
まだ、まだ分からない。
何処か隙があれば僕や虎徹さんにも勝機があるはず。
約束したんだ、必ずは僕が守ると。
「ヒーロースーツもない、生身の体で私に勝てるとでも思ってるの?」
「そーいうのはな、やってみなきゃ分かんねぇだろうが!!」
虎徹さんが渾身のパンチを繰り出した。
だが、それを見事に受け流され虎徹さんは地面へと顔面から叩きつけられた。
「虎徹さん!!」
「人の心配をする前に、自分の心配をしたらどう?」
「なっ!?・・・ぐはっ!?」
さっきまで虎徹さんの側に居たはずの人が瞬間的に僕の目の前に現れ
そのまま膝で腹部を蹴り上げられた。
先程壁に体を打ち付けたダメージもあるのか
それを含め、咳き込みながら僕は蹲る。
あまりのダメージで僕の視界は徐々に薄れていく。
特に腹部へのダメージが強いのか、気を失う寸前だ。
だがこんな所で目を閉じてしまえばが離れていってしまう。
「を・・・を、離して・・・ください」
「それは無理ね」
彼女は壁に寄りかからせていたを抱きかかえ
扉へと歩いて行く。
心の中で何度も、の名前を叫ぶけれど・・・彼女は目を覚まさず
ただ母親の腕の中で眠りに就いていた。
すると、彼女の足が僕の横で止まる。
「今までを見ててくれてありがとう。それから、を愛してくれてありがとうバーナビー君」
その言葉を言い残し、扉の前に聳え立たせた氷の柱を割る音がした。
が離れていく。
が去っていく。
が・・・が・・・。
『バニー・・・大好きだよ』
「・・・ッ」
君が僕の側から居なくなる日が来るなんて――――――。
必ず守るとに約束したけれど
結局僕は彼女を守るどころか、奪われてしまい
自分の不甲斐なさに苛立ちながら意識を失った。
Lost
(あぁ君が僕の側から離れていく)