が居なくなって、数日と経った。


僕たちは各々の時間の合間を縫って、彼女の捜索をしていた。
だが街は広く、そして人一人の姿を消失させるには容易いものだった。





何処にも居ない。



そう思うだけで時間だけが無情に過ぎていくばかり。




部屋に戻っても、いつも点いていたリビングの電気は消えたまま。
暗い部屋での名前を呼ぶけれど、声は返ってこない。




ため息だけが零れ、虚無感だけが募る一方。
















何処に居るのかさえ分からない。




マンションの自分の部屋から窓の外を見る。


街の灯が明るく、そこら中を照らしているはずなのに
人々を照らしているはずなのに・・・僕の愛しい人の姿を、この街の灯は照らしてくれない。



手を当てていた窓。

苛立ちからか拳を作り、殴った。








・・・ッ」







何度も何度も殴って、手の皮が破け血が滲み出る。
痛みなんて感じないほど窓に手をぶつけ続けた・・・まるで虚しさを晴らすように。

だけど、自分の手を傷つけるだけで虚しさなんて晴れやしない。



そして崩れるように座り込んだ。










・・・、何処に・・・何処に居るんだ・・・っ」








声が枯れる程、僕はの名前を呼び続けた。
だけど僕の声に返ってくる彼女の声は、何処からも聞こえては来なかった。

















「よっ、おは・・・って、バニー。何だお前その手!?」


「おはようございます。いえ、ちょっと」






次の日。
トレーニングルームで虎徹さんと鉢合わせした。

するとかの人は僕の手に巻かれていた包帯を指差す。
僕は軽く挨拶を交わした後、包帯のことは言葉を濁した。







「昨日何かしたのか?」



「いえ、何でもありません」



「だって昨日夜まで、んなのしてなかっただろ」



「大丈夫です。何でもありませんから気にしないでください」



「気にするなって言っても、気になるだろうが。何かあったんだったら」



「いい加減にして下さい!何でもないですから放っといて下さい!!」








あまりにもしつこく包帯のことを聞いてくる虎徹さんに
僕は大声でその言葉を返してしまった。

すぐさま我に返り、心は罪悪感に苛まれる。






「す、すいません虎徹さん」



「い、いや・・・俺も深くツッコミすぎた。悪ぃ」







お互いが謝罪の言葉を零し、沈黙が走る。









「大変!大変よ!!」



「おわっ!?ど、どうしたよブルーローズ!?」







すると、ブルーローズさんが慌てた表情で部屋の中に入ってくる。








・・・を・・・っ」



だと!?」

がどうかしたんですか!?」






彼女の口から放たれた言葉に僕と虎徹さんはすぐさま近付く。
慌ててやってきた彼女は息を整えながら、僕らに何かを知らせようとしている。










を見たって人・・・見つけたの」



「ホントか!?」



「今日、たまたま家族とポートレスタワーの展望レストランに行ったんだけど。
イチかバチかで店員に・・・の写真見せたの・・・そしたら、3日前に・・・来たって」



「ポートレスタワーの展望レストランか、今から行って・・・ってバニー?!」










虎徹さんの声をかき消すように、僕は駆け出した。




足は確かな場所へと駆け出す。


心臓は確かな手がかりに鼓動する。


口から出てくる言葉は「」と呼ぶ声が何度も出てくる。








「・・・ッ」







目に浮かんでくる、振り返る彼女の姿。


だけど顔だけが白く靄(もや)がかかり、見えない。




どうか、その顔が・・・笑顔であってほしいと、居なくなった日から毎日思うことだった。






















「ええ。確かに3日前に来られた方ですね」



「そうですか」




ポートレスタワーの展望レストランにやって来た僕は
すぐさま受付の所に立っていた店員にの顔写真を見せた。

すると彼女は多分、ブルーローズさんに答えた時と同じように僕に返答してくれた。







「景色の一番綺麗なお席で、女性の方とお食事されてましたよ。多分母親だと思いますけどね」








女性の方。


多分、ではなく確実に食事をしていたのは母親だ。




ようやくがまだ「この街にいる」ということだけは分かった。









「でも、この写真の女の子・・・母親と食事してるのに、元気がなかったように思えるんですよね」



「え?」







店員の言葉に僕はすかさずそれを拾った。







「どういうことですか、それは?」



「お飲み物をお持ちした時なんですけど。母親の方はとても楽しそうにお喋りしたりなさってたんですが。
この子は何だか浮かない顔して・・・食事にもあまり手をつけてなかったんです。唯一、お飲み物だけが口に入るって感じで」



「そうですか」







恐怖のあまりか、は食事も喉を通らない感じなのだろう。


もしかしたら段々とやせ細っていっているのか、と考えたらゾッとした。
早く見つけてあげないと、精神だけじゃなく肉体までもが壊れてしまう。








「お支払いも最初は女性の方が現金で払われるおつもりだったんですけど
突然男の方がいらしてカードで支払って行かれました」



「男?あっ、カードの名前とか・・・分かりますか?」



「控えがありますんで、少々お待ちください」







すると店員はバックヤードへと引っ込んでいく。

店員が戻ってくる間、僕は考えていた。




謎の男の存在。



の父親というわけではなさそうだし
新しい義理の父親、という感じでもないだろう。


もしかしたら、母親の部下かもしれない。
彼女が一人でを連れ戻しに来たわけではないはず。
確実に部下の一人や二人くらい、連れてくるだろう。



男は多分、部下。






「しかし、何で・・・現金払いからいきなりカードに?」





おかしな点が其処だった。

母親が現金で払うつもりだったのに、途端男が乱入してきてカード払いにしたのか。








「お名前の方なんですが」





すると、奥から店員がバインダーを持って戻ってきて、僕に差し出した。
差し出されたモノを受け取り、名前を確認する。








「ジョージ・ブルーム」



「バーナビーさんと年齢は変わらない方と思われますよ。お父さんにしては若いですし、叔父さんとかそこら辺でしょうね」



「ありがとうございます。色々と教えて頂いて」



「いえ。ヒーローの皆様のお役に立つのが私達市民の義務ですから」









そして、僕は展望レストランを後にして自分の車へと戻った。

戻った途端・・・僕はハッとして
すぐさま携帯を開き、電話をかける。










『もしもし?』


「アニエスさん!今すぐ警察に調べて欲しい事があるんです」





電話の主はアニエスさん。

本来なら僕が今すぐ警察に連絡すべきなのだが
携帯の時計を見て取材の予定が入っていることを思い出し
これから向かわなきゃいけない時間となっていた。


僕が出来なければ、出来る人に頼むしか無い。









『何?のこと』


「はい。もしかしたら運良く彼女の監禁場所が見つかるかもしれません」


『何ですって!?・・・それで、何を調べてもらえばいいの?』








確信的なものではないかもしれないけど、ブルーローズさんがイチかバチかの賭けに出て
聞き出してくれたものだから、僕もイチかバチかの賭けに出てみることにした。









「ジョージ・ブルームという人のクレジットカードの足取りを調べて下さい」



『ジョージ・ブルーム?誰なのソレ?』



「おそらくの母親の部下と思います。おかしいんです。母親が現金で払う所に突然やってきて
自分がカード払いをする。明らかに足跡を残しているとしか考えられないんです。
もしかしたら、を監禁しているホテルか何処かも彼がカードで払っているかもしれません」









突然やってきた、男の存在。

確かに存在自体も謎かもしれないけれど、答えは芋づる式に出てきた。


そして、母親が現金で払う所にやってきて、自分のカードで払う所辺り・・・明らかに何か匂う。




そう考えたら答えは出てきた。





彼は「ワザと足跡を残している」ということだった。








『カードで痕跡を探るのね。早速警察に連絡してみるわ』



「よろしくお願いします」






そう言って、通話を切断した。



これで少しを見つける「何か」になればいい。








・・・必ず助けに行きますから」







そう言って呟き、車を発進させた。


駐車場を出た途端、雲行きが怪しくなり
取材先が終わる頃には冷たい雨が街中に降り注いでいた。














「雨か」






取材が終わり、PDAが鳴らない所出動も無いことを悟りマンションへと戻る。

駐車場に車を止めエントランスへと向かう道を傘をさして歩く。








「そういえば・・・こんな日、だったかな」








ふと、思い出した。



雨の日。
初めて、僕がを傷つけてしまった日を思い出した。


出逢った頃は何もかもがおかし過ぎて、酷いまでに彼女を追い詰めて傷つけてしまった。



そんな日も確か、冷たい雨が降っていた。








「・・・






呟いた声と共に、白い吐息が口から吐出される。


彼女の名前は吐息と一緒に消えていった。




エントランスに行く階段を登り終えると
見覚えのある姿が雨粒に打たれたまま、入り口の角に膝を抱え座り込んでいる。










「・・・・・・・・・?」




「・・・ぁ」








名前を呼んでみた。


すると、顔がゆっくりと上がり視線が合う。

僕だと分かったのか、段々と顔がぐしゃぐしゃになり――――――。










「バニーッ!!」



!!」






僕の名を呼びながら、抱きついてきた。


あまりの嬉しさに僕は傘を放り投げ
腕を広げ彼女を迎え入れて、力いっぱい抱きしめた。





嗚呼、やはり痩せ細っていた。

離れる前はこんなに細くなかった体が、すごく細くなってしまっていた。


体も体温が失われたかのように冷たい。








「バニーッ・・・バニー、会いたかった・・・会いたかったよっ」



・・・よかった。無事で、君が無事で・・・よかった」



「怖かった・・・私、怖くて・・・怖くて」



「分かってます。僕も君を守りきれず本当にすいませんでした」








何度謝っても許されることじゃないことくらい分かっている。



守ると誓ったはず。


守ると約束したはず。



それなのに、僕の力は不甲斐なく地に落ちた。










「もういいよ。もう、いいから。バニーはいっぱい頑張ってくれたから、もう、いいよ」



・・・・・・ッ」








冷たい雨に打たれながらも、失い続けていた体温をようやく僕は取り戻した。





Regain
(失っていた体温を、そして君を取り戻した) inserted by FC2 system

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル