気を失ってどれだけの時間が経っただろうか。
覚えているのは、体中が痛い事と―――――。
を失った心の痛みだけだった。
「・・・・・・」
「目が覚めたようね」
「アニエス、さん」
目を開けると、アニエスさんが僕を見ていた。
白い天井と薬品の匂いで
先ほど僕が居たトレーニングルームの休憩室では無いことが分かった。
此処は、そう・・・病院。
僕は少し痛む体をベッドから起こした。
「タイガーから話は聞いたわ」
「そう・・・ですか」
「もう少し私が早く駆けつけれたら良かった」
「いえ・・・一般人の、アニエスさんが怪我なんかしたらHERO TV存続の危機になりかねませんから」
「無駄口だけは言えるみたいね」
「こうでも言わなきゃ、もうやりきれません」
「バーナビー」
何か、皮肉を1つ、2つ零しておかなければ
僕自身やりきれない気持ちと、ぽっかり空いた心を埋めるなんて出来ない。
を失った・・・この気持ちは、埋まりなんてしない。
守ると決めた。
あの笑顔を、守りぬくと自分自身に誓った。
もう二度と、悲しい思いも寂しい思いもさせないと約束した。
それだというのに―――――。
『今までを見ててくれてありがとう。それから、を愛してくれてありがとうバーナビー君』
神は残酷にも、僕の元から愛しい彼女を奪っていった。
「約束したんです。必ず守るって」
「バーナビー」
「それだというのに、僕という人間は不甲斐ないですね。大切な人1人守れなかったんですから」
何の為に手に入れた力なのだろうか?
最初は復讐を遂げるための、材料にしか過ぎなかった。
でも、全てを終えたときから・・・そしてという存在に出会ったときから
この力はすべての人を、そして彼女を守るためだけに与えられた力だと・・・そう思っていた。
限られた時間でも、という大切な存在を守るための力だと思っていた。
だけど、それは全部僕が思っていただけのことで
実際は容易く奪われていってしまうものなのだと、実感した。
「貴方だけのせいじゃないわ」
「分かってます。・・・でも」
「警察に捜索願を出してみましょう。とにかく探さなきゃ。、今も何処かで怯えているのかもしれない」
「・・・・・・」
「しっかりしなさいバーナビー!」
黙りこむ僕の胸ぐらをアニエスさんは掴んだ。
目線を合わせると、ギラギラとした目が僕を見ていた。
その目からは怒りが、かすかに滲んでいる。
「アンタが此処で落ち込んでたって仕方ないでしょうが!あの子を助けてあげれなかったのはアンタだけじゃないのよ!
タイガーだって、幼馴染のブルーローズだって・・・皆、みんな悔しい思いをしてるのよ!
私だって、あの子の側に居て守ってあげれなかったのが悔しいし、怯えてるあの子を・・・1人になんか出来ない」
「アニエスさん」
こんな思いをしているのは、僕だけじゃない。
虎徹さんだって、ブルーローズさんだって・・・それに、他の皆も同じ気持ち。
そして一番悔しいのはアニエスさん本人だということ。
の母親に言いたいことも言えずに、は連れ去られてしまった。
「しっかりして。こんな所で弱音吐くくらいだったら、さっさと動いてを見つけて。
アンタの守るって口から出任せなの?を守るっていう誓いはちょっとやられたくらいで消えてしまうもんなの?」
「僕は・・・僕は」
「バーナビー。アンタにとってのって、それくらいの存在なの?」
僕にとっての、。
僕にとってのは、口では言い表せないくらいの存在。
大切で。
愛しくて。
離し難い。
独り占めしていたい。
この世で僕が最も愛すべき人。
「僕は一度たりとも、をちっぽけな存在だと思ったことはありません。
ましてや、心の中からすぐに消えてしまうような存在でもありません。僕にとっての彼女は――――」
『バニー・・・大好き』
「僕の生きる希望、そのものです」
僕の世界に、彩りを与えてくれた。
僕の世界に、愛する喜びを教えてくれた。
僕の世界に、共に分かち合う事を見出してくれた。
僕というに世界には、無くてはならない存在。
それが・・・この世で僕が愛するった1人の、・という女の子。
ようやく僕の目が覚めたのが分かったのか
アニエスさんは笑みを浮かべる。
「とにかく、警察には捜索願を届けるわ」
「よろしくお願いします」
「アンタ達はとりあえず、の行きそうなところを探して。もしかしたら母親の元から
逃げ出してるっていう可能性もあるから」
「分かりました」
「悪いわね。痛む体に無理言って」
「いいえ。こんなの、が流した涙や抱えていた痛みに比べたら・・・痛くありません」
が、自分自身のことで起こしてしまった事件のことや
あの子が受けた恐怖の日々、心身共に辛く苦しい日々に比べたら
僕が体に受けたダメージなんて軽いものだ。
は何十倍何百倍と、心にも体にも傷ついた日々が多かった。
今だってきっと、何処かで怯え泣いているに違いない。
「虎徹さん達は?」
「タイガーや他の皆はもう動き出してるわ。アンタだけよ、今の今まで寝てたのは」
「遅れは、取り戻さなきゃですね」
僕はベッドから出て、椅子に掛けてあったライダージャケットを羽織る。
「・・・っ!?」
「バーナビー?!どうしたの?」
「ちょっと・・・お腹が」
ジャケットを羽織ろうとした瞬間
腹部に激しい痛みが走った。
思わずその場で片膝を着き、お腹をおさえる。
どうしてこんなに痛みが・・・と、疑問に思っていたら
気を失う前、コレはの母親にやられたものだと思い出した。
膝で腹部を蹴り上げられ、そして僕は気を失った。
「大丈夫なの?」
「平気です。それに、僕だけ遅れを取るなんてカッコ悪いですから。
また虎徹さんにを助けられたら、僕のの恋人としてのポジションが危うくなりますので」
僕はお腹をおさえながら、立ち上がり深呼吸。
何とか痛みが和らいでいく。
「とにかく、僕もを探してみます」
「頼んだわよ。見つかったら連絡して」
「はい。では」
そう言って僕は病室を後にし、居なくなった恋人を探しに街へと駆け出した。
必ず、見つける。
必ず、取り戻す。
あの笑顔と、あのぬくもりをもう一度・・・僕のもとに。
「・・・待っててください」
君は必ず、僕が助け出してみせる!
Hope
(希望を捨てず、君を探す)